「ゴシックとは、なんたるか」
櫻井敦司によるアルバム『十三階は月光』のリリース・コメントである。
すでに、ライヴツアーのリハーサルが行われ、
彼のアタマの中には、この“悪夢”で充満されているかのようで、
これは“魔界の政見放送”だ!と称される映像であった。
バンドは、4月6日に、このアルバムを発売すると、
すぐ4日後の4月10日【 TOUR 13th FLOOR WITH MOONSHINE 】を、
群馬音楽センターから開始している。
アルバム『十三階は月光』は、それまでの最大18曲を収録した大作でもあり、
18曲中インストが5曲収録、歌入りの作品は実質13曲(ここでも13という数)と徹底した拘りを魅せた。
そこには、大作でありながら、統一した流れを持つ世界が描かれ、
前作の『Mona Lisa OVERDRIVE』とも、前々作の『極東 I LOVE YOU』とも、
(※この2作品は、“双子のアルバム”“静と動の連作”などと言われた)
全く違う音世界を実現していた。
以下、収録楽曲
1.「ENTER CLOWN」
2.「降臨」
3.「道化師A」
4.「Cabaret」
5.「異人の夜」
6.「CLOWN LOVES Senorita」
7.「Goblin」
8.「ALIVE」
9.「月蝕」
10.「Lullaby II」
11.「DOLL」
12.「Passion」
13.「13秒」
14.「ROMANCE -Incubo-」
15.「seraphim」
16.「夢魔 -The Nightmare」
17.「DIABOLO -Lucifer-」
18.「WHO'S CLOWN?」
ここで、『十三階は月光』リリース直後の櫻井敦司による楽曲紹介を掲載しよう。
(以下、『PATi PATi』誌より、引用抜粋)
今年、結成20周年を迎えたBUCK-TICK。
そんな記念すべき年にふさわしい一枚といえる、アルバム『十三階は月光』とリリース。
テーマに“ゴシック”を掲げた、これまでになかった世界観が渦巻く。
――約2年ぶりに発表された今回のアルバム『十三階は月光』を語るうえでは、
昨年からのメンバー個々でなさっているソロ活動について最初にお聞きする必要があるように思います。
まず、櫻井さんはバンド活動とソロ活動に対して差異を、どのようにとらえておいでですか?
「分け隔てはないですね。
ソロのときは自分の好きな世界を提示して、
それに対してOKをもらったいろんなミュージシャンの方と
、ひとつのものを作り上げて昇華させていっているんですね。
なので、バンドでやってることに対してうんぬんというは何も考えてないです」
――櫻井さんのいわれる“好きな世界”は、言葉にするとNW(ニュー・ウェイヴ)の再興であり、
それを具現化したのがソロ・アルバム『愛の惑星』であったかと思いますが、
ソロ活動をされたことで得られたものが、ひいてはバンドにフィードバックされた部分はありますか?
「それはすごいありますね」
――なんでも、櫻井さんのソロ作やソロ・ライヴに触れた今井寿さんが、
今回のB-Tのアルバム・コンセプトでもある“ゴシック”というキーワードを思いつかれた経緯もあったそうですね。
「そのゴスっていうこと自体は、
前回のツアー(『Mona Lisa OVERDRIVE』)の時点ですでに思いついてたらしいんですよ。
で、それについて確信を持ったのが、そのソロ・ライヴだったみたいですけど」
――それに、B-T自体、また櫻井さんご自身もいわゆる“ゴシック・ロック”に対する造詣は、
以前からお深かったですものね。
「ただ、好きなものだけに今回の場合はどこまで踏み込んでいかっていうのが、
最初は自分でもよくわからなったですけどね。
っていうのは、ソロのほうもNWとゴスっていう要素は多分に意識しながらやってもんですから。
でも、バンドでやり始めていくうちに、
これはもう思いっきり好きなことをやればいいんだなと思えたので、あとはそのままやっていきました」
――“ゴシック”という言葉は観念的な要素も多いですし、もともと音楽用語でさえありませんが、
櫻井さんにとってのゴシックであるための条件、つまりゴスに必要な要素というのは、
具体的にどういったものか挙げられますか?
