黒の悪魔は、白衣のフロイトに言った。
「……仏陀は……死は無だと言ったって……」
それは、輪廻転生の、来世はないという思想。
そういう考えには夢がないと感じる人は、
人生に痛痒(つうよう)を感じないで、自我(エゴ)を通せた人々である。
そのような人々は、来世も同じもの求めようとして、死を恐怖する。
しかし、貧困が大半の時代や、精神的な痛みを知る人々や、老齢で生命の黄昏を実感できた人々は、
来世も生きなければならないという想像は、苦役になる。
無とは空(くう)。
知覚さえしない無は、虚無という言葉も含有しない無。
故に、無とは、圧倒的静謐。
「己は空」という道を説いた仏陀の教えは、
命の安心の在り様を示したものだから、尊(たっと)く、
永遠に死ぬことのない輪廻転生は、苦しみから解脱することのない地獄。
だから…
“Loop”しよう。
【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】
アンコールの2曲目に登場した「BRAN-NEW LOVER」は、
横浜アリーナの大会場に客電も点灯し、演奏された。
「月世界」の宇宙(ソラ)の旅で、星々のエロスとタナトスをも体験させたBUCK-TICK。
そう考えると、宇宙の歴史も、人間の歴史も基本は同じ道を辿るのかも知れない。
「BRAN-NEW LOVER」は、今井寿のポップなメロディが、小気味よく弾け、
明るく楽しい空気感であるが、櫻井敦司はこの楽曲に、世紀末の終焉とも言える歌詞を載せた。
この歌詞の内容は、これも“死”をモチーフとする楽曲と言えるであろう。
【悪魔とフロイトの宴】の二回目の【Climax together】は、
このモチーフがメインと言えるのだろう。
否、二回行われた【Climax together】のモチーフ自体が“殺シノ調ベ”なのだ。
“死”は、同時に“生”を連想させる。
ちょうど、「HEAVEN」と「GALAXY」の邂逅がそれを示唆するだろう。
12年前の【Climax Together】は、BUCK-TICKの確立された個性と、
ライヴ・バンドとしての力量をダイレクトに伝える優れた映像作品だ。
トータル観のある明確なイメージを打ち出せた背景には、
櫻井敦司が中心になって決めたという選曲による部分も大きいが、
逆に言えば、櫻井個人によるBUCK-TICKベスト……
このバンドの集大成作品という見方も可能だ。
12年前のインタヴュー時に、
それとなく訊いた「一番やりたい曲だけ好みで選んだんじゃないの?」という質問に、
「まあ、ホントそうですね」と言って櫻井敦司は笑った。
しかしながらこの映像作品には、
かつてのどの作品よりもBUCK-TICKらしさの核心(魅力、個性)が、
最も深く刻み込まれていることだけは間違いない。
正直、この2004年9月11日【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】公演時は、
賛否両論であるという評価もあった。
それは、【TOUR2002 WARP DAYS】以上に、シリアスな楽曲が並ぶセット・リストのせいかも知れないし、
セックス・シンボルとして君臨していた櫻井敦司の入籍報告と、左手の薬指のせいかも知れない。
巨大な横浜アリーナを埋める大観衆も、久々のBUCK-TICKの登場に、
そして、少しバンド・イメージと違和感を感じる“反戦”という現実に直面したテーマに、
12年前に感じた、踏み絵的な突き放すような空気を感じていたかも知れない。
しかし、このアンバランス違和感こそBUCK-TICKという存在の醍醐味でもあるのだ。
「最高の瞬(とき) 未来は君の胸で溶けちまえばいい
悲しい夢も 未来も君の胸で消えちまえばいい 」
ポップなメロディが、終末の舞台へと誘う「BRAN-NEW LOVER」。
すべて、溶けて、消えれば、そこの安堵と静寂のタナトスが待つ。
だから、怖がらず目を閉じ抱き合っていよう、と。
星野英彦はバルコニーに跳ねるように駆け寄り、ファンたちに投げかける。
「これが、俺達なんだ」と。
樋口“U-TA”豊が、リズミカルに首を揺らしながら、
このポップなリズムと同化していく。
独特なリズム感で御得意のマイマイ・ダンスを決める今井寿が、
花道の昇ると、星野英彦、櫻井敦司も其処に駆け寄り、
フロント3人が肩を組む。
「パンドラの箱を今 アケハナテヨ
千切れ欠けてメビウスリングトキハナトウ 」
櫻井敦司は、星野側バルコニーの柵を跨ぎ、オーデイエンス囁きかける。
「人間にはさようなら いつか来るじゃない
この宇宙でもう一度 会える日まで... 」
そうだ。また逢える。
仏陀の言う通り、輪廻転生は、苦役である。
だから“Loop”は、本人に意識外で行われる。
次に生命を授かった時に、過去の記憶は、恐らく無い。
タナトスがそうさせるのか?エロスがそうさせるのか?
それは、“生命”の尊厳性を高める為かも知れない。
だから、全く別人となって、全く別の人生を歩むのだ。
そして、そこで出逢う、愛する人との再会もまた、
本人同士の意識の外で、行われる。
だから…、僕達は、何度、出逢っても…「BRAN-NEW LOVER」。
いつも、いつも、いつまでも、BRAN-NEW LOVERSのままだ。
嗚呼、あなたの×××が聞こえる……。
BRAN NEW LOVER
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
北風が全てをさらってしまう
怖がらず目を閉じ抱き合っていよう
最高の瞬間 未来は君の胸で溶けちまえばいい
君が泣き出すなら雨へと変われ
君が見えなくなるなら闇夜に染まれ
悲しい夢も 未来も君の胸で消えちまえばいい
パンドラの箱を今 アケハナテヨ
千切れ欠けてメビウスリングトキハナトウ
世界ノ終わりなら 真夏の海辺
怖がらず目を閉じ抱き合っていよう
最高の瞬 未来は君の胸で溶けちまえばいい
悲しい夢も 未来も君の胸で消えちまえばいい
人間にはさようなら いつか来るじゃない
この宇宙でもう一度 会える日まで...
パンドラの箱を今 アケハナテヨ
千切れ欠けてメビウスリングトキハナトウ
人間にはさようなら いつか来るじゃない
この宇宙でもう一度 会える日まで...

