2006年2月15日に、『SINGLES on Digital Video Disc』がリリースされた。
BUCK-TICKの全シングルのヴィデオクリップを収録したデビュー20周年記念PV集。
この作品で、シングル盤という観点からBUCK-TICKを振り返るのも・・・、
非常に“耽美”である。
JUST ONE MORE KISS
(作詞:ATSUSHI / 作曲:HISASHI / 編曲:BUCK-TICK)
AH-AH ONE MORE KISS......
JUST ONE MORE KISS 横顔はまるで 刹那の美貌
JUST ONE MORE KISS むせ返る香り
薄れゆく意識だけが…
JUST ONE MORE KISS 抱き合えば そこは架空の都
JUST ONE MORE KISS 爪立てた腰は
はかない恋に揺れて…
天使のざわめき 悪魔のささやき 月夜に甘いくちづけ
キラメキは届かない つぶやいた
I WANT YOU TO LOVE ME
I KNOW YOU LOST YOUR HEART もがき続け
トキメキは返らない 愛してる
I WANT YOU TO KILL ME
GOD KNOWS I LOST MY HEART 叫び続け
アルバム『TABOO』先行シングルとしてリリースされた楽曲であり、
記念すべきメジャーでのBUCK-TICK初のシングル楽曲。
この楽曲でBUCK-TICKの一般リスナーへの認知度は、大幅にあがり、
ゴールデンタイムの音楽TV番組にも顔を露出するようになる。
この楽曲でBUCK-TICKを知ったというファンも多いだろう。
そういった意味で「...IN HEAVEN...」では見送った形になった
ブレイク・ポイントの役割を担うファースト・シングルであった。
その他大勢のBOØWY後継ビート・ロック・バンド群の中から、
個性的なBUCK-TICKという存在への橋渡しの役目を果たす
ゴシックのダーク雰囲気と重くハードな作風を強調した初のコンセプト・アルバム。
それが『TABOO』の正体だ。
そしてメジャー初シングルにして
キャッチーなビート・ロックの名作「JUST ONE MORE KISS」が
最期の10曲目に収録されている。
全体的にダークな雰囲気の『TABOO』 の中に
キャッチーな「JUST ONE MORE KISS」を入れたのは?との問いにメンバーが答えている。
「TABOO」を最後にしようと思ってたんだけど、
アッちゃんがあの曲が最後だと『死んじゃうよ』とか『苦しいよ』とか言ってて。
やっぱり、救われないといけないよな、と。
で、最後が「JUST ONE MORE KISS」になった」
(今井寿)
「でもあの曲は音質的な事から言ってもあそこにしか入らない。
まして一曲目だったら、そこでアルバムが完結してしまう。
俺は「JUST ONE MORE KISS」はね、オマケみたいな、それくらいの気持ちで入れたかった。
(「JUST ONE MORE KISS」を)入れても入れなくても
『TABOO』は『TABOO』なんです。
あのダークで、ヘビィなトーンは変わらないと思う」
(櫻井敦司)
悪の華
(作詞:桜井敦司/作曲:今井寿/編曲:BUCK-TICK)
遊びはここで 終わりにしようぜ
息の根止めて Breaking down
その手を貸せよ 全て捨てるのさ
狂ったピエロ Bad Blood
夢見たはずが ブザマを見るのさ
熟れた欲望 Fallin' down
サヨナラだけが 全てだなんて
狂ったピエロ Bad Blood
燃える血を忘れた訳じゃない
甘いぬくもり が目にしみただけ
Lonely days
あふれる太陽 蒼い孤独を手に入れた Blind-Blue-Boy
「まあ、曲凄い恰好いいし、BUCK-TICKらしいっていうのもあるし。
“悪の華であれ”とか、自分達のバンドがこう…曲があってイメージする様なバンド、
それが「悪の華」だったら納得出来る物だったんで。
うん。そうですね…それは性格的な物からきちゃうんだろうけど(笑)。
どっちかっていうと腹ン中が燃えてるってタイプ。
表出って燃えるってタイプでもないし…
でも、これでも(笑)前向きにやったつもりなんですよ。自分では」
(櫻井敦司)
アルバム『悪の華』に先行してリリースされた2NDシングル。
シングル盤とはアルバムに収録されたものは若干ミックスが異なる。
オリコン初登場第1位。
ボードレールの詩集から取ったと思しきタイトルに
今井寿の当時の心境を垣間見ることが出来る。
事件後だけに
