2006年2月15日に、『SINGLES on Digital Video Disc』がリリースされた。
BUCK-TICKの全シングルのヴィデオクリップを収録したデビュー20周年記念PV集。
この作品で、シングル盤という観点からBUCK-TICKを振り返るのも・・・、
危険なくらい“スタイリッシュ”だ。
ヒロイン
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
天国を探そう 天使達の星を
純白のヒロイン 限りない旅に出よう
おまえとひとつだ
何処までも飛べる 白い影を引いて
純白のヒロイン 終わらない旅に出よう
目を閉じて・・・・・
あなたの瞼に光る銀のしぶき
サソリと十字を抱いて夜の果てへ
「お・ま・え・と・ひ・と・つ・だ!」
1997年11月12日、 最新型の新曲「ヒロイン」のヴィデオ・クリップで、
地下下水路の中で、復活を遂げるヴァンパイアの如く“櫻井敦司”が立ち上がる。
新天地マーキュリーで、新たなる誕生を遂げるBUCK-TICKは、
あらゆる意味において、生まれ変わっていた。
ドラムン・ベースを始めとする打ち込みマシーンの大胆な導入と
ヤガミトール、樋口“U-TA”の繰り出す生のグルーヴが見事に融合を見せ、
今井寿、星野英彦のギター・コンビは、完全にギターという楽器の範疇ではなく、
制限なく楽曲への“音”すべてに細やかで正確な信号を送っている。
無機質なサウンドとは裏腹に、櫻井敦司の書く歌詞は、
硬質で文学的【ことば】に守られながら、日本ロック特有のウエットな感覚を醸し出し、
唯一無二な極上最新型のBUCK-TICK楽曲の完成を実現化したのだ。
恐らく、BUCK-TICK史上の中でも最も急激な進化を遂げた時期であり、
それまでのダークだけではない、フラッシーな輝きを放つ今後のBT楽曲のあらゆるファクターが、
すでに「ヒロイン」には満載されていたのだ。
またタイトルからしてドラッグを連想させる櫻井敦司のテクニックは
「キャンディ」「チョコレート」と続いてきた妄想を増幅させる最高のドラッグソングと言える。
かつて、「die」というストレートなタイトルをシングルカットし度肝を抜かれたが、
新レーベルでの第一弾!このスキャンダラスな曲名演出も挑戦的で、尖った鋭角的なセンスが光る。
頭の欠けてしまった(髪型!)今井寿によるどこを切り取っても高水準のサウンド構成と、
ゾクゾクするようなギターイントロのメロディを聴くだけで、
まさしく新たなる時代の幕開けに相応しい楽曲となった。
「ほとんど全曲。俺はシーケンスを聴きながらやると思いますよ。
それも修行ですから(笑)」
(ヤガミトール)
今井寿からの今回のお題は“ハード、テクノ”であり、
YMOで音楽世界に開眼したという今井寿のインナーワールドが全面に展開される形で、
レコーディングが進んだようであったが、
ここでも、この“ハード・テクノ”がBUCK-TICK楽曲たらしめているのは、
櫻井敦司の詞作によるところが大きいだろう。
「キャンディ」のヴィデオ・クリップを手掛けた古川とも(GUNIW TOOLS)に言わせると
「今回のあっちゃんの詞は、“気配”が違う」ということだが、
一見、ここで繰り広げられる【ことば】世界は硬質な印象であるが、
今までのどの作品よりもウェットであり、“日本文学”への傾倒を感じることが出来るのだ。
なかでもレコーディング当初からシングル候補であった「ヒロイン」の作詞には苦心したらしい。
「……NHKで歌えるように(笑)。「キャンディ」は歌えなかったから。
それだけじゃないんですけど(笑)。聴かれなきゃ話にならないと思って」
(櫻井敦司)
「(さあ)め・を・と・じ・て!!」
囁き
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
あなたは夢 私は欲情する奴隷みたい
あなたは夜 私は悦びに涙流す
あなたは月 私はドロの様に濡れたままで
あなたは密 私は垂れ流す独りきりで
欲しいものがひとつ 汚い囁きを
お前の夢 私は踏みつける子供の様に
お前の夜 私は悦びに涎垂らす
欲しいものがひとつ 汚い囁きを
願い叶うのなら 縛ってくれ
「これも「リザードスキンの少女」みたいな、なり切れないヒップホップですね」
「デモ・テープでだいたい今みたいな形にはなっていて。
でもギタリストである俺の発想と、ベーシストであるユータの発想は違いますからね。
だからベース・ラインはベーシストの発想でアレンジしてくれて構わないって感じなんです」
(今井寿)
「囁き」は、ライヴツアー【SEXTREAM LINER】公演途中の
1998年3月11日に、アルバム『SEXY STREAM LINER』から
ギター・パートを大幅に追加したリミックス・ヴァージョンがシングル・カットされた。
また映像のクリップ「囁き」も少女(リザードスキンの?)が、妖艶な女王様に変身する
ストーリー仕立ての傑作が制作された。
満月の夜に変身するという、まるで童話のような物語性が『SEXY STREAM LINER』の世界を彷彿させるが、
変身後のアブノーマルな世界は、完全に桜井敦司による官能小説に世界に近く、
「君のヴァニラ」とは逆に、変身したセルロイドの少女に、嬲られるメンバーが見られる。
彼がよく口にする“18歳未満お断り”の映像になっている。
独特の個性を持つ楽曲が揃い過ぎて、アルバム『SEXY STREAM LINER』が、
各曲を潰しあってしまわないかと樋口“U-TA”豊は危惧していたようであるが、
それは、ライヴでの再現を経て、杞憂に終わったと言える。
確かに、アルバム音源だけを聴いていると、
その内容の濃厚さに、ダレを感じてしまうことはあるが、
その一曲一曲の造形の深さを知った時に、このマニアックなアルバム『SEXY STREAM LINER』は、
何度も何度もなぞるように聴きたくなるアルバムである。
聴く度に、新たなる発見があると言ってもいい。
それは音に関しても、詞に関しても。
櫻井敦司は、語っている。
―――「蝶蝶」にもかなり狂った感じがありますけどね。
櫻井敦司
「これはけっこうひどいですよ。MからSになっていく感じですか(笑)」
―――ああ、逆転していく感じ。そういえば「蝶蝶」がSとすれば、
次の「囁き」はMっぽい感じがしたんですけど。
「はい(笑)。
これはもうリズム録りの時に仮の詞があって。
今だと繰り返しがありますけど、最初は全部こう“もっともっと~”って感じだったんですけど、
まとめてみました(笑)」
―――かなりドロドロしているのが素敵かなと(笑)。
今回、全体的に歌詞を書く時間は充分ありましたか?
