「それでも 今は 生きて 歌え」

2004年のBUCK-TICKメンバーによる2つプロジェクト…
“ロケン”への熱狂を、ダイレクトに追求した今井寿のLucyとほぼ同時進行していた
櫻井敦司のソロ・プロジェクトの第一弾シングル「SACRIFICE」は、
Lucyのファースト・アルバム『ROCKAROLLICA』(6月9日リリース)より一足先に発売されていた。

5月26日、ついにリリースされる櫻井敦司、ソロ初のシングル「SACRIFICE」。

この一か月後6月23日にリリースされるアルバム『愛の惑星』で全貌が明らかになるが、
このウェイン・ハッセイ(THE MISSIN U.K.)の手による表題曲をはじめ、
意表を突くメンツとのコラボレーションが、一点集中のLucyに対して、
対称的に、広範囲に広がる“音楽”の可能性を示唆するだけではなく、
歌い手しての櫻井敦司の領域をさらに広げる結果となったようだ。

櫻井敦司の歌い手としての宇宙(ソラ)に広がるような『愛の惑星』を、
その可能性を“GALAXY”と例えても過言ではなかった。
その片鱗を「SACRIFICE」で、表現して見せた。

櫻井敦司のインタヴューを長年行ってきた増田勇一の表現を借りるならば、

「新しい何かに挑もうとしているときの人間は、自分の強さを自覚しているものだと思う。
櫻井敦司のソロ始動もまた、彼自身の自分の持つ武器の有効さを熟知し、
仮にその未知のフィールドで何か失うことになろうと、
自分自身が損なわれることがないことを確信できているからこそのものだと僕には思える。

そして今、目の前にいる櫻井敦司は、やはり強い。

こみよがしに強いのではなく、無防備なままでいられる強さが、
彼の発する言葉のひとつひとつから感じられるのだ」

と櫻井敦司の可能性を「SACRIFICE」は表現していた。


BUCK-TICKではない、櫻井敦司。


まずは彼が、啓愛する英国“ゴシック”の大物提供楽曲で狼煙をあげるのは、
非情に彼らしいチョイスとも言えた。

ゴシック="GOTHIC"。

1980年代のポップ音楽雑誌の記者達は、
この新しいジャンルを面白可笑しく取り扱った。
彼らが"GOTHIC"とジャンル付けするバンドは、全然ゴシック的では無いものばかりとも言えた。
彼らにとっては音楽的要素よりも外見が重要だったからある。

そんな中で-The Bansheesのように黒とシルバー系統の洋服を装着し、
真っ黒な髪の毛で象徴されるファッション-The Sisters of Mercyもゴシックだとされて、
ウェイン・ハッセイがThe Sistersから離れ、THE MISSIN U.K.を結成した時点で、
このラベルは完全に引継れたと言える。

そんなゴシックの伝説の人物の楽曲を料理する櫻井敦司。

これは、もう洋楽である、とか、邦楽である、といった領域を超える作品になることを、
暗に示唆するものであったのだ。

そんなキャラクターが、個人としての櫻井敦司にはあった。

確かにこの時、櫻井敦司は国境を越え、存在している。


もうひとつ。

仕掛け人としての、BUCK-TICKの古巣、ビクターのレコーディング・デレクター田中淳一氏の存在。

現在の最新アルバム『memento mori』の制作に参加したこの人物の
櫻井敦司に対する“妄想”が、この「SACRIFICE」に、
そして、初のソロ・アルバム『愛の惑星』で爆発しているとも言える。

以下『UV』誌の増田勇一の櫻井敦司インタヴューから引用抜粋する。



(以下、引用抜粋)


――そもそもソロ活動というのは“時間があったらやってみたいこと”のひとつではあったんですか?

「いえ、なかったです。これは……偶然ですね。
今井がなんか他のことやるとか言ってたんで、
外側でそれを聞いていた人のほうから、“バンド活動が止まるんなら、ソロでもやりませんか?”と。

今回はまず、(古巣の)ビクターで、田中さん(=担当デレクター)とやるっていう前提があって、
それでやろうと思ったことなんで。
田中さんは以前にもやりたいって言ってくれてたし、アイデアもいっぱい持ってるし、
もう“そこに行って歌うだけ”みたいな感じもあったんで」

――あらかじめアイデアも熱意もある相手と組めるなら、
そこで自らマナイタの上に乗るのも面白いかもしれない、と?

「ええ、そういうことです」

――つまり、明確な目標を掲げてそれを追及しようというんじゃなく……?

「ま、行き当たりばったりですよね(笑)」

――今回のシングル、「SACRIFICE」はウェイン・ハッセイの作品。
この曲も含め、楽曲発注はかなりランダムなやり方で進められていったようですけど。

「ええ。
最初、どんな人とやりたいかっていうのを訊かれて、何人かの人の名前をこっちから挙げて、
ブッキングはスタッフにお任せして。
実際、自分で直接ウェイン・ハッセイにお願いするなんてこと出来ないですし(笑)。
そういうところはすべて一任して……で、来たものを自分で、自分なりに」

――ウェイン・ハッセイへの発注自体は櫻井さん自身の希望ですか?

