【EXPLOSION 愛の惑星 Live 2004】アンコールのハードな滑り出し「惑星」。
ここで、このソロ・プロジェクトの主題を燃え上がらせた櫻井敦司は、
次の楽曲から、少しノスタルジックに浸るような展開を魅せてくれる。
これは、ひょっとすると櫻井敦司の“唄い人”のルーツとも言える
セット・リストと言えるだろう。
勿論、ここでも仕掛け人のデレクター田中淳一の影が見える。
そういった、ルーツを披露する中に、素顔の櫻井を探し出す旅へ誘うかのように…。
いずれにしろ、次の楽曲が、櫻井敦司の唄で聴けたことに感謝すべきであろう。
そして、このソロ・プロジェクトの中で、一番の意外性を示した楽曲でもある。
「雨音はショパンの調べ -I LIKE CHOPIN-」
この「雨音はショパンの調べ」には英語詞の原曲があり、
いわゆる和製カバー・ソングである。
その原曲は、作詞・作曲・歌唱ともどもガゼボ(Paul Mazzolini del Gazebo)によるもので、
そのタイトルが、日本語盤のサブ・タイトルにもなった「I Like Chopin」。
日本語盤のタイトルにも具体的に明記されている通り、
中世の音楽家フレデリック・ショパンをモチーフにしたピアノ・バーラードである。
クラッシックとポピュラーの融合を見たガボゼの美しいメロディが素晴らしい。
ガボゼは、イタリアの歌手で、デビュー前にパンクバンドを組んだ後、1982年にデビュー。
1983年にこの「I Like Chopin」がヨーロッパ各国のチャートをにぎわせたことをきっかけに
世界中で大ヒットを記録した。
1980年代にポップスとダンスミュージックのジャンルで活躍している。
この世界的ヒット曲に、当時、洋楽に和訳歌詞を付けてヒットという手法を好んだ日本では、
ユーミンこと松任谷由実が、その雰囲気を独特に表現した日本語詞をつけてリメイクした。
その和訳洋楽を1970年代からアイドルとしても活躍した小林麻美が、
成熟したアンニュイさを帯びた大人な女性の雰囲気で歌い、日本でも大ヒット記録した。
「雨音はショパンの調べ」は
オリコン週間ヒットチャートでは第1位を獲得したばかりか、
1984年のオリコン年間ヒットチャートでも第12位にランクインした。
さらにアルバム『CRYPTOGRAPH~愛の暗号』で小林麻美は、
第26回日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞した。
当時、彼女は女性ファッション誌を中心としたモデル業やライフスタイル啓蒙的活動が多く、
生放送のテレビ番組で歌うことはなかったが、
映像集『CRYPTOGRAPH~愛の暗号』に「雨音はショパンの調べ」のヴィデオ・クリップが収録されている。
また、ロング・バージョンの12インチシングル盤「雨音はショパンの調べ」も
同アルバムからカット・アップ・リリースされた。
カップリングの「LOLITA GO HOME」は、ジェーン・バーキンが1975年に発表した楽曲に、
小林麻美自身が日本語詞をつけたもので作詞の才能も披露している。
これが小林麻美にとっては初の音楽的成功であった。
人気女優が、レコードをリリースして、
そのイメージ戦略の一環とするコマーシャル・セールスが、
ある種常識となっていた当時の芸能界ではあったが、
この大ヒットが、女優:小林麻美のイメージを逆に定着させたと言ってもいいだろう。
小林麻美は、この「雨音はショパンの調べ」のヴィデオ・クリップのイメージのまま、
ワンレングス、陰のある表情、細い身体、柳腰、寡黙だが力のある眼などが特徴的で、
都会的でアンニュイな雰囲気で人気を得た。
女優業の方は、1970年代後半からテレビドラマに多数出演していたが、
1980年に、鬼才名優:松田優作に懇願されて出演した映画『野獣死すべし』でブレイクし、
唯一、映画『真夜中の招待状』で主演を果たした。
また、ユーミンにとっても「松任谷由実」名義で他人に提供した作品で初の1位獲得となった。
尚、松任谷由実が自身のアルバム『Yuming Compositions: FACES』でも
この「雨音はショパンの調べ」をセルフカバーをしている。
このアンニュイな大人の女性の魅力を櫻井敦司が表現する。
ある意味では、男性的、ある意味では、女性的な不思議な表情を見せる櫻井だが、
この中性的(もしくは両性的)な雰囲気が、独特なアンヴィエントなアレンジの
この「雨音はショパンの調べ -I LIKE CHOPIN-」を奏でる【EXPLOSION 愛の惑星】で、
雨の中の櫻井敦司を映し出す。
櫻井敦司はまるで、雨乞いをするような仕草をみせて
「藤井麻輝、雨を降らせて……」
と今回の特設スペシャル・バンドのリーダーにオーダーし、
「猫」で使用した椅子に腰掛ける。
藤井麻輝は、櫻井のオーダーに応えてアンヴィエントな“雨”を降らせる。
そうして始まる「雨音はショパンの調べ -I LIKE CHOPIN-」
女性ヴォーカルの唄声が、ユニゾンで櫻井敦司の唄声に被さる。
「耳をふさぐ 指をくぐり
心 痺らす 甘い調べ」
雨の音が、ピアノの調べのように奏でられる独りの部屋。
女の泣き声が聞こえてくるようなこの楽曲も、櫻井敦司の独特な低音で、
味わい深く心に浸みてくる。
「Rainy Days 断ち切れず 窓を叩かないで
Rainy Days 気休めは麻薬 Ah」
優しい雨が、窓をノックする。
この部屋に来るはずのない、あの人がノックするように…。
それは、夢か…幻か…。
あのショパンを…、と・め・て…。
哀しいが、いい詞だ。
この後に続く、大物シンガーのカバー・ソングとも繋がっていくような…、
そんな、別れの唄。
女性の気持ちを唄う櫻井敦司は、歌手としての真価が問われているようだ。
「Rainy Days 断ち切れず 影にふり返れば
Rainy Days たそがれの部屋は Ah」
幻想的な月の下で、ジェイクの奏でるアコースティックのソロと
重なり合う三代堅と松田知大(WRENCH)ダブル・ベースが、アンニュイだ。
霧雨のようなスモークが、ステージを更にアンヴィエントに演出する。
「Rainy Days 特別の人は 胸に生きて
Rainy Days 合鍵を回す ショパン Ah」
お互いの為の別れ、そんな別れもある。
しかし、その“愛の残骸”は、しっかりとこの胸に残る。
そこは、私の“密室”、“愛の惑星”。
この“密室”の合鍵は、雨の音。ショパンの調べ。
そうだ。
このまま 俺は“雨”なろう。
音も無い、“雨”という名前さ。
このまま、俺は降り続く。
終わらない、雨と愛し合うさ。
それでもいい、雨ならいい、
お前にも、きっと、似合うだろう?
そうね、雨は、あなたかもしれないから…、
もう少し、私も、雨に撃たれていよう。
「雨音はショパンの調べ」小林麻美