「ええ。曲の上がりが早かったんで。
その分(時間を)持てあましちゃって、こねくり回しちゃって。
次から次に曲のテープが送られて来るので、
早く次に行けばいいものをズッーと同じ曲の歌詞をひっくり返してはまた書いたりとか。
だからだいぶ言葉は選びましたね」
―――充分吟味して書いたという満足感はあると思うんですけど、
作詞の作業ってやっぱり大変でしょう。
「体に毒でした(笑)。頭に毒っていうか。
スルっとできればいいんですけど、
毎回立ち止まっては、これでいいのか?これでいいのか?って感じになっちゃうから」
―――いつもそうなんですけど、今作は特に、ホント内容は濃いっていうか、けっこうハマりますよ。
「嬉しいっス(笑)」
―――書くことの快感は?
「いやー、歌詞なんか書きたくないって思いますけど(笑)。
全部今井に書いてもらおうかなと思っちゃいます。
それはそれでまた無いものねだりなるんだと思いますけど」
―――やっぱりめんどくさい?
「めんどくさいのはいいんですけど、
視野が狭くなっちゃって、言葉と歌だけだから。
曲書いてる奴に詞も書いてもらおうかなと(笑)」
―――曲に入り込んでしまうあまり、息苦しくなることもあるとか?
「自分のことミュージシャンだと思ってないですけど、
一人だけ何かこう、夏休みの宿題しているような感じで。
みんな音楽やってる感じなのに、俺だけ宿題しているような気がするから」
―――ああ(笑)、確かにガーンと楽器を弾いて終わりっていうカタルシスは無いかもしれない。
「僕自身、誰かのカタルシスになってる、それも楽しいですけどね、終わってみると」
月世界
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
波に漂う 月の光
昏睡の中 月の光
泳ぐ独り 暗い海を
波に漂う 月の光
昏睡の中 月の光
走る独り 暗い空を
あなたに逢えるなら
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
泳ぐ独り 深い闇を
あなたに逢えるまで
1998年2月4日からスタートしたライヴ・ツアー【SEXTREAM LINER】。
最終公演となった5月9日の日本武道館まで33本のライヴで話題となったのが、
タイトルさえ告げられぬまま全33公演で歌われ、オーディエンスの間で話題しきりとなった。
BUCK-TICK史上でも、最もアンビエントな世界を描いた「月世界」は、
アルバム『SEXY STREAM LINER』のレコーディング中に完成を見たが、
アルバムの補完的役割のためにアルバムには収録されなかったという。
後の2003年発売のアルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』時も、
日比谷野外音楽堂にて開催された【Mona Lisa OVERDRIVEーXANADUー】のアンコールに、
当時、未発表の新曲「幻想の花」がパフォーマンスされたが、
1998年のこの【SEXTREAM LINER TOUR】ではもっと長い期間に渡り、
この「月世界」が歌われ続けていたのだ。
勿論、ファンもこの楽曲がシングルとしてリリースされることも知らずに聴いていたことになる。
1998年5月9日【SEXTREAM LINER】最終公演、日本武道館を終えるとすぐ、
BUCK-TICKは、5月13日に、常にライヴツアーのアンコールの最後に披露していた
アルバム未収録の楽曲をシングル・リリースした。
この新曲は、
『SEXY STREAM LINER』からシングルカットされた「囁き」に続くシングルとなり、
今回はMAXIシングルの新曲扱いで、アルバムには未収録楽曲となった。
(後にベスト盤『97BT99』収録)
そのMAXIシングルのタイトルは「月世界」と告げられる。
特筆すべきはやはり「月世界」で、
櫻井敦司が闘病中に、今井寿は作成したデモに収録されていたとされるが、
アンビエントな淡々としたリズムに、救いのないくらい物悲しいメロディーで、
櫻井敦司のアンニュイな感覚がマッチにたのか?櫻井本人は、非常に気に入ったようで、
まるで江戸川乱歩の怪奇推理小説か?はたまた横溝正史著の「八つ墓村」が似合いそうな雰囲気で、
歌詞も淡々と続く印象的なものとなった。
アブノーマルな「囁き」に続き、
またも"これがシングル曲?"と思うくらいの不思議なダーク・サウンドで、
おそらくは歴代BTシングル・ナンバーで、これ以上に陰鬱な楽曲はなかったと言われたが、
実に不思議なナンバーで聴き込むほどに、この陰鬱さが美しく聞こえ始め、
癖になってしまうという意味でこの「月世界」もドラッグ・ソングと言えよう。
『SEXY STREAM LINER』にもアンビエントな星野英彦の「螺旋 虫」や
また浮遊感という点では『COSMOS』の「Tight Rope」などが近い感もあるが、
同じBUCK-TICKミディアム作品でも全くなかったタイプの一曲と言えるだろう。
そういった意味でもトータル・イメージが、“ハード、テクノ、デジタルロック”の
アルバム『SEXY STREAM LINER』にはそぐわずに収録されなかったのであろうが、
「月世界」がまた違った側面のBUCK-TICK像を表し、アルバムを補完している。
この補完例は、後に発表されるアルバムに収録されなかったシングル群、
例えるならば、『ONE LIFE,ONE DEATH』に対しての「ミウ」、
『Mona Lisa OVERDRIVE』に対しての「幻想の花」、
そして『十三階は月光』に於ける「蜉蝣」も同様の役割を果たしているものと思われる。
アナログ盤レコードに針を落とすシーンから始まる
レトロな雰囲気のヴィデオ・クリップでは、櫻井敦司が宙吊りにされて撮影されたが、
印象に残る撮影であったと櫻井敦司は後に語っている。
(初めて観る方は櫻井敦司の麗しい顔に、異変が起きたかとパニックになるかも知れない)
「月世界」の無重力を表現したということであるが、
この作品も怪奇映画のようで、これまた不思議な魅力がある。
またこの「月世界」は、
アニメ【ナイトウォーカー 真夜中の探偵】のオープニング楽曲としてタイアップされたが、
このアニメ番組のエンディング楽曲はLa'cryma Christi(ラクリマ・クリスティー)が担当しており、
マーキュリー勢が番組のサウンドを占めていたことになる。
番組の内容も吸血鬼モノというからこの陰鬱なBTソングもマッチしたのかも知れない。
BRAN-NEW LOVER
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
世界ノ終わりなら 真夏の海辺
怖がらず目を閉じ抱き合っていよう
最高の瞬 未来は君の胸で溶けちまえばいい
悲しい夢も 未来も君の胸で消えちまえばいい
人間にはさようなら いつか来るじゃない
この宇宙でもう一度 会える日まで...
