「嗚呼 煮え滾る 嗚呼 血も滾る」


◆◇◆◇◆


大いなる祝福の刻
彼なりし亜の刻
亜なりし彼の地へ
よくぞ集った

人の造りし神ならざる神の子羊達よ
この聖なる夜祭存分に味わうがよい

因果律により選ばれし 鷹よ

お前は選ばれし者
この刻この地にあるように

大いなる神の御手により定められし者

我らが眷族
渇望の福王なり



◆◇◆◇◆


BUCK-TICKの「月蝕」こそ『降魔の儀』である。


コミック『ベルセルク』で展開される壮絶なる「降魔の儀」「蝕」は、
日蝕のことであるが、物語の中では中でも特別な日蝕のようである。
216年に一度「真紅のベヘリット」の顔が人間の顔となり血の涙を流す時に起こる。
「真紅のベヘリット」を手にした者だけ
(実際は、魔王「ゴッド・ハンド」になる資格をもつ者のもとに「真紅のベヘリット」が引き寄せられる)
が「ゴッド・ハンド」に転生できる。
ただしこの時に自分の一番大切にしてきた人間を「生贄」として捧げなければならない。
この「ゴッド・ハンド」への転生の一連の儀式を「降魔の儀」と呼ぶ。


「闇となり 月喰らう
 贄の夜は 死と交わる」



日蝕を櫻井敦司は、月蝕に摩り替えた。

しかし、そうすることで、BUCK-TICKが描く“ゴス世界”に、
さらに、深淵な闇が、付き纏ったと言えよう。

まさしく、アルバム『十三階は月光』の中央に位置するこの「月蝕」こそが、
このトータル・コンセプトの中心と言えるのではないか?
この“約束の刻”を目指して、人の中に存在する“魔”も、
人外の異形の姿となりて、表面化し、魔王の生誕(降臨)を祝うのである。

天使長ボイドが、宣誓する。

「すべては因果の流れの中に

すべては定められたこと

お前たちの生は

この聖なる時の接合点“蝕”に向けてつむがれたもの

これより“降魔の儀”を執り行う



仕組まれていた罠 はじめから罠

それが、因果律なのだろうか・・・?


事態が呑み込めていないガッツ達「鷹の団」に向けて、

淫魔“スラン”が真実を告げる。

「美しい友情だこと…

あなた
さぞかし良い生贄になることでしょうねェ
そう
彼が魔王になるための
尊いいけにえ

我らが守護天使ゴッド・ハンドに転生することができる者のみが手にする
真紅のベヘリット 覇王の卵なの

そしてあなた達は天使降臨のための大切な、い・け・に・え」



屍の上に作られた祭壇にグリフィスは押し上げられる。


「御子を祭壇へ」


ゴッド・ハンドの一人コンラットが彼を御子と呼んでいる。


「脈打つは 我が欲望
 銀のスプーンで抉り出せば」



そして、グリフィスは自らの原風景を走馬灯のように目にするのだ。

「そうそれがお前だ
幻などではない
それはお前の意識界における真実

天空の城めざし
頂に屍を積み続ける

それがお前だ

千の仲間の屍の上を
千の仲間の築きし万の屍の上を

そのどちらでもない名も無き屍の上を

お前は踏みしだいてきた
唯一(ただひとつ)の渇望(おもい)がゆえに」



この人間の“原風景”=“欲望”を見せつけるのは、
ゴッド・ハンドでも一番小柄なユービック。




「そして今 あなたの路地裏の道は途切れた
……でも見なさい

共に飛び続けてきた 鷹の翼

その羽一枚一枚
恐怖に震えながらも濁らぬ瞳であなたを見上げている
血腥い旅路の果てに
あなたに最後に残されたもの…

彼らはあなたを許すでしょう
たとえ今は絶望に打ちひしがれていても
あなたを暖かく迎え入れるでしょう
そしてあなたは生きていける

傷ついた身を彼らに委ねて
すべてを過去にかえて

夢の残骸に埋もれて」



サキュバスのスランが、
御子の意志にままに、真実は作られること示唆する。


しかし、それこそが“死の嵐”の始まりだ。


「それが
人の造りし神の慈悲(ばつ)

だが
それでも
思い果てぬなら

それでもなおお前の目に
あの城が何よりも眩しいのなら

積み上げるがよいお前に残されたすべてを

一言心に中で唱えよ
“捧げる”と

さすれば頂より天に飛び立つ

漆黒の翼を授からん

運命が人知を超越し人の子を弄ぶのが理なら

人の子が魔をもって運命に対峙するは因果」




守護天使長“ボイド”の誘惑。


仲間を“贄”に差し出して“夢”を実現させる…。



“夢”に生きる人間には、まさしく“究極”の選択・・・




「……そう
何千の仲間

何万の敵の中で

唯一お前だけが

唯一人

お前だけが

オレに“夢”を忘れさせた」




トリガーとなったのは、あいつだ。

オレの中の唯一の“光”……ガッツ。

我と対等に位置する唯一の存在……。

そう、あいつに、オレは、負ける訳にはいかない。

あいつ、だけには……。

もう、オレには、守るモノは…ない。

あいつ、だけ、で、いい。



彼の“夢”を凌駕してしまった存在だけが、

彼に“魔”の扉を開かせる。



「………げる」














天使長ボイドが叫ぶ!



