【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】二回目のアンコール。
ステージバックの巨大スクリーンモニターにメンバー映像が映し出される、
何処が映し出されているのか、横浜アリーナの大観衆も気付いていなかったようだ。
楽屋風景か?一瞬、同郷の先輩バンドBOOWYの解散宣言コンサートが脳裏を過ぎる。
渋谷公会堂のクリスマス・イヴのワンシーンだ。
しかし、照明がそれを横浜アリーナのステージ側入り口の風景と知らせてくれる。
今井側花道バルコニーの上部に位置する入口からメンバー5人が順々に階段を下りてくる。
横浜アリーナの大観衆が、驚愕とともに大きな声援を贈っている。
最初に登場したのは、サービス精神旺盛な兄弟…
人懐っこい笑顔の樋口“U-TA”豊。
はやくもピックを客席に投げ込んで、笑顔を振りまいてくれる。
樋口“U=TA”豊は、全身に活動再開の喜びを表すようにオーディエンスに手を振る。
ヤガミ“アニイ”トールは、この日、一人だけ明るい紅白の衣装の背中に、
“-Devil and Freud-”のタイトルを背負いでいたのだが、
アンコール登場時は、黒いコートでそれを蔽い嬉しそうに笑っている。
その手には、ライヴではお決まりプレゼントのドラムヘッドがしっかり握られている。
最後の最後まで、この二人がバンドの底辺を固めている。
今夜も果てるまで、疾走しよう。
お次に登場したのは、二人のギタリスト。
左右対称のツインズ・ギターは、今宵も幽玄な世界観を如何なく披露してくれた。
いつものように照れくさそうに手をあげて今井寿はそそくさとステージに向かう。
いつまで経っても、この人はかわらないなぁと観衆も拍手で迎える。
このシャイな天才は、ステージに上がると豹変し、神々しい光を放つ。
その顔は天使か?悪魔か?今井寿。
星野英彦は、いつものナチュラルな笑顔で、ファンたちに応えている。
いつもの“ヒデ”だ。
どんなに過酷な状況でも、どんなにシリアスなシーンでも、
ヒデの平常心が、我々を、BUCK-TICK、を救ってくれる。
ヒデがいれば、大抵の事は、大丈夫だ。
そんな存在感が、迸る。
BTが還ってきた。
そんな暖かい声援を受けながら、階段を下るメンバー。
一番最後に、櫻井敦司が登場し、眩しそうに手を翳して、照明の向こうの観衆を見つめている。
「うん。還ってきたよ」
そんな表情を見せると、ゆっくり丁寧に階段を降りる櫻井。
ステージ手前では、コクリとお辞儀して、ステージに上がった。
「いろいろ活動がありましたが、またよろしくお願いします」
嗚呼、また、僕達は、BUCK-TICKの世界に浸っていいのだ。
奇妙な安堵感が胸を熱くさせる。
こちらこそ宜しく、と。
この横浜アリーナに居た誰もが、胸の内で答えていただろう。
「じゃあ、早いの、いこう!」
9月11日という特別な日付に行われた【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】
ここで演奏されたのは、
「PHYSICAL NEUROSE」!