「世の中をなめてる?」
確信犯的なこのメッセージは
彼らがロック・バンドであるという認識を広める契機となる。
復活した今井寿は挑発的な真紅の髪で登場。
当時、ブラックのヘアダイを塗りたくった櫻井敦司の髪毛には、
まだメッシュのように一部残る金髪が初々しい。
1989年12月20日 群馬音楽センター、復帰第一弾ライヴの後、
12月29日 【BUCK-TICK現象】東京ドームのステージで、完全復活を果たす。
赤毛の今井寿は黒白衣裳のピエロスタイルで白マイマイを持って登場。
「【BUCK-TICK現象】と呼ぶ時は自分達にとって大切な時で…
今日も大切なお客さまを5万人も……ありがとう。
言いたいのは……とにかくみんな元気です。みんなも元気で安心した」
(櫻井敦司)
スピード
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
-イカレタノハオレダケ キミハスコシマトモダ-
スピードをあげて 摩天楼 ダイブするのさ
ボリュームをあげて 今宵の共犯者達へ
女の子 男の子 君には自由が似合う
これが最後のチャンス 自爆しよう
蝶になれ 華になれ 素敵だ お前が宇宙
愛しいものを全て 胸に抱いて
君が宇宙
目覚めは今日も冷たい 月夜のガラスケース
今夜も頭ギリギリ 骨まで透けて見えた
BUCK-TICKはスピードの向こう側に放たれた!
「スピード」は1991年1月21日
5THアルバム『狂った太陽』先行シングルとして発売された。
オリコン初登場3位を記録している。
翌月2月21日にはBUCK-TICKの革命的アルバム『狂った太陽』がリリースされた。
この楽曲はシングルverとアルバムverは若干ミックスが異なり、
シングル盤にあったイントロの飛行機の効果音が削除されている。
一説には自殺をテーマにした歌詞であるといわれる。
近年のライヴでは歌詞の「自爆しよう」を「愛し合おう」と替えて歌われている。
「スピード」という楽曲名の本当の意味は、
当然の如くドラッグのスラングで、歌詞の一部分を逆回転している。
女の子も男の子もスピードによって自由になろう。
というメッセージの奥には“死”とその後の新世界について期待感が感じられる。
のちにもっとストレートな「die」という楽曲も生まれるが、
BUCK-TICKはすでに「スピード」で来世の予感を楽曲に封じ込めたのだ。
イメージされるのは、欲望の都市「TOKYO」での夢破れた男が、
ドラッグに嵌り、“破壊の美学”に取り付かれ暴走する。
そして、この主人公の男は「スピード」をキメめて、新たなる世界を求め
「TOKYO」の高層ビル街の“摩天楼をダイヴ”するのだ。
この楽曲では、そのダイヴ中の主人公の男に見えている光景を描いているように感じる。
果たして、その先に“新世界”はあったのだろうか?
いずれにしろ、あまりに露骨すぎるネーミング、そして、このタイトルの楽曲に、
このポップなメロディー・センスは、ドラッグ事件を起こしたバンド自身のセルフ・ポートレイトなのか?
また同時にバンドの変革を担うアルバム『狂った太陽』の中で唯一ポップな楽曲ともいえる。
まだビートロックアイドルであった時代の名残りがある。
そういった意味では、このアルバムの中では異色の楽曲で、
この楽曲を最後にBUCK-TICKはこれほどのポップな曲調は全て捨て去っていった・・・とも取れる。
あらゆる意味でアルバム『狂った太陽』は賞賛を得るべきであるが、
その中でも、この楽曲「スピード」は特別の存在であるように感じる。
初期BUCK-TICKと今後の方向性(可能性)の両方をモロに内包しているのが、
おそらく「スピード」 という楽曲の正体であろう。
「アッちゃんの歌が入った時点で、
何かひとつ突き抜けた感じがした。
詞は直接的な言葉で埋めつくされているし。
この曲を作った自分たちを誉めてあげたい(笑)。
きっとアッちゃんもああいう直接的な言葉が自然に出てきたんだろうし、
それを自然に歌えるようになった事が凄く大きいと思う。
昔だったら
『ちょっと歌えないよ、こんな言葉』って感じだったと思う。照れちゃって。
『狂った太陽』 あたりから、アッちゃんは自分の世界を創り上げたと思う。
だから、俺もうかうかしていられない」
「この曲を作った時、ジーザス・ジョーンズを凄く意識してた。
コード進行も王道ロックのパターン。
そういうのは俺は昔、大嫌いだったんだけど、あえてストレートにしてみたら、あ、かっこいいと思えた」
(今井寿)
異端児が、王道を歩いたら、こんなロックが出来ました
という感覚だろうか?
