「可愛い君の胸・・・、その命愛おしい」

アルバム『Six/Nine』から歌詞が大幅に変更されてシングルカットされた
「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」のカップリング楽曲には、
こちらも、大幅にミックスが異なり、また櫻井敦司の歌い方もまったく違うヴァージョンで、
「君のヴァニラ」が採用されている。

フロイト博士による「死の本能(タナトス)」を象徴するような楽曲
「Madman Blues ミナシ児ノ憂鬱」に続き、
【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】の6曲目には、
「生の本能(エロス)」を描いた傑作「君のヴァニラ」がセット・リストされていた。


フロイト博士の1920年の著書『快原理の彼岸』では、
それまでの「性の本能・自己保存本能」の二元論から、
「生の本能(エロス:Eros)・死の本能(タナトス:Thanatos)」の二元論へと転回したが、
このエロスとは、キリスト教用語では、“愛”を表す。

“生命”は誠に、この“愛”に依存しているのかも知れない。

恐らくは、その強靭な“破壊衝動”を持つ、タナトスに対抗し得るのは、
このエロス(愛の本能・生の本能)なのかも知れない。

よって性愛こそが、種保存の本能を突き動かす衝動そのものなのである。

キリスト教関連の書物や西欧文化圏の書物では、
4種類の感情(古代ギリシャ時代から考えられていた4種類の"愛"、いずれもギリシャ語表現)
についてこの“愛”を説明している。

【エロス έρως érōs】
肉体的な愛。主に男女関係の愛。対象の価値を求める愛。自分本位の愛。見返りを求める愛。

【ストルゲー στοργή storgē】
従う愛。尊敬を含む愛。親子関係や師弟関係にある愛。

【フィーリア φιλία philía】
友情愛。自分を与えることで他人を生かす愛。

【アガペー αγάπη agápē】
無条件の愛。万人に平等な愛。神が私達に与える愛。見返りを求めない愛。キリスト教でいう一般的な「愛」。

キリスト教において最大のテーマとなっている愛と言えば、
まずなによりも【アガペー】が上位に位置するが、生命の保存を考えた時、
この「君のヴァニラ」で唄われる【エロス】こそが、“死の誘惑”を断ち切る原動力と言ってもいいだろう。

【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】
の横浜アリーナで、演奏された「君のヴァニラ」は、
そのヴィデオ・クリップをも凌駕する櫻井敦司のパフォーマンスで、
死ぬほど、エロティックだ。

ここより魅せることに、至上の使命を持つ【Climax Together】の本領発揮である。

この横浜アリーナはやはり、巨大で、視覚的な部分を憂慮した12年前は、
そのアリーナを横型に使用し、伝説のヴィジュアル・ライヴの実現となったが、
今回は、収容人数にも拘りを見せ、通常の縦型のセットされた。

その為、後部座席の観客の為に、スーパー・ヴィジュアル・ショックとも言える特別演出が、
ステージバックの超巨大モニターに映し出された。

このモニター演出の内容もこの一回だけの【悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together】
の為に制作されたもので、一球入魂の気合いが感じられる。

「君のヴァニラ」から、この特設モニターがオープンスクリーンとなり、
ヴィデオ・クリップを凌駕するドラマティックな演出を魅せつけてくれた。

まずは、櫻井敦司によるグラスへの真紅のルージュで行われる猥雑な“お絵かき”が披露されることになる。
始め口唇を描いていた櫻井であったが、
彼が描き始めると、下半身の花弁を書いているように勘違いしてしまい、
観ている方が、“ドキッ”とすることになる。

1995年に制作された、この「君のヴァニラ」のヴィデオ・クリップも、
全裸のマネキンが、櫻井敦司に“執拗に”愛撫される姿が延々と垂れ流されるが、
それをも凌駕する櫻井敦司の愛撫が、このガラス面に描かれた花弁に、繰り返されると、
女性なら、顔を赤らめずにはいられないだろう。

放送コードぎりぎりをひた走る櫻井敦司を尻目に、
今井寿が、セクシーなギター・フレーズを花道から大観衆に向けてかき鳴らす。
ここで登場した黒マイマイはLucyで新調した彼の新兵器だ。
ダークなルックスも、如何わしくセクシーで
古めかしいインプロヴィゼーションのギター・ソロも雰囲気たっぷりに披露される。

ライヴは、セックスとは、この事だろう。

そして、そのエロスの向こう側に、「死の本能(タナトス)」への
無謀とも言えるBUCK-TICKの反逆の狼煙があがるのだ。

これは、フロイト博士とBUCK-TICKの一騎打ちとさえ言えるだろう。

フロイト博士の「死の本能」 VS BUCK-TICKの「愛の本能」
【タナトス】と【エロス】の対決…

もしかすると【悪魔とフロイト】というタイトルは、
この“愛”と“死”の対決の刻を我々に知らせて居るのかも知れない。

「例えば命短し 唇で愛を伝えよう
 炎が消えるそれまで あなたの為に燃やして」


横浜アリーナの大観衆は、息を呑んで、
この【エロス】と【タナトス】の対決を見守るのだ。

「例えば命短し 舌先で触れるその胸
 炎が消えるそれまで わたしの為に尖らせ」


例え、死は、逃れられない本能であったとしても、
勇気を持って立ち向かい“愛”の傷跡を刻むのだ!

それこそが、“命”!!

「水 空気 光と 愛 糧 生きがい 夢 欲 喜び あんたが大好き」



時は、9月11日。

終わるモノと始まるモノのクロスする“絶頂”…。

機は、充分に熟していた。






君のヴァニラ
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)



可愛い君の胸 その命愛おしい

激しく切なく求めてみたい 激しく激しく求めて
冷たく優しく求めて欲しい 冷たく冷たく求めて

愛おしい君の胸 その命憎らしい

激しく切なく愛してみたい 激しく激しく愛して
冷たく切なく愛して欲しい 優しく優しく愛して

赤く充血してるヴァニラ 左胸が熱い

例えば命短し 唇で愛を伝えよう
炎が消えるそれまで あなたの為に燃やして

水 空気 光と 愛 糧 生きがい 夢 欲 喜び あんたが大好き

赤く痙攣してるヴァニラ 左胸が熱い

例えば命短し 唇で愛を伝えよう
炎が消えるそれまで あなたの為に燃やして

例えば命短し 舌先で触れるその胸
炎が消えるそれまで わたしの為に尖らせ

水 空気 光と 愛 糧 生きがい 夢 欲 喜び あんたが大好き


【ROMANCE】

【ROMANCE】