パンドラの箱を今 アケハナテヨ
千切れ欠けてメビウスリングトキハナトウ
人間にはさようなら いつか来るじゃない
この宇宙でもう一度 会える日まで...
1999年7月14日、前作「月世界」から14ヶ月ぶりにリリースされたMAXIシングル。
タイトルの「BRAN-NEW LOVER」を始め収録された3曲とも非常に印象深い作品で、
それぞれの個性的な“オーラ”を纏ったBUCK-TICKの切り口となった。
全曲オリジナル・アルバムには未収録だが、マーキュリー時代のベスト盤『97BT99』と
BMGファンハウス移籍後のライヴ・アルバム『ONE LIFE, ONE DEATH CUT UP』に収録されている。
BUCK-TICKのバンドとしての特徴として、
メイン・コンポーザーの今井寿の性格も関係あるのかも知れないが、
『darker than darknessーstyle93ー』『Six/Nine』でダーク世界を描いた後、
世間が、カルトな存在として彼らを評価しようとすると、
『COSMOS』のキャッチーな歌メロを大胆に導入し、王道ギター・ロックを展開し、
期待を裏切るという“意外性”がある。
天の邪鬼と言ってしまえば、それまでであるが、
ある一定の評価を得てしまうと、そのジャンルに安住しようとはせず、
予想外の展開に持ち込むのが“特技”のひとつと言えるだろう。
今回のMAXIシングルもまさにその典型で、
タイトル・トラックの「BRAN-NEW LOVER」は、
『SEXY STREAM LINER』で構築した“狂った感じ”“怖い感じ”の
無機質緻密機械の打ち込みループとバンド・グルーヴの融合ハードテクノの世界を、
もろに破壊するかのような明るくキャッチーなナンバーで、
「キャンディ」以上のポップ感覚テクノである。
例えるならば、
YMOが1970年代後半に巻き起こったテクノ/ニュー・ウェイヴのムーブメントの中、
トランス・テクノ・インダストリアル・エレクトロニカと
前衛的な実験サウンドをさんざんやったあげくに、
1982年に入り、一転して歌謡界に殴り込みをかけ、
ソロ活動でも細野晴臣「はっぴいえんど」での盟友松本隆と共に松田聖子への曲提供を行い、
坂本龍一は郷ひろみや前川清などのプロデュースを行って評価を煙に巻くと、
また、日本グラムロックの大御所、忌野清志郎と共に
シングル「い・け・な・いルージュマジック」をリリースし注目を集め、
次は映画『戦場のメリークリスマス』の撮影に俳優として参加し、映画音楽に参入したような
“意外性”を演出した例が浮かぶ。
更に例えるならば、「BRAN-NEW LOVER」は、
そのYMOが音楽活動を本格再開したアイドル・ポップ「君に、胸キュン。」を思わせる出来だ。
ここまで、振り切ったポップさは、BUCK-TICK史上でも類を見ないし、
前シングルがアンビエントなアーティスト志向の「月世界」であった点も、
この“意外性”という落差を更に印象付けることになった。
櫻井敦司の歌詞も「キャンディ」以上のポップさで、
キャッチーなアルバム『COSMOS』のモチーフとされた童話『北風と太陽』からの
“北風”で始まる遊び心も満載な内容で、タイトル通り、
新世紀を祝う“スペイシー”で今までになかった位に“ポジティヴ”である。
(※実は、人類終末をポジティヴに描くという捻ったコンセプトも有しているのだが…)
映像のヴィデオ・クリップでも、遊び心一杯のサイバーな出で立ちのメンバーが躍動する。
拘束衣の櫻井敦司は、少し狂喜の「MAD」や「密室」などを思わせるが、
これまた今まで見たこともない“険”の取れた表情で、ルックスさえもキャッチーなイメージである。
(※しかし、これまた最後には、うつ伏したまま動かなくなってしまう。これは“死”を表現したとされる説もある)
「人間にはさようなら いつか来るじゃない 」
ミウ
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
嫌いだ今夜もまた眠れやしない
あなたを夢見て夢虚ろな夢
真夜中に隠したくちづけに息を止めて
暗闇に落ちる様にこのまま夢を
ゆらゆら短し恋月下美人
うたかた眩暈の中命燃やす
血を流すあなたよこの胸に注いでくれ
薔薇色に染まる程にこのまま赤くひとつに
千切れた羽を欲しがる あの人は羽ばたく
夢見るアゲハの様に 狂い咲く花園
真夜中に隠した くちづけに息を止めて
暗闇に落ちる様に このまま夢を 見させて
「今回、ヒデ(星野)は、自信満々で持ってきましたからね(笑)」
(ヤガミトール)
斬新な極彩色とマシナリーな機械音に彩られたマーキュリー在籍最期のMAXIシングルが、
1999年10月20日にリリースされた。
「ミウ」とタイトルされたナンバーは、
このマーキュリー時代の楽曲群の裏を画くような
櫻井/星野コンビの久々にシンプルなバラードであった。
ヴィデオクリップもリリース当時