とにかく、かれこれ15年以上も前の楽曲が、むしろ斬新に聞こえてしまう錯覚に陥る。
どうやら「スピード」という楽曲は、まさにBUCK-TICKというバンドを象徴する
セルフ・ポートレイトに間違いなさそうだ。
全方向からの光を、色々な輝きに変えて発光するBUCK-TICKのテーマ・ソング。
BUCK-TICKによる、BUCK-TICKの為の、BUCK-TICKの楽曲が
「スピード」である。
M・A・D
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
アスファルトを抱いて 熱にうなされている
僕を破裂させてくれ
子守歌の中で聞いた あなたの鼓動
僕を狂わせてくれ
ああ ただ星が綺麗だね 僕はお前にはなれない
ああ 輝きが消えてゆく もうすぐ太陽の破片
ああ ただ星が綺麗だね 僕はお前にはなれない
ああ 輝きが消えてゆく もうすぐ太陽の破片
僕は狂っていた もう二度と会えない
全て狂っていた どうって事ないサ
1991年6月5日シングル「M・A・D」をリリース。オリコン初登場第4位。
ビデオシングルとしても発売。オリコン初登場第1位。
アルバム『狂った太陽』からの最初のシングル・カット楽曲となる。
シングル版はタイトル表記が「M・A・D」と変更され、ミックスも異なり、イントロが削除されている。
また、楽曲の最後の台詞がカットされている。
ストーカーのような偏執的な愛情をテーマにしている。
小気味良い8ビートに小刻みのシンセ音が乗り、
そのうえにアニメソングのような旋律が覆う。
この揺れる感覚にさせられるのがこの「M・A・D」の特徴だろう。
秀逸なヴィデオ・クリップはこの“狂気”をうまく表現している。
病室のベットでもがき髪を振り乱す櫻井敦司。
フラッシュし、浮かびあがるメンバーの姿。
まるで、ドラッグ・ヴィデオを見ているようだ。
いつのまにか櫻井は拘束衣を着させられ、包帯を巻かれ・・・。
これは、暗い病室で独りうな垂れる櫻井の悪夢だろうか?
「赤い海の底で溺れる夢を見る」のだ。
アルバム『狂った太陽』のメイン・コンセプトは“狂気”である。
それを、象徴するかのような双子の楽曲が「スピード」「MAD」の2曲だ。
もしくは、全く同じモチーフを、裏表から表現した楽曲とも言える。
サウンド的に両曲の持つ“狂気”は、それまでのBUCK-TICK作品からすると、
ファンキーなリズムに支えられ、1990年代に入り、アメリカはシアトルから突如跋扈した
オルタナティヴ・ロック、グランジの要素が取り込まれている。
サウンドは、それまでの作品に比べ“乾いた”空気に満ちているし、
何よりも“オシャレ”になった。
それに比べ、櫻井敦司が抉る歌詞のほうは、じっとりと“狂気の世界”を描いている。
この「MAD」の歌詞も最高の出来と言える。
「スピード」で登場する主人公は、オーバードーズの末に、新世界は見つけている。
イメージとしては、摩天楼にダイヴしたら、天に昇って逝ったようだが、
この「MAD」では、逆に深く深く沈んでいくような感覚だ。
「スピード」では、
「イカレタノハオレダケ キミハスコシマトモダ」
と孤独感を歌っているが、
「MAD」では、「狂っちまえよ」と他人をも巻き込んで沈んでいく蟻地獄のよう。
そして、
「ああ 輝きが消えてゆく もうすぐ太陽の破片」
光さえ届かない所まで堕ちて行くのだ。
これは“堕天使”の嘆きなのかも知れない。
「抜けたい抜けたいって思ってたからね。開き直りっていうのも含めて。
僕は狂っていた、とかあるでしょ…内向的な部分を肯定している、
自分で全部わかっていた上で歌っているっていう。
でもそれが実は自分にとって一番ネガティブだったりするのかもしれない」
(櫻井敦司)
JUPITER
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
歩き出す月の螺旋を 流れ星だけが空に舞っている
そこからは小さく見えたあなただけが
優しく手を振る
頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし
初めから知っていたはずさ 戻れるなんて だけど。。。少しだけ
忘れよう全てのナイフ
胸を切り裂いて 深く沈めばいい
まぶた 浮かんで消えていく残像は まるで母に似た光
そして涙も血もみんな枯れ果て
やがて遥かなる想い
どれほど悔やみ続けたら
一度は優しくなれるかな?
