天使が見ているから月を消して

花を飾ろう綺麗な花を

そう「幻想の花」を……。




2003年【THE DAY IN QUESTION】、
2日連続でアンコール演奏された当時の最新シングル盤『幻想の花/ノクターン - RAIN SONG -』。
この両曲を並べて聴くと、やはり、雰囲気、空気が、
それまでの、滾る熱いものを浄化していくように感じる。

12月28日、初日公演では、櫻井敦司のMC

「アンコール、どうもありがとう。
もう会えないかと思ったよ。
大事な曲がまだありますので、聞いて下さい。
……それは素敵な夢かと君は狂ったように笑う……
 諸行無常…」


で、始まったアンコールの「幻想の花」。

やはり、どうしても、アンコールで、この「幻想の花」のイントロが始まると、
あのBUCK-TICKの初夏の野外を彩った【Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-】での初日、
たった一曲のアンコール・パフォーマンスを思い起こしてしまう。
あの時は、まだ、デモ状態での歌詞で披露された「幻想の花」。
今夜は、「ノクターン - RAIN SONG -」と供に奏でられる。

あの“幻”は、ドラマチックな“雨”を引き連れて、
シングル盤となって帰ってきた。

やはり“花”は咲いた、のである。

そして、“幻”は狂い咲き、舞い散る。

また、来年、此処で 逢おう、そう約束して…。




12月29日の2日目の日本武道館。

“感動”そして“浄化”という観点においては、
「幻想の花」に匹敵する名曲「鼓動」で、本編のセットリストを終えたBUCK-TICKは、
今井寿の“狂おしく愛しい”ノイズ・ギターの余韻を残しつつ、
ステージを去る。

「鼓動」と「幻想の花」
“命”と“花”。
このバンドにとっては、同義のことばかも知れない。

“命”も“花”も、たとえ、舞い散り、消え去っても…、
延々と“Loop”する螺旋の中で、
また、ふたたび、逢いまみえるのは、必至だ。

そして、すでにやり遂げた満足の笑みを浮かべて、
樋口“U-TA”豊が、ヤガミ“アニイ”トールが、
星野英彦が、今井寿が、再び、颯爽とステージに戻り、
前日同様に、このニュー・シングルの美しいイントロを奏でるのだ。



櫻井敦司は、アンコールに際して、この日の衣装ではなく、
前日の黒いドレス・コートを纏って登場した。
羽根付き帽子も黒。

たしかに“白”もいい。

死装束は“白”…。

だか、この男には、やはり“黒”だ。



メンバーは、余裕の態度で、ステージ上の定ポジションに付く。
うん。たしかにやり残したことは、ない。

2003年の濃密な活動も、残す処あとわずか…。

年頭より、ほぼ、全力疾走に近いペースで活動を続けたこの年、
前作の“反動”から、“攻撃性”と今井寿のエキセントリックなアクションで湧いた前半。
BUCK-TICKが、本当にロックンロール・バンドであった、と再確認させられる熱いシーンが続いた。
それは、むしろ、彼らにしては、珍しい姿であった。

ストレートに、ロックをかき鳴らすことへの抵抗感。
素直に表現するのを躊躇する、少し、ヒネクレタ姿勢。
“カルト・スター”であることでのプライド。

そういったバンド・カラーを吹き飛ばすような峻烈なロックを展開してきた20003年前半であった。

その集大成。
デビュー16年目にして初の日比谷野外音楽堂での2日間
【Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-】。

そこでは、過去のディープな深淵と、ドライヴするロック・スピリッツの受胎が図られた。
獰猛に、素早く、過激に、そして…、
深淵に、哀しく、覚醒した。

そこで登場した“幻”の未発表楽曲「幻想の花」。



それが、ひとつのBUCK-TICKの完成体である、と僕は言った。

この初夏のステージが、ひとつの“終わりの始まり”であると。



そして、2003年の後半は、やり残した仕事を全力で燃焼するかのように、
海外のアーティストに、挑発的なアクションを取っていく。

「我こそは、BUCK-TICK.
日本の異形なるロック・バンドである」


と言わんばかりに、
これまで貫いてきたそのアイデンティティを、そのポリシーを、ナカユビを突き立てた。

もう、次のステージに向かう刻だ。

2004年は、もう、すぐ、そこまでやって来ている。



恐らく、BUCK-TICKメンバーは、近年にない充実感を味わいながら、
BTフリークスとともに、この2日間の【THE DAY IN QUESTION】を楽しんだに違いない。

そんな、スピード・メーターの振り切れた針を、
ゆっくり、元に戻すかのように「幻想の花」を演奏し始める。

嗚呼、2003年も“素敵な夢”を見れた、と。



櫻井敦司が、再び“幻を”咲かせる。

「それは素敵な夢だと 君は狂ったように笑う」

さらり、唄い始める。
そう、人生は、まるで“夢”のようだ。
どうせ、見るなら、せめて今夜“素敵な夢”を。
徐々に、感情を込めて。

「花を…花を敷き詰めて」

まるで、蜉蝣を追うかのように、手を伸ばし、あなたを求める。

星野英彦のアコースティックの調べが、すべてを浄化していく。

「あなたはとても綺麗な 花びらを千切る
 真実に触れた指に 朝日が突き刺す」



次にステージへ。

そうだ。
“真実”に触れたら、次へ、進もう。
“真実”は、いつも、隣にあった。
何かを求めても、その夢は、いつも、自分の中にあった。

それに、気付けたら…、
次に進もう。


「宇宙(ソラ)に出かけよう さあ手を繋いで
 霧の朝焼けに 二人 飛び出そう
 鳥は囀り 僕は君へと 歩きはじめる」






そして、また、その先にある再会…。


“悪魔”と“天使”の結合の物語へ。

“神”と“悪魔”が歌い踊るよ。


それまで、しばらく、お別れだ。

ごきげよう。








君は、傍らの【幻想の花】を見つけたろうか?



天使が見ているから月を消して

花を飾ろう、綺麗な花を。


嗚呼 ひとつは君の瞼の横に。

嗚呼 そしてひとつは君の……。




幻想の花
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)


幻想の花 歌っておくれ
この世界は 美しいと
それは素敵な夢だと
君は狂ったように笑う

甘い蜜 飲み干せば やがて苦しみに染まる
花を…花を敷き詰めて


幻想の花 歌っておくれ
この世界は 美しいと
それは素敵な夢だと
君は狂ったように笑う

甘い蜜 飲み干せば やがて苦しみに染まる
花を…花を敷き詰めて

あなたはとても綺麗な 花びらを千切る
真実に触れた指に 朝日が突き刺す

狂い咲きの命燃やす 揺れながら
あなたが咲いてる
この世界は美しいと 歌いながら
きっと咲いている

狂い咲きの命燃やす 揺れながら
あなたが咲いてる
この世界は美しいと 歌いながら
きっと咲いている

【ROMANCE】