「I can't stay. I can't stay. I can't stay.
 もう二度と・・・」



9月の【FISH TANKer's ONLY 2006】でもプレイされた「…IN HEAVEN…」。
この日、12月29日も、見事なクオリティーでパフォーマンスされた。

初期なビート・ナンバーを披露するBUCK-TICKには、
今井寿のLucyの活動の影響か、“ロック”ブースターが、
この頃から装着されたように、最高にドライヴィングな疾走感が加わるようになった。

Kiyoshiの血が、まるで、BUCK-TICKにも沁み行ったようだ。

「…IN HEAVEN…」は、もしも、BUCK-TICKが、ヴィジュアライズされた、
コマーシャル戦略が採用されていなければ、間違いなくセカンド・アルバム『SEVENTH HEAVEN』から、
シングル・ナンバーとして発売されていた楽曲であろう。

1988年、当時のBUCK-TICKを、そのままパッケージしたような楽曲だ。

印象的な今井寿のギター・イントロのフレーズに、
フラッシーな星野英彦のカッティング・ギターが重なり合い、
彼らにしか作り上げる事の出来ないビート・サウンドといえる。

その上に乗った櫻井敦司の歌詞も、
この頃から、若干ではあるが、BUCK-TICK独自の世界観を構築しつつある。
(※正確には、やはり次作『TABOO』のリリースを待つ)


“HEAVEN”は、西欧の俗信において、キリスト教の唯一神と天使、聖人ら善き死者たちが行き、
在するところを指す。
人間は、敬虔なる信仰心と罪を犯さない無垢の人生をもって、はじめて死後に天国へ行けるという。

一般に「善き死者の赴く処」とされる“HEAVEN”の概念は、
ギリシャ神話のオリンポスや北欧神話のアースガルズとユダヤ・キリスト教の天(=神の居場所)、
イエスの説いた神の国などが民衆レベルで混ざり合って成立しており、
純粋なキリスト教の教えとは言えない。
キリスト教の教理では、最後の審判以前の死者がどこでどのような状態にあるのかについて、
各教派間の統一見解を得るに至っていない。

ダンテの『神曲』では、
地球を中心として同心円上に各遊星の取り巻くプトレマイオスの天動説宇宙を天国界とし、
恒星天、原動天のさらに上にある至高天を構想していた。


仏教の世界観はヒンドゥー教と起源を同じくしており、
デーヴァローカに対応するのは天部(神々)や天人が住む天(天道・天界)である。
六道最上位、つまり人の住む第2位の人道の1つ上に位置する。

しかし仏教では、神々すら輪廻転生に囚われた衆生の一部にすぎない。
それら全体に対し、輪廻転生を超越した高位の存在として仏陀が、
仏陀の世界として浄土が存在する。
この対立構造においては、“HEAVEN”に相当するのは浄土(極楽)である。


あの世=黄泉の国が“HEAVEN”なのだろうか?

しかし、人は死ななくても…
“HEAVEN”へ昇ることが可能であろう。



「I Believe 白い素肌に 誘われた胸元 ときめき感じた」



あなたのぬくもりに、触れた瞬間に、僕は“HEAVEN”へ昇り詰める。


この年の【THE DAY IN QUESTION】で、姿を現したBUCK-TICKは、
この「…IN HEAVEN…」を始め20年の軌跡を辿りつつ、
メジャー・デビュー20周年アニヴァーサリーの活動に手応えを確かめているかのように、
一曲一曲をしっかりと演奏しているように見えた。

その姿は、ややお祭り騒ぎの例年の【THE DAY IN QUESTION】とは違い、
2007年への意欲的な活動へ向けてアドリングをかけて、エンジンを温めるような感覚だ。

証拠に、サウンドのエッジは、過去ない位に鋭く立っていて、
その中に、オーヴァーレヴのゾーンへと突入する挑戦的なロックンロールへの意欲が感じられた。


「Memory 傷は深まり しなやかな細い指 忘れ得ぬ人」



ヤガミ“アニイ”トールは真ん中をブロンドにしたタテガミをそそり立て、
際どいコーナーをギリギリにハンドルを切って行く。
白黒のストライプのスーツに身を包み、いつになくアグレッシヴなグルーヴで攻め立てる。