「いや、そういう発想自体なかったんで。
まさかそういう方に書いてもらえるとは思ってなかったんし、
ディスカッションしているなかで、そういうことも可能だって聞いたときに、
“じゃあぜひ”ってことで」

――こういう機会に、自分の願望を全部実現させようとすると、
逆に自ら方向性を限定してしまうことにもなりかねないですよね。
難しそうなことをあらかじめ諦めてしまったりとか。
でもそうやってある程度委ねられる相手がいると、思いがけない発想が……。

「ええ。
そのほうがいいですよね、やっぱり。自分でやろうとすると、
どうしても自分の知ってるなかで作ろうとして、
ある程度凝り固まったものができちゃうっていうのがあると思うんですけど、
それこそ今回一緒にやった人たちも、名前は知ってても、
まさか自分が一緒にやることになるとは思ってもなかった人たちもいましたし」

――要するに、このシングルにせよ6月に控えたアルバムにしろ、
自分がほしい曲を集めるんじゃなく、周りは自分にどんな曲を歌わせたがっていて、
自分はそれとどう融け合えるのかという発想で制作に臨んだわけですね?

「そうですね。
曲がそこにあって、自分から寄っていく感じでしたからね。
そこで自分で、どんなふうに料理するか。
叩いてみたり撫でてみたり……(笑)。
そうやって自分が曲に入っていくっていう感じでしたね」

――そこで予期せぬ相手が来たときに、
“あ、こうやって曲に入っていく自分もいるんだ”的な驚きもあったりしたんじゃないですか?

「ええ、そのつどそのつど、自分の作業のなかでありますからね。発見するものが」

――実際、「SACRIFICE」という曲そのものが届いたときは、どんな印象を?

「ただもう、カッコいいなっていうひと言ですね。
ただ、変なプレッシャーというか。音も全部しっかり作られたうえで、
ウェイン本人の仮歌も入ってたんで……やっぱり、いつも、誰の曲でもそうなんですけど、
“これを自分もものにできるかな?”っていう、そこから始まるんですよね。
だから“カッコいいな”の次は“どうしようかな”で(笑)」

――この曲に彼自身の仮歌が乗った状態なら、まさにザ・ミッションの王道。
しかし、結果、これは櫻井さんの作品以外の何モノでもない。

「ま、相性は良かったのかな、と(苦笑)」

――歌詞は、曲の印象を踏まえながら?

「そのへんはいつもと同じで。自分のそのときのモヤモヤというか、そういったものと、
曲の持っている雰囲気と……それが合わさってこうなったとしか言いようがないんですけど」

――どうしても世の中の状況と重ねながら聴いてしまうところもあるんですけど、
そういった環境的なことは、むしろ……。

「関係ないですね。環境のせいではない。
ま、そういう環境を自分で作っているということではあるんでしょうけども。
それよりむしろ、自分の内省的なものとか……」

――歌詞に「それでも、今は、生きて、歌え」という一節がありますよね。
この言葉、すごく印象的だなと思ったんです。
実際、歌うことへの思い入れだとか歌うこと自体の意味、動機とかって、
年々変わってくるものだとも思うんです。
ソロ制作はそれを確認するための作業でもあったんじゃないですか?

「そうですね。やっぱり“歌”っていうのは……これはあくまで自分のことだけ言ってますけど、
やること、できることがそれしかないっていう開き直りでもありますし。
実際、いろんな人に当てはまることだとは思うんですけども、
自分のケースだとそれが“歌え”っていう言葉になったっていうか、
そういう意味では確かに印象的ですね。
ま、結局こういうことしかできないので、
やっぱりそこに、大袈裟に価値をつけたりするしかないですから(苦笑)。
で、そこで開き直るしかない」

――観念したわけじゃないんですよね?

「ええ。そうではないです。
開き直るとはいってもマイナスの意味ではない。
とにかく自分はこれをやっていこう、と。
それが、必要とされうがされなかろうが」

――これは“歌”が自分にとって最強の武器であることを確信したうえでの開き直りでもあるんじゃないですか?
“不安だけど、これで闘うしかない”というんじゃなくて。

「……ま、ときに“強くあれ”とは思ってますけどね」

――この曲を歌うときに櫻井さんのアタマのなかに浮かぶ風景、イメージというのはどういったものですか?

「これはけっこうマンガチックというか、自分が具体的に描いたものがあって……。
ちょっと歪んだヒロイズムというか」

――すべてのものを背負ってひとり立ち向かっていく、みたいな?

「やっぱりそういう馬鹿みたいなとこもありますね(笑)。
歌の世界のなかでは、なんかそういう擬似的なものがあったほうが楽しいと思うんで」


(以上、引用抜粋)



櫻井敦司という原石を、デレクター田中淳一は、“宝石”に磨き上げる自信があったのだろう。
結果として、この後、リリースされるフル・アルバム『愛の惑星』は、
今井寿、Kiyoshi、岡崎達成のLucyによる“ロケン”への一点集中攻撃と対照的に、
“統一感”という観点は皆無で、「櫻井敦司」という強力なファクターで纏め上げられた
“櫻井敦司のアンソロジー”とも言えるだろう。

まるで、櫻井敦司という【狂った太陽】に引きつけられた【愛の惑星達】が、
この暗闇の“GALAXY”で螺旋を描きながら蠢いているかのようだ。








SACRIFICE
(作詞:櫻井敦司 作曲:WAYNE HUSSEY)


何が欲しい 何を望む 翳りゆく世界
奪えばいい 信じるなら 明日など知らず

辺りは死に満ちて 後ずさりも出来ない 突き抜けろ

引きずってゆく黒い影 俺は薄汚れてる

それでも 今は 生きて 歌え

声を殺し涙を流している「さよなら…」と、
ただ一つこの望み 叶うなら ぬくもりを…

風も無い 星も無い ゆく当てなど無い

今は 生き抜いて この夜に 歌え

暗闇にまぎれて 逃げてゆく 影がひとつ
捧げよう悪魔へと 望むなら 何もかも 捧げる

愛しい者よ この胸に深く刻もう



【ROMANCE】