DVD作品『13th FLOOR WITH DIANA』の初回限定版のボーナスディスクには、
6月30日公演でパフォーマンスされた「サファイア」 「誘惑」に加えて、
この「悪の華(マルチアングル映像)」が収録された。
「悪の華」は、この6月30日の追加公演のアンコールで演奏され、
前日の29日には、此処で同アルバム『惡の華』収録「NATIONAL MEDIA BOYS」が演奏されている。
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追加公演【13th FLOOR WITH MOONSHINE】NHKホール本編公演は、
衝撃的にも、それまでのBUCK-TICKロックの典型的な黙示録でもあり、
多分に“ゴス”的な要素を内包する「夢魔-The Nightmare」で劇的に幕を閉じた。
再び、幕が上がって、一度目のアンコール。
アンコール楽曲の一曲目は両日ともに「ノクターン -Rain Song-」。
そして、二曲目には、「die」が演奏された。
幕が上がると、櫻井敦司は、マダム帽子を深く被って祭壇への階段の途中にいた。
ゆっくりと13th FLOORの舞台に降りて来て、観衆を見回しながら「ノクターン -Rain Song-」。
この両日も今井寿と星野英彦のふたりでアコースティックを奏でるノクターンは、
間奏で、“魔女”の雄叫びが聞こえるようだ。
まるで、淫魔スランが、悲鳴をあげているかのよう。
雨が闇を浄化するようなカタルシスを感じる今井流ゴシックの雨音・・・。
次の「die」も非常にゴス的な要素を持つ妖艶な仕上がりであった。
生と死の狭間、現世(うつよ)と幽界(かくりょ)の境目をファンジックに謳い上げる櫻井敦司。
まるで、「夢魔-The Nightmare」の魂で切り裂いた宇宙に舞い上がるように、
両手を広げ、羽ばたいていく。
魔王は、漆黒の翼を獲て、「闇の鷹」へ転生したのだ。
どこまでも、舞い上がり、そして、本当に孤高の存在へと昇りつめる。
あのがらくたは、手に入ったのかい?
櫻井敦司は、人差し指で天を指差す。
「僕は突き抜ける・・・」
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ライヴツアー【13th FLOOR WITH MOONSHINE】は、
このゴス・テイストな世界観が確立したツアーであった為に、
セット・リストの変化がそれまでのいつものツアーよりは少な目ではあった。
二度目のアンコールは、「ROMANCE-Incubo-」そして「DIABOLO-Lucifer-」で
終焉を向かえ、エンディングSEの「WHO'S CLOWN?」で閉幕するのが、
通常=追加公演を通してのマストとなっていたので、
アルバム『十三階は月光』以前のBUCK-TICK楽曲で、ヴァラエティーを味わえるのは、
この一度目のアンコールということになる。
本編の挿入楽曲もそうであるが、繰り返すように述べている通り、
選曲にナィーヴにならざるえない世界観が存在するため、
過去のBUCK-TICKによるゴシック作品の集大成とも言えるアンコールであった。
毎回3曲ずつがエントリーしパフォーマンスされたが、その楽曲群を眺めていると、
BUCK-TICKというバンドの“ゴス”的な側面での多様性が見えてくるようだ。
一言で“ゴシック”と言っても、
形容しがたいのは、この楽曲群を見ていると納得してしまう。
「タナトス」
「謝肉祭-カーニバル」
「ANGELIC CONVERSATION」
「MISTY BLUE」
「NATIONAL MEDIA BOYS」
「ドレス」
「月世界」
「悪の華」
「die」
「JUPITER」
「COSMOS」
「ノクターン -Rain Song-」
アンコールで演奏された曲数は、延べ172曲であるが、
以上に記した12曲が、エントリーしている。
これは、2003年の27公演ツアーで、アンコール曲延べ118曲中18曲、
2002年の29公演のライヴツアーで、アンコール曲延べ123曲中16曲であったから、
そのジャンル的な要素も考えるとファンクラブ限定の2公演を除き34公演を数えた、
結成20周年のライヴツアーとしては少な目な印象がある。
しかし、それ以上に、この年のライヴ公演が感動的であったのは、
やはり、アニヴァーサリーとしての公演ではなく、
あくまでも、アルバム『十三回は月光』の世界観を追求した“総合芸術”としての見応えが、
そうさせたに違いないのだ。
BUCK-TICKというバンドは、常に本能的に、何が今、大切であるかを知っている
そんな、不思議なバンドである。
2005年という年には、間違いなく、彼らの優先事項は、
20周年という、内輪的な項目ではなく、“ゴシックを描く”という壮大な使命に費やされたのだ。
その為、ゴス的要素には不必要な装飾品は、出来得る限り、そぎ落とされたのである。
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その中でも、印象的であったのが、
1990年2月1日にビクターよりリリースされたアルバム『惡の華』の収録楽曲である。
同アルバムは、1990年4月1日に同名のVIDEO『惡の華』がリリースされ、
収録楽曲全10曲のヴィデオ・クリップが収録されている。
また後に発売された5本組DVD『PICTURE PRODUCT』にもこの全10曲のクリップが収録されている。
この当時、ギタリスト・今井寿が麻薬取締法違反で逮捕された事により、
活動休止を余儀なくされたBUCK-TICK。
このアルバムで復活を遂げたという点で、話題を集めた同アルバムであったが、
