「父よ母よあなたに感謝している」
(タナトス/BUCK-TICK)



「しかし、どのような死でもよいのではないただ一つの
 特別な死に向かって進むのだ」
(Sigmund Freud)



フロイト博士の考えるタナトスは、どうやら、単なる衝動的な死の欲望ではないようだ。



そもそも人間は死に逆らって生きている。
本来、自然な姿としての死は、静寂と安らぎをもたらし、魂を解脱させる。
だからタナトスは、休息や眠りとも似ている欲求なのかも、知れない。

だとしたら、エロスは、無理に“生”に留まろうとする欲動と言える。
自然の摂理に逆らうエネルギーが、生きることには必要なのかも知れない。

すなはち、エロスは緊張と躍動。タナトスは静寂と安堵。

ならば、静寂と安堵に回帰を図るのは、人間の、否、生物の必然なのだろうか?



2004年9月11日、【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】も、
いよいよ、その核心に迫りつつあった。

今井寿の才能が端緒に迸る狂気の「RHAPSODY」が、
この「Mona Lisa」であった。

バック・スクリーン一杯に映し出されたBUCK-TICKメンバーの目や口…。
ヴィジュアル・ショック【Climax Together】用に特別に創り上げられた映像である。
これが、唄う今井寿や櫻井敦司、
また演奏中のヤガミトール、樋口豊、星野英彦のドアップに切り変りながら、
カット・アップされる。
これは、迫力があった。


「眠れ明日が欲しいだろう 震え出したら夜明けまで待てない」


もし、明日が来ないとしたら…。
まさしく、“死”の恐怖こそが、この心境にあたるのではないかだろうか?
誰も、普段は、意識しない「死の本能(タナトス)」が、不図、頭を過ぎる…。

「死」と「眠り」は、同質の静寂と安堵をもたらすとしたら…
この“震え”はエロスの躍動なのかもしれない。

フロイト博士は【死への心構え】で死そのものに言及している。

曰く、我々は死が必ず自分に訪れることを認めなければならない。
われわれは死というものを嫌悪し、出来れば口にするのを避けたい、
必然的なものなどではなく事故とか疾病とかと関連付けて偶然的なものとして考えたいと
直接対決を避けている。

死を生の考慮のうちから排除しようとするこの傾向のために、
ほかにもさまざまな営みが断念され、排除されてきた。

だが戦争という人間が大量に死んでいく現象によって死と向き合うことになり
“生”が中身を取り戻したのだ。


櫻井敦司の顔面が“骸”となる。

「凍りつきそうなんだ 君のことを
 震えが止まるように 聞かせてよ」


エロス(生命)の震えが止まらない。
櫻井敦司は、だから、震えが止まるように、君のことを聞かせてくれ、と。

「教えて欲しい聞かせて欲しい 汚れているか おかしいか
 それでもかまわないか」


それは、すなはち、タナトスのトリガーが、彼に襲いかかっている情景が浮かびあがる。
「もういい。楽にしてくれ…。真実が明かされるなら…」
そんな、櫻井の声が聞こえてきそうだ。

「笑って欲しい見ていて欲しい それならここを撃ち抜いて
 くれてもかまわないさ」


そうだ。愛する君に逝かされるなら本望…。

モナ・リザよ
聞いてくれ。

ダン・ブラウンが言うんだ。
“マグダラのマリアが、ジーザスの子を産んだ”って。
“モナ・リザは、実は、マグダラのマリアだ”っていうんだぜ。
マジかよ。聖母マリアはヴァージンで、ジーザスを身籠ったというのに!
ダ・ヴィンチが描いた「最後の晩餐」には、その暗号(コード)が含まれている!って。
ソフィーがそう言うんだ!

