「懲りてない救えない うまくいかないこの星
 混乱こそ我が墓標と呟いた」



櫻井敦司が、マイクを放し、ステージを去る。

これが合図だ。



ライヴツアー【Mona Lisa OVERDRIVE TOUR】【TOUR Here we go again】
目玉の一曲と言える今井寿メインヴォーカル。
タイトルに、伝説のカリスマ・パンクス、シド・ヴィシャスの名をあしらった
「Sid Vicious ON THE BEACH」。

日比谷野音に、突き抜ける青空が広がったかのような、
そんな、トロピカルな前奏が、響き渡る。
上空には【XANADU】ツェッペリン(気球)が浮かぶ。

濃厚な櫻井敦司の愛撫を受けた後のオーディエンスも、
これまで、有得なかったようなBUCK-TICKのサーフ・ロックに、
“野音”が、もう真夏の昼間、炎天下の海辺のライヴへ“Warp”したような感覚だ。

しかし、この姿も間違いなくBUCK-TICKなのだ。

それは、このファン達の笑顔を見ていれば、おわかり頂けると思う。

「これはひとつの(今井)ワールドを創ったほうがいいじゃないか?と思って」
と、今井寿のメインヴォーカルを強く勧めていた櫻井敦司は、
ライヴでも、その存在感の色を消す為か、滅多にコーラスには参加しない。
(※沖縄公演では、コーラスに参加していたので期待したファンも多かったが…)

この今井ヴォーカルについて、ヤガミ“アニイ”トールが語る。


以下、『UV』誌より抜粋引用。




――その「Sid Vicious ON THE BEACH」に代表される今井さんの炸裂具合が今回、凄まじいですよね。
“こいつのアタマのなかはどうなってんだ?”とか思うこと、ないですか?

「いやー、それはもう、ずっとですから(笑)。
昨日や今日始まったことじゃないんで。
たとえば飲んでるとき、訊いたんですよ。
“「ナカユビ」作詞したときにはすっごいアタマきてたのか?”って。
そしたら“べつに”って(笑)。万事そういう感じですから」

――平熱であれが書けるって、普通じゃないですよね!

「背中合わせですから、彼は。いろんなものが(笑)」

――攻撃性ともうひとつ鍵になっているのが自然体だと思うんですよ。

「ですね。去年、結構忙しかったじゃないですか。
レコーディングが終わればツアー、それが終わればまたレコーディングって感じで、全然休む暇なくて。
お盆とかも、いつも群馬に帰るんですけど帰れなくて(笑)。
なんか一年じゅう集中してて、ずっとドラム脳でいたようなところがあって、
“ウォーミング・アップなんかしなくても、いつでも叩けるぜ!”みたいな感じで(笑)。
だから忙しかったぶん、余計なこと考える暇がなかったからこそ自然体でいられたようなところもありますよね」



――今井さんの歌については、どう思います?

「いやー、いいと思いますよ。
やっぱりBUCK-TICKの跳び道具キャラとして(笑)。面白いんですよ。
「Sid Vicious」とか録ってるときも
“なんか元気良く歌い過ぎてて駄目だな”
とか言いつつテイクをボツにしてたらしくて」


以上、引用抜粋。


「瞬き光もくずと消えるコバルトブルーだ
 吐き気がするほどロマンティックだぜ Wonderful world」



今井寿本人は、この全編メインヴォーカルを担当した「Sid Vicious ON THE BEACH」について、
アルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』のヴォーカル・パートの増加について、
そして、彼の考える“ON THE BEACH”とは、どんなものなのだろうか?


以下、引用抜粋。





――「Sid Viscious ON THE BEACH」はタイトルからしてカッ飛んでますけど。
この発想はどこから?

「たまたまSEX PISTOLSのポストカードが目に入って(笑)」

――この曲を今井さんのイメージで映像化するとしたら、どうなります?