今、現在聴いても、独特の空気観漂うアルバムで、
“ゴシック”という切り口も、御伽草子的なサイケ・ニュー・ウェイヴの傑作であると言える。
音圧が、他のBUCK-TICKアルバムと比べて低く収録されているのが、
今井寿か、ビクターの思惑か、わからないが、なにやら霧の森の中を彷徨っているような感覚が、
非常に“ゴシック”であったといえよう。
注意深く、耳をそばだてていなければ、聴き取れないような“魑魅魍魎”の声が聞こえてきそうで、
千年帝國を目論むナチスの不気味な叫び潜むような作品だ。
(それでいてメロディは、意外とポップな不思議な世界観である)
今井寿はこのアルバム『惡の華』時代と『十三階は月光』のゴシックという共通性について、
「あの頃は、カッコいいと思って演ってたけど、今思うと、ジャッジが甘いんです」
と語る。
カッコいいと思ったモチーフを、よく咀嚼する前に、飛び付いて採用していた、と。
6月29日追加公演【13th FLOOR WITH MOONSHINE】NHKホールでのアンコール三曲目、
このアルバム『惡の華』のオープニングを彩る「NATIONAL MEDIA BOYS」。
ナチスの怨念を受け継ぐ新たなる覇王の降臨を示唆するような、この楽曲。
初期BUCK-TICKの勢いと、深みのある世界観へ踏み込んだ彼らの融合のようなロック・ナンバーは、
このアルバム『惡の華』のメイン・テーマだ。
続く6月30日の公演では、映像の「悪の華」が演奏される。
彼らの最も売れたヒット・シングルであると同時に、
深く暗いゴシック・ワールドが、多くの後継バンドに影響を与えた一曲。
アルバム発売1週間前という典型的な先行シングルでありながらも、
発売週のオリコンシングルチャート1位を記録。
翌週にはアルバムも同チャートで1位を獲得し、BUCK-TICKの人気がピークに達した時期。
同時に彼らは、このゴシックという巨大な闇を背負い始めた。
ここに、このバンドが、20年以上活動を続けて来た初めの“原風景”がある。
野望を胸に、「フランス近代詩の父」と呼ばれる詩人シャルル・ピエール・ボードレールの
『悪の華』(Les Fleurs du mal)をモチーフとした。
これは象徴主義の始まりを告げるボードレール唯一の韻文詩集で、のちの詩人に与えた影響は多大である。
序詩を含めた詩101篇を収録し、「憂鬱と理想」「悪の花」「反逆」「葡萄酒」「死」の順で配列。
このうち6篇(禁断詩篇)が反道徳的であるとして、
有罪・罰金処分を受け、該当詩の削除を命ぜられる問題作。
今井寿のスキャンダルとともに、この題材で戦線布告するBUCK-TICKこそが、
また、~悪の華~であったのかもしれない。
デカダンな真っ赤に染まった13th FLOORでもドラマチックに唄い上げる櫻井敦司。
永遠のギター・リフを奏でる今井寿が照明の陽炎となる。
この楽曲で、この偉大なる“GOTHIC SHOW”の一回目のアンコールは終幕となる。
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アルバム『十三階は月光』が、中世のキリスト教圏の“魔”をモチーフとしたゴス作品であるならば、
アルバム『惡の華』は、ナチスによる千年帝國への渇望がモチーフとなるゴシック。
ライヴツアー【13th FLOOR WITH MOONSHINE】のアンコール・エントリーでも、
最も多くセットリストに収録楽曲が名を連ねた、『惡の華』は、まさに“十三階:外伝”である。
イエス・キリストとアドルフ・ヒットラー。
彼らを並べると、嫌悪感を顕す人も多いだろう。
しかし、ヒットラーは『黙示録』を彼流に実践しようと目論んだ人物である。
そして、そこには、やはり狂気という“魔”が存在した。
イエス・キリストの遺物の中に、聖杯、聖衣、聖櫃とともに聖槍がある。
イエスがユダの裏切りの末に、受難を受け、ゴルゴダの丘で十字架に架けられた際、
とどめとして脇腹を刺すのに使われた槍が“ロンギヌスの聖槍”である。
ニコデモによる福音書によると、
イエスにとどめを刺したのは“盲目の百人隊長ロンギヌス”だという。
彼はイエスの血を浴び、それ以来目が見えるようになったといわれている。
「汝の敵を愛しなさい」と説いたイエスらしいエピソードだ。
この槍は、イエスの血に触れた“奇跡の槍”として
「手にすれば世界を制する力が与えられる」
といわれており、
これまで、ナポレオンやカール大帝など、世界征服を目論む男たちを次々と魅了してきた。
ナチス・ドイツの独裁者アドルフ・ヒットラーもそのうちのひとりだ。
彼はその槍を我が物にしょうと本気で目論んでいたという。
この“ロンギヌスの聖槍”が最初に発見されたのは、4世紀初頭のこと。
発見者はローマ帝国皇帝のコンスタンティヌス大帝の実母であるヘレナだった。
彼女はエルサレムでの聖宝探しに加わった際に、その聖槍を発掘することに成功したのだといわれている。
以後、その聖槍はさまざまな王侯や貴族の手にわたり続け、
あるときオーストリアのハプスブルグ家の宮殿に安置されることとなった。
オーストリアといえばヒットラーの母国である。
彼は1938年に母国への凱旋帰国を遂げるが、
その際、ただちにハプスブルグ家に向かって聖槍と対面したという。
その時のヒットラーの様子を、側近は
「ヒットラーは聖槍を前にして足が震えていた」
と証言している。
「世界と制する力を与えられる槍」との対面を果たしたヒットラー。
彼は実際、槍と対面した1938年からユダヤ人迫害政策を本格化させ独裁者として世界を震撼せしめた。
これは槍の影響だろうか?それともただの偶然だろうか?
