「ああ 愛する人よ」

日比谷野外音楽堂が、今宵の天と地の割れ目のようだ。

まさに野外でなければ、不可能なライティング演出。
ステージの両端に設置されている巨大なスポットライトが、高く都心の上空を照らし、旋回する。
空を見上げると、低くたれ込めた灰色の雲をスクリーンにして丸い4点のサーチライトが空を行き来する。

まるで“天に駆け上がる螺旋階段”が、突如、野音に登場したかのようだ。

天に繋がるような、光の中に、神:今井寿の“WHITE POT”のテルミン・ライトが光る。

「愛の歌をあなたに捧げよう」

櫻井敦司の捧げる、BUCK-TICKの“愛”。

日比谷野音の終結したフリークスのそれを受け投げ返す“愛”。

手を、高く天に届けとばかりに、メンバーに差しのべる観衆。

野外でも、やはり、見事なステージだ。
それは、完成体を表すBUCK-TICKの“愛情表現”。

「極東より愛を込めて」と「愛ノ歌」のコントラストこそ、
『極東I LOVE YOU』と『Mona Lisa OVERDRIVE』の受胎の瞬間だ。

ともに祝おう、我々の愛の神と一緒に。


「お前の目が夜を映す 切実な目オレを突き刺す」

受ける“愛”。

たしかにありがたい。
しかし、受け身である限り、それは、いつも流れ出していってしまう。
此処に“愛”を留める為に、その“愛”を自分のモノにする為に、
その身から血を流して“愛”を胸に突き刺すんだ。
そうすれば、“愛”は、手に入るのか?

「時よ止まれこの瞬間に 生きている事刹那感じている」

そして、いつも、想う。
“愛”を確定するには、時間が止まってしまえばいい。
そうすれば、永遠だ。
永遠の“愛”を手にすることが出来る。
永遠に“命”を全うすることが出来る。

今を感じれば、そこが永遠だ。


「オレの上で君が揺れる お前の中オレは終わる」

愛情交換の情事。
どんなに、激しく求めあっても…、
どんなに、甘いセリフで、印象付けても…、
いつかは、それは、外へ流れて行ってしまう。
時間とともに…。
最期は、お前の中で死ぬと決めているのに…。

「時よ止まれずっとこのまま 甘く切ない余韻のままで」

この時さえ、永遠に共有できたら…
この“愛”の温もりと、“余韻”を忘れずに居られたたら…、
しかし、“余韻”を求める時点で、“愛”は過去の物と流れ去る。
この一瞬、先に、すでに、もう…。


だから…、ともに…、歌おう。

この夜の果てで。



DVD『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』の素晴らしさは、
バンドのパフォーマンスの凄味も然ることながら、
この2日間の集結したBTフリークスに代表されるファン達との“愛”の交換だ。

そのシーンがフンダンに収録されたDVD『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』は、
見方によれば、まるで、サザンオールスターズのライヴ映像でも観ているかのように、
そのファン達の表情が、加速するバンドのスピードをコントロールしているかのようだ。

前半の有無をも言わせぬフルスピードでも暴走を、共に駆け抜けたと思えば、
壮大な神の光臨「idol」、かけがいのない「Long Distance Call」では、祈るかのように聴き入り、
「極東より愛を込めて」「愛ノ歌」で愛を投げ返す。

このファン達の呼吸。
この映像は、紛れもなくBUCK-TICKの公演を記録したものなのだ。
これを、“愛”の交換を表現せずに、なんと表現しようか?

このファクターこそが、BUCK-TICKを完成体へと導いているのは、言うまでもない。

“自己愛”が、「原罪」であるのは、
それが、自己完結する広がりを持たない“愛”であるからだ。
だから、嘆きのままに、ナルシスは死していった。

“愛”を“嫉妬”という、部分的偏愛のみで表現するしかなかった“カイン”が、
愛すべき弟“アベル”を罠に落しめ、殺め、死することすら出来ずに嘆くのも、
それが、自身に向けた“自己愛”のせいとも言えるだろう。

愛する行為は、能動的だ。

そして、その受けた“愛”を相手に投げ返してこそ、

本当の、完全なる“愛”となるのだ。

捧げるだけの無償の“愛”=『極東I LOVE YOU』

攻撃的に“愛”することで貫く信念=『Mona Lisa OVERDRIVE』

そのどちらだけでも、やはり、不完全なのだ。


そして、交換する“愛”。


この完全体の姿は、此処に在る。

【-XANADU-】。


永遠と刹那が、受胎する、この時、
人は、きっと“Loop”出来る。

そこには、過去も未来もなく、今、この瞬間こそが、永久だ。

だから……、愛し合い、歌おう。

個では、不完全なのだから。





愛ノ歌
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


お前の目が夜を映す 切実な目オレを突き刺す
時よ止まれこの瞬間に 生きている事刹那感じている

ああ 愛する人よ

オレの上で君が揺れる お前の中オレは終わる
時よ止まれずっとこのまま 甘く切ない余韻のままで

ああ 愛する人よ さあ この夜の果てで

歌おう 愛の歌を 愛の歌を 狂った世界で
お前に 愛の歌を 愛の歌を あなたに捧げよう

ああ 愛する人よ さあ この夜の果てて

歌おう 愛の歌を 愛の歌を 狂った世界で
お前に 愛の歌を 愛の歌を あなたに捧げる
歌おう 愛の歌を 愛の歌を 狂った世界で
お前に 愛の歌を 愛の歌を あなたに捧げよう

【ROMANCE】