――御意(イエス)
ご主人様(マイロード)
貴方が 望むのなら
どこまでも お供いたしましょう
たとえ王座が崩れ
輝かしい王冠が 朽ち果て
数え切れない亡骸が積み上がろうと
積み上がる亡骸の上
そっと横たわる 小さな王の傍らで
セバスチャン(『黒執事』第4巻)
◆◇◆◇◆
アルバム『十三階は月光』のフィクサー(黒幕)今井寿に、
「ゴシック、その理由」を訊いた記事がある。
以下『UV』誌より、引用する。
(以下、引用抜粋)
――BUCK-TICKでゴシックとなると、たぶん『惡の華』あたりの世界観をイメージすると思いますけど。
「あのときも、ゴシックは一応テーマではあったんですけど、ほら、やっぱ若いから。
わりと思いついて、これカッコいいなって思ったらどんどん取り入れていって
……ジャッジが甘いんですよ。遊びが多すぎるっていうか。
そうじゃなくて、もうちょっと遊びの少ない、タイトな世界の中でやりたかった」
――閃きとかよりも、もっとコンセプチャルに。
「だから、すごくいいリフが浮かんだけども、合わないからその曲はまるごとナシ!とか、
それぐらいピッチリ世界作って。
『惡の華』はジャケットの雰囲気とかでなんとなくそういう風なテーマがあるように受け止められるけど、
自分たちとしてはそれほどでもなくて。結果そうなった、みたいな」
――どっちかというと感覚、で。
「だから……若いんですよ(笑)」
――ははは。憧れだったり?
「うん……そうかな。やっぱり表現しきれてないし。
何にしても、僕ら、まるっきりその世界のど真ん中に行ったことってなかったから。
今回は、ゴシックの匂いを取り入れるんじゃなくて、ゴシックそのものをやろうとした」
――しかしなんでこのタイミングでそれをやってみようと思ったんですか?
「なんとなくツアー中に思ったのは……たとえばステージがある飲み屋というかバーってあるでしょ。
そういう所にハコバンで、ジャズとか演奏したりする人いるでしょ。
それがジャズではなくて、たとえばゴシックの匂いがするステージにぞろぞろ出ていって、
出す音がこういう音だったらカッコいいなって……そういう絵が浮かんだ」
――へえ。
「『Mona Lisa OVERDRIVE』のときみたいな、エレクトリック・ノイズとかで構成されたのではない、
もうちょっと音の軋みとかスキマみたいなもので作りたい、って思いついて。
なんとなくツアーのリハの合間とかにそれふうなフレーズとかを弾いたりとかしつつ、あれこれ曲になるなって。
なんとなく断片は出来てきた。
LucyからBUCK-TICKに戻ったら戻ったで、けっこう切り換えは大変でしたけど(笑)」
――どんなふうに大変でしたか?
「あの…………俺ってどういうんだっけな?って(笑)」
――ふはははは!でもやっぱり、それぞれのソロからバンドに戻ってきて、
作る音のテーマがゴシックっていうのは、バンドとしてまとめるには非常にわかりやすいし、ピッタリですよね。
「戻った気がするのは、確かですね。偶然ですけど……俺って優しいな(笑)」
――くくくく。よりBUCK-TICKというものが明確になったりしんたんではないかと思ったんですが。
「それは逆にね、こういう音楽をやるのがBUCK-TICKっていう括りが明確ではないんだな、
ということが明確になった(笑)」
――ゴシックっていうテーマでやりたいってなったのはレコーディングの時?
「レコーディングの前。曲とかが6,7曲くらいでミーティングやったところだったかな」
――櫻井さんの反応はどうでしたか?
「アッちゃんは……ちょっとテンション上がってた感じがするな(笑)」
――ははははははは。僕もやっぱり櫻井さんが唄ったらハマるんだろうなこの世界観は、って思いました。
「そうですね。だから、詞もほとんど今回はアッちゃんでしょ。
あんまりそういうことは意識してなかったんですけど、曲をどんどん作って行って、
これもアッちゃん、これもアッちゃんって。
やっぱりどっかでそういう絵というか、世界観というのはあったかもしれない。アッちゃんが中心っていうのが」
――たとえば櫻井さんが、ソロで自分以外のアーティストの曲をやっている姿を見てどう感じました?