サヨナラ 優しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?
星野英彦の最高傑作であり、なおかつBUCK-TICKの歴史中でも
最高傑作に常に推される名曲中の名曲。
1991年10月30日に「JUPITER」リリース。
「M・A・D」に続く2番目のシングルカットとなった楽曲でオリコン初登場第8位。
シングル版とアルバム版はコーラス部分などが若干異なる。
ビクターのラジカセ「CDios」のCMでも使用された。
BTファン以外にも当時圧倒的な支持を受けた誰もが認める名曲といえる。
ジュピターというと木星(太陽系の惑星の一つ)の英語名。
また天地を支配する最高神、生死を司る神
またローマ神話に登場する気象現象を司る神ユピテルの英語名など
神話的にも様々な意味がありそうだが、
全体的に生死を通り越した宇宙を感じる、どこか厳かなイメージに仕上がった。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第41番の通称でもある。
これも宇宙天体をイメージする楽曲で
ホルストの組曲『惑星』の第4曲。
日本語訳では『木星』。
12弦ギターを奏でる星野英彦は、この楽曲で遂に本格的に、
BUCK-TICK内での頭角を現したといえる。
美しいリフレインと後半に見せる盛り上がりは、
LED ZEPPELINの「天国への階段」を思わせるほどの完璧な楽曲だ。
そして、またもう一つのモチーフ。
櫻井敦司の母親への鎮魂歌としての“愛”が、
この名曲に凄味と名曲たる感動と深みを与えた。
ここには、すでに未だ誰も見ていなかったBUCK-TICKの姿があったのだ。
輝く聖母が、それまで綴ってきた“狂気”の暗黒世界に強烈な光を刺した。
「スピード」の先にあった“新世界”はこれであった...。
この神聖なる「JUPITER」がコマーシャルソングになったことについて、
作詞を担当した櫻井敦司は、複雑な心境を語っている。
「ああ……。結構いろんな曲を変な風に使われてますよね。俺たちは(笑)。
……まあ、いろんな人の聴き方があると思っちゃってるし……。
結構ね、変な言い方だけど、いろんな人に聴いてもらって嬉しいけど、
わかりゃしねえだろうって感じもあるんですよ。
……わかって欲しくないっていうことかな、やっぱり。
全部わかって欲しくないし、わかるわけないだろうっていう、そういうヒネくれた考えがあるから……」
「そうですね。あれを書いた時、書いてる段階では……
恥ずかしいですけど、純粋、に書いたつもりですから。
どう捉えようが、その時の感じがあるから、まあいいか、と思っちゃう」
「ええ。……まあ、あの曲に関して言うと、すごく懺悔の気持ちがあるんで、
そういうのを聴いてくれる人に期待しちゃいますね。
……ちょっとでも優しくとかね、なれるんだったらいいな、とか。
まあ、ロマンティックですけどね」
「まあ、あれを聴いたら。
……ていうか、そういう風に感じとってというか
……その期待がただのカラ回りになっちゃうかも知れないけど、
コマーシャルってモノになっちゃうと。
……矛盾してますね。
わかって欲しくないって気持ちと、そういう優しい気分になって欲しいって期待と。
すごく矛盾してるんですけど。
裏返しって感じですね」
(櫻井敦司)
※本日の記事は以前【ROMANCE】で記事にしたものに加筆・修正したもの。





BUCK-TICKの全シングルのヴィデオクリップを収録したデビュー20周年記念PV集。
この作品で、シングル盤という観点からBUCK-TICKを振り返るのも・・・、
非常に“耽美”である。
JUST ONE MORE KISS
(作詞:ATSUSHI / 作曲:HISASHI / 編曲:BUCK-TICK)
AH-AH ONE MORE KISS......
