「後戻りのないゲーム 道標に騙され迷ってる」

ライヴツアー【Mona Lisa OVERDRIVE】では、オリジナル・ツアー以来の楽曲がセットリストにあがる。
「無知の涙」「LION」「カイン」「Asyrum Garden」「Tight Rope」

1995年、アルバム『Six/Nine』からは、「限りなく鼠」がセットアップ。
「限りなく鼠」は、今井寿:作曲、櫻井敦司:作詞のオーヴァーディストローション・サウンドが決めての
BUCK-TICKダークロックの真髄だ。

「生まれ変わり忘れよう 暗い影に遣られるその前に」

という歌詞が象徴するように、絶望の世界を生き抜く覚悟を、
そして、少年から男への脱皮の瞬間を櫻井敦司らしい切り口で模写したもの。

「羽のない俺は笑い転げている 御伽話の恐怖に気付いた
不完全が売りさ 吐いて捨ててもダメ 期限切れまで怯え続ける」

と自己否定美学から入るBUCK-TICK流ダークロックの雛型を創り上げた楽曲。
このツアーでも、そのダークさは、微塵も衰えを見せない。
円熟など、クソ喰らえだ。

そういった大人になること、すなわち完成形に拘る姿勢は微塵も感じさせない。

しかし、いつまでも子供のまま、というのも間抜けな話だ。
そんな“ピーターパン・シンドローム”を標榜するつもりもさらさらない。

そこら辺の、未熟な反骨精神と円熟味のアンバランスを櫻井敦司は語る。

以下、『UV』誌より引用、抜粋。



――歌詞は今回も、向き合うべきものが出てきてから……
つまり曲が提示されてから初めて取り組むという感じで?

「ええ。
自分なりにキーワードというか、自分の感情だけでしかないものをあらかじめ書き留めておいたりはしますけども。
そこはむしろフラットに。
計画性のない人間なもんで“何をしょうか?”って考えないとならなくなった瞬間からスタートします」

――そういった臨み方ができるのは、いざというときに自分を出し切る自信があるからこそなんでしょうね、きっと。

「そうですかねぇ。
いや、いつも自信ないですよ。不安ですよ」

――櫻井さん、いつも“不安”だし“未完成”だって言いますよね。
でもなんか僕は“未完成という完成形”みたいなものあるんじゃないかと思うんですよ。
必ずしもマルくなることだけが完成ではないわけで。

「んー、ひょっとしたらそうなんですかねぇ」

――逆に、完成形に至ってしまうことへの恐怖とか、感じたりすることもあるんじゃないですか?

「いや、完成に対するっていうよりは、
そこで“自分たちはこれでいいや”って思っちゃっうのがイヤなんです。
自分では逆に、完成するわけがないと思ってるんで。

それが完成したって自分で決めちゃったら、もうそこで終わってしまうじゃないですか。

たとえば『狂った太陽』で完成してるとか、『Six/Nine』で完成しちゃったとか、
口で言うこと自体はできますけども、やっぱり自分としては完成なんて、
恐怖を感じる以前に不可能なものだと思ってるんで」

――しかし、たとえばこの攻撃性にしても、無邪気なパンチの連続じゃ決してないと思うんですよ。
闇雲な攻撃と、自分たちの効力を熟知したうえでも攻撃って明らかに違う。
で今のBUCK-TICKの場合、
“このパンチを出せば相手はこういうダメージを受ける”
という確信に基づいた攻撃というか……。

「あ、俺にはないです。そういうのは。
そんな計算、できないですからね。
ま、ある程度、曲を作ってるやつは最初に完成形らしきものを予想するかもしれないですけども、
やっぱりヴォーカリストとしては、俺の声を載せて歌詞も載って楽曲が具体的になったところで
全然思い描いてたものと違ったりするものなんじゃやないかなと思うんです。
そっちのほうが多いと思う。
だから“こういうパンチを出したらこうなる”っていうのは、
できあがりの直前までわかってないと思うんです」

――その段階になって初めて楽曲の特性みたいなものを理解する、ということですか?

「ええ。もちろん曲の“素材”は見抜けますけど。デモ・テープの段階で。
でもやっぱり、相乗効果っていうか……
それこそ最後の最後で、エンジニアの人のアイデアひとつで全然違ってくることもあるし」

――どちらにせよ、効力というものについてあらかじめ確信的なわけではない、と。

「そうですね。
やっぱり“核”になるべきものっていうのは、自分が歌うとき、作業するときに見抜けてないと駄目でしょうし、
それぐらいは自分で納得できてないとマズいですけど。
それでもやっぱり、アタマのなかで考えてても、自分で実際やってみて、
はじめて“ああ、こうなるのか”っていう部分が大きいですし」

――なるほど。
結局、何もかもあらかじめ確信できる状態になってしまったとき、それこそ“円熟”に達してしまうでしょうかね。

「そうですね。
それに、みんなわりと天の邪鬼というかコドモっぽいというか、思い通りにしないっていうのもあるし」

――結局、そうあり続けられること自体はBUCK-TICKの稀有さなのかもしれない。

「そうなんですかね。
でも、少なくとも俺にはそっちのほうが魅力的ですし、
それこそプロデューサーみたいな存在にとっての70点を求めるんじゃなくて、
やっぱり、いちばん近くにいるやつを驚かせたいですし、いい裏切りを重ねていきたいですから、
結局みんなモノを作ることが好きなんだろうし、悩むこともあるにせよ、
なんとか絞り出しながら何かカタチにすることへのヨロコビを感じてるんだと思うんです」