舞台裏を覗けば夢は終わりさ。
時を止めてみたい思ったことが?
むせる様な匂いを残していった。
父よ、母よ、あなたに感謝している。

死後の世界に、天獄も地獄もない。
この狂った世界こそ、天獄であり、地獄だ。
だから…、安堵を得るためにわたしの胸に、タナトスの花。


“死後の世界”の設定は欺瞞と、フロイト博士は説く。

愛する人が死んでしまった時に、
身体は朽ちて行っても愛する人への思いが尽きないために
死後も別の形で存在していると考えるようになった。
こうして“死後の世界”における“生”という考え方が生まれたのである。

これもすべて“死”に“生の終焉”という意味を与えないようにするための工夫だった。

タナトスのしわざ・・・?



「死んでしまえ」という言葉の凶器がある。
「楽園」の民:現代人の無意識も他人の死の願望で満ちている。
口に出して言わないまでも、無意識下で本気で死を望むことがある。
当然、実行には至らない。
だが明確に相手を殺す、排除することが出来る社会ならば、
当然それが選択肢にあがってくるはずなのだ。
同時に自分の“死”という考えを拒否している。
最終的に戦争が存在するのは仕方がないことなのだから、
戦争に自分を合わせていくしかないのだろうか?

なんて【偽善】だ。

しかし、真実だ。

人間の歴史は、まさに戦闘の歴史(殺シノ調べ)だ。



フロイト博士は言う。
絶対的な「死の本能(タナトス)」の前に、

 「生に耐えようとすれば、死にそなえよ」

と。

“死の心構え”をもって、この“生”を突き進め。

それが、あなたの信念なら…、【偽善】でもいいだろ?



ジーザスの“隣人愛”は、本当なのか?
“アガペー”ではなく、“エロース”だ。
…それは、偽善だろうか?



『主は、マグダラのマリアをすべての弟子たちよりも愛していた。
 そして、主は彼女の口にしばしば接吻した。
 他の弟子達は、主がマリアを愛しているのを見た。
 彼らは主に言った。

「あなたはなぜ、私たちすべてよりも彼女を愛されるのですか?」

 救い主は答えた。

「なぜ、私は君たちを彼女のように愛せないのだろうか」』


(『フィリポによる福音書』 『ナグ・ハマディ文書』(荒井献訳、岩波書店)より)



Mona Lisaよ

マグダラのMariaよ

汚れているか?おかしいか?

それでもかまわないか?

お願いだBABY、触れていてくれ。

千切れ、破れ、壊れそうだ。



Mona Lisa
 (作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


眠れ明日が欲しいだろう 震え出したら夜明けまで待てない
I hear nothing see nothing say nothing
Kraus の Hyper opera voice song
響き渡る Adios Amigo ゴミの山あさる Alchemist
Long long ago 冷たい指 肉につき立て 二人が抱き合った

凍りつきそうなんだ 君のことを
震えが止まるように 聞かせてよ
凍りつきそうなんだ 君のことを
震えが止まるように 君のこと 聞かせてよ

教えて欲しい聞かせて欲しい 汚れているか おかしいか
それでもかまわないか
笑って欲しい見ていて欲しい それならここを撃ち抜いて
くれてもかまわないさ

サバンナが見渡せる丘 Son of a gun by oneself 泣き出す
そこにいるのか さわっていてくれ 体中が震え出した
構の奥まで鳥肌で埋まる 痙攣が抱擁 耳鳴りがしゃべリかける
Long long ago 生ぬるい雫 糸を引く もう二度と会えないんだ

凍りつきそうなんだ 君のことを
震えが止まるように 聞かせてよ
凍りつきそうなんだ 君のことを
震えが止まるように 君のこと 聞かせてよ

教えて欲しい聞かせて欲しい 汚れているか おかしいか
それでもかまわないか
笑って欲しい見ていて欲しい それならここを撃ち抜いて
くれてもかまわないさ

教えて欲しい聞かせて欲しい 汚れているか おかしいか
それでもかまわないか
笑って欲しい見ていて欲しい それならここを撃ち抜いて
くれてもかまわないさ
教えて欲しい聞かせて欲しい 汚れているか おかしいか
それでもかまわないか
笑って欲しい見ていて欲しい それならここを撃ち抜いて
くれてもかまわないさ


【ROMANCE】


【ROMANCE】