【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】の視覚的演出で構成された本編とは対照的に、
2回目のアンコールではステージ右手のスタンド席の扉からメンバー5人が現われるという
サプライズな登場でファンを湧かせた彼らは、客電の点灯するなか「PHYSICAL NEUROSE」で、
鬱屈した観衆の魂をストレートなビートで解放した。




遂に、【悪魔とフロイト】も最後の一曲に差し掛かろうという瞬間、
櫻井敦司が、オーディエンスに語りかけた・・・

「最後の曲の前に、皆に相談があります。

 9月11日ということで……
 こんなことやらないで済めばいいんだけど、
 死んじゃった人たちに黙祷を捧げたいと思います。

 良かったら、皆も…では、黙祷…」


この櫻井敦司のMCを受けて、BUCK-TICKメンバー5人と
この【悪魔とフロイト】運営および撮影スタッフ数十名、
そして横浜アリーナに集結した一万人のオーディエンスとで
一分間の黙祷が捧げられた。


想えば、BUCK-TICKは成長を遂げ、
耽美的デカダンスを追求した12年前の【Climax Together】から、
この【悪魔とフロイト -Devil&Freud- 】までに、
人間の奥底にあるヒューマニズムをも表現しえる実力を備えたバンドとなった。

その根源的、衝動の動機は、“愛”と“心”であろう。


黙祷終了後、

「ありがとう。 感謝します。

 では、今日は、来てくれてありがとう。
 じゃあ、あと一曲…」



櫻井敦司のお気に入りの一曲が、最後にエントリーした。


「COSMOS」。


これには、誰も異論なかろう。



神話世界でも、フロイト博士の“死の本能”タナトスと“愛の本能”エロースの葛藤が、
人と神々の物語として、多く綴られている。


エロース(愛の神)のエピソードも、ヘレニズム時代になると、甘美な物語が語られるようになる。
『愛と心の物語』も代表的なエピソードのひとつで、
地上の人間界で、王の末娘プシューケーが絶世の美女として噂になっていた。
母アプロディーテーは美の女神としての誇りからこれを嫉妬し憎み、
この娘が子孫を残さぬよう鉛の矢で撃つようにエロースに命じたのだ。

しかしエロースはプシューケーの美貌の寝顔に魅かれ、鉛の矢を撃ち損ない、
更に動揺したエロースは誤って金の矢で己の足に傷つけてしまう。

その結果、眼前に居たプシューケーに恋をしてしまうが、エロースは恥じて身を隠す。
激しい情愛を抑えられないエロースは、魔神に化けてプシューケーの両親の前に現れ、
彼女を生贄として捧げるよう命じた。

この虚構の末、プシューケーと同居したエロースであった、
神であることを彼女に知られては禁忌に触れるため、
暗闇でしかプシューケーに会おうとしなかった。
姉たちに唆されたプシューケーが灯りをエロースに当てると、エロースは逃げ去ってしまった。

エロースの端正な顔と美しい姿を見てプシューケーも恋に陥り、
人間でありながら姑アプロディーテーの出す難題を解くため冥界に行ったりなどして、
ついに愛するエロースと再会を果たすのだ。

プシューケーとはギリシア語で、“心”の意味であり、
強き“愛の心”が、障害を超えて、実る姿を表し、『愛と心の物語』となった。


“愛”と“心”で、闇を葬り去ったのだ。


「何故に僕たちは生きる 暗闇走る様に愛さえ見失う」

まるで、この神話世界を唄う「COSMOS」。

映像作品としては、1998年の日本武道館公演『SWEET STRANGE LIVE FILM』での、
機材トラブルから、櫻井敦司のアドリヴからアカペラで唄う「COSMOS」と、
2002年のベイNKホール最終公演での『BUCK-TICK TOUR2002 WARP DAYS 20020616 BAY NK HALL』に、
収録されるバルーンが舞い降りる中の大合唱の「COSMOS」と共に、
この【悪魔とフロイト】のシリアスな【Climax Together】に“愛”と“心”を振りまいた。


「感じるかい僕の声 感じてるそれが愛」


MIDIから流れる幻想的のサウンドから、
一転、今井寿は、スタンド固定されているフェルナンデスを掻き鳴らす。
受け身では、駄目だ。
能動的に愛さなければ、この遺伝子は“Loop”しない。
タナトスとエロースの葛藤を乗り越えて、行き着く底は“愛”の“心”だ。


僕とあなたの障害を乗り越えて、行こう。



「君に似てる 愛だけがそこにある」



大合唱の中に“愛”は、昇華し、BUCK-TICKは此処に帰ってきた。

まこと「COSMOS」は「秩序・宇宙」の創造である。
観測によれば、宇宙はおよそ137億年前に誕生したとされる。
その受胎もまた、“無”から“有”が生み出される“愛”が必要だったのだろう。



そして・・・



「すべての亡骸に花を すべての命に歌を」
――「COSMOS」のエンディングでステージ後方のスクリーンに映し出されたこの言葉は、
彼ららしく耽美的でありながら、かつヒューマニズムを象徴する“愛”溢れるメッセージだった。


「COSMOS」が終り、肩を組むU-TAと櫻井。

「素晴らしいみんな。
 素晴らしいお客さんだ。
 また逢いましょう。
 最高だね」

と言って、ステージを後にする櫻井敦司。
演奏を終え、立ち去る今井&ヒデ。

そしてアニイのドラムヘッドが宙を舞う。


横浜アリーナは、暗転し、この“文字”だけが浮かび上がる。









「すべての亡骸に花を すべての命に歌を」  












【ROMANCE】



そうだね…。
花も、歌も、ずっと“Loop”するから…。








COSMOS
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


僕を狂わせて欲しい 小さな手の平には永遠の様な世界
何故に僕たちは生きる 暗闇走る様に愛さえ見失う

感じるかい僕の声 感じてるそれは愛

コスモスが咲き乱れる この世界の果てに
血にまみれた 愛だけがそこにある
見えるかい子供達よ 歌 唄いながら
君に似てる 愛だけがそこにある

六日目の朝に出合った 白へ匕が見る夢は全て消えた世界
感じるかい僕の声 感じてるそれが愛

コスモスが咲き乱れる この世界の果てに
血にまみれた 愛だけがそこにある
見えるかい子供達よ 歌 唄いながら
君に似てる 愛だけがそこにある

コスモスが咲き乱れる この世界の果てに
血にまみれた 愛だけがそこにある
見えるかい子供達よ 歌 唄いながら
君に似てる 愛だけはそこにある



【ROMANCE】


【ROMANCE】