「ゴシックっていう言葉の持ってるそのものの意味としては、あまりとらえてないですね。
やはりそこは日本人の自分たちは、根源的には持っていないものだと思うので。
そういう中世ヨーロッパの様式美っていうものは、
自分たちにとってはファッションとしてのものだけですよね。
ただ、自分の中でどうかといえば、ゴシックというは様式美というよりは精神性にあると思います」
――どこか退廃的・耽美的である雰囲気が醸し出されていく背景には、その精神性が横たわっているということですね。
「非日常であって、両極なものが同居している感じ。
それが、必要な条件でしょうね」
――アルバム『十三階は月光』はまさにそうした要素に満ち溢れた作品に仕上がっていると思います。
ちなみに、今作をつくるに当たっては、コンセプト発案者である今井さんとのディスカッションも
事前にあったそうですね。
「コンセプトについて話しているときに
「DIABOLO -Lucifer-」っていう曲についてなんですけれども、
今井の中で世界っていうものについて話をしていて、それに対しての印象を話したりはしましたね。
まぁ、酒の席でのことだったんですけど。
そこでお互い感じてることにズレがないことを確かめられた、っていうことはありました。
でも、実際に言葉でやりとりしたのはそのくらいでしたね」
――では、まだコンセプトが固まる以前から楽曲自体はいくつかでき上がっていたわけですね。
「なので詞も「Goblin」だったり、先にシングルになった「ROMANCE」だったり、あと「異人の夜」か。
そのあたりは、勝手に自分で書いてました」
――にもかかわらず、このアルバムには大きな流れといいますか、
ひとつのストーリーの存在を感じることもできると思うのですが、
それは前述の4曲以降の楽曲ができていく中で、櫻井さんのなかで生まれていったものですか?
「ええ。コンセプトが決まって、そこからは加速していきました」
――今作の歌詞には、ヴァンパイアや道化師が出てきたり、
ある登場人物が複数の楽曲に登場しているかのように思えるくだりなどもありますから、
そうした面から各楽曲の相関関係を探っていくのも、
このアルバムを聴いていくうえでは興味深いところですよね。
「中には後付けだったり、こじつけ的みたいになってるものもありますけど、
そのへんはわりと自然にこうなったりもするんですよね」
――これだけフィクション的要素の多い作品ではありますが、
詞を書かれる際の感情移入の仕方は、どんなふうであったのですか?
「やはり、そこは出てくるキャラクターの感情にドラマ性を持たせて表現して、
それを自分本人はふかんで見てコントロールする、という形です」
――歌う段階でも、それは同じであったということですか?
「歌ってるときも、ふかんの視点というか、第三者的な立場でいることは多かったと思います。
どのように演じられているか、という観点で」
――今作はインストまで含めると全18曲という大作ですので、
ここからは個々楽曲についても具体的に触れていきたいのですが、
まずSEである「ENTER CLOWN」が明けて始まる、実質1曲目の「降臨」。
これは、まさに序章にふさわしい一曲ですね。
「ああ、この曲は今井も頭の中で序章として考えてたっていうのがあったみたいですね。
なので、自分もドラマチックな雰囲気というのは意識してやりました」
――この後につながっていくであろう布石もちりばめられていますし、
中でもアルバム・タイトルともリンクする“13”というキーワードは意味深でなりません。
「そうですね。不吉な印象を持ってもらえれれば(微笑)」
――続く「道化師A」は主人公が二重もしくは多重人格であることを思わせる表現が出てくる詞ですよね。
ここで展開される自答自問の風景自体は、
ある種これまでの櫻井さんの書かれてきた他の詞世界とも呼応する部分があると思うのですが、
ご自身としてはどんな心境でこの詞をお書きになったのでしょうか?
「以前はわりと、自答自問をしたとしても袋小路のまま終わっていたことが多かったと思うんですよ。
しかも、それをキャラとしてではなく、自分と対峙した自分自身のこととして書いていたというか。
ただ、今回に関してはむしろまったくそういうのは排除したかったんですね」
――あくまでフィクションであると。
「ええ。
なので、これはあくまでこの詞の中のキャラクターとしての表現であって、
これはひとつのドラマであるということなんです。
この二重にも、三重にも、四重にも錯乱した主人公の様とか、いくつも視点があるっていうところで、
この世界をそれぞれの形で楽しんでもらえればなと思います」
――それから「Cabaret」ですが、これはロマンチシズムとグロテスクの要素があって、
櫻井さんの言うゴスに不可欠な“両極端なものが同居した”作風ですね。
「そうですね。これは、とてもやりたかったことのひとつです」
――ちなみに、櫻井さんにとって今作の中でも特に思い入れの強い曲、というのは、あったりしますか?
