……なぜだろう……?
「密室」と「FLAME」。
僕は、この2曲を聴くと、肌が泡立つように…鳥肌が立つ。
こんな人、多いんじゃないかな?
2003年12月29日、日本武道館のステージに炎が燃え上がる。
スペシャル2DAYS開催となった【THE DAY IN QUESTION】
この第二夜「密室」とリンクする第一夜のセット・リストは「FLAME」。
このリンクには、特別な意味を感じる。
いや、実は、意味など存在しないのかも知れない。
それは、……“必然”!?
それは、僕の心の中の心象。
「密室」と「FLAME」
作曲者は、星野英彦と今井寿。
全く、別の状況で完成した、この2曲の関係。
この2曲が創られるバンドの空気感も全く違う。
内へ、内へ、インナーな魂の“闇”精神世界に深く抉り込むような1995年のアルバム『Six/Nine』。
外へ、外へ、まるで宇宙に羽ばたくような“光”を放つ2000年のアルバム『ONE LIFE、ONE DEATH』。
まるで、僕とあなたみたいだ…。
それでも、この2曲を唄う櫻井敦司を見ていると、
僕は、まるで、同じ歌を唄っているかのような、そんな“錯覚”を覚える。
恐らく、「密室」に、心震わせる方は、「FLAME」に言い知れぬ感慨を感じるのではないか?
櫻井敦司という、詞作家の考える、ある意味ではシンプルな思考。
恋愛物語という事象についての心の原風景だろう。
「FLAME」は、朱玉の名作と言える。
今井寿のメロディには、そのポップセンスと共存するセンチメンタリズムがある。
彼の一見物悲しげなマイナーな旋律は、櫻井敦司にインナーな小宇宙を与える。
よく対となって論じられる同アルバム収録「RHAPSODY」の今井寿の歌詞に、
呼応するかのように、響き渡る「FLAME」は、“花”というキーワードで、
BUCK-TICKというバンド、櫻井と今井を象徴するかのようなイメージが残る。
櫻井と今井という、運命の導きは、
単に、バンドのヴォーカリストとギタリストや作詞家と作曲家という範疇を超え、
まるで、磁石で引き合うかのように、互いの破片を埋め合うピース。
“闇”と“光”
前段の「RHAPSODY」で、
“不毛の大地”“ぬるい時代”“虚実 矛盾 幻想”と
現実社会を軽蔑するかのような今井寿の歌詞も、
彼特有の強気さをもって「心から君に誓おう」と宣言する姿に対して、
櫻井敦司の「FLAME」は、一見ラヴソングのような顔をして、
咲き誇る“花”のように、凛とした、生命の唄“命の愛”を唄う。
空へと舞い上がる“恋人”達。
この「FLAME」は“命”の“炎”、“命”の“花”、“闇室”の“光”。
「花が咲き乱れる様に 花が死んでいく様に
君が咲き乱れる様に 俺は生きていけばいい
花が咲き乱れる様に 花が死んでいく様に
俺が咲き乱れる様に 君は生きていけばいい」
今年2009年の【BUCK-TICK TUOR2009 memento mori】の初日公演(川口リリアメインホール)でも
アンコールの一曲目にセットリストされた「FLAME」。
2003年12月28日の【THE DAY IN QUESTION】第一夜では「RHAPSODY」に続き、
実際に日本武道館のステージに、炎が燃え上がり、演奏された。
明くる12月29日の公演で、これと同じタイミングで“炎”と同時に登場したのが、「密室」であった。
「密室」は、星野英彦により、アルバム『Six/NINE』制作の初期にレコーディングされ、
「ドレス」で、完全に星野独自のアンヴィエント・ワールドが構築された中で、創り上げられる。
そのすべてのギター・パートは、星野英彦一人の手によるものだ。
少し興冷めするかもしれないが、
すなわち、その時期、その無限なる脳内宇宙で、創作の泉が止まらなくなっていた今井寿は、
「密室」レコーディングに参加していない。
そこに、やや、当時、病的なまでに、自身を精神的に追い詰めていた櫻井敦司の詞が載った。
櫻井敦司は、この当時から、自分の中にない“装飾的な言葉”を使用することを、