まるで有名アニメキャラクターの“スナフキン”のようにアコースティックをかき鳴らす星野英彦が
主人公の展開がファンの間では話題を呼んだ。
これは「JUPITER」「ドレス」以来の星野本領発揮の傑作シングル・チューンとなった。
ストーリーテラーの櫻井敦司が物語を語るかのように進行する本作。
この両名とは別ショットで今井、樋口、ヤガミの三人は、“死化粧”のようなゴシックな雰囲気のメイクで、
今井寿は漫画「デスノート」に登場するメロを先取りしたようなキャラクターに扮している。
この区分は、「キャンディ」のクリップも彷彿とさせるが、トランクから飛び出す臓物など不気味な雰囲気も忘れない。
「今回は本当にヒデ(星野)の曲も今井くんの方の曲も凄く良くってどちらをシングルにしょうかって悩んだくらいで、
そこで今後自分達がどういう風にアプローチしたいとか、聴いている人にどういう風に感じられたいか考えて
今回はヒデの曲になったんですよ」
(樋口“U-TA”豊)
「今回も一応「パラダイス」とどちらをA面扱いにするかもめたんですけど、
俺はやっぱり前のシングルとの兼ね合いを考えて、
逆に今度はアコースティックなサウンドの曲で極端に行った方が面白いんじゃないかって
言って決まったんですけど。
やっぱり曲のキャラクターですよね」
「う~ん、多分、みんなは「JUPITER」とか「ドレス」とかそういうイメージを
俺の曲に対して持ってるんだと思うんだけど。
でも一時期は自分自身で、それを拒否してたんですよ。
周りが期待するような同じタイプの曲はもう作りたくないなって。
何だか一つの型に押し込められてしまうような気がしてね。
でも今回はそういうのもなく、
またいいかなって気持ちになれたから自然な感じで作ってみたんですけどね。
いい曲が出来たからいいかなって、素直にそう思えたから」
(星野英彦)
「淡々としてるんだけども、
曲の最後の方でガラッと場面が開かれた感じがあったので、“そういうことか”って。
最後は希望というか光というか、そういうのが見えればいいなと」
「柄にもなくヒデ(星野)がDATのテープと一緒に手紙をよこしたんですよ。
“今回はこういう感じ作ったんですけど…”って。言葉でひとつふたつぐらい。
こんな感じっていうのがあって、じゃあ期待に応えようと思って」
「そうですね。初めてです。
昔は今井とかも一言あったような気がするんですけど、
こういうラヴレターは初めてもらいました(笑)」
「吐き捨てるような、舌打ちするような感じで、“あー、眠れない”っていう感じ(笑)」
「理論立てて説明できないんですけど、まあそういうはなない……愛じゃなくて恋の方ですね。
そういうのもあったと思うし。
あと常にあるのは……死ですね。
常にこう何かに触れていたいというと変ですけど。
この世界の中でリアルなものじゃなくって、怖いけど甘いとか、
そういう誘惑にかられるところがあるのかもしれない。
……難しいですけど」
「でも、まだ希望があるという……お母さんは死んだけど、娘は元気で歩いて行くという」
(櫻井敦司)
「ミウ」は、“夢物語”そのものだ。
夢ウツツの物語。
「嫌いだ今夜もまた眠れやしない
あなたを夢見て夢虚ろな夢」
チッ、と舌打ちするような、そんな眠れない夜。
気がつけば、また、同じ事を考えている。
今夜も眠れさえすれば、また、あなたに夢で逢えるのに…。
まどろみよ、包みこんでくれ。
僕は、「ソラ」の夢を見た。
こんな夢なら、毎日でも、構わない。そう想う。
永遠に終わらない“夢”。
でも、こんな“夢”なら…。ずっと見ていたい。
たとえ、暗闇に堕ちて行っても…。
「ゆらゆら短し恋月下美人
うたかた眩暈の中命燃やす」
俺は、起きているのか?それとも、もう“夢”の中にいるのだろうか?
あなたの顔さえ、知らないハズなのに、あなたがそこに居るみたいだ。
真っ赤な薔薇の香りがする。血の様な真っ赤な夜だ。
そう、俺は夜そのものになる。
あなたの肌に触れるように。
俺には、そう、お似合いだろう。
「千切れた羽を欲しがる あの人は羽ばたく
夢見るアゲハの様に 狂い咲く花園」
「ソラ」を見上げて、もし蝶蝶のように「ソラ」へ行けたら…。
地上には、幻想の花園が、狂い咲く。
なんて、この世は美しいのだろう。
君を苦しめる現実など…、嘘みたいだ。
そう、この「ソラ」の上には「ミウ」がいるんだ。
そういえば、君は、もう、「ミウ」に逢えたのかな?
君はずっと、もう一度「ミウ」に逢いたいと言っていたね。
「砕け散る嘘を欲しがる あの人は羽ばたく」
この現実が君を苦しめるなら…、
僕も一緒に夢を見続けよう。
それは“虚構”の世界かもしれないけど、、
この“現実”が、“虚構”じゃないって、どうして言いきれるものか。
“夢”が真実で、“現実”が“誤解”でも、いいだろ?
そういえば、僕の「ミウ」は何処へ行ってしまったんだい?
あなたは、その行方を知っているハズなんだけど…。
夢は終わる。
やはり、俺は眠っていたのか?
