DVD『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』。
このBUCK-TICK史上初の日比谷野外音楽堂での2日間を記録した映像作品は、
この後、リリースされるドキュメンタリーDVD『at the night side』と合わせて、
中期BUCK-TICKの時代性を如実に表した作品と言えた。
この『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』発売の前に、リリースされた、
1989年の日本武道館公演を収めた『sabbat』の時代に遡れば、
メンバーのトラブルも含めて、バンドは、その基盤をしっかりと固め、
絶頂期へと昇り詰めていく時期であったとわかる。
これは、それまであった、“ロック・バンド”とは、全く異なる方法論であったが、
予定調和の世界。
いわゆる、“サクセス・ストーリー”だ。
1992年の“伝説のスペシャル・ライヴ”となった『Climax Together』。
この横浜アリーナを横に使ったモニュメントを以って、まさに“絶頂”を極めた。
そして、公式発売ライヴ映像としては、実に6年の歳月を経てリリースされた、
1998年の劇場的ステージ『SWEET STRANGE LIVE FILM』。
この作品を見たファンは、ある者は、狂喜し、ある者は失望の表情を浮かべた。
この時のBUCK-TICKに、かつてのロック・アイドルの面影は、
微塵も残っていなかった。
そこに、在ったのは、独創的な“美意識”の世界。
言葉では、決して表現出来ない、異空間であった。
彼らの“過去はキッパリ捨てた”
という意思表示を見せつけられた思いであった。
それは、“闇の美意識”を目指した、他を寄せ付けないもの。
彼らからの、“新時代への招待状”のようでも、あった。
孤高の“美意識”に彩られたマーキュリー時代を経て、
ステージをBMGジャパンに変え、年末12月29日、日本武道館を決定付けた
2001年リリースの『ONE LIFE, ONE DEATH CUT UP』では、
新旧合わせ持ったトータルでの“機能美”を見せてくれた。
成熟した大人の“デジ・ロック”。
日本にも、こんなロックが存在していたのか?
という、リヴァイヴァルのムーブメントすら感じさせた。
ヴィジュアル・ロックはかくあるべきという姿だ。
かといって、決して、独善的にならず、
キャッチーで、メロディアスな音楽への“渇望”を満たした。
誰もが、このBUCK-TICKのグラマラスな復活を賛美した。
そして、その翌年は、その賛美を覆すかのようなメッセージ、
彼らのセンシティヴな姿を露わにしたファイル・ステージを収めた
『BUCK-TICK TOUR2002 WARP DAYS 20020616 BAY NK HALL』をリリース。
これは現実の厳しさと涙を誘う心の吐露。
この一連の映像作品を流して見ていると、
2001年の『ONE LIFE, ONE DEATH CUT UP』を期に、
この『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』に向けて、
円熟とは、全く逆の方向に、“逆流”を見せていたようにに感じてならない。
まるで、一度、大人として成熟した姿を見せた彼らは、
幼児退行ではないが、彼らが、その結成当初からの初期衝動が、
溢れる“想い”が、彼らのパッションに火を付け、
その“炎”が、シンプルに、徐々に燃え上がっていくような…。
そんな、感覚に、陥る。
バンドの精神的支柱
ヤガミ“アニイ”トールの各ステージでの表情を見ていると、
楽隊最後部から、その“若返り”の様子が、見せつけられるようだ。
このDVD『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』でのヤガミトールは、
まるで、デビュー直後の荘快感をその表情に滲ませているではないか?
打ち込みとの融合で、テクニック的には、再現に困難を極めた
『SWEET STRANGE LIVE FILM』時の表情と比べてみるとよくわかるだろう。
それは、やはり、今井寿の標榜した“ロックンロール”のパワーに他ならない。
誤解を恐れずに言えば、この『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』で、
ある種の完成体となったBUCK-TICKは、ここで、一度、終焉を迎えるのだ。
勿論、燃えきったスピリッツで、
“明日”への新たなる大地を求めて…。
ひょっとしたら、デヴィッド・ボウイではないが、
“死”を選ぶことで、自らの時代に終止符を打ったのかも知れない。
「ロックは、死んだ…」とばかりに。
確かに、初期BUCK-TICKは、映像作品『Climax Together』で終わりを告げた。
アンコール・ラストの「JUST ONE MORE KISS」「・・・IN HEAVEN・・・」
そして、そこから流れるように展開する「MOON LIGHT」で、
“キラメキ”の世界から別れを告げた彼らは、明らかに次の世界観、
そうあの時、“暗黒世界”への扉を開いたのだ。
『極東I LOVE YOU』と『Mona Lisa OVERDRIVE』で完成を見た彼ら。
もし、中期BUCK-TICKというカテゴリーがあるのであれば、
この地点が、まさに終焉。
違った言い方をすれば、転換期であったような気がする。
このまま、突き進めば、この世界観を深めることは可能であったろう。
しかし、彼らは、全く別の“世界観”を求めた。
完成は美しいことであるが、
必然として、その後に、待ち受けるのは、破壊と誕生だ。
彼らは、その道を選んだ。
永遠の“Loop”の中で、自分に踏ん切りを付ける行為。
その最も、高尚な次元で行動こそが、誕生を目論む“死”であるのだ。
「Continuous」と名付けられた、
アルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』のエンドロールは、
それが、前アルバムに“Loop”していくだけでなく、
自らのパッションへの挑戦の物語の終止符である。
そういった意味で、この2枚のアルバムは、
未だ、永遠に“Loop”し続けている……。
『極東I LOVE YOU』Continue

