「オレノ名ハ反動 白デモナケレバ黒デモナイ」
デストルドー(英語: Destrudoまたは英語: Death drive、ドイツ語: Todestrieb)とは、
フロイト博士の提唱した精神分析学用語で死へ向かおうとする欲動のこと。
タナトスもほぼ同義で死の神であるタナトスの神話に由来する。
「BUSTER」が、生き物の『生の本能(エロス)、死の本能(タナトス)』の発露として、
“悪性遺伝子病”という人間進化過程のガン細胞を唄う警告であったとするならば、
この「Madman Blues ミナシ児ノ憂鬱」は、
その“悪性遺伝子”がBUCK-TICKの暗黒世界に“芽”を出した瞬間であった言える。
想い起こせば、12年前、耽美を追求した初期BUCK-TICKは、
この横浜アリーナの【Climax Together】で、“死”を迎えたのだ。
そして、暫しの沈黙の後、深い暗黒世界を引っ下げて、
アルバム『darker than darkness -style93-』で生まれ変わった時、
(※正確には、このアルバムリリース前に、観客が誰も知らない状態でライヴ演奏は進められていた)
すでに、この“悪性遺伝子”をも含む“誕生”をBTは迎えていたのだ。
その受胎は、紛れもなく、この【Climax Together】であった。
まさしく、“終わるモノと始まるモノがクロスする絶頂”である。
時は一巡し、12年後、この横浜アリーナで演奏される「Madman Blues ミナシ児ノ憂鬱」。
ヤガミ“アニイ”トールが、激しいオカズをイントロから打ち鳴らせば、
フラッシーで、ノイジーな、今井寿&星野英彦のソリッドなギター・サウンドの後、
印象的な樋口“U-TA”豊の跳ねるようねベース・ピッキングが、
この「Madman Blues ミナシ児ノ憂鬱」の躍動を伝える。
この【悪魔とフロイトの宴】では、完全に今井寿のデーニッシュなヴォーカルがメインとなる。
ユニゾンを決め込む櫻井敦司の超低音ヴィブラート・ヴォイスが不気味を更に増殖させる。
お得意となった櫻井×今井の掛け合いダブル・ヴォーカルではない。
完全に重なり合った今井と櫻井のダブル・ヴォイス・ユニゾンが、
ゾクゾクっと、我々背筋に悪寒を誘う。
「驚異的ナ スピードデ増殖シテイルモンスター」
精神病理の権威フロイト博士は、デストルドー=【Todestrieb】と対のように
【Lebenstrieb】という語を用いたが、
日本語ではともに「死の本能(タナトス)」「生の本能(エロス)」と訳されることが多い。
しかしながら本能には
「遺伝的に組み込まれた行動パターン」
という意味合いが強く【Trieb】をそのように訳すのは誤解を招きかねない面があり、
フロイト博士は本能【Instinkt】と別に、
自我に対して何かに駆りたてさせる衝動という意味で【Trieb】を使ったとされる。
日本語訳でも広まりつつある“欲動”または“衝動”の訳語に意義があるのは、
それにより本人の葛藤に焦点が当てられることになるからである。
精神患者はしばしば「死にたい」という言葉を発するが、
これは「死の本能」でなく「死の欲動」と訳すことにより、
「死にたい気持ちに駆られる」と言わしめるもので、
フロイト博士が「生の欲動」「死の欲動」の二元論で説明しようとしたものは、
臨床現場で頻繁に聞かれる「死にたい気持ち」と「生きたい気持ち」の間の葛藤として、
うまく機能するのである。
「入力 サレタ コマンド ハ ”平和共存” ”平和共存”」
この新種の“悪性遺伝子”は、「生の本能(エロス)」を入力されながらも、
その増殖の過程で、既存の遺伝子を食い潰し、呑み込み、増殖していく。
その名は【狂想】【狂乱】…。