「あんまり聴き込んでないんでないからよくわからないけど」
――聴いて下さいよ(笑)。
「ライヴ観に行って……ソロだから櫻井敦司が中心になるわけじゃないですか。
で、いろんな人が曲を書いてきて。
みんなが櫻井の色を付けてるんですけど……すげえ自由にやってんなとは思ったけど、
どっかこう、ちょっとブレてる印象は受けました」
――まあそのズレが面白かったりするんですが。
「そうですね。でも、俺だったらこうするのに、って、ライヴ観ながらずっと考えてましたね。
曲とか頭に入んねえの。全員でバンドに戻って、こうして、こうして、って頭の中、渦まいてました(笑)」
――で、ゴシックというイメージが出て、どんどんシンプルになって。
「そう」
――リズムループもそんなに入ってないし。
「気が付いたらそういうものは排除してってて。どんどんどんどん引いていった感じですね」
――音とかいろいろなものに関してどんどんシンプルに?
「そう。でも、ああこれでいいんだなって。
そういうスキマというか、そういうものをやってるんだなって、今は」
――そういうシンプルに合わせていってできる音っていうのは、要するに生音じゃないですか。
「ええ」
――それを自分は今一番欲してるわけですよね。
「はい。ま、理由はわからないですけど、こういう世界観やりたいと思って、
なんとなくそのテーマに沿った世界とか音とかをイメージしていってやったときに、
さっき言った生バンドが適当にステージに立っていって、
ジャズとかスタンダードみたいなものを演奏するっていったときに出した音がこれ、っていう、
そういう佇まいがあったんで。
そこでバンド色というか、そういうのが出たんだと思う」
――そしてこの曲数になり。
「なんか12、3曲くらいまでいって、ちょっと……まあ、最初からそのつもりはあったんですけど、
合間にインタールードというかインストが入ったほうが、
もっと世界に入りやすかったり聴きやすいと思ったんで。その結果」
――聴きやすいというか、世界がはっきりしますよね、タイトルはどこから?
「なんかこう、映像的な架空の映画のサントラみたいなものが醸し出されるようなタイトルって漠然と考えてて。
意味はないんですよ、全然。ポンって。
最初は『DIABOLO』って考えてて、
シングルのカップリングがアルバムのタイトルになるって面白いかなって思ってたんですけど、
もうちょっと頭使ってみようかって思って(笑)」
――ふははははははは!まあ意味はないけど、イメージを加速させるようなものですよね。
「『Mona Lisa OVERDRIVE』も『極東 I LOVE YOU』もけっこうメッセージ色が強かったから。
ノンフィクションというか現実的な。でも今回はそういうのではないかな」
――ノンフィクション的な世界観っていうのも今井さん好きな世界だったりします?
「うん。やっぱり言葉の使い方だと思うんですよ。
本当に曲として、音楽としてロックとして、ユーモアがあればいい。
どんな真剣なマジ話をしてても、表現として書き方として、
ユーモアの部分っていうのは必要だと思ってるんで、それがないとつまんないかなって。
だから別にノンフィクションが嫌いなわけじゃないけど」
――はい。
「『Mona Lisa OVERDRIVE』とか『極東 I LOVE YOU』とかは、一応テーマというものがあって。
まあ、毎回毎回あるんですけど。
で、詞のほうっていうのは、曲を1曲1曲聴いてそれに合うイメージで勝手に書いてって感じなんです。
でも今回は、そういうものではなくて、トータル的にそういうもの出したいっていう。
そういうところでもっとさらに凝縮された、というか。
そういう意味では幅広くないんですね。狭い世界というか。それをとことん、出してる。
1本の映画を作り上げてる、みたいな、そのくらいの感じ。
ストーリーみたいなものがあったとしたら、それに沿ったもののみ」
――今回、そういう明確なものを作ってみて、違いはそんなにないのかもしれませんけど、
面白さはどっちに感じますか。