すべてが、キラメキの中にあるから…、
僕は、少し、春が苦手だ。
「悪くない目覚めに 空を飛んでみようか」
おかえり、僕の…
いつか、また、綺麗な場所で、逢おう。
※本日の記事は以前【ROMANCE】で記事にしたものに加筆・修正したもの。





BUCK-TICKの全シングルのヴィデオクリップを収録したデビュー20周年記念PV集。
この作品で、シングル盤という観点からBUCK-TICKを振り返るのも・・・、
危険なくらい“スタイリッシュ”だ。
ヒロイン
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
天国を探そう 天使達の星を
純白のヒロイン 限りない旅に出よう
おまえとひとつだ
何処までも飛べる 白い影を引いて
純白のヒロイン 終わらない旅に出よう
目を閉じて・・・・・
あなたの瞼に光る銀のしぶき
サソリと十字を抱いて夜の果てへ
「お・ま・え・と・ひ・と・つ・だ!」
1997年11月12日、 最新型の新曲「ヒロイン」のヴィデオ・クリップで、
地下下水路の中で、復活を遂げるヴァンパイアの如く“櫻井敦司”が立ち上がる。
新天地マーキュリーで、新たなる誕生を遂げるBUCK-TICKは、
あらゆる意味において、生まれ変わっていた。
ドラムン・ベースを始めとする打ち込みマシーンの大胆な導入と
ヤガミトール、樋口“U-TA”の繰り出す生のグルーヴが見事に融合を見せ、
今井寿、星野英彦のギター・コンビは、完全にギターという楽器の範疇ではなく、
制限なく楽曲への“音”すべてに細やかで正確な信号を送っている。
無機質なサウンドとは裏腹に、櫻井敦司の書く歌詞は、
硬質で文学的【ことば】に守られながら、日本ロック特有のウエットな感覚を醸し出し、
唯一無二な極上最新型のBUCK-TICK楽曲の完成を実現化したのだ。
恐らく、BUCK-TICK史上の中でも最も急激な進化を遂げた時期であり、
それまでのダークだけではない、フラッシーな輝きを放つ今後のBT楽曲のあらゆるファクターが、
すでに「ヒロイン」には満載されていたのだ。
またタイトルからしてドラッグを連想させる櫻井敦司のテクニックは
「キャンディ」「チョコレート」と続いてきた妄想を増幅させる最高のドラッグソングと言える。
かつて、「die」というストレートなタイトルをシングルカットし度肝を抜かれたが、
新レーベルでの第一弾!このスキャンダラスな曲名演出も挑戦的で、尖った鋭角的なセンスが光る。
頭の欠けてしまった(髪型!)今井寿によるどこを切り取っても高水準のサウンド構成と、
ゾクゾクするようなギターイントロのメロディを聴くだけで、
まさしく新たなる時代の幕開けに相応しい楽曲となった。
「ほとんど全曲。俺はシーケンスを聴きながらやると思いますよ。
それも修行ですから(笑)」
(ヤガミトール)
今井寿からの今回のお題は“ハード、テクノ”であり、
YMOで音楽世界に開眼したという今井寿のインナーワールドが全面に展開される形で、
レコーディングが進んだようであったが、
ここでも、この“ハード・テクノ”がBUCK-TICK楽曲たらしめているのは、
櫻井敦司の詞作によるところが大きいだろう。
「キャンディ」のヴィデオ・クリップを手掛けた古川とも(GUNIW TOOLS)に言わせると
「今回のあっちゃんの詞は、“気配”が違う」ということだが、
一見、ここで繰り広げられる【ことば】世界は硬質な印象であるが、
今までのどの作品よりもウェットであり、“日本文学”への傾倒を感じることが出来るのだ。
なかでもレコーディング当初からシングル候補であった「ヒロイン」の作詞には苦心したらしい。
「……NHKで歌えるように(笑)。「キャンディ」は歌えなかったから。
それだけじゃないんですけど(笑)。聴かれなきゃ話にならないと思って」
(櫻井敦司)
「(さあ)め・を・と・じ・て!!」
囁き
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
あなたは夢 私は欲情する奴隷みたい
あなたは夜 私は悦びに涙流す
あなたは月 私はドロの様に濡れたままで
あなたは密 私は垂れ流す独りきりで
欲しいものがひとつ 汚い囁きを
お前の夢 私は踏みつける子供の様に
お前の夜 私は悦びに涎垂らす
欲しいものがひとつ 汚い囁きを
願い叶うのなら 縛ってくれ
「これも「リザードスキンの少女」みたいな、なり切れないヒップホップですね」
「デモ・テープでだいたい今みたいな形にはなっていて。
でもギタリストである俺の発想と、ベーシストであるユータの発想は違いますからね。
だからベース・ラインはベーシストの発想でアレンジしてくれて構わないって感じなんです」
(今井寿)
「囁き」は、ライヴツアー【SEXTREAM LINER】公演途中の
1998年3月11日に、アルバム『SEXY STREAM LINER』から
ギター・パートを大幅に追加したリミックス・ヴァージョンがシングル・カットされた。
また映像のクリップ「囁き」も少女(リザードスキンの?)が、妖艶な女王様に変身する
ストーリー仕立ての傑作が制作された。
満月の夜に変身するという、まるで童話のような物語性が『SEXY STREAM LINER』の世界を彷彿させるが、
変身後のアブノーマルな世界は、完全に桜井敦司による官能小説に世界に近く、
「君のヴァニラ」とは逆に、変身したセルロイドの少女に、嬲られるメンバーが見られる。
彼がよく口にする“18歳未満お断り”の映像になっている。
独特の個性を持つ楽曲が揃い過ぎて、アルバム『SEXY STREAM LINER』が、
各曲を潰しあってしまわないかと樋口“U-TA”豊は危惧していたようであるが、
それは、ライヴでの再現を経て、杞憂に終わったと言える。
確かに、アルバム音源だけを聴いていると、
その内容の濃厚さに、ダレを感じてしまうことはあるが、
その一曲一曲の造形の深さを知った時に、このマニアックなアルバム『SEXY STREAM LINER』は、
何度も何度もなぞるように聴きたくなるアルバムである。
聴く度に、新たなる発見があると言ってもいい。
それは音に関しても、詞に関しても。
櫻井敦司は、語っている。
―――「蝶蝶」にもかなり狂った感じがありますけどね。
櫻井敦司
「これはけっこうひどいですよ。MからSになっていく感じですか(笑)」
―――ああ、逆転していく感じ。そういえば「蝶蝶」がSとすれば、
次の「囁き」はMっぽい感じがしたんですけど。
「はい(笑)。
これはもうリズム録りの時に仮の詞があって。
今だと繰り返しがありますけど、最初は全部こう“もっともっと~”って感じだったんですけど、
まとめてみました(笑)」
―――かなりドロドロしているのが素敵かなと(笑)。
今回、全体的に歌詞を書く時間は充分ありましたか?
