DVD『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』のボーナスDVDに収録されている
「Mix Track」
本編では漏れてしまった2日目のアンコールの模様と、
この日比谷野外音楽堂の2日間のBUCK-TICKステージの魅力が凝縮された内容となっている。

『UV』誌では、6月29日の開演前の状況のリポートが載せられている。
各メンバーに、この2日目の意気込み聞いており非常に興味深い。
そして、この臨場感はハンパではない。

以下、抜粋引用する。





まずは樋口豊がリハーサル前の時間を割いてくれた。

「昨日は結構押しちゃった(=遅れた)わけですけど、
今日は明るいうちからやるんで、あの照明がほとんど前半は無駄ってことになるでしょうね」

彼はそう言って笑う。
本日の開演は午後6時、開場は5時である。

この時期、1時間の差は大きい。
昨夜、この会場規模からすれば過剰なほどの光量に包まれた野音は、
空から見下ろしたならばまさに巨大な発光物体と化していたはずだ。
が、今夜は、空が充分に暗くなるのは、それこそアンコールに差し掛かった頃になるのではないか。

「ただ、今日はもう舞台も出来上がってから時間的には安心ですね。時間に厳しいんですよね、ここ。
だから今日はもっと早め早めに準備して、アンコールももうちょっと余分に聞かせたいなって。
自分らとしても“なんかちょっと悪かったな”って思ってるんですよ、昨日のことは。

不完全燃焼ってことじゃないですよ。
今回のツアーって、本編で完結して、あとはサービスとして聴かせるって感じだったから。
今回のアルバムって、自分たちのなかでも
“ライヴやってくなかで完成していく”って印象が、いつも以上に強かったかな。
だんだんと浸透していって、ちゃんとアルバムの曲で盛りあがれるようになってきて……。

実際、古い曲やってなくても盛りあがれるようになってきてるんですよね。
そのへんの差、今回は結構デカいと思うんですよ」




開場前の客席でそんな話をしていると、今度は星野英彦がやって来てくれた。
彼には、どうしても聞かなければならないことがある。
そう、彼こそ昨夜初披露された「幻想の花」の作者なのである。

「あの曲を作ったのは『極東I LOVE YOU』の頃ですね。
2枚組にするとかそういう話もあったじゃないですか。
で、結果1枚になったんで入りきらなくて、
“じゃあ次に回そうかなぁ”
とか言ってるうちにだんだん置いてきぼりを喰らったというか(笑)。
『Mona Lisa OVER DRIVE』には色的に合わなかったんで、
またいつか機会があったら出そうかなって気持ちでいたんですけど……
まあ、カッコ良く言えば隠し球ですかね(笑)。

確かに珍しいですよね、BUCK-TICKがああいうふうに未発表曲をやるのは。

久しぶりだったせいかもしれない理由?べつにないですよ(笑)。
せっかくの機会だからやってみたかったていうだけで。

次のヒント?いや、まだまだ、そこまでいってませんから」


僕は密かに、「幻想の花」がBUCK-TICKの“次”を解く鍵になるんじゃないかと予測していた。
つまりこの曲が披露されたことはある種の“謎かけ”なんじゃないか、と。
しかし星野英彦の柔和な笑顔は、あっさりとそれを否定していたのである。



引き続き場面は6月29日、野音の客席である。
午後3時7分、櫻井敦司が会場到着。



そして3人目に会話に応じてくれたのはヤガミトール。
サウンドチェック直前の彼は髪は、もうすでに天に向かって直立している。
今回のライヴはご存じの通りVIDEO撮影され、後に映像作品としてリリースされることが決まっている。
つまり会場の至る所からカメラが彼らを狙っているわけだ。
彼にはまず、そんな状況について訊いてみた。

「いや、べつに……勝手に撮ってくれって感じで(笑)。
あんまりそういうふうに、自分のドラミング以外のこと、気にしたくないんですよ。集中したいから」

ある意味、予想通りの言葉が返ってきた。
そして彼は、ツアー全般の手応えを次のように語った。

「個人的には沖縄ツアーで終わったっていう感覚だったんで、
逆に今回のは別モノっぽくとらえてるんですけど……ツアー自体は充実してましたね、
ここ最近のなかでも。

よくわかんないですけど、いろいろ精神的に変わったんじゃないですかね。

あと、冗談抜きで疲れなかったんですよね、今回。
確か本編とか終ってステージいったん降りるとガァーッと疲れるんですけど、
やってる最中は“疲れた!”とか“暑い!”とかそういう感覚はなくて。

それこそそこがライヴハウスとかであってもね」

そこで僕が「長年の修練の賜物ですかね?」と訊くと、
彼は笑いながら

「いやあ、だんだん馬鹿の領域に入ってきたんじゃないですか、ドラム馬鹿の」

と言って笑った。



各パートのサウンドチェックが進んでいくなか、さすがに客席での会話も難しくなってきた。
そこで楽屋に足を向けると、そこには櫻井敦司の姿があった。
数分後、彼はリハーサルのやめにステージに上がらなければならない。
そのわずかな時間の隙間に、僕は潜り込んだ。

