「(「夢魔-The Nightmare」について)
 これは、唐突ですよ

(櫻井敦司)



2006年6月9日、夏のロック・フェスティバル【SUMMER SONIC 2006】に、
BUCK-TICKの出演決定が発表される。

8月12日【大阪】WTCオープンエアスタジアム&インティックス大阪&Zepp Osaka
8月13日【東京】千葉マリンスタジアム&幕張メッセ

土曜日の大阪では、インテックス大阪5号館(SONIC STAGE)において、
BUCK-TICKのパフォーマンスが繰り広げられた。


SONIC STAGEに「THEME OF B-T」が流れる。メンバーはまだ登場しない。
この緊張感。
BUCK-TICKのオープニングはこの空気がたまらない。

すでに、名作の名を冠しているアルバム『十三階は月光』リリースから、
一年以上の時が流れていた。

今井寿は、その間、ロックンロール・ブースターの燃料計をレッド・レベルまで踏み込んで、
Lucyで、エンジンはフル・スロットル状態であったが、
マイペースな星野英彦の表面化し始めた、ソロ・プロジェクトdropzは、まだまだ、
受肉に時間を必要としていた。



そして、待望のニュー・シングル『蜉蝣-かげろう-/空蝉-ウツセミ-』をリリースしたばかりのBUCK-TICK。




あの完成し尽くされた追加公演【13th FLOOR WITH MOONSHINE】の“GOTHIC”から、
彼らは、一体どんな姿を見せてくれるのだろうか?

アイドリングにピッタリのステージだ。

今回もほぼ会場は、洋楽ロック・ファンで犇めき合っている。
その一画に、FISH TANkerの姿も見える。

来たる9月には、オリジナル・ライヴ【 FISH TANKer's ONLY 2006 】の開催も決定していた。

そんな時期のパフォーマンスである。


メンバーが登場する。
久々の5人が揃った。


「ツンドラの大地 我 死装束の魂よ」


オープニングは、「夢魔-The Nightmare-」。


なんたる“唐突”か!?

前年のライヴツアーでは、本編のラストを飾るBTゴシック・ロックの“金字塔”。

この日のメンバーは、ニューシングル「蜉蝣-かげろう-」のクリップで魅せたような
“GOTHIC”な衣裳に身を包んでいたが、約一名、らしからぬ姿=今井寿。

彼は、Lucyで見せていた、オルタナのカリスマ:カート・コヴァーン(ex:Nirvana)のような
ヘアー・スタイルの前髪だけカットし、無精ひげを蓄えて、
カジュアルなシャツとジーンズに、ウエスタン・ブーツだ。

彼の持つシルバーPODも、なにかしら、ロック・ブースターが取り付けられたかのように、
“ロケン”の雰囲気を引き継ぎつつ、この“金字塔”を奏でる。

考えるとこの「夢魔-The Nightmare-」は、いかにも今井寿のBTロック・ナンバーであるが、
ゴシックの荘厳な空気感を共有した不思議な楽曲と言える。

それは、櫻井敦司が“死の行列”と表現した、歌詞のせいかも知れない。

しかし、オープニングからいきなりの「夢魔-The Nightmare-」攻撃には、
皆、度肝を抜かれたに違いない。
例えば「タナトス」や「Mona Lisa」でライヴがスタートされるとしたらこんな感覚だろうか。
いきなり、剥き身にされて、死装束を与えられたかのよう。



今井寿が、熱気に包まれたSONIC STAGEの13th FLOOR に溜まったミネラル・ウォーターを蹴り上げる。
櫻井敦司が、そこにまた、ミネラル・ウォーターをぶち掛ける!


「The Nightmare!!!!」


今井寿の久々とも言えるエレクトリカル・ノイズの渦。
感電しそうな螺旋を描いて、遥か上空に稲妻が立ち上っていくかのようだ。

そう此処は言わば、“アウェイ”の地。
会場に詰めかけるオーディエンスの大半は、普段、BUCK-TICKを聴かない洋楽フリークだ。
その一発目に、もっとも、彼らの衝撃的で、唐突なナンバーをお見舞いしたと言えよう。


これこそ、櫻井敦司の持つ空気感“ゴシック”を体現した今井寿の傑作中の傑作である。


さすがに、次は、メジャーなロック・ナンバーか、新曲が来ると予想していたBTファンは、
更に度肝を抜かれる事になる。

二曲目「PASSION」!!

今度は、星野英彦の“ゴシック”の讃美歌。
おそらくBTファン達は以外は、耳にしたことのない『十三階は月光』ワールドに、
呆気に取られただろう。

なんだ、この世界は!?と。


櫻井敦司が短いMCを決める


「こんばんは。ジャパニーズロックも楽しんでください」



そして三曲目「月蝕」!!


怒涛の『十三階は月光』悪夢のメドレー。
魔界の王:櫻井敦司は、この会場も、“贄”の地として、
この会場のオーディエンスを呑み込んでしまう気らしい。

【SUMMER SONIC】が悪魔の儀式に呑み込まれていく。
真夏の夜の夢も、どす黒い雲が、包み込んでしまう。

樋口“U-TA”が、激しく髪の毛を振り乱して首を振る。

ヤガミ“アニイ”トールが、呪術のような太鼓を叩く。

受肉し、降臨せよ、偉大なる君主よ。


櫻井敦司がコールする「ロメ~ンス」


完璧な『十三階』ショウが繰り広げられていた。

「ROMANCE」は、恐らく、海外でも、普遍的な名曲として受け取られるだろう。
そんな美しい旋律がSONIC STAGEに響き渡る。

しかし、ここで「ROMANCE」を演ってしまう彼らセンスには脱帽する。
このような、“アウェイ”…いわゆるイベント的な他のバンドのファンも集うフェスティバルで、
彼らに一貫して感じることは、その選曲の唐突さに加え、
パワー・コントロールを一切視野に入れていないような、
まるで、出し惜しみ一切なしの、アクセル・ベタ踏み状態で突入していく姿だ。

それと、同じように、人の人生は短い。

生き急ぐ訳ではないが、BUCK-TICKは、一回一回のステージに、
彼らの渾身を出し切ることに、フォーカスしていると言えるだろう。

もし、明日、死の床にあったとしても、
これが最高の人生であった、と言いきる為に…。


そんな事を考えながら、
あと何度、彼らは、その壮絶な生き様を我々に見せてくれるのだろうか、と想う。



「黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ」



もし、願いがかなうなら、永久の調べを響かせてくれ。




夢魔-The Nightmare
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

亡霊を追い駆けて 狂人となり走る

白夜の空を 我 朱に染め逝く魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

郷愁を想い涙 盲人となり喚く

満天のオーロラ 我 切り裂いて逝く魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

幻影を追い駆けて 狂人となり走る

ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

貴方を夢想い 盲人となり叫ぶ

ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
白夜の空を 我 朱に染め逝く魂よ
満天のオーロラ 我 切り裂いて逝く魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
白夜の空を 我 朱に染め逝く魂よ
満天のオーロラ 我 切り裂いて逝く魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ


【ROMANCE】