「Adios ドリー……」
狂奏戯曲「細胞具ドリー:ソラミミ:PHANTOM」。
きっと今井寿にしか実現不可能なギターソロの後、アドリヴで「メリーさんの羊」が奏でられる。
サイバーに、ゴシックに、エレクトリカルに、ロックンロールを爆走させるBUCK-TICK。
ホールクラスのライヴツアー【TOUR Mona Lisa OVERDRIVE】は、
2003年4月9日と4月10日のNHKホール公演で一時終わりを告げる。
その“過激”な内容に伴って、この過酷なツアーが、メンバーの身体を疲労させる。
DVD『at the night side』では櫻井敦司が首にシップを巻き付け、
酸素呼吸器を口にするシーンが度々現れる。
しばしの休息、体力を補給し、この過酷なロードは続く。
同年4月29日 SHIBUYA-AXではFC限定(FISH TANKer's ONLY)のライヴ・ハウス・ギグ
翌4月30日 SHIBUYA-AXより、ライヴ・ハウス・ツアー【Tour Here we go again!】スタート。
5月25日の沖縄ダンスクラブ松下まで合計8本のギグを慣行する。
そもそも、このアルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』の制作過程で、
“ライヴ・ハウス”映えするナンバーを、という趣旨があった。
もっとダイレクトに、もっとストレートに、もっとシンプルに。
BUCK-TICKの定義する“ロックンロール”を伝えるために…。
櫻井敦司は、今度は真紅のロングコートを纏い登場する。
このイントロは…?
「ヒロイン」だ。
この【Tour Here we go again!】の本編セットリストは、
オープニングSE: Continue
1.ナカユビ
2.ヒロイン
3.LIMBO
4.原罪
5.残骸
6.キラメキの中で・・・
7.見えない物を見ようとする誤解
全て誤解だ
8.Death wish
9.BUSTER
10.MONSTER
11.BLACK CHERRY
12.Sid Vicious ON THE BEACH
13.GIRL
14.Baby,I want you.
15.ICONOCLASM
16.極東より愛を込めて
17.愛ノ歌
そして、今回の活動の主題「Mona Lisa」がアンコールの一曲目にくる。
続くアンコール楽曲もBUCK-TICKのアグレッシヴな一面を表す楽曲群。
「TO SEARCH」「スピード」「MY FUCKIN' VALENTINE」とライヴハウスにはぴったりだ。
(※その他「BRAN-NEW LOVER」「ミウ」「die」等もプレイされる)
そして、2曲目にセットされる「ヒロイン」も久々の登場。
今までいかに印象的なメロディを彼らが重ねてきたことだろうか?
さすがに、16年の年月は数々名曲を生み出すものだとつくづく痛感する。
「お・ま・え・と・ひ・と・つ・だ 」
ファンとの一体感を増幅するライヴ・ハウス・ツアー。
より、スピーディーに駆け抜けるBTロックンロール。
総立ちの会場は異様な熱気を帯び、
生身の悪魔たちが、狂った世界に向け、雄叫びを上げ続ける。
先行シングル「残骸」がスタートすると、果たしてここまで“過激”なBUCK-TICKが、
今まで、存在したであろうか?と思えてくる。
彼らは間違いなくライヴ・バンドであり続けたのだ。
そんな一面を垣間見る。
円熟味など、微塵も感じやしない。
現役のライヴ・バンドの凄味。
それが、ライヴ・ハウス・ツアーではっきりわかる。
そんなライヴ映えを考慮したロックンロール・アルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』の印象を、
ヤガミ“アニイ”トールは、こう語る。
以下、『UV』誌より抜粋引用。
――さて、アルバムについて現時点ではどんな手応えを?
「今んとこ、まだよくわかんないですね。実際ライヴでやってみないと。
もう、どんどん流れ作業的な感じで録ってきたんで、ちゃんとリスナー的な耳で聴けないんですよ。
だからまだ、実感わかんないっていうか」
――ツアーをして、そこで噛み砕いていくなかでいろんなことが見えてくる、と?
