……どうやら、13秒が過ぎたようだ……。
皆さん。 【ROMANCE】 をありがとう。
さて…、何を書こう…?
タイトル・ソングに辿り着けた今、不思議とアタマの中は真っ白だ。
あの鈍く光る濁った月光のように。
‡‡‡‡‡
2005年3月2日、シングル「ROMANCE」がリリースとなる。
前年から公表されていたライヴツアーに加え、この3月のFISH TANK会報にて、
ツアー追加公演と会員限定【FISH TANKer's ONLY 2005】開催が発表されている。
記念すべき結成20周年を迎えるBUCK-TICKの一年が、この「ROMANCE」と共に胎動を始める。
名曲? 名曲誕生。
やはり、ここはこの名曲を生み出した二人の言葉で伝えるのがいいだろう。
「ROMANCE」誕生の過程を語る今井寿と櫻井敦司。
その言葉をここに掲載しよう。
インタビュアーも、長年、彼らの取材を続けた増田勇一氏だ。
(以下、『UV』誌より引用抜粋)
天使と悪魔の繰り広げる物語の背景には、いつも濁った色の月がある。
そして主人公の胸にナイフが深く突き刺さったとき……。
ああ、すでにアタマのなかで妄想が騒ぎ始めている。
もちろん、その要因は「ROMANCE」と題されたBUCK-TICKのニュー・シングルであり、
同作にカップリングされた「DIABOLO」である。
さらに4月6日に登場するニュー・アルバムに冠せられた
『十三階は月光』というタイトルも脳を刺激せずにはおかない。
櫻井敦司と今井寿。
彼らはこの妄想の根源でもある。
2月某日の寒い夜、僕はまるで診断でも求めるように彼らの前に座っていた。
――今回はアルバムも含めて、かなりコンセプトを決め込んだ作風になってるようですね。
今井「作風としては演劇的というか、架空のサントラというか……。
ゴス、ゴシック的な世界観みたいなものを、そういう手法でストレートにカタチにしたいな、と。
もう、それがすべてですね」
――今、なぜゴスなんです?
今井「いや、べつに……。
アイデア自体はツアー中にぽつぽつ出てきてて、
曲の断片みたいなものもなんとなく揃いつつあったんで、すね。
そこから自然にそういう流れになっていった感じですね。
最初、ゴシック云々というのは自分のアタマのなかだけにあって、
どっぷりそこだけをやろうって考えてて、それから各自ソロ活動に入って。
で、あっちゃんのライヴを観に行ったときに、ある意味で自由ではあるんだけど、
ちょっとなんかギクシャク感みたいなものを……。
ソロだから櫻井敦司発信ではあるんだけど、曲は作ってなかったりするわけじゃないですか。
そこでの違和感みたいなものをちょっと感じて。
で、そのときも、次にBUCK-TICKでやることっていうのをなんとなく観ながら考えてたわけですけど、
なんかぴったりハマるというか、いい流れだなと思って」
――ゴス云々以前に、
“櫻井さんのソロ作品を今井さんがプロデュースしたらどうなるのか?”的な発想でもあったわけですね?
今井「そうですね。思い切って言うとそういうことになるかもしれない」
櫻井「そういう話を聞いたのは、ついこないだのことなんですけどね(笑)。去年の暮れぐらい。
最初、まずシングルを決めましょうって会議があって、そこで曲を持ち寄って、
ヒデの曲があって、今井の曲があって……。
そのあとでみんなで呑みに行って。そこでゴスをやりましょうって話が出てきて」
――呑みの席でのほうが、実質的には実りのある会議になってたりして。
櫻井「ええ、いつもそうです(笑)。でも、意外だなとは思いましたね。
まず、コンセプトみたいなものをはっきりと決め込んでレコーディングに入るというのは…
…自分が知らされてないだけかもしれないですけど(笑)。
ここのところなかったことだし。
同時に、いつも受け身の自分としては、
ソロでみんながやってたことの印象というのがまだアタマのなかにある状態で曲が出てくるのを待ってたわけで、
そこでゴスという言葉が出てくるのは想定し難かった。
ま、たぶん、そこでゴス以外の言葉が出てきたとしても意外だと感じたかもしれないんですけど」
今井「今までになくテーマを決め込むということになると、
やっぱりテーマにちゃんと沿ってる詞だとか、
全体を通して貫いてるものが必要になってくるじゃないですか。
曲と詞が合体したときの世界観みたいなものが必要になってくる。
今までだと、テーマがあったとしても、
わりと詞は個人的に好き勝手に、イメージの湧いてくるのに任せて書いてたようなところがあるんです。
でも今回はそういうわけにもいかないんで、そこでちょっと説明してみたりとか……」
――「ROMANCE」の歌詞にも、「DIABOLO」のなかにも天使が出てくる。
ひとつのストーリー展開を想定しつつ一気に書き上げるように作業でもあったわけですか?
