「ああ もう だめさなんて 二度と言わないで」

ライヴツアー【Mona Lisa OVERDRIVE】では、アルバムのオリジナル・ツアー以来の楽曲が、
多くパフォーマンスされた「LION」もその一曲であろう。
その模様もDVD『at the night side』には収録されている。

櫻井敦司が、サテンのロングコートを脱ぐと、裏地は、鮮血のような“赤”。
それを、まるで闘牛士のようにひら付かせて唄う「LION」。
アルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』の生身の“攻撃性”のを、
この猛獣使いと化した櫻井敦司は、颯爽と演じている。

今回のツアーで御馴染となった女体マイクスタンドも大活躍で、
スタンドの右へ左へとゆらゆらと揺れるマントが艶めかしくエロティックだ。

この猛獣ライオンの獲者は、間違いなくセクシーなこの女体である。
血の匂いを嗅いで誘い出された百獣の王は、この美しき女体を、どう料理してしまうのだろう。

印象的なギターリフが、今井寿のフライングVから猛獣の叫びとなる。

このツアー【Mona Lisa OVERDRIVE】では、この女体マイクスタンドに加え、
仮面の美女マスクも効果的に演出に加えられた。
このマスクの口元は、間違いなく櫻井敦司をモデルとしていて、
エロティックな雰囲気に拍車をかけている。

決して“攻撃性”だけでは、演じ切れないと語っていた櫻井敦司の真骨頂こそ、
このエロチシズムになるのかもしれない。
「俺はそんなパンクじゃありませんから…」
という櫻井敦司の魅力が全開に香り立つ「Tight Rope」を聴けば、
彼の持つ“己への攻撃性”という意味も少しはわかるような気がしてくる。

僕はその攻撃性を“自らの強さも脆さもすべて知り尽くしたうえでの確信的なもの”と感じている。

櫻井敦司は時折、あの完璧なたたずまいに似つかわしくないほどに、
自らの不完全さ、不安定さ、未熟さを口にする。
そして他のメンバーたちも、成熟だとか円熟といった言葉で
自分たちの音楽や現状を表現されることを決して好まない。
そうした状態にあるということを認めようともしない。

が、僕は思う。
この攻撃性は、BUCK-TICKが、
円熟の使いみちを知っているからこそ具現化できたものなのではないか、と。

櫻井敦司は語る。
自分にとっての“攻撃性”、そして“自然体”とはなにか?

以下、『UV』誌より抜粋、引用。



――今作にまつわるキーワードとして先月号のインタヴューのなかで提示されたのが攻撃性と自然体。
このふたつってむしろ同居不能なものでもあると思うんですけど……
たとえばステージでの櫻井さんは“自然”ですか?

「いえ、不自然ですね(笑)。どうしても、そこに、意識があるんで」

――レコーディングのときは?

「やっぱり不自然です。
自然体でいるのは、それ以外のときですね。
あんまり生命反応がないようなすべての場面というか(笑)」

――音楽活動の場面ではスイッチがONになる。それがOFFになるときが自然体だ、と。

「ええ。
やっぱり人目のないところで、自分ひとりで考えごとしてたりっていうのが、
いちばんフラットな状態だと思いますし、緊張もしてないですし。
人と話をするっていうのもある程度、自然ではないことですから」

――つまりこういった取材の場というのも不自然で非日常的なものってことですね?

「そうですね」

――たとえば今回のレコーディングに際しては、自然体であろうとか肩の力を抜こうとか、
そういう意識が働いていたわけですか?

「やっぱりある程度は、不自然ななかででも、自分の表現したいことを婉曲しないカタチにするっていう意味で、
自然であろうとしたというか。
借りてきた言葉を使ったり、自分以上のものをやろうとしたり、
そういうことは自分にとって作業のうえでは自然ではないので、
なるべく出てきたものをストレートに……。
そういう意味での自然さですね」

――自然=無意識と考えがちですけど、そこにはむしろ意識的な自然がある。

「ええ。
だから最初に“自然”って言っちゃうと、あとから説明するのに辛いものがあったりするんですけど(笑)。
大雑把に言っちゃうと、バンドの流れとして行くべきところに行った作品だと思いますし、
そういう意味でも自然ではあったと思いますね」

――攻撃性というのは、明確に意識したうえでこそ発生するものですよね。

「実際かなり意識してたでしょうし、
結果的にはこれがいちばん選択するうえで自然だったっていうことだったと思います。
一枚岩っていうか、そういう確固たる意識ではなかったと思うんです。
最初は、個人個人の考えてることが集まってきて、だんだんとそうなってくる。
実際、そういうのが多いんです。
あくまで偶然の重なりあった結果というか」

――それが結果、必然にたどり着くというか。

「ええ。
そのプロセスという道順は違っていても、結果的にみんな攻撃性という着地点に集まってきた、みたいな。
それに俺の場合、攻撃性っていうのは、あくまで自分に向けてのものなんです。個人的には。

つまり自分を痛みつける攻撃。

今井の場合はもっと解き放つというか、表に向いてると思うんですけど
……ラクっていえばラクなんですね、俺は自分を傷めつけてるほうが」

――つまり5人が攻撃性という言葉で重なっていたとしても、
その意味合いは5人のなかで必ずしも同一ではない、と。

「ええ。違うと思いますね」

――そこに到達する経路もスピードも、個々に違う。
そこで、歌詞は編んでいく作業についての意識はどうなんです?
変な話、“ここでこの言葉を使ったら誰もがイチコロ”なたいなのも(笑)、当然あるでしょう?

