「あらゆる生が、目指すところは、死である」
(Sigmund Freud)

「おまえは、だ・れ・だ?」

BUCK-TICKのスーパー・ポップ・ロックが、
「21st Cherry Boy」で炸裂すると、
彼らの一番獰猛な姿が、顔を出す。

アニイの軽快なドラムに合わせてU-TAとヒデが、重厚なユニゾンを重ね合わせる。
早くも赤マイマイから、機関銃に持ち替えた
今井寿の“SILVER POD”が悲鳴をあげる。
テルミン・サウンドが横浜アリーナに響き渡る。

「BUSTER」。

“世界を踏み潰すBUSTER!”

櫻井敦司は、【Mona Lisa OVERDRIVE TOUR】で御馴染のポジショニングを取る。
後方のヤガミ“アニイ”トールと樋口“U-TA”豊の間に下がり、
横浜アリーナの大観衆に向けて、“威嚇射撃”するように、指差し唄う櫻井。

鋭いサウンド・テロのような、星野英彦と今井寿のギターが、鬩ぎ合う。

この毒っ気を撒き散らす様なのBT流“警告”ソング。
Swallow diveを決めるテロリスト達へのレクイエム。
これは、賛美か?哀悼か?
無慈悲な、ギター・リフの機銃連射が、雨のように降り注ぐ。


こんな、感じ、他のバンドじゃ、なかなか表現出来ないだろう。
大抵は、ストレートな“反戦”ソングになってしまうか。
もしくは、その戦火を嘆き悲しむだけで、終わってしまう。

彼らは、加害者にも成りきる。
被害者が、加害者に、加害者が、被害者に、成り得るからだ。
だから、思い上がってはいけない。


それが、“悪性遺伝子病”だ。

“毒”と制するには“毒”を。

“毒”を食らわば、皿まで。


そのテロ行為の対抗する行き過ぎた先進国は、
肥大したの“欲望”のままに、増殖を繰り返す。
まるで、世界をまるごと呑み込んでしまえ、とばかりに。

「肉からMETALまで OK!」


サイバーで、パンキッシュな今井寿のヴォーカルが冴える。

この楽曲と「ナカユビ」で、過激なまでの“攻撃性”を露呈した前年のライヴツアーから、
Lucyへとの変遷で、今井寿は、ほんとうの“攻撃力”というものを体得したと言える。

そして、今井寿のヴォーカルが、そのまま、攻撃性を示唆するトリガーとなった。
彼のヴォーカルは、確かに変わった。
「Sid Vicious ON THE BEACH」のパンキッシュなチンピラの雄叫びから
「Mona Lisa」のKraus の Hyper opera voice songによるラップを経て、
“Lucy”でのやんちゃな“ロケン”の咆哮…。

再び、この「BUSTER」では、我々の警告を与えるように、
ダイレクトに胸に突き刺さる衝動だ。

確かに、力強く進化と遂げた今井ヴォイスに、櫻井も少し耳を奪われている様だ。

その今井寿の飛び道具に
料理された我々は、喰い散らかされ、飲み込まれる。

でも、それを、実は待っていたのかも…。


12年前の【Climax Together】では、こんな楽曲を演る振り幅は、
BUCK-TICKには、存在しなかった。


この一巡で、蓄えた彼らの特質。
誰よりも、重く、暗く。
誰よりも、へヴィな、躍動感。

今井ヴォイスだけにしかず、体得したものは、測り知れない。

そして、同じ地点に再び降り立った彼らが奏でる不協和音は、
この「BUSTER」に代表されるような種類の、どこにも属さない音の塊、思惟の歪み。

ただただ、美しくあることに視点をおきていたあの時、
完全に、ヴィジュアル化が目的で実施されたスペシャル・ライヴが、
【Climax Together】に他ならない。

まだ、真紅の幕で覆われているステージバックには、
今回も、ヴィデオ・クリップを凌駕されるような演出の数々が用意されているが、
まだ、静かにベールを被ったまま蠢いている。

徐々にその本性を表す【悪魔とフロイド】のドアの向こうには、何が待ち受けるのか?