「どれもすごく化学変化を起こしたものばっかりなんで、これっていうのは難しいですけどね。
でも、中でも面白い世界が作れたなと思うのは「DOLL」だったり、
ちょっとユーモラスな「Goblin」だったり、
ああいうのは楽しいなと思いますね」
――「DOLL」は、なんといいますか……実にイカれた曲ですよね。
「あっはは(笑)」
――これはまったくの褒め言葉として受け取っていただきたいのですが、
あのイカれようはすごいですよ、実際、歌としても、かなり難しくはないですか?
「と思っていたんですけど、やってみたらそうでもなかったです。
すんなりやれちゃいました」
――一方、「Goblin」はお酒がモチーフとなっている楽曲ですが、
これは確かに言葉遊びが面白い仕上がりですね。
「お人好しでドジな小悪魔が、軽快に酔っぱらってる雰囲気です(笑)」
――と同時に、この「Goblin」から次の「ALIVE」にかけては、
アルバム自体かなり躍動感がある流れになっている気がします。前半などと比べても。
「というか、この「ALIVE」なんかは他と比べると“まとも”ですよね。ヘンな言い方ですけど(苦笑)」
――簡潔に言うと、いちばんストレートなロック・チューンですからね。
「聴きやすいんですよね。曲の展開も明快で。
こういう普通にやってる曲がかえっていちばん目立つっていうのも、なんか不思議な気はしますけど」
――また「月蝕」では一転して、独特な雰囲気が醸し出されていますしね。
これは、ヴォーカルの録り方も、かなり凝っていますよね。低音が強調されていて。
「あれは、デモテープの段階っでソレっぽいことになっていたんですよ。
それにまぁ、わりとずっと低い声というのは得意というか自分でも好きなので、
この曲はこういう形でやってみました。
内容としても、おどろおどろしい感じにしたかったんで、それもあって音はわりと重ねてます」
――重ねているという点では、今回「Passion」もかなり厚いコーラス・ワークが展開されていますよね。
「これはヒデ(星野英彦)の曲なんですけど、これもデモで俺のマネして歌を入れてくれてたんで(笑)、
そのイメージを生かしながらやりました。
それにプラスαしてやっていったんですけど、
そうしたらいい効果が出て、偶然響きが賛美歌っぽくなりました」
――壮厳ですてきです。
このアルバムでは、この後に「13秒」と題されたインターバルがあるのですが、
その前にこの曲が来ることで、大きな区切りを迎えている場面ですよね。
「ですね。
ここで一回完結はしちゃってうんですけど、
ここからひとつのフィナーレに向かっていくっていうふうにとらえてもらってもいいと思います。
終章の始まりというふうに」
――そうした流れの中で、「13秒」の後に始まるのが「ROMANCE -Incudo-」ですが、
これは、シングルの別ヴァージョンですね。
「アルバムの中にシングルを入れるというのは、
自分的にいろいろ難しいことでもあったりしたんですけど、
ここにこうして置くことでもう一度厳粛に味わっていただけるのかな、というのはありました」
――このサブタイトルは、スペイン語のようですけれども。
「これは今井は付けました」
――これは、後に出てくる「夢魔 -The Nightmare-」とも関連性があるのかな? とも思えましたが。
「ああ……っていうことになりますね。
でもほんと、ぴったりだなと思いましたよ。
自分は「ROMANCE」って付けましたけど、そのストーリー自体は“そういう”面もあるわけですから」
――そして、その「夢魔 -The Nightmare-」ですが。
この楽曲は、脈絡からすると突然舞台が変わったような感じの作風でちょっと驚きました。
場面転換期に、唐突にも近いというか。
「いや、唐突でえすよ。これは」
――これは、つまり、転生を経て主人公が新天地に立った場面なのでしょうか?
「というか、「降臨」のアンサーですね。死の行列に巻き込まれていく、その過程というか」
――そういうことでしたか、となると「DIABOLO -Lucifer-」は……。
「いかがでしたか、っていう感じですよね。
最初は「夢魔 -The Nightmare-」で終わるつもりでいたんですけど、
そこまでにはいろんなこともあったわけで、
それらもすべて含めて“いかがでしたでしょうか”というふうにしました」
――音楽性、詞世界、タイトル、そしてアートワークまで含めて今作『十三階と月光』は
B-Tとして徹底的にゴシックを追及した作品に仕上がりましたが、
櫻井さんご自身はこの作品について今どうお感じになられていますか?