黒服のふたり、樋口“U-TA”豊と星野英彦も、
執事的にその存在感を出来る限る透明にしていた『十三階は月光』での活動とは、反転し、
鋭く光るナイフのような切れ味で、フロント・メインに立つ今井寿と櫻井敦司に挑みかかるように、
個性を光らせる。

少し伸びた髪の毛とデカ目のサングラスが、
ロック・テイストを主張する星野英彦の赤いバーニーズのサウンドが日本武道館を埋め尽くす。
樋口“U-TA”豊のゼマティス・ベースが重低音でウオォンと唸る。
『十三階時代』のシックなスーツスタイルであったふたりも、
ロック・テイストを醸すややカジュアルなファッションに身を包んでいる。


「Tell me now 誤ちなのか?永遠(とわ)の眠り神々のもとへ 」


今井寿は、肩まで伸びた髪の左側を留め、左耳だけ晒していた。
豹柄ロング・ジャケットは、ブルースマン的であった
【SUMMER SONIC 2006】や【FISH TANKer's ONLY 2006】とは違い、
グラマラスなスタビライザーで、スペイシーに「…IN HEAVEN…」のフレーズを紡ぐ。
髭も精悍に伸び、“海賊”を気取るかのようなスタイルだ。


櫻井敦司は、いつになくアダルトな雰囲気。
もしかすると醒めている?
クールに、そして、丁寧に、この初期BUCK-TICKナンバーを唄う。
そんな彼はシックなスーツ姿にボルドーの長いマフラーをアシラエテいる。
印象としては、初めてのソロ・プロジェクト『愛の惑星』の活動の後、
再結成されたBUCK-TICKのスペシャル・ライヴ【悪魔とフロイトーDevil and FreudーClimax Together】
でのパフォーマンスを想わせるシリアスなパフォーマンスと言える。

この「…IN HEAVEN…」から前半は、ドライヴィングな初期BTの傑作といえる楽曲がつづくが、
どの楽曲も、この櫻井敦司のヴィブラートの効いた低音が、安定して響き、
各曲に、新しい魅力とクールなクオリティーがキラメク事になる。


「Suicide 全て消えゆく 鮮やかさそのまま裏切れたらいい」


そう、櫻井敦司は、いつになくシリアスに、この初期のBTクラッシックスに、挑んでいるようであった。
それこそが、天使のロックンロール『天使のリボルバー』への階段であったかも知れない。


そして、ヤガミ、ヒデ、U-TAによるブレイクで、ヘアピンコーナーを、
高速のまま折り返すと、今井寿の耳に残るメロディアスなギター・ソロ・パート。
見事である。


それを、シリアスな目つきで見つめる櫻井敦司…。
ドラム・キットとベース・ステージの狭間で、両手を広げて鉄パイプに手をかけている。
そして、最後のサビ・パートに突入する。
「…IN HEAVEN…」は、初期のBUCK-TICKライヴでは、必ずクライマックスで演奏されてきた。
あの復活を遂げた【東京ドーム“バクチク現象”】でも、
そして、伝説となった横浜アリーナ911【Climax Together】でも。。。



2006年の【THE DAY IN QUESTION】のBUCK-TICKは、いつもと違う。




クールで、シリアスだ。




「I want! I love you in heaven
 誰も皆 見矢う

 I want! I kiss you in heaven
 揺れながら 舞い上がれ 」





...IN HEAVEN...
 (作詞:桜井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)



I Believe 白い素肌に 誘われた胸元 ときめき感じた
Memory 傷は深まり しなやかな細い指 忘れ得ぬ人

I want! I love you in heaven
誰も皆 見失う

Tell me now 誤ちなのか?永遠(とわ)の眠り神々のもとへ
Suicide 全て消えゆく 鮮やかさそのまま裏切れたらいい

*I want! I love you in heaven
誰も皆 見矢う
I want! I kiss you in heaven
揺れながら 舞い上がれ
I can't do. I can't do. I can't do.
この胸を
I can't stay. I can't stay. I can't stay.
切り裂かれ
I can't do. I can't do. I can't do.
遠ざかる
I can't stay. I can't stay. I can't stay.
もう二度と

*I want! I love you in heaven
誰も皆 見矢う
I want! I kiss you in heaven
揺れながら 舞い上がれ
I can't do. I can't do. I can't do.
この胸を
I can't stay. I can't stay. I can't stay.
切り裂かれ
I can't do. I can't do. I can't do.
遠ざかる
I can't stay. I can't stay. I can't stay.
もう二度と



【ROMANCE】