――つまり天の邪鬼で、コドモっぽいままでいるというのは、
「18歳のままでいたい」というとは違うわけですね。

「ええ。俺、そんなこと絶対言いたくないですから(笑)」

以上、引用抜粋。




赤いスポットライトに照らし上げられながら櫻井敦司は、成長への痛みを唄う。
それは、追い詰められた末に、変身と遂げる鼠のような自身への呪文である。

そしてこの『Six/Nine』からのダークロックンロールがいかに普遍的な存在かを我々は再確認する。
剥き出しの精神を晒したアルバム『Six/Nine』をもう一度、頭から聴き直す必要に迫られる思いだ。


そして、ツアーは続く。

DVD『at the night side』独特のカメラアングルは、ステージ袖より、
メンバーのパフォーマンスを記録している。
所謂、スタッフ目線から見たBUCK-TICK像をカットアップしたもの。

この「極東より愛を込めて」でのステージ袖からの映像で、この作品の一番の見所!?
星野英彦のステージ転落のトラブル・シーンが映し出される。
ライヴは生モノだ。
どこに、どんなトラブルが潜んでいるか、わからない。
実際、怪我をしてしまうアーティストは多い。
この有名な“ヒデのステージ落ち”のシーンは、後でこそ、笑い話のエピソードとなったが、
このシリアスな楽曲「極東より愛を込めて」で、こういったトラブルをもネタにしてしまう
星野英彦の人間性の深さに、感謝すべきだ。

実際、転落後も、他のメンバーは、星野の穴を埋めるべく迫真のプレイを続けた。
真近にいた櫻井敦司は、一瞬手を差し伸べようとするが、スタッフがすぐ救出に向かう。
そして、ステージに押し上げられた星野の背中を「大丈夫か?」とばかり優しく叩く、
その後も、櫻井は楽曲に戻り、観客を煽り続ける。
これこそ、ロックンロールだ。
執拗に「LOVE & PEACE」を繰り返している。


復帰した星野英彦も、楽曲に戻り、シリアスに演奏を続けるプロ根性。
そんなフォーローに、高校時代からの親友、樋口“U-TA”豊も、演奏を終えて、
ステージ袖に戻る星野に声をかける。

「ヒデ!おもしろい!!」

このフランクな一言が、彼らの関係を物語る。
“空気”がガラッと変わる。
このセリフが、櫻井や、ヤガミ、ましてや、無口な今井の発言ではなく、
やはり、樋口が一言「ドンマイ」と声をかけるところに、
それぞれのメンバーが持つ人間関係と役割分担を見る思いだ。

楽屋に帰った星野英彦は、少し落ち込んだ表情をしているが、
きっと、この日の打ち上げの主役は、この大人しい縁の下の力持ち“ヒデ”であったのは間違いないだろう。

そして、囃子立てるU-TAと、それを見て笑う、櫻井、ヤガミ、今井の年長組の姿が浮かぶようだ。
少し大袈裟に言うと、永遠の…友人関係、人間関係がここにある。

そんなシーンを収録したDVD『at the night side』の価値は、
他のライヴ映像作品には見られない特異な輝きを見せている。





限りなく鼠
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


360度夢見勝ちの俺は 罠にはまった鼠みたいだ
「自由!自由!」と叫ぶ 泣いて逃げてもダメ 追い詰められた時猫に噛みつく

もうさよならさ 甘い顔をした少年よ
可愛い顔した少年よ

生まれ変わり忘れよう 暗い影に遣られるその前に

羽のない俺は笑い転げている 御伽話の恐怖に気付いた
不完全が売りさ 吐いて捨ててもダメ 期限切れまで怯え続ける

もう見飽きたのさ 淋しいふりした少年よ
不思議なふりした少年よ

後戻りのないゲーム 道標に騙され迷ってる

もうさよならさ 甘い顔をした少年よ
可愛い顔した少年よ

生まれ変わり忘れよう 暗い影に遣られるその前
後戻りのないゲーム 道標に騙され迷ってる

甘い顔をした少年よ 可愛い顔をした少年よ


極東より愛を込めて
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


見つめろ 目の前に 顔を背けるな
愛と死 激情が ドロドロに溶け迫り来る

そいつが 俺だろう

俺らはミナシゴ 強さ身に付け
大地に聳え立つ
光り輝くこの身体

そいつが お前だろう
今こそ この世に生きる意味を

愛を込め歌おう アジアの果てで
汝の敵を 愛する事が 君に出来るか
愛を込め歌おう 極東の地にて
悲哀の敵 愛する事が 俺に出来るか

泣き出す 女の子
「ねえママ 抱き締めていて もっと強く!」

愛を込め歌おう アジアの果てで
汝の敵を 愛する事が 君に出来るか
愛を込め歌おう 極東の地にて
悲哀の敵 愛する事が 俺に出来るか

見つめろ 目の前に 顔を背けるな
愛と死 激情が ドロドロに溶け迫り来る



【ROMANCE】