「なぜ?雨になりたいか、って?」

「あなたに逢えるからさ」



2004年9月11日、横浜アリーナ
【悪魔とフロイトーDevil and Freud-Climax Together】。
ステージ・バックの巨大スクリーンには、粛々と雨が降り出した。
この雨が、戦場跡の焼け野原を、優しい父や母の燃えた大地を洗い流す黒い雨。
「極東より愛を込めて」の愛と死、激情と…
「無知の涙」の世界中を焼き尽くす“大義の炎”を…
沈静化する“月の雫”だ。


祈りは空を目指す、救いそれは雨に変わる。
雨になって、燃え尽きた僕の命は、
愛しいあなたのもとへ、降り注ぐ。


フロイト博士が説いていたのは、エロスとタナトスは、
二つが表裏一体の本能であるということだ。
どちらか一つだけが、機能し、存在することはありえない、という真実。

それは、“光”と“闇”、
そして、“愛”と“哀”と一緒で、
“生”がなければ、“死”が存在しないのは当然のことであるが、
“生”もまた、“死”という無限がなければ、この有限性に価値と見出すこと出来ない。

エロスがあって、タナトスが発動し、
タナトスの欲動が、エロスの欲動を再び目覚めさせる。

どうして生きているのか?
この質問に答えられるのは、「死の心構え」がなくては答えられない。
よって“死”こそが、“命”を際立たせる存在なのだ。

だから、“愛”も“死”も必然であり、必至なのだ。

※※※※※

晴れの日と、雨の日があるように、
戦闘の業火も、黒い雨が覆い尽くす。
そこに、復興の“火”がまた灯るのだ。

エロスとタナトスは、“Loop”する。

それ以上でも、それ以下でもない。

“正常”があるからこそ、“異常”も存在するのだ。
そもそも、誰が、それを正常だと決めたのか?

もしもこの狂った世の中に、“異常”と“正常”が存在するというのなら、
世界は“異常”の中のごく一部の価値観を多数決をもって平板化してみせて、
それを“正常”と名付けただけである。

これを少し前はグローバル・スタンダードとか標準的価値観と呼んで、
ついこの間まで、これに追随できないものは排除された。

しかし、その“正常”が普遍的ではないことは、歴史が証明している。

精神分析学は、この“異常”ばかりに神経症などの精神病をあて、
“正常”のほうに健康と思われる精神状態をあてたのであるが、
この二つの状態で何が異なっているかといえば、
正常(健康)とは、異常(症状)のうちのごくごく流布された社会的な症状であるということだけなのだ。

殊にエロスとタナトスにおいては、
何が異常で何が正常であるかさえ、さっぱりわからない。
そこを分別できないことが、エロスでありタナトスの本質であるからだ。

そのくせ、人間は自分のなかの突発的な衝動を抑え、
それが“正常”が貼りつけられたレッテルだけを信じて、
人生を勝ち負けだけと思うようになってしまった。
そう、飼いならされた。

そして、そのような標準的価値観が公正に並んでいるのが市場というものだと信じるようになった。

しかし、人間の情動や欲望がそんなもので収まらないことは、誰でも知っている。
フロイト博士はそこに鋭いメスを入れ、どんな欲望と本能の活動にも
必ずや抑圧された無意識がかかわっていることを暴いた。

この暴露、そう彼は真実を暴露したと言える。

しかし、この無意識下の抑圧をどうすればいいのか。
タナトス(デストルドー)それは病気なのだから治癒しましょうと、
精神分析医たちにまかせるのか?

それとも、それを皆で本能と割り切って闘争を続けるのか?


雨は、そんな尽きない人間の葛藤にも降り注ぐ。

答えのない思考の迷路の迷ったら、僕は、あなたに逢いたくなる。

「まるで影の移動 気付いたらそこにいて
 僕を隠れ家から 誘い出す」


雨になれれば、“WARP”して、あなたの処へ行こう。
瞬間移動だ。時空を歪めて、あなたのもとへ。
この衝動も、また、止められない。
夜がはみだして、身体が千切れても、惑星(JUPITER)が裏返っても、
誰も、僕のFLAMEを止められない。


「僕は雨に 這いずる銀色
 濡れた迷路で 探してる」



9月11日、星野英彦と今井寿のダブル・アコースティックが、
この迷路をドラマティックにシャッフルする。
巨大スクリーンが水面におちる月雫で波紋する。


嗚呼、僕の密室に、雨が降る…。




今夜は、一曲だけ、あの12年前に還り、
月の螺旋を駆け上ろう。
今夜、奇麗だよ月の雫で、汚れたこの体さえも…




「愛してくれるか?」




そう、雨に、夜に、キミに、想う…。




ノクターン RAIN SONG
 (作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


雨が降り出すと どこからか降りて来て
今夜も秘密のドアを叩く

まるで影の移動 気付いたらそこにいて
僕を隠れ家から 誘い出す

光よりも早いスピードで
衝動はどこへも連れてく


閉じ始めた情熱 雨が降る僕の中
傘をささない君 佇む

夜がはみ出して 惑星が 裏返る
君は夕暮れに 沈む 炎

僕は雨に 這いずる銀色
濡れた迷路で 探してる


Palala…

降り続ける 雨はカミソリ
キリギリスの唄が 震える

Palala…
Palala…

この世でただ一つだけ 光を超えるスピードで
想いは夜 駆け巡る 自由に夜 駆け巡る


【ROMANCE】


【ROMANCE】