「ええ。曲の上がりが早かったんで。
その分(時間を)持てあましちゃって、こねくり回しちゃって。
次から次に曲のテープが送られて来るので、
早く次に行けばいいものをズッーと同じ曲の歌詞をひっくり返してはまた書いたりとか。
だからだいぶ言葉は選びましたね」
―――充分吟味して書いたという満足感はあると思うんですけど、
作詞の作業ってやっぱり大変でしょう。
「体に毒でした(笑)。頭に毒っていうか。
スルっとできればいいんですけど、
毎回立ち止まっては、これでいいのか?これでいいのか?って感じになっちゃうから」
―――いつもそうなんですけど、今作は特に、ホント内容は濃いっていうか、けっこうハマりますよ。
「嬉しいっス(笑)」
―――書くことの快感は?
「いやー、歌詞なんか書きたくないって思いますけど(笑)。
全部今井に書いてもらおうかなと思っちゃいます。
それはそれでまた無いものねだりなるんだと思いますけど」
―――やっぱりめんどくさい?
「めんどくさいのはいいんですけど、
視野が狭くなっちゃって、言葉と歌だけだから。
曲書いてる奴に詞も書いてもらおうかなと(笑)」
―――曲に入り込んでしまうあまり、息苦しくなることもあるとか?
「自分のことミュージシャンだと思ってないですけど、
一人だけ何かこう、夏休みの宿題しているような感じで。
みんな音楽やってる感じなのに、俺だけ宿題しているような気がするから」
―――ああ(笑)、確かにガーンと楽器を弾いて終わりっていうカタルシスは無いかもしれない。
「僕自身、誰かのカタルシスになってる、それも楽しいですけどね、終わってみると」
月世界
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
波に漂う 月の光
昏睡の中 月の光
泳ぐ独り 暗い海を
波に漂う 月の光
昏睡の中 月の光
走る独り 暗い空を
あなたに逢えるなら
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
泳ぐ独り 深い闇を
あなたに逢えるまで
1998年2月4日からスタートしたライヴ・ツアー【SEXTREAM LINER】。
最終公演となった5月9日の日本武道館まで33本のライヴで話題となったのが、
タイトルさえ告げられぬまま全33公演で歌われ、オーディエンスの間で話題しきりとなった。
BUCK-TICK史上でも、最もアンビエントな世界を描いた「月世界」は、
アルバム『SEXY STREAM LINER』のレコーディング中に完成を見たが、
アルバムの補完的役割のためにアルバムには収録されなかったという。
後の2003年発売のアルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』時も、
日比谷野外音楽堂にて開催された【Mona Lisa OVERDRIVEーXANADUー】のアンコールに、
当時、未発表の新曲「幻想の花」がパフォーマンスされたが、
1998年のこの【SEXTREAM LINER TOUR】ではもっと長い期間に渡り、
この「月世界」が歌われ続けていたのだ。
勿論、ファンもこの楽曲がシングルとしてリリースされることも知らずに聴いていたことになる。
1998年5月9日【SEXTREAM LINER】最終公演、日本武道館を終えるとすぐ、
BUCK-TICKは、5月13日に、常にライヴツアーのアンコールの最後に披露していた
アルバム未収録の楽曲をシングル・リリースした。
この新曲は、
『SEXY STREAM LINER』からシングルカットされた「囁き」に続くシングルとなり、
今回はMAXIシングルの新曲扱いで、アルバムには未収録楽曲となった。
(後にベスト盤『97BT99』収録)
そのMAXIシングルのタイトルは「月世界」と告げられる。
特筆すべきはやはり「月世界」で、
櫻井敦司が闘病中に、今井寿は作成したデモに収録されていたとされるが、
アンビエントな淡々としたリズムに、救いのないくらい物悲しいメロディーで、
櫻井敦司のアンニュイな感覚がマッチにたのか?櫻井本人は、非常に気に入ったようで、
まるで江戸川乱歩の怪奇推理小説か?はたまた横溝正史著の「八つ墓村」が似合いそうな雰囲気で、
歌詞も淡々と続く印象的なものとなった。
アブノーマルな「囁き」に続き、
またも"これがシングル曲?"と思うくらいの不思議なダーク・サウンドで、
おそらくは歴代BTシングル・ナンバーで、これ以上に陰鬱な楽曲はなかったと言われたが、
実に不思議なナンバーで聴き込むほどに、この陰鬱さが美しく聞こえ始め、
癖になってしまうという意味でこの「月世界」もドラッグ・ソングと言えよう。
『SEXY STREAM LINER』にもアンビエントな星野英彦の「螺旋 虫」や
また浮遊感という点では『COSMOS』の「Tight Rope」などが近い感もあるが、
同じBUCK-TICKミディアム作品でも全くなかったタイプの一曲と言えるだろう。
そういった意味でもトータル・イメージが、“ハード、テクノ、デジタルロック”の
アルバム『SEXY STREAM LINER』にはそぐわずに収録されなかったのであろうが、
「月世界」がまた違った側面のBUCK-TICK像を表し、アルバムを補完している。
この補完例は、後に発表されるアルバムに収録されなかったシングル群、
例えるならば、『ONE LIFE,ONE DEATH』に対しての「ミウ」、
『Mona Lisa OVERDRIVE』に対しての「幻想の花」、
そして『十三階は月光』に於ける「蜉蝣」も同様の役割を果たしているものと思われる。
アナログ盤レコードに針を落とすシーンから始まる
レトロな雰囲気のヴィデオ・クリップでは、櫻井敦司が宙吊りにされて撮影されたが、
印象に残る撮影であったと櫻井敦司は後に語っている。
(初めて観る方は櫻井敦司の麗しい顔に、異変が起きたかとパニックになるかも知れない)
「月世界」の無重力を表現したということであるが、
この作品も怪奇映画のようで、これまた不思議な魅力がある。
またこの「月世界」は、
アニメ【ナイトウォーカー 真夜中の探偵】のオープニング楽曲としてタイアップされたが、
このアニメ番組のエンディング楽曲はLa'cryma Christi(ラクリマ・クリスティー)が担当しており、
マーキュリー勢が番組のサウンドを占めていたことになる。
番組の内容も吸血鬼モノというからこの陰鬱なBTソングもマッチしたのかも知れない。
BRAN-NEW LOVER
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
世界ノ終わりなら 真夏の海辺
怖がらず目を閉じ抱き合っていよう
最高の瞬 未来は君の胸で溶けちまえばいい
悲しい夢も 未来も君の胸で消えちまえばいい
人間にはさようなら いつか来るじゃない
この宇宙でもう一度 会える日まで...