「すごい満足してますね。自分の好きな世界なんで。
もしかしたら、今まで以上に満足の度合が強いかもしれない。気に入ってます。
特に飲んでるときの聴いてると、楽しいです。
自分で言うのもなんですけど(笑)」
――それだけいい作品を作れたこのバンドは、なんでも今年で結成20周年を迎えられるそうですね。
「みたいですけど、去年の暮れに事務所の人から聞いて初めて知りました。まったく忘れてましたね」
――でも結成したころにどこかで生まれたお子さんが、今ではハタチになられているわけですからね。
すごいことですよ。
「それを考えると、20年って重いなぁって思いますけどね(苦笑)。
でも、本人たちは基本的に常に目の前のことを考えてやってきてるから、
長く続けようとかそんなこと考えたこともないし、気がついたらここまで来ていたというか」
――この20年、櫻井さんご自身はバンドをやっていくのが“しんどい”と感じたことはありませんでした?
「いや、それはないですね。
5人でいることに苦痛を感じたことはないです。
自分の立場から言えるとすれば、自分にないものを他の4人のメンバーが持っているっていうのが大きいし、
そうやってお互いにいい刺激を与え合っていけてるっていう、この関係性がこのバンドの特性だと思っているので」
――そんなB-Tのバンドとしての醍醐味は、今度のツアー“13th FLOOR WITH MOONSHINE”でも、
存分に感じさせていただけそうですよね。
「アルバムの曲は、たぶんほとんどやると思います。コンセプトに沿った自然な流れのライヴになると思います」
――ということは、櫻井さんがアルバムの中にとあるキャラクターを演じる可能性も、あるわけですね。
「ええ。もちろん。
というか、歌うっていうこと自体がそういう要素を持ってるものですしね。
それをもっと、具体的に見せるようなスタイルになっていくと思います」
漆黒の夢物語が、今ここに完成した。
結成以来、常に独自の美意識を持ち続けてきたBUCK-TICKが、
今回作り上げたアルバム『十三階は月光』は、彼らが正面から“ゴシック”に向き合い、
徹底してその世界観を追及したものと相成った。
そこで繰り広げられる、甘美な悪夢の数々は、必ずや聴く者を深く魅了するだろう。
底の浅いバンドでは絶対になしえない、すごみさえ感じられるゴシックの在り様というものが、
そこからわかってくるはずだ。
結成から、20年。
1980年代はかつてのバンド・ブームの中で生き抜き、
1990年代はヴィジュアル系ブームと一線を画しながらバンドとしてのカリスマ性を備え、
この2000年代に入ってから新たなアイデンティティーの示し方を最新作『十三階は月光』で具現化した彼らは、
これからも常に先鋭的な方法論で、われわれを蠱惑的な非現実世界へと誘ってくれるに違いない。
(以上、引用抜粋)
櫻井敦司曰く
ゴシックの必要条件とする、“非日常であって、両極なものが同居している感じ”…
それをヒシヒシと感じる素晴らしい作品となった『十三階は月光』。
名曲「ROMANCE」すら、それは構成する一曲に過ぎないとは、
なんとも“贅沢”極まる大作である。
繰り返す。
御一聴頂きたい。
ヨハネの黙示録 第21章
「見よ、神の幕屋が人と共にあり、
神が人と共に住み、人は神の民となり、神自ら人と共にいまして、
人の目から涙を全くぬぐいとって下さる。
もはや、死もなく、悲しみも、叫びも、痛みもない。
先のものが、すでに過ぎ去ったからである」
都の城壁の土台は、さまざまな宝石で飾られていた。
第一の土台は壁玉、第二はサファイヤ、第三はめのう、
第四は緑玉、第五は縞めのう、第六は赤めのう、
第七はかんらん石、第八は緑柱石、第九は黄玉石、
第十はひすい、第十一は青玉、第十には紫水晶であった。
十二の門は十二の真珠であり、門はそれぞれ真珠で造られ、
都の大通りには、透き通ったガラスのような純金であった。
わたしは、この都の中には聖所を見なかった。
全能者にして主なる神と小羊とが、その聖所なのである。
そして十三階は…、月光。