“四月ニ生マレテ覚醒シ”、そして“九月ニ憂鬱ヲ飲ミ込ンダ”のだ。
9月11日、狂おしい新生物が、雄叫びをあげる。
「Me Now See Goタチノ 世界ニ於テ
有ラユル機能ハ不可抗力ダ・・・」
「死の欲動」概念を展開する前のフロイト博士は、
「愛する者の死を願う」といった両価的感情を伴う殺害願望から自殺を説明しようとした。
つまり「攻撃性(Aggression)」の内向という解釈であるが、
この時点では説自体は「生の欲動」の従属的位置にとどまる。
一方彼の「破壊性(Destruktion)」という言葉も混乱を招きやすかった。
フロイト博士が最初に「死の欲動」という語を用いたのは1920年に著した『快楽原則の彼岸』。
人間の精神生活にある無意識的な自己破壊的・自己処罰的傾向に注目した。
この時期にフロイト博士の考え方は「快楽が生」から「死の欲動との闘いが生」へと大きく転換したとされる。
この「死の欲動」は、
自我が抵抗しがたい衝動であり、最も蒼古的(原初的)な欲動であり、
そして「悪魔的」な生命の破壊衝動である、とされた。
衝動の存在に通常自我は気付きにくく、無言の内に支配される。
快楽原則に従わず反復そのものを目的とし、エネルギーが尽きるまで繰り返される。
それは強大なエネルギーで日常的なものではなく、自我はその前に無力である。
また「死の欲動」は個体発生上、最も古い欲動とされた。
退行の究極点であり生命発生以前の原初への回帰を目的とする。
それは生死や存在非存在の区別もなく明示的言語で表現するのは困難なので
「死」というメタファーでフロイト博士は命名した。
ただし人間の「死」のイメージとは関係なく非生命に向かうという意味でしかない。
欲動はこの地点から巨大な破壊エネルギーを手に入れる。
そして、“悪魔的”とした上で、自己と他者の区別無く反復強迫的に無意味に生命破壊を目指す。
また「生の欲動」に先立つ物として定義された。
フロイト博士は「死の欲動」を「生の本能(エロス)」によって容易に懐柔されることはないと考えた。
憎しみのような攻撃的衝動はエロスの一属性としても理解し得るが、
愛と憎しみを超えたところに、この破壊衝動「死の欲動」を想定したのだ。
まさしく“悪性遺伝子”=“別ノレヴェルノ超生物、新ラシイタイプノ超生物” である。
後半、ヴォーカルの裏を司っていた櫻井敦司のヴォーカルが、
急に、反撃に出る。
今井寿のデーニッシュ(悪魔的)なヴォイスに覆い被さり侵食してしまうように…。
櫻井敦司の声が、巨大な横浜アリーナを食い潰し、呑み込む。
「Welcome to my territory!」
「ミナシ児タチガ ワラッテイル~!」
「Welcome to my territory!」
「ミナシ児タチガ ワラッテイル~!」
この凄ましい破壊力の前に、我々は誠、不可抗力であった。
Madman Blues -ミナシ児ノ憂鬱-
(作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
オレノ名ハ反動
白デモナケレバ黒デモナイ
秩序ヲ失クシタ負ノパワー
200%ノ負ノパワー
驚異的ナ スピードデ増殖シテイルモンスター
驚異的ナ スピードデ増殖シテイルモンスター
入力 サレタ コマンド ハ ”平和共存” ”平和共存”
入力 サレタ コマンド ハ ”平和共存” ”平和共存”
オレノ名ハ狂想
四月ニ生マレテ覚醒シタ
別ノレヴェルノ超生物
新ラシイタイプノ超生物
オレノ名ハ狂乱
九月ニ憂鬱ヲ飲ミ込ンダ
系統樹ハ一致シナイ
霊長類トハ一致シナイ
Me Now See Goタチノ 世界ニ於テ
有ラユル機能ハ不可抗力ダ
ミナシ児タチガ ワラッテイル Welcome to my territory

