「I HATE YOU ALL」が終わり、ステージバックに“愛の惑星”が浮かびあがる。
様々な色に移り変わる“惑星”は、朧月のようにも見える。

大胆なジャズ・アレンジの「I HATE YOU ALL」のパフォーマンスが続くように、
「ハレルヤ!」が、櫻井敦司の吐き出す煙草の煙と混じり合う。
赤ワインが、紅の代わりになったのか?
もともと中性的な存在の櫻井敦司が、ダンス・フロアのマダムに見える。

もう彼が、男なのか、女なのか、そんなことはどうでもいいような気がしてくる。

「震える 膜を破り 産まれ堕ちゆく」

更に、演劇調のシアトリカルな演出の「ハレルヤ!」は、
終盤、ドラマチックな櫻井敦司のセリフ警笛が、心にグサリと刺さる。

この語りが、“人間の生と死”を思い浮かべずにはいられない。
此処で、彼は、“TABOO”“禁忌”に足を踏み入れている。
其の父を殺し、母を犯すだろうという、忌まわしい予言を残しつつ……
“発狂”への螺旋階段を一歩ずつ登り始めるのだ。

「覗いたら駄目さ 二度と戻れないよ いいんだね」

そんな世界が待っている…。

明らかに、このステージのオープニング「X-LOVER」から、この「ハレルヤ!」までの
余りにも、前衛芸術的なアプローチの演出は、
かつて、BUCK-TICKで、1993年のライヴツアー【darker than darkness -style93-】において、
まだ、誰も聴いたことのない当時の“新曲”を並べ演奏し、
「どうだ!俺達について来れるか?」
とばかりに、ダークワールドを展開していた櫻井敦司の姿と被る。

そう、是は、櫻井敦司による“踏み絵”に違いなかった。

「ここを通らないと、俺には、辿り着かないよ」

と。


ファン達の“不安感”が“エクスタシー”に達する為には、
必要な“負荷”とも言える。


「ハレルヤ!赤く染まる 君は愛された
 ハレルヤ!俺は千切れ 俺は愛された」





櫻井敦司には、この時期プライベートでも変化があった。
あまりこういったレヴューでは、触れるべきではないことかもしれない。

この7月21日22日に渡る初のソロ・ステージの前日7月20日に、
前週7月14日に発売された彼の初の詩集【夜想】に続き、
櫻井敦司写真集【SACRIFICE】(限定商品&通常商品同時発売)発売していた。

そして同日7月20日、BUCK-TICK公式サイト【BUCK-TICK WEB SITE】にて櫻井敦司は、
自身が同年6月13日に入籍した事を発表した。

スキャンダラスなゴシップは、BUCK-TICKメンバーに限らず、
いわゆる芸能というジャンルに身を置くものの必須事項と言える。

櫻井敦司も数々の浮名を轟かせたロック・ミュージシャンのひとりだ。

しかし、今回は、自身の言葉による公式な発表であった。

誤解を恐れずに言えば、動揺を隠せない熱心なファンがいたことは、否定出来ない。

そして、その翌日に、これだけのパフォーマンスを魅せつける櫻井敦司。
彼は、間違いなく、プロの唄うたいだ。
プライヴェートは、仕事とは切り離される。

だから…、どんなことになっても…ついて来い。

そんな、想いを感じる迫真の演出ではなかろうか?

村田有希生(my way my love)提供による「ハレルヤ!」では、
櫻井敦司は、そんな空気の中、幻想的な哲学世界の臭気を振りまいている。


楽曲提供者の村田有希生は前身バンドは「THE JUICE」「the cimons」を経て、
2000年に「my way my love」を結成に至る。

「THE JUICE」はポニーキャニオンからメジャーデビューをしており、
TVCF等のタイアップも多数手がけていた。
「the cimons」はギターの後藤が後に「mono」を結成し、
ベースのcobyがSADSに参加するなど実力派揃いであったが、
メジャーデビュー直前に解散した。

そして2000年にインディーズから新たに結成された「my way my love」。

ヴォーカル、ギターの村田と当初からのドラムスである大脇、
また、なかなか固定メンバーが定まらなかったベースとサックス等の変遷を経て
別バンドで活動していたベースの広江のトリオで固定され本格始動するインディーズの大物。