JUST ONE MORE KISS 横顔はまるで 刹那の美貌
JUST ONE MORE KISS むせ返る香り
薄れゆく意識だけが…
JUST ONE MORE KISS 抱き合えば そこは架空の都
JUST ONE MORE KISS 爪立てた腰は
はかない恋に揺れて…
天使のざわめき 悪魔のささやき 月夜に甘いくちづけ
キラメキは届かない つぶやいた
I WANT YOU TO LOVE ME
I KNOW YOU LOST YOUR HEART もがき続け
トキメキは返らない 愛してる
I WANT YOU TO KILL ME
GOD KNOWS I LOST MY HEART 叫び続け
アルバム『TABOO』先行シングルとしてリリースされた楽曲であり、
記念すべきメジャーでのBUCK-TICK初のシングル楽曲。
この楽曲でBUCK-TICKの一般リスナーへの認知度は、大幅にあがり、
ゴールデンタイムの音楽TV番組にも顔を露出するようになる。
この楽曲でBUCK-TICKを知ったというファンも多いだろう。
そういった意味で「...IN HEAVEN...」では見送った形になった
ブレイク・ポイントの役割を担うファースト・シングルであった。
その他大勢のBOØWY後継ビート・ロック・バンド群の中から、
個性的なBUCK-TICKという存在への橋渡しの役目を果たす
ゴシックのダーク雰囲気と重くハードな作風を強調した初のコンセプト・アルバム。
それが『TABOO』の正体だ。
そしてメジャー初シングルにして
キャッチーなビート・ロックの名作「JUST ONE MORE KISS」が
最期の10曲目に収録されている。
全体的にダークな雰囲気の『TABOO』 の中に
キャッチーな「JUST ONE MORE KISS」を入れたのは?との問いにメンバーが答えている。
「TABOO」を最後にしようと思ってたんだけど、
アッちゃんがあの曲が最後だと『死んじゃうよ』とか『苦しいよ』とか言ってて。
やっぱり、救われないといけないよな、と。
で、最後が「JUST ONE MORE KISS」になった」
(今井寿)
「でもあの曲は音質的な事から言ってもあそこにしか入らない。
まして一曲目だったら、そこでアルバムが完結してしまう。
俺は「JUST ONE MORE KISS」はね、オマケみたいな、それくらいの気持ちで入れたかった。
(「JUST ONE MORE KISS」を)入れても入れなくても
『TABOO』は『TABOO』なんです。
あのダークで、ヘビィなトーンは変わらないと思う」
(櫻井敦司)
悪の華
(作詞:桜井敦司/作曲:今井寿/編曲:BUCK-TICK)
遊びはここで 終わりにしようぜ
息の根止めて Breaking down
その手を貸せよ 全て捨てるのさ
狂ったピエロ Bad Blood
夢見たはずが ブザマを見るのさ
熟れた欲望 Fallin' down
サヨナラだけが 全てだなんて
狂ったピエロ Bad Blood
燃える血を忘れた訳じゃない
甘いぬくもり が目にしみただけ
Lonely days
あふれる太陽 蒼い孤独を手に入れた Blind-Blue-Boy
「まあ、曲凄い恰好いいし、BUCK-TICKらしいっていうのもあるし。
“悪の華であれ”とか、自分達のバンドがこう…曲があってイメージする様なバンド、
それが「悪の華」だったら納得出来る物だったんで。
うん。そうですね…それは性格的な物からきちゃうんだろうけど(笑)。
どっちかっていうと腹ン中が燃えてるってタイプ。
表出って燃えるってタイプでもないし…
でも、これでも(笑)前向きにやったつもりなんですよ。自分では」
(櫻井敦司)
アルバム『悪の華』に先行してリリースされた2NDシングル。
シングル盤とはアルバムに収録されたものは若干ミックスが異なる。
オリコン初登場第1位。
ボードレールの詩集から取ったと思しきタイトルに
今井寿の当時の心境を垣間見ることが出来る。
事件後だけに
「世の中をなめてる?」
確信犯的なこのメッセージは
彼らがロック・バンドであるという認識を広める契機となる。
復活した今井寿は挑発的な真紅の髪で登場。
当時、ブラックのヘアダイを塗りたくった櫻井敦司の髪毛には、
まだメッシュのように一部残る金髪が初々しい。