12年前、一度目の【Climax Together】以前にリリースされた楽曲としては、
結局、この今井寿の永遠のビートが刻まれる「PHYSICAL NEUROSE」と、
この【悪魔とフロイトの宴】でも、最も印象深かった一曲「JUPITER」の2曲のみであった。
年末恒例の【THE DAY IN QUESTION】に慣れてしまった我々には、
少し意外なエントリーかも知れない。
しかし、シリアスなセット・リストの【悪魔とフロイト】だからこそ、
この普遍的なBUCK-TICKのビート・ロックが、弾け飛ばないわけがない。
深淵な展開と活動再開のプレッシャーに鬱積されたファン達の魂も、ここに解放されたと言って過言でない。
この日、一番の盛り上がりを見せた「PHYSICAL NEUROSE」は、
ライヴ【ONE LIFE,ONE DEATH CUT UP】のアンコール時同様に、
最高のプレゼントとになったと言える。
5年前も【ONE LIFE,ONE DEATH CUT UP】のアンコールで、
この一曲を演ろうと発案したのも、今井寿であったらしい。
そして、今宵の【悪魔とフロイト】では、
ライヴの定番と化していた「Baby,I want you.」「唄」「Ash-ra」も
エントリーされていなかったのだ。
そこに、この「PHYSICAL NEUROSE」は、峻烈に響いたに違いない。
熱い情念が、弾けて飛び散った。
Tell me now 誤ちなのか、永遠の眠り神々のもとへ。
Suicide 全て消えゆく、鮮やかさそのまま裏切れたらいい。
「PHYSICAL NEUROSE」は今井寿の造語で、
ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)によって創始された精神分析学上にも、
詳細を見つけることは、出来なかった。
精神分析学は人間心理の理論と治療技法の体系を指し、
広義には、フロイト以後の分派を含めた理論体系全体も指す。
19世紀後半のヨーロッパでは、ヒステリーをはじめとする神経症は、
精神科ではなく内科の診断領域であった。
ヒステリーの研究で有名だった神経学者であるジャン=マルタン・シャルコー(Charcot,J.M.)は、
パリでヒステリー患者に催眠をかけ、ヒステリー症状が現れたり消えたりする様子を一般公開していた。
1885年、そのシャルコーのもとへ留学してきたのが、
のちに精神分析を創始することになるジークムント・フロイトであった。
当時のフロイトは自然科学者・神経学者であり、
主にヤツメウナギの脊髄神経細胞の研究や、脳性麻痺および失語症の臨床研究を行なっていた。
1886年、フロイトはウィーンへ帰り、シャルコーのもとで学んだ催眠を用いるヒステリーの治療法を
一般開業医として実践に移した。
治療経験を重ねるうちに、治療技法にさまざまな改良を加え、
最終的にたどりついたのが自由連想法であった。
これを毎日施すことによって患者はすべてを思い出すことができるとフロイトは考え、
この治療法を精神分析(独: Psychoanalyse)と名づけた。
のちに1990年代のアメリカで起こる記憶戦争は、この時代のプロセスが下地となっている。
[wikipedia参照]
そして、今井寿がタイトルに用いた“neurose”は、
精神医学用語としての「神経症」のことを指す。
英語ではneurosis(ニューローシス)という。
日本において、一般の人が「ノイローゼ」と言う場合、
神経症以外の多種多様な精神疾患のことも含んでいることが多い。
例えばちょっと悩んでいる、という状態から、
統合失調症(※de:Schizophrenie、en:schizophreniaと呼ばれ、
BUCK-TICK楽曲「Schiz・o幻想」に用いられた)のような重篤な精神疾患までもが
「ノイローゼ」と呼ばれることがある。
このように「ノイローゼ」という言葉は、多種多様な疾患を含んでいるため、
混乱を避けるために精神医学の分野では通常使用しない。
そんな禁句的のワードを持ち出す今井寿の特異性…。
初期のパンキッシュで、弾ける永遠のビートを封じ込めた一曲にも、
深い今井寿の思考の渦は、フル回転していたのだろう。
ジャック・バロウズに影響を受けたデヴィッド・ボウイのカット・アップ手法が生かされたような、
その断片的の言葉使いも見事に、精神の混乱を表現し切っている。
今井寿の深い造詣に、溜息が出るばかり、である。
12年前を振り返っても、神:今井寿は、【Climax Together】をこんな風に語っている。
(以下『ARENA』誌より引用抜粋)
――前作の『殺シノ調べ』からツアー、そして今回のヴィデオっていうのは、
今までの流れから見ると、BUCK-TICKの一つの集大成というか、大きな区切りで、
この次でまた大きく変わるんじゃないかと期待してるんですが。
「自分にしてみれば別に集大成っていう意識はないんですよね。
ただ、このヴィデオは作品として凄く気にいってるし、
個人的にはこのヴィデオが
けっこう次のアルバムに繋がる要素もあるんじゃないかと思ってるんですよね。
具体的にどこがっていうんじゃないんですけど、
自分の中で気持ち的にこのヴィデオからの影響が残ってるから」
――そのニュー・アルバムなんだけど、予定ではいつ頃からレコーディングに入るの?
「とりあえずはそろそろ曲を作り始めて、実際スタジオに入るのは来年の1月、2月頃ですかね」
――もう曲のアイデアとか、ある程度は固まってるの?
