2004年9月11日【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】
「無知の涙」に続く、BUCK-TICK流“反戦歌”は、10枚目シングル盤「鼓動」のカップリング楽曲。
「楽園(祈り 希い)」
アルバム『Six/Nine』収録ヴァージョンはアレンジが全く異なり、
ハードロック調のアレンジになっている。
(※このシングル盤はアルバムと同様に、コーラン経典の逆回転が物議を醸し、回収騒動となった)
これは、前年デビュー16周年にして、初の日比谷野外音楽堂の2日間公演
【Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-】 のラインナップと同様だ。
この2曲が並んで演奏されると、彼らのやり方での“反戦”というモチーフが、
浮き彫りになるようだ。
アルバム『COSMOS』制作時、今井寿は、童話『北風と太陽』が、
イメージとして浮かんだと語ったが、何も強烈に“反戦”を叫ぶことだけが、
バンドの姿勢を表すことではない、と彼らに諭されているかのようだ。
しかし、この日(9月11日)ばかりは、様子が少し異なった。
この「楽園(祈り 希い)」の降り注ぐギター・リフの間奏中に、
櫻井敦司は、高らかに、叫んだのだ。
「武器を、捨てろ!!」
「死の本能(タナトス)」は、もう、どうしようもなく、人類を蝕んでしまった。
本能を制御できない生き物に、“道具”を持つ資格はない。
もう、そろそろ、認めろ、と。
人間の意思は、そんなに強くない。
“武器”を持つからタナトスに魅了される。
そんな“あぶない玩具”に弾を込めては、イケナイ。
後にアルバム『天使のリボルバー』の最後に収録される「REVOLVER」。
この同アルバムのキーワード・ソングとも言える楽曲で、
「悪魔共よ 地獄逝きさ」
と唄う櫻井敦司の絶叫
「Shootn it 突き刺す 弾切れREVOLVER
Shootn it 突き刺す 奴等の頭に
Shootn it 突き刺す あの子の祈りを
Shootn it 突き刺す あの子の願いを撃て!」
“弾切れREVOLVER”は、ここから流れ出る思想だ。
フロイト博士によると、この“武器”と“戦争”の関係も、
“道具”という文明社会の発展による欺瞞である。
「無知の涙」で唄われる、「大義の炎」も、
この文明社会発展の為と、加速する発明、進化の過程にある。
たしかに、研究者、化学者、発明家は、文明発達の為に、身骨を削り“道具”を生み出す。
しかし、それを使用する人間の意思は、“未熟”のままだ。
其処に、研究者の【偽善】への永遠の嘆きがある。
広島・長崎を襲った原爆を発明したのも、
アインシュタインという、独りの純粋な研究者という真実だ。
フロイト博士は、“戦争”に、この【偽善】は纏わりつく存在としてあげている。
【偽善】の役割は、文明社会は個人個人に、
許容量以上の善い行動をするように押しつけてしまい、
自身の力量を超えた生活を強いられているため、
人々は文化を維持するために【偽善】を駆使しなければならない。
としている。
現代文明社会は言わばこうした【偽善】に頼って構築されているのである。
また、これに関連して、前項で述べた“戦争への幻滅”の存在も示唆している。
実際には【偽善】で成り立っている文明社会であって、
文明に利器を行使する人間は皆が思っていたほど徳の高さを実現してはいなかった。
つまり“戦争”が起こったことに対して大きく幻滅するほど堕落してはいなかったのではないか?
という問いかけが沸き起こる。
櫻井敦司は唄う。
「愛の国ここは楽園 愛する人抱きしめ合う 永遠とも呼べる様な春
愛の土地花の楽園 平和に慣れ増え続ける これ以上何を求めてる」
この“愛の国”が、すべて【偽善】で成り立つとしたら…、
その構成員の一人である自分自身も【偽善】そのものではないか?と。
「楽園(祈り 希い)」へ捧げられる祈りと希いは、
その“真実”に気付けとばかりに、空に舞い上がり、我々に降り注ぐ。
そう“黒い雨”となって、“父も母も燃えた大地”に降り注ぐ。
欲望はどこまでも深く、それが文明社会を形作る。
そして、そこで産まれ出る【偽善】は「BUSTER」で唄われる“惡性遺伝子病”。
しかし、その報いを、いつか人類は必ず受けることになる。
その罪と罰の覚悟は出来ているかい?
そう問い質されているようで、胸が痛む。
それを自覚して、文明を使用している人間など、氷山の一角だろう。
だから、そんな“あぶない玩具”は、もう捨ててしまえ。
楽園では“弾”はもう手に入らない。
我々には空砲のリボルバーで充分だ。
「この僕は軽く涙流すふりで目を伏せた」
その報いにすら、目を伏せている自分に気付け。
“memento mori”死を想え。
そうすれば、感謝と祝福が溢れ出す。
「愛の国ここは楽園 愛し合い慰め合う よく似た顔が笑い合う
銃声に不治の病 愛し合い傷つけ合う それ以上何を求めてる」
愛しいあなたがいれば、それでだけでいい。
小さなことであるが、“足りる”ことを知ろう。
譲り合えば、必ず、余るのだ。
9月11日。
そして、この日には、花を捧げよう。歌を贈ろう。
それが、僕達に出来る“すべて”だった。
だから、今宵も、極東より愛を込めて、
「楽園(祈り 希い)」を唄おう。
そして、僕も偽善者だ。
あなたの無事だけ…、祈ってる…。
楽園(祈り 希い)
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
愛の国ここは楽園 愛する人抱きしめ合う 永遠とも呼べる様な春
愛の土地花の楽園 平和に慣れ増え続ける これ以上何を求めてる
見知らぬ街見知らぬ人 血を流し悲しみの目 ここでは夢の物語
テレビでは悲痛な声でまくしたてるメロドラマ
この僕は軽く涙流すふりで目を伏せた
神の子が殺し合う愛の園 この俺は知らん顔で夢を見る
愛の国ここは楽園 愛し合い慰め合う よく似た顔が笑い合う
銃声に不治の病 愛し合い傷つけ合う それ以上何を求めてる
優しい父も母も 燃えた大地黒い雨
この僕は軽く涙流すふりで目を伏せた
神の子が愛し合う愛の園 この俺は知らん顔で夢を見る
神の子が殺し合う愛の園 この俺は知らん顔でここにいる