極度に、嫌っていたとされる。
発売された歌詞カードを見てもわかるが、日本人的“作文”の感覚に近い、
縦書きによる詩作と、己の心の奥底から湧きあがる“ことば”のみを綴った。
そう、心の「密室」とは、この楽曲だけに非ず、
アルバム『Six/NINE』自体が彼の心の「密室」であったと言える。
そう解釈すると、この「密室」は、櫻井敦司にとって『Six/NINE』の代名詞であったのかも知れない。
一部では、当時社会問題となっていた幼女監禁事件の犯罪者心理を描いた作品ではないか、と
レヴューでは問題作的な話題を呼んだ楽曲であったが、
この楽曲が“監禁ソング”ではありえないという説には諸説ある。
「君を触りたい」
「君を奪いたい」
「君を閉じ込めておきたい」
すべてが願望の形で完結している。
すねわち、実行には至っていない。
むしろ、実行する勇気、もしくは“狂気”まで至れていない自分を唄っているのだ。
だから、嘆き、哀しんでいる。
「ここには望むものはない」
「ああ何も何もない」
そして、問題の歌詞
「君を閉じ込めておきたい」
このフレーズが後に「FLAME」にリンクしてくる。
「この胸にずっと あああ あなたを」と。
そう、櫻井敦司の胸の中には、“願望”しか存在していない。
そんな、自分を嘆いているのだ。漂う寂寥感。
これは、まだ、成熟していない己の魂を痛みとして感じているのだ。
これは前作「die」の歌詞にもある。
「真実なんてものは 僕の中には何もなかった
生きる意味さえ知らない 」
そして、そんな、櫻井敦司の心の「密室」に翼を与えた今井寿。
“風切り羽の黒い翼”を得て、櫻井敦司は飛び立つ。
「ずっといてね 心の中
今は 眠ってこの胸に
燃える炎は やがては消える
美しい 俺の天使 FLAME」
炎は消える、それでも…
「微笑んで空に舞う ふたり踊りながら」
終わりのないものは、ない。
この“命”も“恋”も、いつかは、終えるのだ。
だから、こそ、刹那は大切だ。
その“刹那”こそ“闇”に射す“光”だ。
このステージも、また、いつまでも続きはしないのだ。
だから…、いつも、自分を出し切るプレイを、あなたに。
「なぁ、俺達、そんなに、悪くないよな?」
「ああ、そうだな」
そうやって、櫻井敦司の魂を解き放つ今井寿。
まるで暗闇のような「密室」
「密室」に唯一足りなかったエッセンスは、“今井寿”という“光”だ。
星野英彦が、櫻井敦司に鍵を差し込み、それを開け放つ。
今井寿が、その「密室」に一閃の“光”を射す。
これで、三つのピースが揃った。
そして、完璧なる「密室」の“炎”「FLAME」は出来あがった。
【追記】
また【ROMANCE】を読んで頂いている方からメッセージがあった。
“自由な羽を手に入れたけど、飛んで行きたい所は変わらなかった。
ホントは、捕まえてほしかった。
密室に、入れて貰いたかった。
だけど、それは叶わず…。
私の恋の炎は消えるのか…って。
とても残念で、悲しい、哀しいけど、それが運命なのかな…。”
引用を御許し頂きたい。
出逢いの刹那にこそ、“恋”の真実がある。
密室
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
君に触りたい ここには望むものはない ああ何にも
君を奪いたい全てを 誰も邪魔させない ああ誰にも
たとえ嫌われ口もきかない ああそれでも君が要れば
君 の痛み知り僕の喜びは君に そうして傍にいて微笑んで
君の傷口に僕の溢れだす愛を だから此処にいて泣かないで
あなたは僕だけのものでいて
君を閉じこめておきたい この胸にずっと ああああなたを
いつか解るさ僕の気持ちが ああこんなに君のことを
君 の痛み知り僕の喜びは君に そうして傍にいて微笑んで
君の傷口に僕の溢れだす愛を だから此処にいて泣かないで
あなたは僕だけのものでいて
僕は醜さにいつも哀れみの唄を そうして傍にいて微笑んで
僕の醜さにいつも溢れだす愛を だから此処にいて泣かないで
あなたは僕だけのものでいて
ああ何も何もない
ああ何も望まない
