「惡の華」のヴィデオ・クリップは、
初めてBUCK-TICK発信のヴィジュアル・イメージを具現化したとも言える作品だ。
樋口“U-TA”豊も、お気に入りの一作。
それまでの、パンキッシュな“髪立て系”の雰囲気を残すヒデ、U-TA、アニイに、
まるで、ピエロみたいに、道化師を演じる今井寿。
その髪の毛は、真っ赤に燃えている。
対称的に、ダーク・ワールドに片足を突っ込んだ堕天使:櫻井敦司。
黒尽くめの“ゴシック・スタイル”で、暗黒世界をデカダンに演じる。
そう、彼らは、まだテスト・ケースと言えたヴィジュアル・ロックに、
そのキャラクターの個性を反映し始め、走り出した。
ヴィジュアル系が先にあったのではなく、彼らの個性の発信こそが、
“ヴィジュアリズム”そのものであった。
前作「JUST ONE MORE KISS」では、まだ、それが定まっていなかったが、
この「惡の華」では、それが、ハッキリわかる。
樋口「それまでも、たくさん撮ってたんだけど、自分達から発信しているっていう。自分からしてみると。
他のメンバーはわかんないですけど、自分の中で、少なくなかったかなっていうのがあって。
だから、その映像と、っていう。
混った時に、そのセットがあって、その一部でやってる仲間じゃないですけど。
それが5人が、ドッと、ていう映像っていうか。
自分でも見た時にインパクトあったし、自分で自分を見て……自分で言うのも可笑しいですけど、
カッコいいな、と思いました」
誰かのモノマネではなく、自分達のスタイルを模索し出したBUCK-TICKからの、
痛烈な一撃“惡の華”。
まだ、どこにも、存在しなかった、ヴィジュアル系というスタイル。
しかし、発信する張本人に、その意識は希薄…。
監督は後に、彼らの多くのライヴ作品を手掛けることになる林ワタル。
これが、日本ヴィジュアル史の黎明期と言えるだろう。
たしかに、ライバルX(エックス)、ZIGGY等も全く別の個性で光を発していた時代…。
しかし、トレードマークの真っ赤な髪を、今井寿はすぐに切り落とした。
時代が彼に追い付くと、すでに彼は、別の彼方に…。
今井「「ANGELIC CONVERSATION」かな……。
地味なトコなんですけど……。メンバーがほとんど出て来ない」
印象に残るヴィデオ・クリップに「ANGELIC CONVERSATION」を選ぶ今井寿。
当時最も、彼ら自身の姿が少なく、まるで、洋楽クリップの様なイメージ映像が満載の異色作。
あえて、今井寿は、このクリップを挙げた。
一瞬、天の邪鬼な、今井寿らしいな…と感じるが…、
2002年の『THE DAY IN QUESTION』の本編の最後の一曲にエントリーした「ANGELIC CONVERSATION」は、
その後のインタビューで、今井寿がリクエストした一曲だとわかった。
単純に気に入っていたのかも、しれない。
今井「一曲くらい、(俺も)言っとこうかな、って」
天才は、我々に、深読みまで、誘発する。
髪の毛も、ただ、切りたかった…ダケ…?
Q VISUALに対するこだわり
樋口豊は続けて、当時を想い返す。
樋口「あとは、やっぱり、その、流れがすごく早かったから、
あんまり自分達が、その自分達を見つめられなかったっていうのも、あったかな、っていう」
だから、客観的な評価は、無視できた。
自分のしたいスタイルこそ、彼らにとってヴィジュアルとなった。
最先端・傾奇者・道化師を進んで買って出ている思いきや、今井寿は、不快感を顕わにする。
今井「なんか、その“ヴィジュアル系”っていう言葉が、すっごい軽いから……。
いい印象ないですねよネ。なんか……。
でも、それも、仕方のないことなんですけど……」
星野英彦は、冷静にこう言い切る。
星野「(ヴィジュアルも)最初はありましたよ、やっぱり。
まあ、こう、現に、長い間やっこれているんで、“それだけではない”っていう、のもあるし」
そして、ある意味シンプルな独自路線を歩み始めたワンレングス…
ヴィジュアル界の帝王:櫻井も当時を語る。
櫻井「やっぱり、その、自分も好きだったんで。
10代の時とかは…、ホントに“色男”が好きだったから……。
見た目で、こうカッコいいなと思って入って行った、っていうのもあるし。
ただ、それが、もうホント自然とっていうカンジでしたね。
撮られるのも、やっぱり好きだったと思うし」
色男は色男が、好き。
そして、異端児は、異端が、好き、だ。
今井「こう、なんか普通にまとまりたくない感じなんですよね。なんか、うん」
櫻井「(“色男”が好きと仰いましたけど、櫻井さんも“すごい色男”だとおもうんですが?)
……どんな反応していいか、わかんないですね。そう言われると……。なんスか、ソレ(笑)。
いや、それはもうだって……プロの手が掛っている訳ですから(笑)。
やっぱりカッコいいと思わないと。カッコいいと思いますよ、カッコつけてるから」
ある意味、正反対の路線を行く二人のカリスマ。
しかし、正反対だからこそ、彼らは響きあった。
まるで、光と闇、太陽と月、…愛と死…。
異端児は疾走する。
誰も追いつけない“スピード”で、
もう、誰も、どれが、本当の今井寿かわからない…。
照れてはいるが、自覚はある、認める櫻井敦司。
そう、彼ら“色男”には、そうやって生きる使命がある。
命懸けで、“カッコつける”。
これも、アニイのタテガミと一緒。
プロ根性と生き様だ。
そして、そこにある“美意識”は、各個人のモノだ。
そういったカリスマには、多くの人間が影響を受ける。
極、自然な、現象だ。
ヤガミ「たしかに、こう、影響受けたバンドっていうのは、見受けられましたよね。後から出たバンドで。
で、例えば、高校の時にコピーしてて、“コピーしてました”とか、言われたい、とか。
でも、コッチは知ったこっちゃないですからね、別に(笑)。
申し訳ないけど、影響を受けるのは自由だし、別に影響を与えたい訳じゃないし。
ただ、自分達のスタイルってのを模索してやっただけで。
今だに、模索してるのかも知れないし」
未だに?模索している?