「……気持ち良かったですね」

野音初体験の感触を尋ねると、彼はゆっくりとそう口にした。
昨夜、彼はとてつもなき眩い光のなかにいた。
そこで彼は、かつて経験したことのない刺激を味わっていたんじゃないだろうか。
僕は勝手にそう想像していた。

「ええ。実際そういうものをいつも味わいたいと思ってるんで。
これまでに体験したことのない瞬間だったり、感覚だったり。
まぁライヴってもの自体は何年もやってますし、野外っていうのも何回もやってきましたから、
なかなかそういう機会は得にくいわけですけども、
そのなかでやっぱり違う時間、違うシチュエーション、違うお客さん
……それが野外かどうかってことに関係なく“昨日とは違うもの”を欲深く求めてますね。

仮にそれが長いツアーのなかの1本だったとしても」


もしかすると“初めての曲”を客席に届けようとしたことも、
彼に新鮮な刺激をもたらしたのかもしれない。


「そうですね。やっぱりエネルギーが入りますよね。
誰も知らない曲を伝えるっていう、そういう意味での特殊な力が。
ある種おとなしいというか、しっとりとした感触の曲ですけど、
そこにすごくエネルギーが込められたっていう自覚が自分でもありましたね」

そんな会話の直後、櫻井敦司を含む5人は最終的なリハーサルに臨み、
4時12分、すべての確認作業を終了した。
昨日、同じ場面を迎えた瞬間よりも、実に2時間早い。
しかもここでなんと、開場時間を急遽15分間繰り上げることになったとの決定が……。



ライヴの善し悪しは演奏時間の長さで決まるわけではない。
当事者5人が、昨夜のステージに不完全燃焼的な感情を抱いているわけでもない。
それでも彼らは、今夜、より充分な演奏時間を確保するための努力を惜しまない。
何も意識していないような顔をしていながら、実は人一倍ファン思いのバンド。
それがBUCK-TICKなのだと僕は思う。





さて、これから楽屋は本番に向けての最終的な準備で慌ただしさを増すことになる。
そうなる前に少しだけ今井寿に時間をもらうとしよう。
野音の“ヤオン”という響きが好きじゃなかったという衝撃の告白!?を2か月前に本訴で果たした彼だが、
実際のところその感触はいかなるものだったのだろう。

「気持ち良かったですよ。
ただ、気持ちは良くてもやりにくかったですね、音的には。
あと、昨日は時間も短くて申し訳なかったし、
未発表の曲をやれたっていたっていうのが唯一の救いだったっていうか……。

ま、野外なりの開放感みたいなのももちろん感じましたけど、
基本的にはあんまり変わらないと思うんですよね、普通のライヴと。
雨だけは降ってほしくないとかそのくらいで。
そういう部分以外ではべつに何も意識してないし」

彼自身のなかで、今回の2夜公演は、
『Mona Lisa OVER DRIVE』に伴うツアーの総括ではなければ、締めくくりでもないという。

「確かにあのアルバムに伴うものの一部ではありますけど、べつにこれといって特別な意識もないし、
これまでのツアーでやり残してきたことがあるわけでもないし。
これまでとの違い?んー、わかんないっす。
ま、やりながら、ギター弾きながら次のこと考えてたりっていうのも結構あったんですけど」

そろそろBUCK-TICKのスイッチが、何かに向けて切り替わろうとしている。
しかしそんな“今”と“次”の狭間にいても、彼らのマイペースぶりは変わらない。
蛇足ながら今井寿は今朝7時頃まで呑んでいたというのだ。

ある意味それは、いつも通りのことでしかないのだが。


「いや、ちょっとは今日のために大事とるというか、おとなしくしているつもりではいたんですよ。
でも、ついつい……(笑)。
でも全然大丈夫ですから、体調」

午後4時43分、こうして今井寿との会話は終了した。
それから75分後、第2夜のステージが、まだ空が明るいうちに幕を開けた。



以上、引用抜粋。



2003年6月29日 日比谷野外音楽堂【-XANADU-】
セットリスト


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  1.ナカユビ
  2.残骸
  3.MONSTER
  4.BUSTER
  5.LIMBO
  6.原罪
  7.BLACK CHERRY
  8.Sid Vicious ON THE BEACH 
  9.GIRL
  10.無知の涙
  11.楽園
  12.太陽ニ殺サレタ
  13.idol
  14.Long Distance Call
  15.極東より愛を込めて
  16.愛ノ歌
  17.Mona Lisa

アンコール-1
  18.幻想の花
  19.FLAME
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