アルバム『十三階は月光』に収録される今井寿による5曲のSE。
「ENTER CLOWN」「CLOWN LOVES Senorita」「LullabyⅡ」「13秒」「WHO'S CLOWN?」
この内、アルバム『極東I LOVE YOU』制作時にパートⅠが作られたという「LullabyⅡ」
と13秒間の無音で作曲者の今井寿曰く「ジョン・ケージのパクリ」とコメントされる「13秒」。
この2曲を除いて十三階CLOWNシリーズ3曲は、ダークな空気感の中にコミカルな哀愁漂う作品となっている。

追加公演【13th FLOOR WITH MOONSHINE】から参加したピエロのクラウン。
彼の一番の見せ場が、この「CLOWN LOVES Senorita」という事になるだろう。

壮絶な“人生”への覚悟といえる「ALIVE」のパフォーマンスが終わると、
少し、熱くなり過ぎた“魂”をクールダウンさせるかのように、
このSE「CLOWN LOVES Senorita」がかかり、
舞台は暗転する中、櫻井敦司はコートを脱ぎ、ゴールドの裏地を表にして、ウエストで結ぶ。
巻きスカート状態になるコート・マントの姿は、両性具有のまさに“魔王”といった雰囲気だ。
ソファに座る櫻井敦司。
どうやら、道化師CLOWNの登場を待っているようだ。

お待たせしましたとばかりに黄色の髪の道化師CLOWNが登場する。

ソファの櫻井敦司が、「ようこそ!」と道化師CLOWNを招き入れる。

「遅かったじゃない?
さぁ、皆さんに、夢を!、素敵な夢を!」

と、道化師CLOWNにパフォーマンスを促す櫻井。

道化師CLOWNさんは、ジャグリングの一種を始める。これは“DIABOLO”である。
空中で回転させるタイプの独楽(こま)である。
お椀を2個つなげたようなコマを、2本のハンドスティックに通した糸でまわすことにより安定させ、操る。
中国ゴマと呼ばれているものも、同じ仕組みのものである。

しかし、魔王=櫻井敦司は、まだ、満足しない様子だ。

「もっと…。 もっと見たい、もっと、もっと……」

道化師CLOWNは、なんとか、魔王の気を引こうと必至だ。

“DIABOLO”が2本になって、両手で回したり、交差させたり、
ジャグリングは高度な技を次々と披露していく。

観衆からは歓声があがるが魔王は、満足しない。
星野英彦も、長い足を投げ出すように椅子に座る。
今井寿が、ステージを横切る。

道化師CLOWNの必死のパフォーマンスに対して魔王は言う、

「もっと見たいのは、それじゃない。

 見たいのは、お前の血だ」

そして、魔王は、道化師CLOWNにナイフを手渡すにのだ。

「みんなは、血が大好きなんだ」

魔王は、ニヤリと笑う。

「そうだろ?」

道化師CLOWNは、泣きそうな表情を表現しつつも、そのナイフで自分の手首をグサリと切り込む。
照明もショッキングなシーンを赤く表現して、よろよろとステージ右袖に帰って行く。


◆◇◆◇◆


DVD作品『13th FLOOR WITH DIANA』では、道化師CLOWNのジャグリングも多様化している。
少し追加映像として足されたものと思われるが、
“不吉”暗示として、追加されたのは、櫻井敦司と悪魔の子ダミアンが、
シーン毎に入れ替わるカット割りであろう。

はじめ、道化師CLOWNが舞台上に現れても、その君主たる魔王=櫻井敦司の姿は、見えない。
道化師CLOWNが、一瞬、困ったように目をそらすと、次の瞬間、魔王はソファに寝そべっているのだ。
安堵したかのように、CLOWNは、自らの君主=魔王に、エールを贈り、得意気にジャグリングを始めるのだ。
ここでは、“ディアボロ”に加え、“ビーンバッグ ”“トーチ ”“ナイフ ”“斧”と
あらゆるジャグリングが披露されている。

が、しかし、ライヴ時と同様に、君主は悦んでいない様子だ。
徐々に不安になっていく道化師CLOWNの表情の変化が、細かく伝えられている。

同時にカットにより、その君主が櫻井になったり、ダミアンになったり…。
途中、椅子に腰を掛ける星野英彦やジャグリングを横切る今井寿の姿も映されている。

思い付いたかのように、櫻井敦司がナイフに手を伸ばすと、
ナイフを手にしたのは、明らかに子供の手(ダミアン)の手であり、
櫻井がそれをCLOWNに手渡すと、やはり道化師はリスト・カットを試みる。
その姿のうしろで、ニヤリと不気味に笑っているのは、悪魔の子ダミアンである。


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この悪魔の子ダミアンの登場する映画『オーメン』(The Omen、1976年)は、
「ヨハネの黙示録」についての映像化とされ、
キリスト教団から賛同された珍しいホラー・ムービーである。
「ヨハネの黙示録」は、キリスト教典「新約聖書」の最後に配置された書であり、
「新約聖書」の中で唯一預言書的性格を持つ書である。
同書は、単に『黙示録』あるいは『ヨハネによる黙示録』、
『神学者聖イオアンの黙示録』ともいわれ、
プロテスタント福音派の一部には(冒頭の言葉から)『イエス・キリストの黙示』と呼ばれることもある。