「ええ、いつもそうですね。前作についてもそれは同じでしたし。
今にして思えば……まあ単純に今回のアルバムとのコントラストのせいもありますけど、
『極東 I LOVE YOU』はポップだったのかな、と」
――つまり今作は、ポップさとは対極をなす作品ではありそうだという感触が?
「そうですね。詞とかも断片的に見るとそうだし。
俺、詞とかって基本的に見ないんですよ、録ってるとき。
何故かっていうと、TDのとき“歌詞を見なくても何を歌ってるかがわかるかどうか”っていうのを基準にしてるんで。
先に読んじゃうと、ちゃんと聴こえなくてもわかっちゃうじゃないですか。
でも、やっぱりその断片から攻撃性というか……。
前作が優しいアルバムだったとしたら、今回のはちょっとキビしい感じかな、と」
――実際、キビしい方向への流れというものとヤガミさん自身も予測してました?
「いや、それはなかったですね。
むしろ前作の延長線上みたいな感じでいくと思ってたんで。
でも、まるで別モンですよね。“対”っていう感じでもないなと思ったし。
今井も飲みミーティングのとき“ロックンロール”とか“激しい感じ”とか言ってたし、
実際出てくる曲もそういう感じだったから、全然前作の“続き”って感じじゃないよなって(笑)」
――リスナーの側もその“続き”を思い描きつつ今作に接する傾向、あると思うんですよ。
でも、いきなり大胆に裏切られるというか。
「ええ。結局、前回漏れた3曲をあえて入れなかったいうあたりに、顕著に出てると思うんですよ。性質の違いが。
結局、それが入れるべき場所はなくなったというか」
――すごく潔いですよね、そこでキッパリと断ち切ってしまうとこが。
実際、こういった方向に流れた理由って何だと思います?
「なんか世の中、マイナスの方向にばっか向かってるじゃないですか。
たぶん、あっちゃんにしろ、今井にしろ、そういうのを見てて“馬鹿じゃねぇの?”って感じ、
あるんじゃないですかね(笑)」
――まさに世の中に向けてナカユビ立てちゃっう感じで(笑)。
BUCK-TICKは決して政治的なバンドじゃないはずだと思うんですけど、
やっぱりその中の空気とか風潮とかが影響する部分は少なからずあるってことですね?
「ええ。だって自然にニュースとか見ますからね。
それこそ拉致問題とか、ああいったものからの影響もあるんじゃないですかね、深層心理のなかで」
――このアルバムにとって何か、具体的な攻撃対象ってあるんでしょうか?
「それはべつにないと思うんですけどね。
それこそ「残骸」とか録ってるときの意識っていうのもすごくシンプルで、
単純に“ブッ叩く!”っていうイメージでしたけど。
そういう感じで取り組めたものが比較的多かったかな。
前回は学習脳で取り組んでたのが、今回は運動脳でやってるというか(笑)」
――本能に忠実な作品、という気もしますね。
「どうなんでしょう。難しいっスね(笑)。
ただ極論言っちゃうと、前回とかはすごく冷静にやった感じで、ドンカマとかもちゃんと聴きながらやったんですけど、
今回なんかはむしろ“こんなの別に関係ねぇな!”って感じで(笑)。
ドンカマとか意識して叩いたの、「GIRL」ぐらいじゃないですかね」
――前作では自分をコントロールすること、今作では解き放つことを要求されたというか。
「そういう感じですね。
そういう意味ではやっぱり今回のほうが、本能が反映されてるのかな。
だからリズム的な正確さからいえば、今回のほうが揺れてると思いますよ(笑)」
――人間がふだん抑えつけてるものが噴き出したようなアルバム、という感じもしますね。
「ええ。あとはやっぱ、たとえば「Sid Vicious ON THE BEACH」にしろ、ハッキリ言ってパンクじゃないですか。
昔、そういう曲コピーしてた感じを思い出しつつ叩くようなところもあったし」
――初期衝動を取り戻す、みたいな?