「面白さ?どっちっていうのはないですよ。
今回やることはそれっていうことだから。
そこにおかしな枝葉は付けたくなかった。
それはもう毎回そうなんですけど。
そこのゴールっていうか、的をめがけていく感じだから。
1個の映画のストーリーみたいな世界があって、そっからはみ出てはダメなものが、
音だけじゃなくって詞もそうだったんですよ。
『Mona Lisa OVERDRIVE』とか『極東 I LOVE YOU』は詞はおまかせでけっこうバリエーションがついたんですよ。
だから1曲1曲違う世界だったり……」
――そこでドキュメントで生々しいものがあったり、内面的なものがあったり、
ファンタジーがあったりっていう感じになった、と。
「うん。それが今回は、そういうドキュメント的なもの、メッセージ的なものっていうのはないし、
1個のホラー映画とかサイコサスペンスみたいなものだったりとか、そういうものを作ってる感覚。
音も詞もそこからはみ出さないっていう。理想としてたものが出来ましたね」
(以上、引用抜粋)
おそらく今井寿は、“魔”と契約した。
だから、こんなイマジネーションが渦巻くのだ。
◆◇◆◇◆
BUCK-TICKメンバーが去ると「WHO'S CLOWN?」が響き渡る。
アルバム『十三は月光』の5曲のSEのなかでも、マニュピュレーター横山和俊が唯一編曲にクレジットされる作品だ。
追加公演NHKホール【13th FLOOR WITH MOONSHINE】でも、ステージにたったひとり残るベッキー。
最後の力を振り絞り、死期を迎えた白鳥のように、舞う。
やがて、その生命を全うした白鳥は、湖に浸かり、その時を待つ。
深紅のソファの上に降りたったベッキーも、その生命の灯火が静かに消えていくように、
動かなくなってしまう。
果たして、ヴラド伯爵を看取ったミナは、どうしたのだろうか?
不図、頭をよぎる。
彼女は、ヴラドの血を呑んでいるのだ。
今更、ジョナサンの元へは帰れまい。
おそらく今回は、エリザベータの時のように、自害することなく、
あの教会で、永久の生命を、まだ、続けているか?
もしくは、あのまま、天井のエリザベータの笑顔を受け、魂を浄化させ、消えていったのだろう。
ヴラド伯爵の魂とともに・・・。
「WHO'S CLOWN?」は、このベッキーの動きとともに、終曲したかに想えて、
沈黙するが、復活の時を迎える。
「ENTER CLOWN」へ、舞い戻ったかのような曲調。
スポット・ライトが点滅して、ステージ右袖から、黒装束の人間が歩いて来る。
黒魔術のマントを纏い、フードも被った道化師A。
彼こそが、実は、悪魔の正体・・・!?
両手を前で組むようにして歩いて来て、祭壇の階段をゆっくり上がって逝く。
そして、最上部まで上がると、最初に「降臨」で魔王=櫻井敦司が座っていた「覇王の椅子」に、腰掛ける。
「諸君! 契約は成立したよ!
たった今、新たなる君主が、受肉した。
これからは、彼の時代だ!ふふふ」
NHKホールの幕は落ちる。
再び、不吉な予感を漂わせたまま・・・。
◆◇◆◇◆
啓示
これはお前のまどろみの中夢と現の溶け合う領域
お前が求めたものは言葉ではない不死者よ
火の柱の立つ盲目の羊達の集いし聖地に
天堕ちる刻 それは来たる 求めしものは来たる
フェムト=グリフィス(『ベルセルク』第17巻)
◆◇◆◇◆
LIVE DVD『13th FLOOR WITH DIANA』では、このシーンに、
新たなる君主ダミアンが祭壇の「覇王の椅子」で、不気味な笑みを浮かべている。
彼こそが、闇の領域(クリフォト)の深部、
闇の子宮で、胎海の娼姫(はらわだのしょうき)から、
贄より得し、幼魔に受肉し渇望の福王。
櫻井敦司に次ぐ、魔王。
新たなる時代の幕を開ける漆黒の翼、闇の鷹。
『13th FLOOR WITH DIANA』の本当のエンディングを迎える。
月光だけが、それを照らしている。
そう、この“復活の塔”・・・
十三階は、月光。
◆◇◆◇◆
WHO'S CLOWN?
(作曲:今井寿 / 編曲:今井寿・横山和俊)