一説では、この槍は本物ではなくコンスタンティヌス大帝が作ったレプリカだったといわれている。
だが聖槍が本物だったにしろレプリカだったにしろ、
そこに独裁者を変える“魔”が秘められていたことは間違いなさそうだ。
第二次世界大戦下、
キリスト教の正統伝承を自認するカトリック教会は、
イタリア・ファシスト、ドイツ・ナチスを積極的に支持していた。
1929年、ローマ教皇ピウス11世はファシスト党代表のムッソリーニとラテラノ条約を締結。
これによりローマ教皇庁はヴァチカン市国として独立主権国家の地位を確立する。
さらにファシズム政権の後押しをする見返りとして、膨大な資金を受け取っている。
一方、ドイツでも1933年、ローマ教皇庁とナチス政権の間で政教条約(コンコルダート)が成立。
「ナチスによるドイツ国内のカトリック教徒の安全保障」「カトリック教会の政教分離」
などが約束された。
ヴァチカンに認められたことで、ナチス政権の国際的評価は飛躍的に高まった。
さらにローマ教皇庁は彼らに祝福を与え、聖職者たちにナチスへの忠誠を誓うように命じている。
1939年、ドイツのミュンヘンで、爆発物を使ったヒットラー暗殺未遂事件が発生。
死者63名を出す大惨事だったが、当のヒットラーは直前にその場を離れ、難を逃れた。
これに対しローマ教皇ピウス12世は「神のご加護だ」という祝福のメッセージを送っている。
彼は先述の政教条約締結時、国務長官としてヴァチカン側の代表を務めた人物だ。
彼はナチスの対外侵略や人種差別、ユダヤ人の大量殺戮を黙認していたため
“ヒットラー教皇”と呼ばれている。
第二次世界大戦でドイツの敗戦が濃厚になるとナチスは政府高官や党幹部を国外へ脱出させた。
その逃亡には、世界中に張り巡らされたヴァチカン・ネットワークが使用されたと考えられている。
2000年、教皇ヨハネ・パウロ2世が
「カトリック教会がナチスの暴走を黙認したこと」に対してはじめて謝罪を行ったが、
積極的に関与したことについては一切認めていない。
ヒットラーが「我が人生の師」と仰いだカール・エドガー。
キリスト教社会党を創設し、ユダヤ人社会を攻撃することで選挙に勝利し、
ウィーン市長の座に収まった人物だ。
ヒットラーの反ユダヤ主義火をつけたのは彼とキリスト教社会党だったのかもしれない。
ナチズムの生み親は、キリスト教社会党・・・。
罪を赦す神の愛を唱えたイエス・キリストは、天空より、
ヒットラーの“魔”を眺め、何を想っていたのだろう・・・。
イエス・キリストとされる人物は、ユダヤ人であったと聞く。
これも因果律の流れ(さだめ)なのだろうか?
惡の華
(作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
遊びはここで 終わりにしようぜ
息の根止めて Breaking down
その手を貸せよ 全て捨てるのさ
狂ったピエロ Bad Blood
夢見たはずが ブザマを見るのさ
熟れた欲望 Fallin' down
サヨナラだけが 全てだなんて
狂ったピエロ Bad Blood
燃える血を忘れた訳じゃない
甘いぬくもり が目にしみただけ
Lonely days
あふれる太陽 蒼い孤独を手に入れた Blind-Blue-Boy
燃える血を忘れた訳じゃない
甘いぬくもりが 目にしみただけ
指の隙間で この世界がまわる
熱くキラメク ナイフ胸に抱きしめ
Lonely days
あふれる太陽 蒼い孤独を手に入れた Blind-Blue-Boy
Lonely nights
凍える夜に叫び続ける 狂いだせ Blind-Blue-Boy
Lonely days
あふれる太陽 蒼い孤独をたたきつぶせ Blue-Boy
Lonely nights
凍える夜に叫び続ける 狂いだした Blue-Boy