1989年12月20日 群馬音楽センター、復帰第一弾ライヴの後、
12月29日 【BUCK-TICK現象】東京ドームのステージで、完全復活を果たす。
赤毛の今井寿は黒白衣裳のピエロスタイルで白マイマイを持って登場。
「【BUCK-TICK現象】と呼ぶ時は自分達にとって大切な時で…
今日も大切なお客さまを5万人も……ありがとう。
言いたいのは……とにかくみんな元気です。みんなも元気で安心した」
(櫻井敦司)
スピード
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
-イカレタノハオレダケ キミハスコシマトモダ-
スピードをあげて 摩天楼 ダイブするのさ
ボリュームをあげて 今宵の共犯者達へ
女の子 男の子 君には自由が似合う
これが最後のチャンス 自爆しよう
蝶になれ 華になれ 素敵だ お前が宇宙
愛しいものを全て 胸に抱いて
君が宇宙
目覚めは今日も冷たい 月夜のガラスケース
今夜も頭ギリギリ 骨まで透けて見えた
BUCK-TICKはスピードの向こう側に放たれた!
「スピード」は1991年1月21日
5THアルバム『狂った太陽』先行シングルとして発売された。
オリコン初登場3位を記録している。
翌月2月21日にはBUCK-TICKの革命的アルバム『狂った太陽』がリリースされた。
この楽曲はシングルverとアルバムverは若干ミックスが異なり、
シングル盤にあったイントロの飛行機の効果音が削除されている。
一説には自殺をテーマにした歌詞であるといわれる。
近年のライヴでは歌詞の「自爆しよう」を「愛し合おう」と替えて歌われている。
「スピード」という楽曲名の本当の意味は、
当然の如くドラッグのスラングで、歌詞の一部分を逆回転している。
女の子も男の子もスピードによって自由になろう。
というメッセージの奥には“死”とその後の新世界について期待感が感じられる。
のちにもっとストレートな「die」という楽曲も生まれるが、
BUCK-TICKはすでに「スピード」で来世の予感を楽曲に封じ込めたのだ。
イメージされるのは、欲望の都市「TOKYO」での夢破れた男が、
ドラッグに嵌り、“破壊の美学”に取り付かれ暴走する。
そして、この主人公の男は「スピード」をキメめて、新たなる世界を求め
「TOKYO」の高層ビル街の“摩天楼をダイヴ”するのだ。
この楽曲では、そのダイヴ中の主人公の男に見えている光景を描いているように感じる。
果たして、その先に“新世界”はあったのだろうか?
いずれにしろ、あまりに露骨すぎるネーミング、そして、このタイトルの楽曲に、
このポップなメロディー・センスは、ドラッグ事件を起こしたバンド自身のセルフ・ポートレイトなのか?
また同時にバンドの変革を担うアルバム『狂った太陽』の中で唯一ポップな楽曲ともいえる。
まだビートロックアイドルであった時代の名残りがある。
そういった意味では、このアルバムの中では異色の楽曲で、
この楽曲を最後にBUCK-TICKはこれほどのポップな曲調は全て捨て去っていった・・・とも取れる。
あらゆる意味でアルバム『狂った太陽』は賞賛を得るべきであるが、
その中でも、この楽曲「スピード」は特別の存在であるように感じる。
初期BUCK-TICKと今後の方向性(可能性)の両方をモロに内包しているのが、
おそらく「スピード」 という楽曲の正体であろう。
「アッちゃんの歌が入った時点で、
何かひとつ突き抜けた感じがした。
詞は直接的な言葉で埋めつくされているし。
この曲を作った自分たちを誉めてあげたい(笑)。
きっとアッちゃんもああいう直接的な言葉が自然に出てきたんだろうし、
それを自然に歌えるようになった事が凄く大きいと思う。
昔だったら
『ちょっと歌えないよ、こんな言葉』って感じだったと思う。照れちゃって。
『狂った太陽』 あたりから、アッちゃんは自分の世界を創り上げたと思う。
だから、俺もうかうかしていられない」
「この曲を作った時、ジーザス・ジョーンズを凄く意識してた。
コード進行も王道ロックのパターン。
そういうのは俺は昔、大嫌いだったんだけど、あえてストレートにしてみたら、あ、かっこいいと思えた」
(今井寿)
異端児が、王道を歩いたら、こんなロックが出来ました
という感覚だろうか?