パンドラの箱を今 アケハナテヨ
千切れ欠けてメビウスリングトキハナトウ
人間にはさようなら いつか来るじゃない
この宇宙でもう一度 会える日まで...
1999年7月14日、前作「月世界」から14ヶ月ぶりにリリースされたMAXIシングル。
タイトルの「BRAN-NEW LOVER」を始め収録された3曲とも非常に印象深い作品で、
それぞれの個性的な“オーラ”を纏ったBUCK-TICKの切り口となった。
全曲オリジナル・アルバムには未収録だが、マーキュリー時代のベスト盤『97BT99』と
BMGファンハウス移籍後のライヴ・アルバム『ONE LIFE, ONE DEATH CUT UP』に収録されている。
BUCK-TICKのバンドとしての特徴として、
メイン・コンポーザーの今井寿の性格も関係あるのかも知れないが、
『darker than darknessーstyle93ー』『Six/Nine』でダーク世界を描いた後、
世間が、カルトな存在として彼らを評価しようとすると、
『COSMOS』のキャッチーな歌メロを大胆に導入し、王道ギター・ロックを展開し、
期待を裏切るという“意外性”がある。
天の邪鬼と言ってしまえば、それまでであるが、
ある一定の評価を得てしまうと、そのジャンルに安住しようとはせず、
予想外の展開に持ち込むのが“特技”のひとつと言えるだろう。
今回のMAXIシングルもまさにその典型で、
タイトル・トラックの「BRAN-NEW LOVER」は、
『SEXY STREAM LINER』で構築した“狂った感じ”“怖い感じ”の
無機質緻密機械の打ち込みループとバンド・グルーヴの融合ハードテクノの世界を、
もろに破壊するかのような明るくキャッチーなナンバーで、
「キャンディ」以上のポップ感覚テクノである。
例えるならば、
YMOが1970年代後半に巻き起こったテクノ/ニュー・ウェイヴのムーブメントの中、
トランス・テクノ・インダストリアル・エレクトロニカと
前衛的な実験サウンドをさんざんやったあげくに、
1982年に入り、一転して歌謡界に殴り込みをかけ、
ソロ活動でも細野晴臣「はっぴいえんど」での盟友松本隆と共に松田聖子への曲提供を行い、
坂本龍一は郷ひろみや前川清などのプロデュースを行って評価を煙に巻くと、
また、日本グラムロックの大御所、忌野清志郎と共に
シングル「い・け・な・いルージュマジック」をリリースし注目を集め、
次は映画『戦場のメリークリスマス』の撮影に俳優として参加し、映画音楽に参入したような
“意外性”を演出した例が浮かぶ。
更に例えるならば、「BRAN-NEW LOVER」は、
そのYMOが音楽活動を本格再開したアイドル・ポップ「君に、胸キュン。」を思わせる出来だ。
ここまで、振り切ったポップさは、BUCK-TICK史上でも類を見ないし、
前シングルがアンビエントなアーティスト志向の「月世界」であった点も、
この“意外性”という落差を更に印象付けることになった。
櫻井敦司の歌詞も「キャンディ」以上のポップさで、
キャッチーなアルバム『COSMOS』のモチーフとされた童話『北風と太陽』からの
“北風”で始まる遊び心も満載な内容で、タイトル通り、
新世紀を祝う“スペイシー”で今までになかった位に“ポジティヴ”である。
(※実は、人類終末をポジティヴに描くという捻ったコンセプトも有しているのだが…)
映像のヴィデオ・クリップでも、遊び心一杯のサイバーな出で立ちのメンバーが躍動する。
拘束衣の櫻井敦司は、少し狂喜の「MAD」や「密室」などを思わせるが、
これまた今まで見たこともない“険”の取れた表情で、ルックスさえもキャッチーなイメージである。
(※しかし、これまた最後には、うつ伏したまま動かなくなってしまう。これは“死”を表現したとされる説もある)
「人間にはさようなら いつか来るじゃない 」
ミウ
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
嫌いだ今夜もまた眠れやしない
あなたを夢見て夢虚ろな夢
真夜中に隠したくちづけに息を止めて
暗闇に落ちる様にこのまま夢を
ゆらゆら短し恋月下美人
うたかた眩暈の中命燃やす
血を流すあなたよこの胸に注いでくれ
薔薇色に染まる程にこのまま赤くひとつに
千切れた羽を欲しがる あの人は羽ばたく
夢見るアゲハの様に 狂い咲く花園
真夜中に隠した くちづけに息を止めて
暗闇に落ちる様に このまま夢を 見させて
「今回、ヒデ(星野)は、自信満々で持ってきましたからね(笑)」
(ヤガミトール)
斬新な極彩色とマシナリーな機械音に彩られたマーキュリー在籍最期のMAXIシングルが、
1999年10月20日にリリースされた。
「ミウ」とタイトルされたナンバーは、
このマーキュリー時代の楽曲群の裏を画くような
櫻井/星野コンビの久々にシンプルなバラードであった。
ヴィデオクリップもリリース当時
まるで有名アニメキャラクターの“スナフキン”のようにアコースティックをかき鳴らす星野英彦が
主人公の展開がファンの間では話題を呼んだ。