「そういう感じ、ありましたね」
以上、抜粋引用。
そう、これは彼らの初期衝動に近かったのかもしれない。
5人が、あの可能性に満ち満ちた、しかし、その手にはなのも持っていなかった頃の衝動。
ただ、純粋に、退屈をブッ潰す為に“刺激”を求め疾走した日々。
“BUCK-TICK現象”の再来だと言えるだろう。
そんな勢いで迫る「残骸」。
そして、最後は…
「深く もっと深く 深く 愛してくれよ
砕け散った日々よ 最後はお前の中で」
細胞具ドリー:ソラミミ:PHANTOM
(作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
救われたいなんて思わない 報われたいなんて思わない
存在 自体 オレはシンプリ そうさ大体 オレがオリジナル
始まリガアリ 終わりがある オレタチは直線上の存在
一度 生まれて 一度死ぬ 命短し 恋せよ乙女
眠れない夜 ドリーは殖える ホラ後に同じ顔
細胞具は ドリーの夢をみるか 柵を飛び越えLoop the Sheep
救われたいなんて思わない 報われたいなんて思わない
存在自体 キミがサンプル そうさ大体 キミがパイオニア
始まりがあり 終わりがある キミは元来 直線上の存在
一度生まれて 一度死ぬ たった一度 一度死ぬ
ドリーが 1 匹、ドリーが 2 匹 オレの肉たいイレモノ ホンモノか?
ドリーが 3 匹、ドリーが4 匹 越えるオレは細胞具
ソラミミが聴こえる ボサノバ始まる
救われたいなんて思わない 報われたいなんて思わない
存在自体 キミがサンプル そうさ大体 キミがパイオニア
始まりがあり 終わりがある キミは元来 直線上の存在
柵を飛び越えLoop the Sheep うなれ PHANTOM Loop the Sheep
眠れない夜 ドリーは殖える ホラ後に同じ顔
細胞具は ドリーの夢をみるか 柵を飛び越えLoop the Sheep
ドリーが 1 匹、ドリーが 2 匹 オレの肉たいイレモノ ホンモノか?
ドリーが 3 匹、ドリーが4 匹 個性がインフレ、頭打ち
ソラミミが聴こえる ボサノバ始まる
ソラミミが聴こえる ナキゴエが聴こえる
ヒロイン
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
天国を探そう 天使達の星を
純白のヒロイン 限りない旅に出よう
おまえとひとつだ
何処までも飛べる 白い影を引いて
純白のヒロイン 終わらない旅に出よう
目を閉じて・・・・・
あなたの瞼に光る銀のしぶき
サソリと十字を抱いて夜の果てへ
蓮華の花びら 君が咲いた彼岸
サヨウナラ夢よ ふたりなら飛べるはずさ
目を閉じて・・・・・
カルマの雲裂き走る銀のしぶき
流れるアクエリアス抱いて夜の果てへ
目を閉じて・・・・・
あなたの瞼に光る銀のしぶき
サソリと十字を抱いて夜の果てへ
カルマの雲裂き走る銀のしぶき
流れるアクエリアス抱いて夜の果てへ
残骸
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
瓦礫の上で歌う 気の狂えた天使
静かに叩きつける 雨は鎮魂歌
残骸が 残像が 残酷に燃える
お前は夢見る 明日が来ることを
雨に 撃たれ
止まない激しい雨は 誰の鎮魂歌
麗しいお前の肌を 俺は汚すだろう
戯れ言は お終いだ 欲望だけだ
俺はもう夢見ない 明日が来ることを
深く もっと深く 俺は穢れて行く
腐りきった日々よ 最後は お前の中で 深く…
残骸が 残像が 残酷に燃える
お前は夢見る 明日が来ることを
戯れ言は お終いだが 絶望だけだ
俺はもう夢見ない 明日が来ることを
深く もっと深く 俺は穢れて行く
腐りきった日々よ 最後は お前の中で
深く もっと深く 深く 愛してくれよ
砕け散った日々よ 最後はお前の中で
深く …深く
雨に 撃たれ
