「信じるものが見つからない
あんたにはあるのかい 欲望以外に」
精鋭メンバーが勢揃いのNHKホールで、櫻井敦司ソロライヴ【愛の惑星 LIVE2004】が続く。
こんな、個性的なメンバーを取り揃えれば、
ちょっと考えると、纏まりがなくなるのでは?と考えてしまいそうだ。
しかし、このジャンルなき櫻井アンソロジー『愛の惑星』を再現するには必要な面子。
そして、メインの唄うたい“櫻井敦司”を中央に据えると、
不思議とこの不安は、頭から消え去っていく。
この存在感……。
4曲目に登場した「I HATE YOU ALL」も、PIGに続く、本格的インダストリアル系アーテイストで、
ジム・フィータス(J.G.Thirlwell aka FOETUS)提供の“ジャズ歌謡”といわれる一曲。
非常に意外な曲調の同曲も、櫻井敦司の強烈な色香が漂い、
ジャジーな作風も、血の匂いが充満するようなデカダン・ゴシック大作となった。
この後に、櫻井敦司のソロ・ワークスの出来に、“嫉妬した今井寿”が、
もう一度、櫻井敦司の原点を追求するようなゴシックの傑作アルバム『十三階は月光』を
構想したキッカケも、こういった本場のジャジーな雰囲気漂う楽曲と、
櫻井敦司のキャラクラーの融合を、垣間見せられたせいではなかろうか?
また、こういったビッグ・バンド形式の楽曲に、
“生命の真実”を描いた、非常に櫻井らしい歌詞が溶け込んでいる点も特筆すべきだろう。
これについて、櫻井敦司は
「いや、好きにさせてもらいました。
(デモに)本人の仮歌も“このままで良いんじゃないか?”ってぐらい入ってて。
メッセージも頂いてたんで。何か気がラクに出来ましたね。
“アイデアがあったら楽しんで好きにやってくれ”みたいな感じで言ってくれて」
という、大物ジム・フィータスのメッセージ通りに、
櫻井敦司にしか、実現出来ない雰囲気が充満するこのデカダンさが、
鬼才:今井寿のハートに火を付けてしまった帰来はある。
やはり、櫻井敦司という人物は、手加減の出来ない、トコトンまで突き詰めてしまう
因果な人物の性質が、こういうところにも表面化されているのではないか。
いや、これは、ソロだからこそ、突き詰めてしまったのかも知れない。
そして、このように何でも突き詰めてしまう性質が創り出す世界観。
この世界観の実現には、
本家BUCK-TICKを、別にすれば、
恐らくは、今回のような、アクの強よそうな面子によるインプロヴィゼーションをも、
強力なパワーと変換してしまうようなプレイヤーが必要不可欠であったろう。
そして、このマニアックともいえるソロ・ライヴ【愛の惑星】の前半部分は、
その濃い世界観の実現が、あまりにも緻密に実行されたがために、
この日、NHKホールに、入籍後の櫻井敦司の姿を見に来た、往年のファン達には、
やや、“突き放された”様に感じたかもしれない。
「私の知っている櫻井敦司は、何処に?」
という、悲痛の面持ちで、ステージを見つめるファンには、
すこし、この深く濃い、前衛的なパーフォーマンスが、
何処か遠くに、櫻井敦司が、行ってしまったかのような“距離感”とともに、
胸の底から、湧きあがる“寂寥感”を味わっていたかも知れない。
しかし、この後の展開で、そんなファン達も、櫻井敦司という人物の、
深い“愛の惑星”の引力に魅了されずにいられなかっただろう。
それほどまでに、この『愛の惑星』は、
そして、櫻井敦司の“愛”は、深く濃く魂を抉る内容であった。
(以下、『UV』誌より引用抜粋)
――実際、ものすごく長い作業というよりは、短期集中型の密度濃いアルバム制作だったわけですよね。
期間限定だったからこそ成立したやり方だという気もするんですけど。
「ええ。
締め切りがなかったら、たぶんやってないです(笑)。
やっぱり終りがあるからこそ、こうしてカタチになるもんだと思うので」
――僕がひとつ感じたのは、歌詞にしろヴォーカル・パフォーマンスにしろ、
それぞれの曲について“行き切っている”ってことなんです。
もしかしたらバンドとして作品に取り組むときには意識的にブレーキをかけるんじゃないか
と思われるところでさえも。
「んー……やっぱり個人の名前でやる以上はなんでもアリだと思ってますからね。
バンドの名前でやるときは、
やっぱりどこかしらでその……ブレーキというか、歯止めというか、が……。
バンドはやっぱり、もう十何年も一緒にいますから、
1曲1曲勝負じゃないし、自分たちの見せ方みたいなものも考えてやってるので。
そういうところが個人でやるときはちょっと違いますね」
――ソロのほうが……後先考えずに?
「そうですね」
――実際、この14曲をアルバム1枚にまとまること自体も、
これらの曲を同じステージ上でライヴ展開しようということ自体も、ある意味無謀というか(笑)。
曲順を決めることだとっても大変だったんじゃないですか?
「いや、それは……どの程度のことを“大変”と言うのかはわからないですけど(笑)、
1回並べてみたのを聴いてみて、“あ、これじゃないな”と思って、自分で考え直して……。
今でも“この順番、ちょっと違うんじゃないか”とか思うところもあるんですけど(笑)、
そんなに深刻にはなんなかったですね」
――確かにこうして、そもそも同じアルバムのなかに入るはずもないような曲たちが同居しているのであれば、
構成的にもなんでもありかもしれない。
ライヴについてはどんなふうになりそうなんでしょう?
「自分にできることをやるだけですね。
そこで全部を背負い込んで深刻に考えるっていうふうにはなってないです。
やっぱりいろんな人は関わることになるわけなんで、
その人その人が、俺の看板が掲げられた下でいろんなサポートをしてくれることになると思ってますし。
ま、本来はいろいろ考えなきゃいけないんでしょうけど、
正直、なんとかなるだろうっていうのもどこかにあって」
――櫻井さんだから、なんとかなるんです。
「……どうなんでしょうね(笑)。
でも、ま、深刻にならなきゃいけないところでならなかったり、
ならなくていいところでなったりもしますし。
誰と一緒にやるかとかはもうだいたい決まってますけど、
今、ここでいろいろ考えても、実際に音だしてみないと何も始まらないところがあるんで。
それまでは、とりあえず自分が考えなくてもいいことは考えずにおこう、と(笑)」
(以上、引用抜粋)
ゴシックな叫びの中に、「誘惑」以来の本格ジャジーな調べが木霊する。
ワイングラスから、ワインを含んだと思えば、霧吹きのように吐き出し、
まるで、演劇の舞台のように煙草に火を付ける櫻井敦司。
こんな演出が、後に【13th FLOOR WITH MOONSHINE】に生かされたのかも知れない。
「信じるものが見つからない
あんたにはあるのかい 欲望以外に」
こう問い詰める櫻井敦司の姿に、往年のファンだけに止まらず、
今井寿もが、目を離せなくなってしまったのかもしれない。
「I HATE YOU ALL !」
櫻井の煙草の煙が目に滲みる。
「恋とは、魅力的な人に出逢ったときに、始まるのではない。
恋とは、嫉妬を感じたときに、堕ちるものである」
