【13th FLOOR WITH MOONSHINE】夜の舞台の幕が開ける。

そこに「ナニカ」が降臨する。



「目覚めるがいい 夜が今始まる

 夢見るがいい 夜が今産まれる」



2005年6月29日、30日、
NHKホールでの2DAYS公演。ステージには黄金の幕がかかり、
客電が消灯されるとSEは、御馴染の旋律「ENTER CLOWN」。
十三階の白赤黒モチーフのダイヤ柄のベストを着た大柄なピエロCLOWNが、タイトル通り登場する。
このSE「ENTER CLOWN」のリズムに乗りながら、前説的なピエロ・ショウ。
風船を渡しながら観客とのコミュニケーションで、緊張と解くように、舞うCLOWN。
袖に、彼が去ると、本格的にこの“Gothic Show”が蠢き始める。


一曲目は「降臨」。


今井寿も導入部分を意識して創ったとされる「降臨」。
やや大仰なイントロも、ムーディーなゴシック嗜好に彩られている。
ゴールドの幕がゆっくりと左右に開くと、途中で幕は止まる。
そこから、この【13th FLOOR WITH MOONSHINE】ステージを覗き見るような感覚が、
このショウの醍醐味とも言える。

“悪夢”は、そういうものだ。

意識では、決して、望んで見たいとは、思わないだろう?
しかし、気になって仕方がない。
だから誰もが、“覗き見”したい衝動にかられる。



ステージは、赤い絨毯が敷かれた階段、そのずっと上の方、天井に豪奢なシャンデリア。
ドラム・キットのその下には、真っ赤なアンティーク・ソファー。
その上には様々な小道具~DOLL、仮面、花束…。
階段の上には教会の祭壇のような巨大な椅子が設置されている。
『覇王の椅子』
ここに足を組んで座るのは、魔王=櫻井敦司。
深くマダム帽を被りのその顔は、隠されている。
左手にはステッキ、右手にはマイクが握られているようだ。

その右下あたりに、煌びやかなヤガミトールのラディックのドラム・キッド。
金髪のタテガミに、襟に白い縁取りがある黒の衣装がゴシックだ。
時計の秒針を刻むように、緻密リズムを刻む。
天井からの視線……。
一体、誰からの視線か……?
這い出るを午前零時まで我慢できないのか?魍魎のノイズが滑り込んでくる。

その下の赤いソファー、今井寿が足を組んで座っているのは、
2日目6月30日の公演でのパフォーマンスだ。
この日は赤クラウン・ヴァージョンの衣装で、巨大なクラウン・シューズを履いている。

ステージ右手に檀上の樋口豊、そして、地上には長身の星野英彦が、
ふたりともゴシックな黒衣装で立っている。
樋口豊は、綺麗な黒のゼマティス・ベースを抱え、星野英彦は、白のセミアコを構えている。
この二人、この“Gothic Show”では、やや、執事的な役割で演奏の底を支えている。



最上階の櫻井敦司が、座ったまま唄い出す。


「午前零時 針が止まる
 獣たちは 息を潜める」




それにしても“妄想”という観点で、この「降臨」を聴くと、
これほど、様々なイメージが交錯する楽曲も珍しいだろう。

櫻井敦司は、「ROMANCE」のデモを聴いた時に、
やはりゴシック・ホラー映画『オーメン』ような世界観を感じ作詞に至ったと語るが、
この「降臨」は、さらに、“妄想”が幅を広げ、ダーク・ファンタジーの世界を展開する傑作といえる。


「午前零時 針は震え
 十三秒を過ぎ その時は来る」




不吉な数字とされる“13”と映画『オーメン』の“666”。

これは、双方ともキリスト教の経典『新約聖書』に、語源を求めることになる。
キリスト教徒の多い欧米各国でも、不吉とされる“13”であるが、
こちらは米国製作のホラー映画『13日の金曜日』(1980年公開。監督・製作はショーン・S・カニンガム)
のタイトルにもなっている為、知る人も多いだろうが、
俗説では「キリストが磔刑に処されたのが13日の金曜日だったから不吉」とされている。

ただ、実際には、聖書に“13”が不吉であるとする直接的な記述は見られないことから、
後年、後付けされた忌数であるという解釈が存在する。
キリスト教では主の受難日を金曜日としているが、その日付は定めていない。

しかし、特に英語圏の多くとドイツ、フランスなどの迷信において不吉とされる日であるのは事実で、
“13”を不吉な数とするものと、金曜日を不吉とするものが独立して生じ、
それらが合体したものであるという説が有力である。
「13日の金曜日」を不吉とするのは19世紀になってからだとする意見もある。