とにかく、かれこれ15年以上も前の楽曲が、むしろ斬新に聞こえてしまう錯覚に陥る。
どうやら「スピード」という楽曲は、まさにBUCK-TICKというバンドを象徴する
セルフ・ポートレイトに間違いなさそうだ。
全方向からの光を、色々な輝きに変えて発光するBUCK-TICKのテーマ・ソング。
BUCK-TICKによる、BUCK-TICKの為の、BUCK-TICKの楽曲が
「スピード」である。
M・A・D
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
アスファルトを抱いて 熱にうなされている
僕を破裂させてくれ
子守歌の中で聞いた あなたの鼓動
僕を狂わせてくれ
ああ ただ星が綺麗だね 僕はお前にはなれない
ああ 輝きが消えてゆく もうすぐ太陽の破片
ああ ただ星が綺麗だね 僕はお前にはなれない
ああ 輝きが消えてゆく もうすぐ太陽の破片
僕は狂っていた もう二度と会えない
全て狂っていた どうって事ないサ
1991年6月5日シングル「M・A・D」をリリース。オリコン初登場第4位。
ビデオシングルとしても発売。オリコン初登場第1位。
アルバム『狂った太陽』からの最初のシングル・カット楽曲となる。
シングル版はタイトル表記が「M・A・D」と変更され、ミックスも異なり、イントロが削除されている。
また、楽曲の最後の台詞がカットされている。
ストーカーのような偏執的な愛情をテーマにしている。
小気味良い8ビートに小刻みのシンセ音が乗り、
そのうえにアニメソングのような旋律が覆う。
この揺れる感覚にさせられるのがこの「M・A・D」の特徴だろう。
秀逸なヴィデオ・クリップはこの“狂気”をうまく表現している。
病室のベットでもがき髪を振り乱す櫻井敦司。
フラッシュし、浮かびあがるメンバーの姿。
まるで、ドラッグ・ヴィデオを見ているようだ。
いつのまにか櫻井は拘束衣を着させられ、包帯を巻かれ・・・。
これは、暗い病室で独りうな垂れる櫻井の悪夢だろうか?
「赤い海の底で溺れる夢を見る」のだ。
アルバム『狂った太陽』のメイン・コンセプトは“狂気”である。
それを、象徴するかのような双子の楽曲が「スピード」「MAD」の2曲だ。
もしくは、全く同じモチーフを、裏表から表現した楽曲とも言える。
サウンド的に両曲の持つ“狂気”は、それまでのBUCK-TICK作品からすると、
ファンキーなリズムに支えられ、1990年代に入り、アメリカはシアトルから突如跋扈した
オルタナティヴ・ロック、グランジの要素が取り込まれている。
サウンドは、それまでの作品に比べ“乾いた”空気に満ちているし、
何よりも“オシャレ”になった。
それに比べ、櫻井敦司が抉る歌詞のほうは、じっとりと“狂気の世界”を描いている。
この「MAD」の歌詞も最高の出来と言える。
「スピード」で登場する主人公は、オーバードーズの末に、新世界は見つけている。
イメージとしては、摩天楼にダイヴしたら、天に昇って逝ったようだが、
この「MAD」では、逆に深く深く沈んでいくような感覚だ。
「スピード」では、
「イカレタノハオレダケ キミハスコシマトモダ」
と孤独感を歌っているが、
「MAD」では、「狂っちまえよ」と他人をも巻き込んで沈んでいく蟻地獄のよう。
そして、
「ああ 輝きが消えてゆく もうすぐ太陽の破片」
光さえ届かない所まで堕ちて行くのだ。
これは“堕天使”の嘆きなのかも知れない。
「抜けたい抜けたいって思ってたからね。開き直りっていうのも含めて。
僕は狂っていた、とかあるでしょ…内向的な部分を肯定している、
自分で全部わかっていた上で歌っているっていう。
でもそれが実は自分にとって一番ネガティブだったりするのかもしれない」
(櫻井敦司)
JUPITER
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
歩き出す月の螺旋を 流れ星だけが空に舞っている
そこからは小さく見えたあなただけが
優しく手を振る
頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし
初めから知っていたはずさ 戻れるなんて だけど。。。少しだけ
忘れよう全てのナイフ
胸を切り裂いて 深く沈めばいい
まぶた 浮かんで消えていく残像は まるで母に似た光
そして涙も血もみんな枯れ果て
やがて遥かなる想い
どれほど悔やみ続けたら
一度は優しくなれるかな?