「因果律により束ねられし糸は

今 結ばれた

約束の刻 来たれり」





そして、壮絶な“死の嵐”が巻き起こる。
髑髏の騎士の預言の通り…。


「噎せ返る 人外の血
 目に映る 骸に薔薇」




しかし、その中で、“贄”の烙印を押されながら生き残るガッツとキャスカ。


「美しい・・・胸にせまるわ」

この暴虐のクライマックスを美しいと表現するスラン。
しかし、これは、人の中の“魔”の正体なのかもしれない。


ガッツの目の前で蹂躙されるキャスカの絶望、
血塗れのガッツの涙や歯がみする表情。


「愛撫に様に 喰い込む茨
 甘美なまでの 異形の愛」



これを“美しい”と思ってしまう、人間の“罪”・・・。
人間の心や倫理観を破壊してしまうような…
そんな“魔”を感じて、エクスタシーを迎える。



「運命が人智を超越し人の子を玩ぶが理なら

人の子が魔をもって運命に対峙するは因果・・・」




ボイドとの因縁を匂わせる髑髏の騎士。
彼が、1000年前天使5人に追放されし、覇王ガイゼリックなのだろうか?

ひょっとするとボイドとガイゼリックこそ、この二人の関係?

グリフィスとガッツの関係を、因果律を創りし、モノなのか?

だとすれば、これは……“Loop”。



◆◇◆◇◆



追加公演【13th FLOOR WITH MOONSHINE】NHKホールも、
この「降魔の儀」「蝕」の約束の刻を迎える。

今宵の“贄”は、終結したこの3000名の観衆だ。

BUCK-TICKに、愛を捧げているという点では、
此処が、“亜なりし彼の地”
今宵が、“彼なりし亜の刻”

「月蝕」は、13th FLOORに、儀式の音が出る始めると、
観衆も両手を上げ、この祝福の儀に参列し、その行く末を愛する君主BTに捧げるのだ。
すでに、これはロック・コンサートではない。

悪魔が天使で、天使が悪魔。

人の創りし神の慈悲(つみ)を救世主メシアは、“贄”という形で赦した。
イエス・キリストの受難「Passion」が、これも主(神)による遠大な罠(因果律)であったとすれば、
今宵の儀式も厳かに執り行われるのである。

三叉の燭台の蝋を垂らす魔王=櫻井敦司のパフォーマンスは、
SMショウにしては、厳粛過ぎるだろう。

悪魔の踊りを踏みしめる今井寿の独特なダンスが、
這い上がろうする“屍”達を踏み締めるように見える。

この渇望の福王の降臨が、果たして我々にとって、“良い夢”か?“悪夢”か?
そんなことは、わからない。

しかし、この人外の血滴る「蝕」の時に参加したものには、
「贄」の刻印がしっかりとその首筋に刻まれるのだ。


「歓喜の歌は 今や狂気
 贄の夜は 死と交わる 嗚呼 この身を捧ぐ」



この光景が、惨いと感じるか?

しかし、これも人間の“魔”が造り出した“原風景=渇望”に他ならない。

罪深き僕は、これを“美しい”と感じてしまった。

これも、己の“魔”の側面だろうか?

暴虐のクライマックスに、渦巻く感情(おもい)…、

嫉妬 友愛 憎悪 欣喜 絶望・・・


「嗚呼 煮え滾る 嗚呼 血は・・この身を捧ぐ」


一瞬、感動に打ち震える淫魔*スランの気持ちがわかった気がしてしまう。

「これこそ、人間。これこそ、“魔”」

人間の持つ“倫理観”を超越した先にある、“美”。
彼ら“選ばれし者”たちの視点で、その形骸化した倫理観は、破壊されつくし、
新たなる“誕生”そして“降臨”を迎える時…。

つくづく、“美しい”……と。



◆◇◆◇◆


“破壊”へのカタルシス…。

それは、オルペウス教などで魂の“浄化”を指す語となった。

アリストテレスは悲劇の効果のひとつとしてカタルシスに言及するが、
これが劇中の出来事ないし劇中の登場人物についていわれるのか、
それとも観客についていわれるのかについては諸説がある。

近代に入り、ジークムント・フロイトがこの語を採用したことから、
カタルシスは代償行為によって得られる満足を指す心理用語としても用いられるようになった。












すべて・・・闇が喰らう。

月を。

太陽を。

夜を。

人を。

その欲望を・・・。




「すべては因果の流れの中に」





月蝕
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)



ああ 煮え滾る ああ 血も滾る

噎せ返る 人外の血
目に映る 骸に薔薇

愛撫に様に 喰い込む茨
甘美なまでの 異形の愛

脈打つは 我が欲望
銀のスプーンで抉り出せば

歓喜の歌は 今や狂気
贄の夜は 死と交わる 嗚呼 この身を捧ぐ

ああ 煮え滾る ああ 血も滾る

嗚呼 この身を捧ぐ
ああ 煮え滾る ああ 血は・・この身を捧ぐ
ああ 煮え滾る ああ 血は・・この身を捧ぐ
ああ 煮え滾る ああ 血も滾る
闇となり 月喰らう
贄の夜は 死と交わる

闇となり 月喰らう
贄の夜は 死と交わる



【ROMANCE】

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