2001年、山中さわお(the pillows)が主催するレーベル【デリシャスレーベル】に加入し、
初音源『dedicated to an angel on your shoulder』をリリースした。
ワンマンライブも行うなど精力的に活動していくに思えたが、その年の末【デリシャスレーベル】脱退する。
その後、自身のレーベル【mott records】より自主制作「BOOT BUM」シリーズを3作リリースしている。

これに、目を付けたのは、アルバム『愛の惑星』総監督デレクター田中淳一だ。
独自の世界観を持つ村田有希生の超個性と17年のプロキャリアを持つ“唄い人”櫻井敦司の融合。

「ハレルヤ!」は、本当に一種独特の世界だ。

そんな独特なmy way my loveの音楽世界がアメリカの音楽関係者の目止まり、
同年2004年の夏には、
北米東海岸ツアーと初のフルアルバムをアメリカのインディーズよりリリースすることになる。


その後、2005年初頭にmy way my loveは、全米40箇所以上にのぼるライブハウスツアーを敢行。
レーベル移籍によるアルバムの全世界展開により、
各地のメディア・ライブを見たファンから高い評価を得る。
秋にはイタリアとイギリスを1ヶ月に渡り回る過酷なヨーロッパツアーも初敢行している。

2006年には、オーストリアのレーベルから、以前の自主制作盤「BOOT BUM」の
再構築版「It is but one of billions of galaxies in your universe」
をヨーロッパでリリースする。
各国の音楽メディアで絶賛される才能の持ち主といえる。

そこに早期に目を付けた田中淳一のデレクターとして目は確かだった言えるだろうし、
その玄人インディーズの雰囲気たっぷりの提供楽曲に、
“天からの啓示”とも言える歌詞と迫真のパフォーマンスを繰り広げた櫻井敦司にとっても、
見事な先見の明を、示唆する仕事になったといえるだろう。




櫻井敦司はジャケットを脱ぎ捨て、真っ白な長い腕をノンスリーヴから露わにした。
ボトムは、彼の中性的なイメージが増幅されるようなスーパーワイドのパンツで、
まるで、ロングスカートを纏った踊り子が舞うようであった。

時折発せられる、櫻井敦司の叫び声が印象的に響き渡る。

「……僕はナメクジ……」

と歪んだエフェクトのヴォイスで歌い、マイクスタンドに右手を這わせる。

「……僕は愛された……」

両手を閉じて胸の密室にその愛を終い込む。

フロアから突き上げる照明の光に照らされながら床に座って喘ぐ姿は、
櫻井敦司という存在が、もしかしたら“幻想”ではないかと考えさせられる。

彼の幽幻な白い手に照明があたる…。

「ハレルヤ…… ハレルヤ……」

そう呪文のように繰り返し、白い両手を伸ばし、磔のような姿で、天に召される。



「Hallelujah」とは、ヘブライ語由来の言葉で、「主を褒め称えよ」の意 。

櫻井敦司も、田中淳一も、そして村田有希生も、褒め称えられるべきである。



この幻想世界の実現を目の当たりにした“今井寿”はどんな気持ちであったろうか。

そして、長年のファン達。
少なからず、“入籍”という現実を突き立てられた彼女達の目に、どんな風に映ったのか…。


「恋とは、魅力的な人に出逢ったときに、始まるのではない。
 恋とは、嫉妬を感じたときに、堕ちるものである ハレルヤ!」


ハレルヤ!
(作詞:櫻井敦 作曲:村田有希生my way my love)


震える 膜を破り 産まれ堕ちゆく
光が ああ 二度と戻れない 二度と…

這いずる 白い乳房 僕はナメクジ
ぬくもりを どうかこの手に

ハレルヤ!赤く染まる 君は愛された
ハレルヤ!俺は千切れ 俺は愛された

突き刺す 君の奥に 熱く 冷たく
終わりだ ああ君が壊れた

ハレルヤ!赤く染まる 君は愛された
ハレルヤ!俺は千切れ 俺は愛され 欠片も無い
ハレルヤ!

【ROMANCE】