欧米を中心に大ヒット記録した映画『オーメン』は、
『オーメン2/ダミアン』(Damien: Omen II、1978年)
『オーメン/最後の闘争』(The Final Conflict、1981年)
『オーメン4』(Omen IV: The Awakening、1991年)
とシリーズ化された。


6月6日、午前6時、ローマの産院で、アメリカの外交官ロバート・ソーンの夫人キャサリンは、
男の子を出産したが、その子は生まれるとすぐ死んだ。
ロバートは、産院で知り合った神父から、同じ日、同じ時間に生まれた男の子を、
死んだ子の身がわりにもらってほしいと頼まれた。
その子の母は産後すぐに死んだのだった。

ロバートは、妻にそのいきさつを話さず、その赤ん坊をもらいダミアンと名づけた。
キャサリンはダミアンを自分の子と信じていた。
やがて、ロバートは駐英大使としてロンドンに栄転しダミアンはすくすくと育った。
ダミアンの5歳の誕生日のガーデン・パーティの庭で、1匹の犬を魅せられたように見つめていた。
その時、ダミアンの若い乳母が出席者の目前で屋上から「ダミアン見て!」と叫び、首を吊って死んだ。

翌日、大使館へブレナンという神父がロバートを訪ねた。
神父は、自分はダミアンの出産に立ちあったが、
ダミアンは悪魔の子であるので悪魔払いをするようにと言うのだ。
だが、ロバートは一笑してとりあわなかった。
護衛に連れ出される時、神父は叫んだ。

「母親は山犬だったんです!」

その後、起こるロバート家のオカルトチックな出来事の数々。
ロバートはブレナン神父と再び会った。
神父はキャサリンが妊娠していることを告げ、ダミアンが死産させ、
キャサリンの命ばかりかやがてはロバートをも殺すと警告した。
神父がロバートと別れてまもなく、
突然激しい風と雷が神父を襲い、落雷にあった教会の避雷針が宙を飛び、神父を突き刺した。
神父の予言通りキャサリンは妊娠していた。
しかも、キャサリンが2階で椅子に乗り吊り鉢の花に水をやっている時、
三輪車で遊んでいたダミアンが椅子に衝突、
キャサリンは階上から墜落、流産し、自分も傷を追って病院にかつぎ込まれた。

ロバートは、ダミアンの出生の秘密を調査しにジャーナリストのジェニングスとともにローマへ飛んだ。
だが、ダミアンの生まれた産院は大火にあい、あの神父だけが廃人となって生き残っていた。
神父からダミアンの生母の墓の場所を聞き出した2人は、
今は廃墟となっている寺院にある墓を掘り起こしダミアンの出生の秘密を知るのだ。

ロバートはブレナン神父から聞いていた悪魔払いの長老に会った。
長老はダミアンの頭髪の下に、悪魔の印である「666」が刻まれているはずだと言い、
ダミアンを殺すための数本の短剣を渡した。

ロンドンの自宅に戻ったロバートはダミアンの頭髪の下に「666」の数字を発見した。
ロバートはダミアンを教会に連れて行き、祭壇に押さえつけると短剣で突き刺した。

と、同時にロバートを追って来た警官たちが発砲した。


駐英大使ロバート・ソーンの葬儀が、大統領夫妻と子息も参列して行なわれた。


その子息は……ダミアンだった。


◆◇◆◇◆


櫻井敦司は、アルバム『十三階は月光』の構想を、今井寿から聞いて、
「ROMANCE」のデモを聞いた時に、この映画『オーメン』が思い浮んだとコメントしている。

そして、悪魔の子ダミアンは、その不敵な笑みを浮かべながら、
映像作品DVD『13th FLOOR WITH DIANA』に登場し、大きな役割を果たしたと言えよう。


ヴィジュアル系を通り越したダーク系として、
全く他のアーティストとは類を見る事はできない分野を築き上げてしまったBUCK-TICK。

結成20周年という節目でのアルバムとなったこの『十三階は月光』では、
20年経ってもなお新しい、全く、誰もやったことの無いことに挑戦したいという
BUCK-TICKの姿勢がよく表れ、これまでとまた違った、“異色”の“ゴシック作品となった。
『13th FLOOR WITH DIANA』ダーク・ホラー・ムーヴィーの要素も取り入れた。

“Señorita”は、スペイン語で、未婚女性への呼びかけとして使われる言葉。
対になる言葉は“señor”。

「ROMANCE-Incubo-」の“Incubo”同様、楽曲の雰囲気から今井寿がこう名付けたのだろう。




さて、季節はこれから“夏”を迎える…


今宵は、ホラー映画鑑賞でも、いかがだろうか?


「薄紅乱れて 真夏の夜の夢々…」

「目に映るのが悪い夢なら 目をつぶるのは悪い癖なの」








CLOWN LOVES Señorita
 (作曲・編曲:今井寿)


インストゥルメンタル


【ROMANCE】

【ROMANCE】