「テレビでは悲痛な声でまくしたてるメロドラマ
 この僕は軽く涙流すふりで目を伏せた」


BUCK-TICK独特の反戦メッセージは続く、
アルバム『極東I LOVE YOU』に時代が逆回転したかのようであるが、
魂の一大巨編と言える傑作アルバム『Six/Nine』からは、
【Mona Lisa OVERDRIVE TOUR】の「限りなく鼠」、
【TOUR Here we go again!】の「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」に続き、
【Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-】では「楽園(祈り 希い)」が登場した。

楽曲は、アルバム『Six/Nine』の2枚目の先行シングルで、
10枚目の感動的シングル「鼓動」のカップリング楽曲であり、
このシングル盤はアレンジが全く異なり、ハードロック調のアレンジになっていて、
ライヴでは、こちらが主流となる。

この「無知の涙」「楽園(祈り 希い)」の流れは、
実にドラマティックで、後にDVD映像化される『 悪魔とフロイト -Devil&Freud- Climax Together 』
に収録される2005年の9月11日の横浜アリーナ・スペシャル・ライヴでも採用されている。

2日目の6月29日には、櫻井敦司は、登場時の黒いターバンを、頭に巻き、
風にあおられ布が飛びそうになりながらも、しばし布と格闘し、
歌が始まる寸前にようやく落ち着いたという“野外”特有のトラブルも有りつつ、
感動的なパフォーマンスを繰り広げた。

黒いターバンをほっ被りし、今井寿のフライングVと星野英彦のレスポールにきざまれるリフの中で、
“楽園”に突如現れた“亡霊”の如き櫻井敦司は唄う。
我々は、“嘆きの星”に生まれ堕ちたのだ。

本編『Mona Lisa OVERDRIVE -XANADU-』に収録された6月28日公演では、上記の歌詞の通りに歌われたが、
2日目に入り、櫻井敦司は“メロドラマ”を“クソドラマ”と変えて唄い、
今回の主題“攻撃性”を如実に表した。

しかし、そう唄いたい気持ちにさせたのも、この時代のせいかも知れない。
この楽曲がリリースされ、コーランの挿入が物議を醸した1995年時点から早くも8年の年月が過ぎ去った。
確かにこの時代は、バブル崩壊後の失われた10年、平成大不況は復興の兆しを見せていた。
米国主導の全世界的金融政策も好転の兆しを見せていたかに見えた。

しかし、すべては「クソドラマ」だ。

その表面的、虚構のみをマスコミは垂れ流し、
現実世界は、複雑化し、責任の所在もどこにあるかわからない。

この地球の裏側では、まだ続く神の子同士の“殺し合い”。
解決の兆しすら見えない“宗教戦争”。
欺瞞のみで、表面を繕う先進国“楽園”の裏側で、
蹂躙され、搾取され続ける途上国。
未だつづく、飢えと、病院、学校さえ与えられない国の存在。

“楽園”とされる先進社会でも、
動機なき、無意欲な、拝金主義と、
サイコな殺人事件……。Somewhere Nowhere.ここはどこだ!

数えきれない悲劇が、この“愛しの”世の中にはある。

これこそが「楽園」の収録されるアルバム『Six/Nine』の世界だ。

まさに“相変らずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり”
“希望の都”は、“地獄の果て”。

そして、それを覗きこんだ瞬間に感じる、無力感、虚脱感。
確かに、ひとりが事を始めなければ、何も始まらない。
それは、繰り返される“幸福の自己啓発書”を読めば、誰だってわかる。
しかし、そんな啓示すら“ビジネス”と結び付けられ、
ネットワークは、巨大なマルチ商法となり下がった。

“幸福”を想えば、それは、実現される、と。

そうやって、見たくない現実から逃避する人々。
ポジティヴ・シンキング?
ふざけるな!目を伏せているだけだ。デタラメ野郎。

“光は信用出来ない”。

そうだ。

毎朝、目覚めたら“死を想え”。

そうして、自分は、何物かを、繰り返し問え。
自分の“密室”をこじ開けろ。
そこに、恐らく“解答”など無いと知れ。
線の細い俺は“答えなんて知らないほうがいい”

そこが、スタート地点だ。


生きる意味など用意されてはいないのだ。
子は、親を選べない。そこにお前の意思はない。当たり前だ。甘えるな。限りなき鼠よ。
弱虫毛虫 生きる場所見つけたか?
何ひとつ ああ選べない 。
しかし、ここまで、生きてきたことを、自力と勘違いするな。
我々は、“生かされて”来たのだ。


そして、“生かされて”来た意味は、自分で定義する他ない。


それは、何でもいいだろう。

それこそが、“祈り 希い”だ。

次へ、“Loop”して行くために…。

“大地”を蹴り上げろ。

“鼓動”を感じろ。

“唄”を歌え。




そこが“楽園”だ。


お前なら…、できる…。



楽園(祈り 希い)
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)



愛の国ここは楽園 愛する人抱きしめ合う 永遠とも呼べる様な春
愛の土地花の楽園 平和に慣れ増え続ける これ以上何を求めてる

見知らぬ街見知らぬ人 血を流し悲しみの目 ここでは夢の物語

テレビでは悲痛な声でまくしたてるメロドラマ
この僕は軽く涙流すふりで目を伏せた

神の子が殺し合う愛の園 この俺は知らん顔で夢を見る

愛の国ここは楽園 愛し合い慰め合う よく似た顔が笑い合う
銃声に不治の病 愛し合い傷つけ合う それ以上何を求めてる

優しい父も母も 燃えた大地黒い雨
この僕は軽く涙流すふりで目を伏せた

神の子が愛し合う愛の園 この俺は知らん顔で夢を見る

神の子が殺し合う愛の園 この俺は知らん顔でここにいる


【ROMANCE】