これは「JUPITER」「ドレス」以来の星野本領発揮の傑作シングル・チューンとなった。
ストーリーテラーの櫻井敦司が物語を語るかのように進行する本作。
この両名とは別ショットで今井、樋口、ヤガミの三人は、“死化粧”のようなゴシックな雰囲気のメイクで、
今井寿は漫画「デスノート」に登場するメロを先取りしたようなキャラクターに扮している。
この区分は、「キャンディ」のクリップも彷彿とさせるが、トランクから飛び出す臓物など不気味な雰囲気も忘れない。
「今回は本当にヒデ(星野)の曲も今井くんの方の曲も凄く良くってどちらをシングルにしょうかって悩んだくらいで、
そこで今後自分達がどういう風にアプローチしたいとか、聴いている人にどういう風に感じられたいか考えて
今回はヒデの曲になったんですよ」
(樋口“U-TA”豊)
「今回も一応「パラダイス」とどちらをA面扱いにするかもめたんですけど、
俺はやっぱり前のシングルとの兼ね合いを考えて、
逆に今度はアコースティックなサウンドの曲で極端に行った方が面白いんじゃないかって
言って決まったんですけど。
やっぱり曲のキャラクターですよね」
「う~ん、多分、みんなは「JUPITER」とか「ドレス」とかそういうイメージを
俺の曲に対して持ってるんだと思うんだけど。
でも一時期は自分自身で、それを拒否してたんですよ。
周りが期待するような同じタイプの曲はもう作りたくないなって。
何だか一つの型に押し込められてしまうような気がしてね。
でも今回はそういうのもなく、
またいいかなって気持ちになれたから自然な感じで作ってみたんですけどね。
いい曲が出来たからいいかなって、素直にそう思えたから」
(星野英彦)
「淡々としてるんだけども、
曲の最後の方でガラッと場面が開かれた感じがあったので、“そういうことか”って。
最後は希望というか光というか、そういうのが見えればいいなと」
「柄にもなくヒデ(星野)がDATのテープと一緒に手紙をよこしたんですよ。
“今回はこういう感じ作ったんですけど…”って。言葉でひとつふたつぐらい。
こんな感じっていうのがあって、じゃあ期待に応えようと思って」
「そうですね。初めてです。
昔は今井とかも一言あったような気がするんですけど、
こういうラヴレターは初めてもらいました(笑)」
「吐き捨てるような、舌打ちするような感じで、“あー、眠れない”っていう感じ(笑)」
「理論立てて説明できないんですけど、まあそういうはなない……愛じゃなくて恋の方ですね。
そういうのもあったと思うし。
あと常にあるのは……死ですね。
常にこう何かに触れていたいというと変ですけど。
この世界の中でリアルなものじゃなくって、怖いけど甘いとか、
そういう誘惑にかられるところがあるのかもしれない。
……難しいですけど」
「でも、まだ希望があるという……お母さんは死んだけど、娘は元気で歩いて行くという」
(櫻井敦司)
「ミウ」は、“夢物語”そのものだ。
夢ウツツの物語。
「嫌いだ今夜もまた眠れやしない
あなたを夢見て夢虚ろな夢」
チッ、と舌打ちするような、そんな眠れない夜。
気がつけば、また、同じ事を考えている。
今夜も眠れさえすれば、また、あなたに夢で逢えるのに…。
まどろみよ、包みこんでくれ。
僕は、「ソラ」の夢を見た。
こんな夢なら、毎日でも、構わない。そう想う。
永遠に終わらない“夢”。
でも、こんな“夢”なら…。ずっと見ていたい。
たとえ、暗闇に堕ちて行っても…。
「ゆらゆら短し恋月下美人
うたかた眩暈の中命燃やす」
俺は、起きているのか?それとも、もう“夢”の中にいるのだろうか?
あなたの顔さえ、知らないハズなのに、あなたがそこに居るみたいだ。
真っ赤な薔薇の香りがする。血の様な真っ赤な夜だ。
そう、俺は夜そのものになる。
あなたの肌に触れるように。
俺には、そう、お似合いだろう。
「千切れた羽を欲しがる あの人は羽ばたく
夢見るアゲハの様に 狂い咲く花園」
「ソラ」を見上げて、もし蝶蝶のように「ソラ」へ行けたら…。
地上には、幻想の花園が、狂い咲く。
なんて、この世は美しいのだろう。
君を苦しめる現実など…、嘘みたいだ。
そう、この「ソラ」の上には「ミウ」がいるんだ。
そういえば、君は、もう、「ミウ」に逢えたのかな?
君はずっと、もう一度「ミウ」に逢いたいと言っていたね。
「砕け散る嘘を欲しがる あの人は羽ばたく」
この現実が君を苦しめるなら…、
僕も一緒に夢を見続けよう。
それは“虚構”の世界かもしれないけど、、
この“現実”が、“虚構”じゃないって、どうして言いきれるものか。
“夢”が真実で、“現実”が“誤解”でも、いいだろ?
そういえば、僕の「ミウ」は何処へ行ってしまったんだい?
あなたは、その行方を知っているハズなんだけど…。
夢は終わる。
やはり、俺は眠っていたのか?
すべてが、キラメキの中にあるから…、
僕は、少し、春が苦手だ。
「悪くない目覚めに 空を飛んでみようか」
おかえり、僕の…
いつか、また、綺麗な場所で、逢おう。
※本日の記事は以前【ROMANCE】で記事にしたものに加筆・修正したもの。




