さて、2005年12月14日リリースのDVD作品『13th FLOOR WITH DIANA』だが、
言うまでもなく、“傑作”である。
初回限定盤にはボーナスディスクと写真集が付いた。
BUCK-TICK LIVE TOUR 2005【13th FLOOR WITH MOONSHINE】の
それも完成型と言われる2005年6月29日30日に行われたNHKホールでのライヴを収録された作品であるが、
アルバム『十三階は月光』楽曲の映像集という側面もある。
よって、同アルバム以外にエントリーした楽曲が気になるところであるが、
ライヴツアー【13th FLOOR WITH MOONSHINE】自体も非常に雰囲気を考慮して厳選した感がある。
NHKホール公演は以下のセット・リストで公開された。
【2005年6月29日】
SE: ENTER CLOWN
1.降臨
2.Cabaret
3.異人の夜
4.MY FUNNY VALENTINE
5.ALIVE
SE: CLOWN LOVERS Senorita
6.Goblin
7.Tight Rope
8.謝肉祭-カーニバル
9.キラメキの中で・・・
10.道化師A
SE: Lullaby Ⅱ
11.Passion
12.DOLL
13.月蝕
14.seraphim
15.タナトス
16.夢魔-The Nightmare
アンコール1
17.ノクターン -Rain Song-
18.die
19.NATIONAL MEDIA BOYS
アンコール2
20.ROMANCE
21.DIABOLO
SE: WHO'S CLOWN?
【2005年6月30日】
SE: ENTER CLOWN
1.降臨
2.Cabaret
3.異人の夜
4.サファイア
5.ALIVE
SE: CLOWN LOVERS Senorita
6.Goblin
7.Tight Rope
8.誘惑
9.キラメキの中で・・・
10.道化師A
SE: Lullaby Ⅱ
11.Passion
12.DOLL
13.月蝕
14.seraphim
15.Mona Lisa
16.夢魔-The Nightmare
アンコール1
17.ノクターン -Rain Song-
18.die
19.悪の華
アンコール2
20.ROMANCE
21.DIABOLO
SE: WHO'S CLOWN?
6本の追加公演は本編が、この2パターンあり、
その前の通常公演28公演も「サファイア」と「カイン」が交互に入替わるパターンであったが、
同様に「MY FUNNY VALENTINE」と「サファイア」が入替わるパターンと、
中盤に「謝肉祭-カーニバル」と「誘惑」が入替わるパターンで構成され、
追加公演では「Mona Lisa」に加えて「タナトス」が登場している。
通常公演ではアンコール1にて、一度、この『十三階は月光』の世界観から抜け、
「タナトス」「謝肉祭-カーニバル」「ANGELIC CONVERSATION」
「MISTY BLUE」「NATIONAL MEDIA BOYS」「ドレス」等が演奏され、
アンコール2で「ROMANCE」「DIABOLO」で締めるお気まりのパターンが採用された。
BUCK-TICK LIVE TOUR 2005【13th FLOOR WITH MOONSHINE】では通して、
「ENTER CLOWN」で、この“BUCK-TICK Gothic Show”は幕を開ける。
まさに、オペラ舞台の開幕にような緊張感が、観衆から湧き上がる。
このオープニングSE「ENTER CLOWN」を始め全編通して、SE5曲が盛り込まれる為、
楽曲数もやや少な目のライヴツアーと言えたが、
その世界観が統一感が終始感じられ素晴らしいツアーとなった。
DVD作品『13th FLOOR WITH DIANA』では、このSEすべてに、追加公演から参加したキャスト、
ピエロのクラウンとバレリーナのべッキー、そして瑞所に映し出される少年ダミアンと
これに、櫻井敦司を加えた4名でのイメージ映像が、
これまた、この『十三階は月光』の世界観、“妄想”を掻き立てる。
「ENTER CLOWN」では、黒子クラウンが、ショウの楽屋で蝋燭を灯し、
メイクアップすると道化師クラウンに変身していく姿を演じている。
途中で、楽屋入りするベッキーが休憩する姿を狂気の眼差しで見つめるクラウンが、
「道化師A」での歌詞を、髣髴とさせるが、
鏡台の隅にサブリミナル的に登場するダミアンとクラウンがフラッシュする櫻井が、
“不吉”な示唆を視聴者に与えるゴシック・ホラー映画的効果を活用している。
すべての“悪夢”は、この「ENTER CLOWN」から始まるのだ。
アルバム『十三階は月光』では、オープニングSEで背景世界を表現する役目の「ENTER CLOWN」。
轟音ともとれるノイズが、今井寿らしい世界観を醸し出し、
崖の上のそびえ立つ妖しい古びた洋館に、カミナリが落ち、豪雨が降り注ぐなか、
コミカルなその洋館の使用人たちが、ご主人さまのお帰りを待つという設定がアタマに浮かんだが、
この映像作品では、そういったゴス世界の住人が、描き出す劇場の控え室的な裏方の動きを想わせる
SEでの映像集といえるだろう。
この作品の面白さは、まさにここで、リスナー1人1人が独特な“妄想”を掻き立てる点にある。
様々な、ゴス小説、ホラー映画、神話、聖書等のイメージが交錯する。
これこそが、黒幕:今井寿の思惑ともいえる点で、この映像集『13th FLOOR WITH DIANA』も、
アルバム『十三階は月光』同様に雰囲気や空気感を充分すぎるほどに匂わせていても、
決定的なストーリー展開自体は、聴き手に任せる手法がとられる。
まさに己の“脳内シネマ劇場”が勝手暴走を始め手が付けられなくなってしまうが、
気付くとこのDVD作品も統一されたストーリーのシネマを見るよう感動を我々に与えてくれる。
これは不思議な感覚のライヴ映像と言えるだろう。
もしかすると、誤解を招く言い方になってしまう可能性があるが、
通常公演時のライヴツアー【13th FLOOR WITH MOONSHINE】は、この映像作品の為の
遠大なリハーサルであったのではないだろうか?という想いが頭を過ぎる。
それ自体が、恐らく考慮された上でのライヴツアーこそ、
視聴者の反応をリサーチする装置であり、ヴィデオ・シューティングが決定していた本番、
すなはち、公開撮影現場としての役割こそが、
この追加公演【13th FLOOR WITH MOONSHINE】正体であった可能性は否定出来ないのではないか?