櫻井「ええ。
最初は……いつもヒデが頑張って先に曲を上げてきたりするんですけど、
その時点ではまだゴスとかそういうテーマが提示されてなかったんですね。
で、どうしようかなって感じだったんですけど、
コンセプトが決まったところで、一気にがぜん……」
――ストーリーテラーとしての作業に拍車が。
櫻井「ええ。もともと好きな世界でもあるし」
――この2曲というのは、アルバムの世界を予告するものでもあるわけですよね?
今井「はい。「ROMANCE」は最初っからシングル用という意識で作ったんですけど」
――櫻井さんのソロでウェイン・ハッセイが書いていた「SACRIFICE」に対しての
今井さんからの返答のように感じたんですよ。考え過ぎかもしれないですけど。
櫻井「今井から、ハッセイさんへの(笑)」
今井「ああ……意識はしてなかったですけど、結果的にオクターヴで、12弦で……。
重なるところがあるといえばありますよね」
――Lucyでの経験、もしくはそれに対する良い意味での反動みたいなものが、
曲作りのスピードを加速させたようなところもあるんじゃないですか?
今井「やりたいテーマはLucy以前からあったわけなんだけど、なんつーか、
切り替えにはけっこう苦労しました。
あのLucyの雰囲気からこっちに持ってくるのは、かなり……。
Kiyoshiくんも彼自身のことについて同じこと言ってましたけど」
――そこで浄化されるというか、
フラット状態に戻ってBUCK-TICKの曲作りに戻れるようなところもあったんでは?
今井「そうですね。
ガス抜きというか、そういう効果はあったと思う。
そこで癒されたわけじゃないけども(笑)、潤滑が良くなったところはあると思います」
――血がサラサラになる、みたいな(笑)。
今井「ええ。らっきょうみたいなもんで(笑)」
――2曲とも映像的な楽曲だと思うんですか、
今井さんが曲を作る時点でアタマのなかにも特定の風景があったんでしょうか?
今井「むしろ「DIABOLO」のほうがそうですね。
悪魔の手下みたいのがいて、人間界に降りてって、
だっさーいバンドをバックに二枚目風に歌ってる、みたいな(笑)。
そういう映像が浮かんできました。
精一杯頑張ってんだけど、演奏がチンドン屋、みたいな(笑)」
櫻井「さっきも出た会議中に、そういった具体的なシュチュエーションとか聞いて。
そのすごくイメージがはっきりして、自分のなかでもつながった感じでしたね」
今井「逆に「ROMANCE」のほうはそういう作り方ではなかった。
このイントロとか全体にあるリフは、けっこう前からストックとしてあって。
そのコード感とか雰囲気とかは今回使えそうかな、と。
そこから作っていった感じですね」
櫻井「最初に「ROMANCE」を聴いたときの印象としては……、
やっぱりゴシック・ホラー的なイメージでしたね。
たとえば『オ―メン』だとか、ああいった色トーンで物語を進めていければいいな、と思いました。
“優しい”なんて言うと可愛らしい感じを受けてしまうかもしれないですけど、
穏やかさのなかに何かを注入していくというか、
そこにさまざまアイデアを封じ込めて個性を与えていくというか。
穏やかなまま終わるんではなくて。
そういう発想で臨んだ曲ですね。最初に聴いたときの自分の印象を大切にしながら」
――でも「ROMANCE」って、本当にいい曲だと思うんです。
実際“名曲誕生!”みたいな手応えもあったんじゃないですか?