サヨナラ 優しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?
星野英彦の最高傑作であり、なおかつBUCK-TICKの歴史中でも
最高傑作に常に推される名曲中の名曲。
1991年10月30日に「JUPITER」リリース。
「M・A・D」に続く2番目のシングルカットとなった楽曲でオリコン初登場第8位。
シングル版とアルバム版はコーラス部分などが若干異なる。
ビクターのラジカセ「CDios」のCMでも使用された。
BTファン以外にも当時圧倒的な支持を受けた誰もが認める名曲といえる。
ジュピターというと木星(太陽系の惑星の一つ)の英語名。
また天地を支配する最高神、生死を司る神
またローマ神話に登場する気象現象を司る神ユピテルの英語名など
神話的にも様々な意味がありそうだが、
全体的に生死を通り越した宇宙を感じる、どこか厳かなイメージに仕上がった。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第41番の通称でもある。
これも宇宙天体をイメージする楽曲で
ホルストの組曲『惑星』の第4曲。
日本語訳では『木星』。
12弦ギターを奏でる星野英彦は、この楽曲で遂に本格的に、
BUCK-TICK内での頭角を現したといえる。
美しいリフレインと後半に見せる盛り上がりは、
LED ZEPPELINの「天国への階段」を思わせるほどの完璧な楽曲だ。
そして、またもう一つのモチーフ。
櫻井敦司の母親への鎮魂歌としての“愛”が、
この名曲に凄味と名曲たる感動と深みを与えた。
ここには、すでに未だ誰も見ていなかったBUCK-TICKの姿があったのだ。
輝く聖母が、それまで綴ってきた“狂気”の暗黒世界に強烈な光を刺した。
「スピード」の先にあった“新世界”はこれであった...。
この神聖なる「JUPITER」がコマーシャルソングになったことについて、
作詞を担当した櫻井敦司は、複雑な心境を語っている。
「ああ……。結構いろんな曲を変な風に使われてますよね。俺たちは(笑)。
……まあ、いろんな人の聴き方があると思っちゃってるし……。
結構ね、変な言い方だけど、いろんな人に聴いてもらって嬉しいけど、
わかりゃしねえだろうって感じもあるんですよ。
……わかって欲しくないっていうことかな、やっぱり。
全部わかって欲しくないし、わかるわけないだろうっていう、そういうヒネくれた考えがあるから……」
「そうですね。あれを書いた時、書いてる段階では……
恥ずかしいですけど、純粋、に書いたつもりですから。
どう捉えようが、その時の感じがあるから、まあいいか、と思っちゃう」
「ええ。……まあ、あの曲に関して言うと、すごく懺悔の気持ちがあるんで、
そういうのを聴いてくれる人に期待しちゃいますね。
……ちょっとでも優しくとかね、なれるんだったらいいな、とか。
まあ、ロマンティックですけどね」
「まあ、あれを聴いたら。
……ていうか、そういう風に感じとってというか
……その期待がただのカラ回りになっちゃうかも知れないけど、
コマーシャルってモノになっちゃうと。
……矛盾してますね。
わかって欲しくないって気持ちと、そういう優しい気分になって欲しいって期待と。
すごく矛盾してるんですけど。
裏返しって感じですね」
(櫻井敦司)
※本日の記事は以前【ROMANCE】で記事にしたものに加筆・修正したもの。