「俺の場合は……慎重です。
“この言葉でこの曲が決まるかな”というときでも、
気が小さいほうなんで、すごく慎重に選びますね」

――言葉がわき出てくる状態を得るためにも“自然な時間”って必要ですよね。
歌詞を書くうえでいちばん不可欠なものってなんです?

「ボールペン、とか答えたら駄目なんですよね(笑)。
やっぱり自分の……大袈裟ですけど、生い立ちとか。
家庭環境だったり、何歳までに形成された人間性だったり。
それがなかったら今の自分はないですし、それが自分というフィルターなんだと思います。
そこで、嘘っぽいのとか作りものっぽいものは何より避けたいですね。
少なくとも今は」

――実際、今作で歌われていることは、櫻井敦司という人物と、嘘偽りなく重なりあっているわけですか?

「……はい(笑)。
誤解を招く部分があるのも承知のうえで“はい”って言うしかないかな、と(笑)」


以上、抜粋、引用。




櫻井敦司という人物の魅力が、最も発揮されるこのアンヴィエントな「Tight Rope」を聴いていると、
まるで、夢ゴゴチのような、高く、高く、沈んでいくような浮遊感を感じるだろう。
これこそが、彼の持つ独特な未完成観から繋がっていく【艶】だ。

決して完結しない、長い長いストーリーを見せられているような錯覚を覚える。

そして、彼の本質的な“攻撃性”は、あくまで自分に向かっていくもの。
これを、ストイックと取るか?はたまた、因果な“闇”と背景とする性質と取るか?
ここら辺のミステリアスな部分こそ、未完成な、不安感と未熟感をも内包する“魅力”の正体ではないだろうか?

自らのハンディ・カムで、BUCK-TICKメンバーと最前列の熱狂的なファンを撮る櫻井敦司。
楽曲は狂おしい「MAD」。

たしかに、熱い攻撃的なロックンロール・ライヴの中で、彼独りだけ、
架空の人物のように、浮き上がって見えるのは…、

僕だけで、あろうか?

「揺れる君を 指で辿る いつまでも
 ああ 何て狂おしい
君が飛べば 僕も行ける 何処までも
 ああ 落ちて行くみたい」





LION
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


ああ もう だめさなんて 二度と言わないで
俺は檻の中で暴れる獣の様さ
金色に輝く髪 風にただ なびかせた

ああ何て醜い街だ 夢も見えないぜ
もう捨ててしまえばいいさ この顔も声も
体中に絡みつく甘い空虚 さあ引き千切れ

あああ・・・ 抱かれて・・・
あああ・・・ 消えそう・・・

Coffeeをそそぐ君 真っ赤な口紅
口づけをしておくれよ 何も言わないで
もうすぐ訪れる死は近い さあお願いだ

あああ・・・ 抱かれて・・・
あああ・・・ 消えそう・・・

誰を愛した(誰を憎んだ) 誰に恋した?(誰を汚した)
誰を愛した(誰を愛した) この俺は・・・

さあ全て燃やせ この俺も ああ安らかに・・・

あああ・・・ 抱かれて・・・
あああ・・・ 消えそう・・・

ああ もう 何もかもがくだらないぜ
こうなってきたらヤバイ 潰されそうさ
天国へ行くのさ ここよりは まだましだろう


誰を愛した(誰を憎んだ)
誰を愛した(誰を愛した) この俺は・・・?




Tight Rope
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)



揺れる君を 指で辿る いつまでも ああ 何て狂おしい
泳ぐように 君が揺れる この空を ああ 何て美しい
闇の淵で 誰かが笑う 手招いた ああ 僕がそこに居る
僕は今夜 精神異常 何処までも ああ 落ちて行くみたい

死の匂いだけが頼り

ゆらゆら ゆらら 揺れてる 僕は綱を渡る 目を閉じて
ゆらゆら ゆらら 揺れてる 僕は綱を渡る 目を閉じて

揺れる君を 指で辿る いつまでも ああ 何て狂おしい
君が飛べば 僕も行ける 何処までも ああ 落ちて行くみたい

死の匂いだけが頼り

空中ブランコにあなたが 僕は綱を渡る 目を閉じて
この宇宙を泳ぐ あなたと 夢の果てで逢える 目を閉じて
空中ブランコが揺れてる 僕は綱を渡る 目を閉じて
この宇宙を泳ぐ あなたと 夢の果てで逢える? 目を閉じて

君が揺れている 君が揺れている 青い青い空 青い青い海
君が揺れている 君が揺れている 青い青い空 青い青い海



【ROMANCE】