そう、死ぬまで、追及しするんだろう。きっと。
これは、永遠…自分探しの旅。
「惡の華」のヴィデオ・クリップは、そのまま、アルバム『惡の華』全曲を映像化した、
VIDEO映像集『惡の華』として発売されている。
(※5名の監督が2楽曲づつ撮りおろした。林ワタルもそのうちの1人)
映像化というヴィジュアル戦略も、ここに至り本格化を見せるが、
BUCK-TICKは、もうひとつ、重要なアルバムを全曲をヴィジュアル映像化している。
1995年リリースの『Six/Nine』だ。
Q 印象に残るVIDEO CLIPという質問で、今井寿が触れている。
今井「印象に残ってるのは『Six/Nine』の10曲ってヤツかな?うん。
2日間でやったっていう。
大変だったけど、なんて言うんだろう…苦痛な部分ってすごく少なかったです」
このヴィデオ・クリップ集は、5枚組DVD『B-T PITURE PRODUCT』[nex.us]に収録される。
元々は、フィルム・コンサート用の映像集が『Six/Nine』。
撮影と一緒で、この作品を鑑賞していると、16曲の大作が一瞬のような不思議な感覚だ。
まさしく、これが“Loop”…。
続いては、櫻井敦司の印象に残るヴィデオ・クリップ。
櫻井「肉体的に印象に残ってるのは「月世界」の宙吊りですかね?
宙吊りの逆さ吊りなんですね。言っちゃうと(笑)。
あれは、今でも身体が憶えてますね」
「月世界」マーキュリー時代のアンヴィエントな世界観を打ち立てたヴィデオ・クリップは、
BTのクリップの中でも、独特な世界であったと言えよう。
モノクロの映像に、呪文でも唱えるような櫻井敦司が、妖艶な緊張感と浮遊感を醸し出す。
自分が、今、何処に足を着いていいのか?わからなくなりそうな映像だ。
撮影秘話を語る櫻井敦司も同じ感覚を体験していたのだ。
体感したものは、身体が憶えている。
櫻井「あとは、そうですね。
やっぱりあの…、この間の「極東より愛を込めて」の“水攻め”“火攻め”。
でも、すっごい、あの…気に入ってますね」
ヤガミ「埼玉の山の中で、まだ、雪が解けてる感じで。
その夜、寒い中で、やらして頂きました。楽しく(笑)。
(でも…炎が、すっごく…あがってるから…?)
うん。背中は熱いんですよね(笑)。なんか、焦げてる感じの匂いがするんですよね」
メンバー身体を張っての撮影は、彼らのヴィデオ・クリップのクオリティの高さを示す。
「極東より愛を込めて」の炎を背後に繰り出す今井キックと、
水面に、四つん這いになる櫻井敦司の姿が、胸を打つ。
「極東より愛を込めて」のヴィデオ・クリップは間違いなく傑作であろう。
そして、その撮影を嬉しそうに話すアニイと櫻井の表情に、
満足のいく作品を生み出し続けている“自信”を感じずにはいられない。
確かに“愛”を込めたヴィデオが出来あがった。
悪の華
(作詞:桜井敦司/作曲:今井寿/編曲:BUCK-TICK)
遊びはここで 終わりにしようぜ
息の根止めて Breaking down
その手を貸せよ 全て捨てるのさ
狂ったピエロ Bad Blood
夢見たはずが ブザマを見るのさ
熟れた欲望 Fallin' down
サヨナラだけが 全てだなんて
狂ったピエロ Bad Blood
燃える血を忘れた訳じゃない
甘いぬくもり が目にしみただけ
Lonely days
あふれる太陽 蒼い孤独を手に入れた Blind-Blue-Boy
love letter
(作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
I wanna live Just like a bitch
Now what's your desire
You wanna make Just like the rich
Now what's your desire
are you honest are you honest
Is this what you wanted
are you honest are you honest
I need you
I wanna be like your dog
upside down and make a god
You wanna be like our gog
upside down for razz ma tazz
are you honest are you honest
Is this what you wanted
are you honest are you honest
I need you
Save my soul please
Show me the way
Save my soul please
Oh Please. Please take this love letter
I'm Just A Simple madness man
Oh Please. Please take this love letter
I'm Just A Simple madness man
月世界
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
波に漂う 月の光
昏睡の中 月の光
泳ぐ独り 暗い海を
波に漂う 月の光
昏睡の中 月の光
走る独り 暗い空を
あなたに逢えるなら
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
赤黄色向日葵 橙群青紫陽花
泳ぐ独り 深い闇を
あなたに逢えるまで
赤黄色向日葵 橙紺青紫陽花
極東より愛を込めて
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
見つめろ 目の前に 顔を背けるな
愛と死 激情が ドロドロに溶け迫り来る
そいつが 俺だろう
俺らはミナシゴ 強さ身に付け
大地に聳え立つ
光り輝くこの身体
そいつが お前だろう
今こそ この世に生きる意味を
愛を込め歌おう アジアの果てで
汝の敵を 愛する事が 君に出来るか
愛を込め歌おう 極東の地にて
悲哀の敵 愛する事が 俺に出来るか
泣き出す 女の子
「ねえママ 抱き締めていて もっと強く!」
