「俺を“解き放つ”だろう…」

DVD『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』に収録される
ラスト・ナンバー。

「幻想の花」

未発表楽曲として、演奏されたアンコール楽曲は、
まだ、歌詞が完成しておらず、
お蔵入りとなった『極東I LOVE YOU』時代の仮歌詞のまま唄われたとされる。
よって、上記の歌詞は、音源では【-XANADU-】だけの“幻”である。


かつて、1998年に展開されたライヴツアー【SEXTREAM LINER】のアンコールで、
然も、その全公演で、演奏された「月世界」が想い浮かぶ。


しかし、今回は、たったの2夜のみの幻。


日比谷野外音楽堂公演初日、2003年6月28日【-XANADU-】

「極東より愛を込めて」
のMCで、櫻井敦司が語る。

「今日はありがとう。
 涼しくてよかったね。
 時間(の制約)があるので、
 どこまでアンコールができるかわからないけど、
 最後まで楽しんでください。
 じゃあ、愛を込めて…」


あまり時間がないことを残念がりながら、それでも決して投げやりになることことなく、
全力で「極東より愛を込めて」を演奏する5人。

時間の長短ではなく、内容の濃さで、今ある自分たちの姿をぶつけたい。
そんな意気込みが伝わってくる迫真のステージだった。

初日28日のアンコールは、何とか1曲だけ演奏することが可能だった。

「スタッフが掛け合ってくれたんだけど、時間的に難しいみたいで……。
今までみんなが聞いたことのない曲を。それでかんべんして下さい」


と、当時、幻の未発表新曲を披露した。

もしかしたら不満の残っていたかもしれない観衆を納得させたのは、
その限られたアンコールの枠内で披露されたのがこの未発表曲だったことだろう。

「今までみんなが聴いたことない曲を…」

櫻井敦司は1曲しか歌えない時間状況を詫びつつ、「幻想の花」と題されたその曲を歌いあげた。
それがそのまま、最初の夜の余韻になった。

シンプルなサウンドだが、星野英彦のアコースティック・ギターが染み渡る、
じっくりと耳をそばだてて聴きたくなるナンバー。
深い余韻を締めるのにふさわしいエンディングだった。

もちろんアンコールが1曲のみという事実に、
物理的な意味で欲望を満たされなかったファンもいたことだろう。
が、帰路に就く観客たちは基本的に不満よりも充足感を顔に浮かべていた気がする。



そして翌日、日比谷野外音楽堂公演2日目、2003年6月29日【-XANADU-】

メンバーたちは櫻井以外は、午後2時半にはすでに野音にいた。

天候は、晴れ。

降らないに越したことないが、雨あがりのひんやりとした空気のなかで演奏できた昨晩とは違って、
今夜はこの湿度の高い暑さが敵になりそうだ。

そんな開演前の野音で、星野英彦がコメントしている。
そう、彼こそ昨夜初披露された「幻想の花」の作者なのである。




「あの曲を作ったのは『極東I LOVE YOU』の頃ですね。
2枚組にするとかそういう話もあったじゃないですか。
で、結果1枚になったんで入りきらなくて、
“じゃあ次に回そうかなぁ”とか言ってるうちにだんだん置いてきぼりを喰らったというか(笑)。

『Mona Lisa OVER DRIVE』には色的に合わなかったんで、
またいつか機会があったら出そうかなって気持ちでいたんですけど
……まあ、カッコ良く言えば隠し球ですかね(笑)。

確かに珍しいですよね、BUCK-TICKがああいうふうに未発表曲をやるのは。
久しぶりだったせいかもしれない理由?べつにないですよ(笑)。

せっかくの機会だからやってみたかったていうだけで。
次のヒント?いや、まだまだ、そこまでいってませんから」
     (星野英彦)



誰もが、密かに、「幻想の花」がBUCK-TICKの“次”を解く鍵になるんじゃないかと予測していた。
つまりこの曲が披露されたことはある種の“謎かけ”なんじゃないか、と。
しかし星野英彦の柔和な笑顔は、あっさりとそれを否定していたのである。


この楽曲こそが、“まぼろしのはな”だ。


僕は、勝手ながら、「FLAME」で唄われる心の「密室」に咲いた“花”は、
この「幻想の花」であったのではないか?と感じていた。

それは、以前、耽美な世界を極めた“華”ではなく、
脆く、儚く、それでいて、生命の力強さを感じるような、路地に咲く“花”。


“名もなき花”だ。


櫻井敦司のこの時、未だ、未完成であった歌詞で、
この楽曲を聴いていると、そんな気がしてならない。

この儚げな“花”、生命の“花”が、昔の“キラメキ”以上の輝きを放つ。
ハッと気付く。
その“花”は、実はずっと、傍に居てくれた“花”…。

まだ空が明るいうちに幕を開けた第2夜のステージが昨夜以上に眩く感じられたのは、
やはり彼らがすでに“昨日”すら“今日”のエネルギーに変換していたからののだろう。

そうして彼らは、いつも“明日”へと向かっていくのである。



他の誰とも違った歩調で。




その時、“まぼろしのはな”が……

咲いた。






【幻想の花】よ、側に咲いてくれ。

その時、僕は、呪縛から…、解き放たれる。

ほらきれいだろう。




幻想の花
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)



幻想の花 歌っておくれ
この世界は 美しいと
それは素敵な夢だと
君は狂ったように笑う

甘い蜜 飲み干せば やがて苦しみに染まる
花を…花を敷き詰めて


幻想の花 歌っておくれ
この世界は 美しいと
それは素敵な夢だと
君は狂ったように笑う

甘い蜜 飲み干せば やがて苦しみに染まる
花を…花を敷き詰めて

あなたはとても綺麗な 花びらを千切る
真実に触れた指に 朝日が突き刺す

狂い咲きの命燃やす 揺れながら
あなたが咲いてる
この世界は美しいと 歌いながら
きっと咲いている

狂い咲きの命燃やす 揺れながら
あなたが咲いてる
この世界は美しいと 歌いながら
きっと咲いている

【ROMANCE】