「まだホントに、全くゼロに近い状態ですね。
自分自身の中でおぼろ気ながら感じがつかめるかどうかってぐらいですから。
ホントに細かいフレーズが何個かあるっていうぐらいで、まだ1曲もできてないですからね。
ただ今度はかなり大胆な事をやろうと思ってます。曲調も含めて、
今までこういう曲って全然やった事なかったよねっていうような。
例えばリズム隊はもっと重くてとか、まだやった事のないパターンのビートとかいっぱいあるから、
そういうのも考えているんです」
――でも、これまでに築き上げて来たBUCK-TICKのイメージとかが強いから、
そんなに大きくは崩せないんじゃない?
「その辺は全く意識せずに、自然に崩れちゃうなら、崩れてもいいと思ってるんですよ。
もう最近は、自分がカッコいいと思ったら躊躇せずにとりあえずガーッとやってみちゃうって感じですからね。
あんまり自分を規制しないで、とにかく思い付いたらやってみるってことが大事だと思うんですよ」
――星野くんとのギターのコンビネーション・プレイも、かなりスタイルが固まってきたというか、
完成したような気がするんだけど、もっと新しいパターンでやってみたいとかってない?
「それは出来上がった曲次第ですね。
ギターのアレンジもデモ・テープの段階で俺抜きでもパートはキッチリと分かれてるから、
その兼ね合いもあるし、ケース・バイ・ケースでやっていくっていう感じですね」
――そういえばソロ・プロジェクトとかでアルバムを作ってみるとか、そういう計画はないの?
「それは、SCHAFT(シャフト=ソフト・バレエの藤井麻輝とのユニット)で考えてるんですけどね。
とは言っても、まだ何も具体的な予定はないんですけど、
来年は何とか暇を見つけてやってみたいっていう気持ちはあるんですけどね。
ただ来年はBUCK-TICKのレコーディングと、ツアーも少しこまめにやろうかなと考えてるんで、
実際、どのぐらい時間が作れるか分からないですけどね」
(以上、抜粋引用)
櫻井敦司が【Climax Together】を、ある種BUCK-TICKの完成形であり、
ひとつの終止符と位置付けていたのとは対照的に、
今井寿は、この【Climax Together】を
BUCK-TICKの明日に繋がる起爆剤として見ていた帰来がある。
まさに、“終わるモノと始まるモノがクロスする絶頂”を、
メイン・パースンである櫻井と今井で、体現していたのかも知れない。
そして、今井寿の、この柔軟性こそが、
次から次へと、新たなる音楽への飽くなき挑戦として連なっていくのであろう。
今回の【悪魔とフロイト】も、彼にとっては、通過点に過ぎなったのかも知れない。
そして、次なる一大プロジェクトの構想がその頭の中を渦巻いていたに違いないのだ。
それは、相坊の櫻井敦司すら、驚かせる形で進行して行く。
BUCK-TICK史上初のトータル・コンセプトという形で・・・。
PHYSICAL NEUROSE
(作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
CATASTROPHEで生まれた天使は OH OH OH VAMPIRE
夢からさめたら グレゴール・ザムザは OH OH OH METAMORPHOSE
AH AH FIXERは HEAD ACHE, HEAD ACHE
AH AH SISTERは HEAD VOICE, HEAD VOICE
IT'S PHYSICAL NEUROSE OH TOO BLUE SKY
SCHIZOPHRENIAは管理されたまま OH OH OH HOW ARE YOU
AIR HEADの THERAPISTも OH OH OH FINE THANK YOU
AH AH FIXERは HEAD ACHE, HEAD ACHE
NAUGHTY CHILDRENは HEAD VOICE, HEAD VOICE
IT'S PHYSICAL NEUROSE OH TOO BLUE SKY
AH 少しずつ SADNESS HEART IS RUN MAD
AH 少しずつ SADNESS HEART IS RUN MAD
AH AH FIXERは HEAD ACHE, HEAD ACHE
AH AH SISTERは HEAD VOICE, HEAD VOICE
IT'S PHYSICAL NEUROSE OH TOO BLUE SKY
AH AH FIXERは HEAD ACHE, HEAD ACHE
NAUGHTY CHILDRENは HEAD VOICE, HEAD VOICE
IT'S PHYSICAL NEUROSE OH TOO BLUE SKY
AH 少しずつ SADNESS HEART IS RUN MAD
AH 少しずつ SADNESS HEART IS RUN MAD