このコンセプトは、1992年に開催された【Climax Together】と一緒で、
予め、映像化が目的の公演であった可能性はある。
しかし、この可能性を別にしても、この2005年のライヴは、
そのすべてが、演劇的なコンセプトで、パフォーマンスされていて、
今井寿曰く
「だんだん本数重ねていくうちにいい意味でマンネリというか。
毎回同じで、本当に自分の歩数まで決まっているんじゃないかって思えてきて(笑)。
それが面白かったです」
という感想すら出る完璧に作り上げられた世界であった。
それまで、“インプロヴィゼーション”と“ミラクル”を標榜してきた感のある
BUCK-TICKライヴであったが、ここに至り、脚本を元に“演じる”BUCK-TICKを見ること出来るのは、
逆に、“新鮮”な要素であったかも、しれない。
アルバム『十三階は月光』が、そのコンセプト“ゴス”モチーフ一色という“制約”も元に、
創り上げられた完璧なる世界だったのと同様に、
この年のツアーBUCK-TICK LIVE TOUR 2005【13th FLOOR WITH MOONSHINE】では、
“演じる”というキーワードを元に、彼らは新たなる扉を開いた、と言えた。
新しい発想とは、この様に、突飛であり、自由な尖った感覚のみが必要なのでは、ない。
日常にあるモノへの“逆転の発想”と“パラドクス”こそが、
【進化の扉】を開く、ヒントにも成り得るのである。
陳腐な言葉を使えば、“温故知新”などがそれに当たるのかも知れないが、
それを、自然な流れの中で、見出す能力には、脱帽せざる得ないだろう。
◆◇◆◇◆
最後に僕自身の見解をここに記そう。
今井寿は、それを、BTの内部探究に求めたのだ。
その結果見つけた宝石は、一番近くで輝いていた。
無論、櫻井敦司という素材である。
“嫉妬”という言葉が適当か、どうかは、分らないが、
櫻井敦司という素材の秘める可能性を磨きあげたソロ・プロジェクトを、
目撃してしてしまった今井寿の叫びが聞こえるようであった。
「この男を、完璧に魅せるのは、この俺だ!」
確かに素晴らしい出来と言える櫻井敦司のソロアルバム『愛の惑星』と
その発表の場で見せたソロ・ライヴ【愛の惑星―EXPLOSION―】。
そのフィクサーはデレクター田中淳一に他ならない。
そして内外を含め多数のアーティストが“櫻井敦司”というマテリアルで、
実験し、その輝きを世間に知らしめたと言えるこの活動に、
やはり、彼はひとりのクリエーターとして“嫉妬”したのだ。
そして、あまりにもダイレクトな方法論で、それを凌駕する行動に出た。
極論を言えば、彼は、BUCK-TICKという楽隊を“私物化”したのだ。
しかし、それを誰が、咎めることが出来ようか!?
そもそも、このBUCK-TICKは、今井寿の“私物”であったに他ならないし、
結果論ではあるが、その行為は、極めて価値のある作品をこの世に、産み堕とした。
それが、アルバム『十三階は月光』の本質であり、
その輝ける成果こそ、この追加公演【13th FLOOR WITH MOONSHINE】であったと言える。
僕には、結成20周年云々と周囲が騒ぎ立てた一連の2005年の活動も、
今井寿というイチ・クリエーターの魅せたパーソナルな飛躍の輝きであったと想えてならない。
これは、“曲解”である可能性が多分にある。
だから、賛同してくれ、とは、とても誰にも言えやしない。
しかし、このDVD『13th FLOOR WITH DIANA』を観ていると、そう、想えてならないのだ。
そして、“美しき男”の奏でる“嫉妬”の炎は、斯様にも美しく燃えたのだ。
さあ、“夢舞台”の開幕だ!
酔いしれてくれ!
◆◇◆◇◆
「鷹の団も………戦場での幾つかの勝利も
ほんの手始め…………ほんの始まりさ
面白いのはこれからだ………命を賭けるほどにな
お前はオレのために戦え
お前はオレのものなんだからな
お前の死に場所は俺が決めてやる」
グリフィス(『ベルセルク』第5巻「黄金時代」より)
◆◇◆◇◆
ENTER CLOWN
(作曲・編曲:今井寿)
インストルメンタル