御存じのように、今井寿によって“妄想”が増幅する目的で名付けられたアルバムタイトルも、
この「降臨」の歌詞に“Loop”するものである。
だだし、今井寿は、この“13”を、「13階」と「13秒」に使用していて、この処刑日へは、
リスナー各自の“妄想”に任せる手法をとったものと思われれる。

また「十三秒過ぎ」と“13秒”の誤差が、異次元空間とも言える“魔界”への入口とされるのは、
1994年頃、櫻井敦司が、今井寿の読んでいた村上龍著作の小説『五分後の世界』(1994年、幻冬舎)を、
拝借して、読んで面白かった、とコメントしていたが、
この小説で描かれる“5分のずれで現れた『もう一つの日本』”の世界がヒントとなっている可能性がある。
時間軸が、少し変わるだけで、この現世は、全く様相を変えたモノのなっている。
そういった発想は「13秒のズレ」で櫻井敦司は表現したのかも知れない。
(※『もう一つの日本』は地下に建設され、人口はたった26万人に激減していたが、
民族の誇りを失わず駐留している連合国軍を相手に第二次世界大戦終結後もゲリラ戦を繰り広げていた)



一方“666”の方は、『新約聖書』の『ヨハネの黙示録』に記述されていて、
この“666”という数字がキリスト教にとっては不吉であることを決定づけている。
この数字については、古来より様々な解釈がされてきたが、今日の聖書学においては、
ローマ皇帝ネロを指すという説が有力なようだ。

というのも、皇帝ネロのギリシャ語表記をヘブライ文字に置き換えて、これを数値化すると、
その数が“666”となるという説が元になっている。
ネロ帝はキリスト教徒を迫害していた張本人であったことから、この説の信憑性が高いものとされる。

映画『オーメン』は6月6日午前6時に誕生した悪魔の子ダミアンを巡る物語でシリーズ化され、
頭に『新約聖書』の『ヨハネの黙示録』で獣の数字とされる“666”のアザを持つ。

この獣の数字は、小説映画化された『ダ・ヴィンチ・コード』でも取り上げられて話題となった。

『ヨハネの黙示録 第13章』である。

「獣の名であり数字である刻印なき者は売買もできず
知恵あり 思慮ある者 獣の数字を解け
数字は人間にありその数字は“666”なり」


とされた。


このような“不吉なイメージ”の複数の交錯によって編み出される「降臨」。

ヴィジョン的に映し出される光景は、人によってそれぞれであろうが、
櫻井敦司が書いた歌詞からの僕の連想の元となるのは、
彼自身もBUCK-TICKのオフィシャルHPで公表している好きな作家:三浦健太郎著作の
長編ダーク・ファンタジー漫画『ベルセルク』(Berserk)に登場する
「降魔の儀」のシーンがモデルのひとつになったのではないだろうか?

BTと同様、この20年以上!に渡るコミック『ベルセルク』は、長期連載作となっているが、
未だ世界観は拡大の一途を辿り、一向に終結する気配を見せない。
加えて、休載期間が数ヶ月に渡ることが珍しくないことや、
三浦健太郎自身が連載される『ヤングアニマル』誌の巻末コメントで
自身の体調に関する不安を度々述べていることなどから、ファンの間には完結を危惧する声もある。
作者自身も「死ぬまでに頭の中を全て出せるのか」と語ったことがあるという位の超大作である。

日本の漫画史においても、これほどの世界観を表現した作品は、
巨匠手塚治虫以来とも言えるだろうが、「降臨」そしてゴシックというモチーフには、
背景とされる中世ヨーロッパを下地にした「剣と魔法の世界」を舞台に、
巨大な剣と数々の武器を携えた主人公・ガッツの復讐の旅を描いたダーク・ファンタジーは、
僕の中で、ストーリー性や世界観において、アルバム『十三階は月光』の世界観とリンクするのである。



また、アメリカン・ハード・ロックの大御所で、現在も尚、オリジナル・メンバーで活動を続ける
Aerosmithの大ヒットアルバム『Toys In The Attic(闇夜のヘヴィ・ロック)』に見られる、
“真夜中過ぎに、Toys=おもちゃ達が、目を覚ましロックを奏でる”とあるが、
この「降臨」では、そういったToysも、恐れるような存在の“降臨”に、身をかがめているようだ。

そういった“魍魎”達は目を覚まし蠢く様を現世と幽界の深層を繋ぐ扉を開く鍵となり、
因果律によって選ばれた者のみが、それを目撃することになる序幕を演じる「降臨」。

シリアスで、“悪夢”への期待感を盛り上げるようなアレンジには、
背筋がゾクゾクするような感覚に誘い込まれ、
“怖いけど見たい”という欲望に、人々は、この禁断の扉が、その光景を“覗き見て”しまうのだ。
中途半端な場所で、NHKホールの幕も止まったままだ。



