「あらゆる生が、目指すところは、死である。
すべての生命体の目標は死である。
生命のないものが、生命のあるもの以前に存在していて、
生命のあるものは、生命のない状態に還帰しようとしている。
死の本能は、サディズムであり、
生命を保存する本能は愛(エロス)である。
生命の中で、死の本能(タナトス)と、生の本能が対立しているのである」
(Sigmund Freud)
今井寿の“SILVER POD”のテルミンの不協和音が終了すると、
どこかで、聞き覚えのあるSEにつられてヤガミトールのドラムが打ち鳴らされる。
2ストロークの樋口“U-TA”豊のベース・フレーズが、
「Kick(大地を蹴る男)」の演奏を大観衆に知らせている。
今井寿と星野英彦のイントロのギター・フレーズが、鳴り響くと、
観衆は「おおっ」とどよめく。
アルバム『Six/Nine』からのナンバーが、ライヴで始められるといつもそうだ。
この「Kick(大地を蹴る男)」も久々のライヴ登場となる。
「大地を蹴り宙に舞う 永遠の瞬間目を閉じる」
片足を上げながら、唄い始める櫻井敦司。
そう、この楽曲には、“飛び降り自殺”の瞬間を描写したものという説も存在する。
一方、ポジティヴに、生命の扉をノックするという主題とパラドクスを形取るモジュール。
BUCK-TICKにとって、それは…、
“生”と“死”は表裏一体の同質の物というのが本質であろう。
だから、この狂った世界で生き抜く行為も、
死後、の世界を覗きこむ勇気も、
どちらも“真実”を知るという意味合いでは同質と判断しているのだ。
フロイト博士が言うように、“生”と“死”は一対の同線上のものであり、
生命を受けた物の本質として、死を回帰として捉え、
そこへ向かって行くのが“運命(さだめ)”なのかも知れない。
“死”を回帰と考える。
そう考えると、僕達が死して向かう場所は、母親の子宮の中なのか?って。
「呼吸 鼓動 響く 血まみれの愛の中」
もし、そうであるならば、“死”を恐怖することもない。
それが、“輪廻”だ。
星野英彦のコーラスが、横浜アリーナに木霊する。
「さあ道化師 躍れ躍れそれが運命(さだめ) 光る地獄で泣きながら」
この世は、所詮、道化の塊だ。
もう、踊ってしまおう。
死しても、そこの待つの“愛”だ。
「道化師 歌え歌えこれが運命(さだめ) 闇の真実に帰るんだ」
さあ、道化師達よ、ともに歌おう。
“命”を“運ぶ”のが、運命。
この運命を、そして、限りある運命でも“愛”を探そう。
生命の本能(エロス)は“闇”の真実(タナトス)へと向かって行くのだから……。
この終わりと始まりがクロスしている地点の【Climax Together】で、
【悪魔とフロイト】が宴を繰り広げている。
そんな、日付が9月11日という日を指しているのかも知れない。
世界的テロ事件の運命の悪戯に過ぎない。
そんな中での、活動再開には、BUCK-TICKのメンバーもこの日付けに想い入れがあった違いない。
度々、映し出される金網状の床の下からのショットは12年前を彷彿させるアングルである。
【Climax Together】という名が付く限り、
紛れもなく“映像化”という意志こそが、このライヴをスペシャルなものに変えている。
「怖い夢見て泣いていたの だいじょうぶ全て夢」
こう語りかけるのは、恐らく紛れもない自分自身。
現実も夢も生も死も、この“絶頂”に集結している。
“SILVER POD”をかき鳴らし今井寿はバルコニー式の花見道から大観衆を見下ろす。
オリジナルにはない、歪んだギター・カッティングが、僕らの鼓動を震わすと、
金網ショットの櫻井敦司が、力強いステップを踏む。
大地に足をしっかり付けて立っていること確認しているようだ。
そうだ。これだけは“夢”ではない。
確かに、BUCK-TICKは存在し、僕らの目の前にいるではないか!
生きているんだ。
それが、例え、“死”に向かっているとしても…、
確かに、今、生きている。
だから、“真実”を知るために、運命の扉をノックしよう。
「ドアの向こう側にそれが運命(さだめ) 闇の真実が待っている」
真実を知りたい。君が狂いはじめた。
真実を知るには、此処にいても見えない。
真実を知るなら、此処にいてはいけない。
真実を あなたと わたしに
どうしたんだこの世は、どうしたんだ人間は、どうしたんだ俺は、
神と悪魔が歌い踊るよ。
この運命の扉を、Kickしろ!
“鼓動”を躍らせるんだ。
“唄”を叫び続けろ。
そこにきっとある。“真実”だ。
「ドアの前で叫ぶそれが運命(さだめ) 闇の真実に帰るんだ」
櫻井敦司は、強く、強く、ノックし続ける。
大地を蹴り飛ばし、生きている“真実”を刻み込め。
お前を呼ぶ声が聞こえるだろう。
それは、お前自身の“内なる声”だ。
それに、従うことが、“真実”…。
それが、“生”であろうが、“死”であろうが、同じことである。
ただ、対象がちがうだけである。
「大地を蹴り 宙に舞う」
さあ、今宵は【Climax Together】、さあ、飛び立つんだ。
Kick(大地を蹴る男)
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:今井寿・横山和俊)
大地を蹴り宙に舞う 永遠の瞬間目を閉じる
体中剥き出し宇宙に浮かぶ これが自由
唾液を流し悶えてた
怖い夢見て泣いていたの だいじょうぶ全て夢 ここは
呼吸 鼓動 響く 終わりなき愛のチューリップ
存在消え霧の中 大河を越え会いに行く
星と繋がり呼びかけてる 解き放て全てから そこは
呼吸 鼓動 響く 血まみれの愛の中
さあ道化師 躍れ躍れそれが運命 光る地獄で泣きながら
道化師 歌え歌えこれが運命 闇の真実に帰るんだ
怖い夢見て泣いていたの だいじょうぶ全て夢
星と繋がり呼びかけてる 解き放て全てから そこは
呼吸 鼓動 響く 血まみれの愛の中
さあ道化師 躍れ躍れそれが運命 光る地獄で泣きながら
道化師 歌え歌えこれが運命 闇の真実に帰るんだ
ドアの向こう側にそれが運命 闇の真実が待っている
ドアの前で叫ぶそれが運命 闇の真実に帰るんだ
大地を蹴り 宙に舞う