今井「自分ではわりとそうだったんですけどね。
会議のとき、レーベル側からは“普通っぽい”って言われて、
“ああ、そっかぁ”って(笑)。
なんか、今までになかった流れが求められてたところもあったんで、
こっちは逆に“じゃシングルは「DIABOLO」で”って言い返したんですけど…
…なんか結果、怖気づいたみたいで(笑)、
“やっぱり「ROMANCE」がいいです”みたいなことになって」
――新しいカタチをした音楽を発明しようとかそういう欲求じゃなく、
純粋にいい曲を作りたいという気持ちで作られた曲なんじゃないか、と僕は感じました。
今井「ええ。
あと今回は尖ったものっていうか、そういうのとは全然違う再度での発想なんで。
実際そういうことは今までやったことなかったから、
そういう部分ではBUCK-TICKとして新しいかもしれない」
――確かに。ところでアルバム・タイトルについて。
まさに妄想癖を刺激せずにおかないというか、
“……何?”と思わせるたたずまいをしてますよね。
今井「もうホント、狙ったのはそこだけなんです。イメージだけ。まったく意味ないんで」
――『十三階は月光』という架空の演劇、映画のタイトルでもあるってことですよね?
今井「ええ。それ風なものにしたかった。
もうホント、タイトルについてはイメージというか記号というか。
演劇風ないい言葉ないかなって考えてただけなんで」
――アートワークもPVもトータルにその“架空の物語”を体現するものなわけですよね?
そしてツアーでも……。
今井「それはまだですね。具体的には。
あっちゃんのなかではアイデアが膨らみ始めてるかも知れないですけど」
櫻井「やっぱりスタジオに詰めつつも、ふとそっちに意識が向かうことはありますね。
みんなの意見も反映させながら、今、自分で思い描いているものに、より近いものが体現できればいいな、と」
(以上、引用抜粋)
‡‡‡‡‡
「月明かりだけに許された」
「ROMANCE」、ひいてはアルバム『十三階は月光』のコンセプトは、
この増田勇一の
「ゴス云々以前に、“櫻井さんのソロ作品を今井さんがプロデュースしたらどうなるのか?”的な発想」
に尽きるのではないだろうか。
今井寿は、こうも語る。
「BUCK-TICKは、……やっぱり、あっちゃん。あっちゃんなんだよ」
当時、各雑誌メディアでも頻繁に引用されていた「今井寿プロデュース/櫻井敦司ソロ作品」が、
この「ROMANCE」の正体であったのかも知れない。
誤解を恐れずに言えば、ソリッドで個性的な音の立った星野、樋口、ヤガミの演奏も、
そして、コンポーザーである今井寿本人すら、
出来得る限りその個人の自己主張を抑え、月影に包み込むように、
すべてを、櫻井敦司の「ROMANCE」に“献身的”に捧げているように映る。
やはり、この『十三階は月光』の一連のプロジェクトは、
これまでのBUCK-TICKキャリアとは、まったく、違った輝きを放っていた。
そして、それは、奇しくも結成20周年という節目と重なったが、
その後の、BUCK-TICKとも、また、違った“色”を放ったと言える。
在りそうで、無いもの。
そんな、身近な存在の価値に気付く瞬間。
人間は、測り知れない“飛躍”を達成するのかも知れない。
そこに、在ったBUCK-TICKの姿は、ソソリ立つ個性の激突による、
それまでの、苦悩する魂でもなければ、疾走するミュータントでもなかった。
不純物を全て削ぎ落とし、ギラリと鈍く光る。
神々しいまでに、完成し尽くされた世界。
ヒトなるものの情動の入り込む隙間すら存在しない。
完璧なるBUCK-TICKの世界が、そこには、 在った。
ROMANCE
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
月明かりだけに許された
光る産毛にただ見とれていた
眠り続けている君の夢へ
黒いドレスで待っていて欲しい
ああ 君の首筋に深く愛突き刺す
ああ 僕の血と混ざり合い夜を駆けよう
月夜の花嫁
天使が見ているから月を消して
花を飾ろう綺麗な花を
ああ ひとつは君の瞼の横に
ああ そしてひとつは君の死の窓辺に
闇夜の花嫁
ああ こんなに麗しい跪き祈りの歌を
ああ 今夜も血が欲しい闇をゆき闇に溶け込む
ああ こんなに麗しい跪き祈りの歌を
ああ いつしか腐りゆく跡形も無く消えてゆく
ROMANCE
