「君は名前をLove you そう告げた」
生の本能=エロスこそが、死の本能=タナトスに抗う唯一の本能であるならば、
我々は、エロス=愛を育まなければならない。
人間は、生物で、初めて自我のもとに、エロス=愛を意識的に生命の保存と結び付けた。
古典ギリシア語でエロース(Έρως)、すなはちエロスは、
受苦(パスシオン)として起こる「愛」を意味する普通名詞が神格化されたものである。
エロースは、ギリシア神話に登場する恋心と性愛を司る神でもある。
その後、ローマ神話では、エロースには、
ラテン語でやはり受苦の愛に近い意味を持つアモール(Amor)
またはクピードー(Cupido)を対応させる。
元々は、髭の生えた男性の姿でイメージされていたらしいが、
西欧文化では、近世以降、背中に翼のある愛らしい少年の姿で描かれることが多く、
手には弓と矢を持つ。
(※この姿は、本来のエロースではなく、アモールあるいはクピードーと混同された経緯がある)
エロースは、この性愛・生の本能を司る神となったわけだが、
もとは髭を蓄えた青年の姿をしていたが
クピードー(Cupido)として後に幼児化して、英語読みでキューピッドと呼ばれる小天使のようなものに変化したのだ。
まさしく、“恋のキューピッド”がそれである。
愛の化神、キューピッドが、この弓矢を使い、人間にエロス(生の本能)を蘇生させる。
黄金で出来た矢に射られた人間は、激しい愛情にとりつかれ、
鉛で出来た矢に射られた人間は恋を嫌悪するようになる。
この“愛の魔法”が、神話世界では、多くのエピソードを残している。
エロースはこの矢で人や神々を撃って遊んでいた。
ある時、アポローンにそれを嘲られ、復讐としてアポローンを金の矢で、
たまたまアポローンの前に居たダプネーを鉛の矢で撃った。
アポローンはダプネーへの恋慕のため、彼女を追い回すようになったが、ダプネーはこれを嫌って逃れた。
しかし、いよいよアポローンに追いつめられて逃げ場がなくなったとき、
彼女は父に頼んでその身を月桂樹に変えた
(ダプネー [daphne] とはギリシア語で、月桂樹という意味の普通名詞である)。
このエピソードが示す寓意は、
強い理性に凝り固まった者は恋愛と言う物を蔑みがちだが、
自らの激しい恋慕の前にはその理性も瓦解すると言う事である。
前段が長くなってしまったが、2004年9月11日の横浜アリーナにて展開された、
【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】において、
その愛らしい幻想世界を唄ったBTポップ・チューンの金字塔「キャンディ」は、
そのクピードー(Cupido)が、この会場に現れたかのような一瞬を我々にプレゼントしてくれた。
このクピードー=キューピッドが笑っているかのようなキャッチーなメロディが、
天使の愛と心の会話のようで、
「死の本能(タナトス)」の闇を銀河の彼方に葬り去ってくれる。
櫻井敦司に、「今井の笑い方ソックリ」と言われたイントロのギター・フレーズが、
アルバム『COSMOS』に収録されたヴォージョン同様に、膨大なノイズのオブラートに包まれ、
光輝く、“愛と心”の戦闘の様子を、我々に伝えてくれる。
今井寿は、Lucyで新調したBLACKマイマイを振りかざし、再びバルコニーの花道へと駆け昇る。
櫻井敦司は、“ヴァニラ”に愛撫を繰り返したルージュを唇に残したまま、
膝間付いて、愛を唄う。
このどうしようもなく、キャッチーなメロディが、BUCK-TICKの彷徨う暗黒世界に一閃の光となった。
一説には、ドラッグで、愛の幻覚を見ている楽曲という解釈も存在するが、
例え、発狂していたとしても、“愛”は確かに其処に存在した。
この「キャンディ」は「君のヴァニラ」で“エロースの本能”に目覚めたBUCK-TICKが、
言いかえれば、
フロイト博士の理論へ、BUCK-TICKという愛の悪魔が、一矢報いる姿が描かれたといっても過言ではない。
ステージバックの巨大モニターでは、神のその宇宙(SORA)を突き抜ける
象徴的なBGVが放映され、我々を銀河の彼方まで誘ってくれる。
横浜アリーナに集結した大観衆は、勿論、BUCK-TICKの味方…、
“愛の戦士達”だ。
こんなに、心強い味方はいないだろう。
「何も欲しくない 全ては目の前にある」
愛の前には、全てが無欲となる。
デストルドーという「死の欲動」すら同じ事だ。
「ああ 手足を目を無くし 心が
あなたの胸に触れた その胸に」
愛の力で、あなたの胸の密室に触れられたら…、
もう、僕には、なにも必要ない。
あなたこそが、その生きる欲動の目的になるからだ。
だから……
「黒の悪魔が 愛 呑み込んだ
目には見えない 全てを真実とした 」
僕は、その為だったら、神にも、悪魔にもなろう。
僕の理論は、きっと、破綻しているかも知れない。
僕は、狂っている? だが、“真実”だ。
あなたは、決して、僕の前から、居なくならない。
愛が、「死の欲動」の打ち勝つからだ。
そして、僕は、もう戦うことを決めたのだ。
“愛”が、僕の生きる意味だから。
「ああ 何もない この地球に
そう真っ赤な 花が一輪 咲いた この地球に
そう真っ赤な 花が一輪 咲いた この地球に 」
“幻想の花”をあなたに捧げよう。
この名もなき一輪の花が、愛の“FLAME”となって燃え盛る。
この“命”を燃やして、僕は、君と行こう。
神の導くままに、さあ、ふたりだけで、手を繋いで、突き抜ける…。
僕は、狂っているだろうか?
フロイト博士はこう語る。
「生きる意味や価値を考え始めると、
我々は、気がおかしくなってしまう。
生きる意味など、存在しないのだから」
BUCK-TICKも「die」でこう唄う。
「僕は両手を広げ 全てを許したいと願えば
君は空から降り立つ
真実なんてものは 僕の中には何もなかった
生きる意味さえ知らない 」
だから、理由なんて……いらない。
「キャンディ」。 君がいてくれれば、それで…それだけで…。
キャンディ
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
僕の箱庭にキャンディ しきつめて
「これが君だよ」と 優しく微笑みかける
ああ 何もない この地球にただひとり
愛する人が見えた この地球に
君は名前をLove you そう告げた
何も欲しくない 全ては目の前にある
ああ 手足を目を無くし 心が
あなたの胸に触れた その胸に
僕はいきたい 神の導くままに さあ ふたりだけで 突き抜ける
黒の悪魔が 愛 呑み込んだ
目には見えない 全てを真実とした
ああ 何もない この地球に
そう真っ赤な 花が一輪 咲いた この地球に
そう真っ赤な 花が一輪 咲いた この地球に
僕は見たい 神が微笑む場所を さあ向こう側へ
君といきたい 神の導くままに さあ ふたりだけで 突き抜ける
突き抜ける 突き抜ける 突き抜ける ・・・