「白蓮の浮かぶ水面が揺れる
 外道が歌う声高らかに
 産声空を裂いた」




禁断の扉の向こう側では、
まさしく魔界の王は、今にも産声をあげようとしている。

処女懐胎したマリアは、許嫁のヨセフとベツレヘムを訪れると臨月を迎え、産気づいた。
ナザレから長旅を続けてきたふたりは家畜小屋を借りて産みまれたのが、
後の救世主ジーザス・クライスト(イエス・キリスト)であった。

映画『オーメン』の主人公:悪魔の子ダミアンは、
ローマの産院で、死産してしまった我が子の代わりに、
同日・同時刻に誕生した孤児である男子を養子として引き取られた子供であった。
彼の“降臨”は謎のままだ。




『覇王の椅子』から立ち上がる櫻井敦司。
この覗き見の演出の為か、LIVE DVD『13th FLOOR WITH DIANA』に収録される「降臨」では、
映像と暗転が交互に使用され、フラッシュ・バックする“悪夢”が過ぎる。

ヨロヨロと階段を降りる櫻井敦司は、中断ほどで、立ち止まり、
高らかに唄い上げる。


「十字を飾る 血塗られている
 悪魔が歌う 声高らかに
 産声空を・・・」



今井寿のシルバー・ポッドが、響き渡るノイジーな調べが、
もう、どうしようもなく、“Gothic”だ。

ついに、物語は始まった。
始まってしまったのだ。

不死者の烙印を押されたカインも、幽世から叫ぶ。


宿命の“降臨”を経て、今、また、現世の現れる魔王の羽根は、いかなる人物なのか?


ただただ、鋭い産声だけが、空を切り裂さいた。



「もがき 産まれ
 足掻き 歌え
 もがき 産まれ
 足掻き 歌え あああああ・・」






◆◇◆◇◆


王子よ
我らが許されざる者どもの王子よ
御拝謁たまわりたく……


会い見えようぞ
我らが眷族…

渇望の福王よ



◆◇◆◇◆



降臨
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


午前零時 針が止まる
獣たちは 息を潜める
午前零時 針は震え
十三秒を過ぎ その時は来る

白蓮の浮かぶ水面が揺れる
外道が歌う声高らかに
産声空を裂いた

時は刻むただ静かに
耳を劈くその時は来た

十字を飾る 血塗られている
悪魔が歌う 声高らかに
産声空を・・

目覚めるがいい 夜が今始まる
夢見るがいい 夜が今産まれる

もがき 産まれ
足掻き 歌え
もがき 産まれ
足掻き 歌え あああああ・・





◆◇◆◇◆

「千年封土」

……遠い昔
今から千年ほども前の話です

当時のこの大陸は小さな都市国家や多くの民族・部族が飽くことなき戦乱に明け暮れる
群雄割拠の時代だったそうです

うち続く戦で土地は枯れ果て食糧難に疫病などで
死者は実に全人口の3分の1に達したということです

けれど ついに戦乱の時代に終止符を打つ者が現れました

覇王ガイゼリック

それが数十余にもおよぶ国々を平定し
史上唯一この大陸全土に渡る大帝国を一代でうち立てた皇帝の御名です

その御方がいずこの国の出身か
いつどのようにして挙兵したのか……

彼が歴史の表舞台に出現する以前の記述はどの文献にもいっさい残されていません

皇帝には
その情け容赦の無い無慈悲な戦いぶりから
魔王 死を駆る王
などという呼び名があったそうです
ですがそれにはもう一つ理由があって…………

それは
ガイゼリック皇帝が
戦の際いつも

髑髏を模した恐ろしげな兜を愛用していたからだそうです

国中から人夫をかき集め……
重労働を強いて大きな都を築き上げる

そして王様は贅の限りを尽くし
またまた国民に重税を荷し都は酒池肉林
享楽のるつぼと化ししまう……

しかしついにドクロの王様の所業を見かねた
神さまが
天から5人の天使をお遣わしになり

その都を雷と大地震で一夜の内に地上から跡形もなく消し去ってしまった

その都の名は“国の中央の地”という意味で“ミッドランド”と名づけられた

そして
天変地異によって地中に没したその都は
強い日差しにも風にもさらされることなく
当時の面影そのままに眠り続けているのだとか…………
この縦穴の奥深くに

再生の塔はその不浄の過去を封印するために築かれたものだそうです



◆◇◆◇◆


【ROMANCE】

【ROMANCE】