そういった意味でも“予測不能”のスペシャル・ライヴと言えた。
【悪魔とフロイト -Devil&Freud-】横浜アリーナ…。

アルバム・ツアーとも、年末のカーニヴァルDIQとも違った“特別仕様”。

もし、類似し、ナニカの手掛かりを掴もうとするならば、
それは、もう12年前の横浜アリーナ【Climax Together】に立ち還るしか、
ヒントは残されていない。

そんな“不安感”と“期待感”の“LIMBO”で聴く「BUSTER」

「La La La…生まれたか La La La…殻を破った
 La La La…生まれたか La La La…お前は誰だ」


そして、いったい…、俺は、誰だ?

どうして、此処に、居る?

この瞬間にも、ガン細胞の如く、悪性遺伝子病は増殖を続ける。
そんな自身の体内に回帰したような感覚が、全身を麻痺させていく。

俺も?俺も?すでに蝕まれているのか…?


今回のスペシャル・ライヴのタイトルに模された人物=ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)は、
ドイツ=オーストリアの、否、世界の精神医学界の権威とも言える人物。
その“権威”と掛け合わされる“悪魔”は、Five for Japanese Babiesのことか?

第一次世界大戦によってヨーロッパが壊滅的な破壊を経験されたのを目撃したフロイト博士は、
なぜ人間が自らの種族保存に不利なはずの戦争のような行為をおこなうのか?
ということに興味を持った。

その結論として1920年の『快原理の彼岸』(旧訳語では『快楽原則の彼岸』)において、
それまでの性の本能・自己保存本能の二元論から、
生の本能(エロス:Eros)・死の本能(タナトス:Thanatos)の二元論へと転回した。

フロイド博士はこう言う。

「人間を含め生物はすべて、
生の本能によっていっけん物事を作り出し、建設していくかにみえるが、
その深層はつねに、それをぶち壊し無に回帰していこうとする死の本能に裏打ちされている。

人間という種においては、いわゆる文明が、人間を人間たらしめる創造と破壊の対象である。

臨床的には、死の本能は反復強迫、陰性の治療反応、道徳的マゾヒズムなどのかたちで現れる」と。

これは、戦争帰還兵達との臨床経験や娘の一人の死を通じ、
Todestriebすなわちデストルドー(死の欲動)
あるいは タナトス(死の本能)についても考えるようになったフロイド博士の理論だ。

産まれてきた以上、我々を含む、すべての生物は、
“生の本能”と“死の本能”を併せ持つアンヴィバレントな存在。

生命の向こう側にある、“破壊が美徳の creatures”がその内、芽を出す。

それこそが、“悪性遺伝子病”=“BUSTER”の正体かもしれない。



生まれて出てきてからこそ、
死に向かって歩き出す…。


それが、宿命。



すべては、“無”に帰すのかもしれない。





「あらゆる生が、目指すところは、死である」
(Sigmund Freud)





BUSTER
(作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)



世界を踏み潰すBUSTER 悪性遺伝子病
我が物顔の足跡 狙いを定めてSwallow dive

破壊が美徳の creatures
唯一無二さ The only one
破壊が美徳の creatures
唯一無二さ The only one

お前は喰い潰すEATER 悪性遺伝子病
喰い散らかして飲み込む 肉からMETALまで OK!

破壊が美徳の creatures
唯一無二さ The only one
破壊が美徳の creatures
唯一無二さ The only one

La La La…生まれたか La La La…殻を破った
La La La…生まれたか La La La…お前は誰だ
La La La…生まれたか La La La…殻を破った
La La La…生まれたか La La La…お前は誰だ

穴を掘ってるのはDIGGER 悪性遺伝子病
辺りかまわず掘っても 掘っても掘ってもまだ足りない

深い暗い巨大な穴 そろそろ気が付く頃だ
深い暗い巨大な穴 お前の墓の穴だ Bingo!

La La La…生まれたか La La La…殻を破った
La La La…生まれたか La La La…お前は誰だ
La La La…生まれたか La La La…殻を破った
La La La…生まれたか La La La…お前は誰だ



【ROMANCE】

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