「んー・・・・・・地球がタイヘンなことになってるところで、なんかチンピラみたいな兄ちゃんが、
昼間っから部屋でビール飲みながらVIDEO見てる・・・・・・みたいな。
まったく関係ないですけど、シド・ヴィシャスとか(笑)」

――全然ビーチも出てこないんですね。

「うん。その兄ちゃんの寝転がってるソファがビーチみたいなもんというか(笑)」

――今井さんにとってのビーチは?

「やっぱりソファ……かな(笑)」

――「Mona lisa」では今井さん自身がラップ調のヴォーカルを。

「今までもメロディを排除して、それっぽいのをやってたことは何度かありますけど、
ここまでラップに聴こえるっていうのはなかったですね。ま、チャレンジでした」

――僕、今井さんの歌録りって想像できないんですよ、その場の雰囲気が。
いったいこのラップをどんなふうに録ってたんです?

「いや、もうフツーですよ」

――どういう状態がフツーなんだか(笑)。

「最初は緊張してますよ、どんな歌でも。
家で仮歌をやるのと、スタジオで歌うのとだと、なんでこんなに違うんだろうっていつも思う。
家でやってるときのほうがやっぱり力が入ってないというか」

――それって単純に、家だと大きな声でやりにくいってことなんじゃないですか?(笑)

「それはあるとは思うんですけど、“ここまで変わるかな?”っていっつも思う」

――歌い手として“こうありたい”っていう部分、
もしくは“こうあってはいけない”みたいなものってあります?

「“歌い手として”っていうのは全然……。
こんなこというと駄目ですけど(笑)、まるで“なってない”ですね。
今回やってみてあらかさまにわかったんですけど、俺、毎回歌うたびにプレスが違うんですよ(笑)。
これまでいつも、“息が続いてるから歌っちゃてるだけ”だったから。何も考えないで」

――泳いでて息継ぎしないようなもんですね。

「で、あとでもっと大変な目に遭う(笑)。
“ヴォーカリストっていうのは、プレスをきちんと決めなきゃ駄目なんだ”っていうのは、
すごく……小さなショックでした(笑)」

――もうちょっと歌にこだわってみたいんですけど……自分の歌声についてどう思います?

「気に入ってる部分もあるんですけど、なんかイヤ~なところもあって(笑)。
ついエフェクターに頼りがちな声かな、思う」

――今井さんにとっては声も楽器ですか?

「そう言うしかないんですよね、今は」

――今は、ということは……そうじゃなくしたいという願望も?

「いや、もちろんそれはそうなんですけど、そこは俺、あんまり考えるべきじゃないかなと思うし」

――なるほど。で、僕、今のBUCK-TICKを見ていて思うんですけど、
バンドの転がるスピードが落ちないのはアソビゴコロと
“やりたいこと”が失われないからなんだろうかな、と思うんです。

「もちろん。やりたいこととかアイディアっていうのは、そんなに尽きるもんでもないと思ってるし。
まだ全然、出し切れてないというか、出したいことは目一杯あるというか」

――つまりこのアルバムですら“今、出したかったこと”の一部でしかない、と?

「ええ。考え方ひとつだと思うんですよ。
たかが10曲ぐらいって考えれば、できるもんだし。
ただ、そう思ってるとスケジュールがどんどん追っかけてくるんだけど(笑)」

――アイディアがカラッポな状態を味わったことはないわけですか?

「ないですね。
ただアルバム制作ってものを集中してやってると、脳味噌がどんどん疲れてくるから。
やる気だけ先走って全然アタマがついてってないこともありはするけど(笑)」

――でもそこでリラックスできれば、蓄積されてたものに気付かされる、と?

「ええ。でも今はなんもないですよ。“次”に向けてのアイディアなんて」

――ちなみに今井さん自身のなかで“カッコいいもの”というもの定義/意味は年々変わってるんですか?

「いや、むしろ変わってないかな。
カッコいいのは……やっぱり説明が要らないもの。ていうか説明のできないもの。
今回のアルバム・タイトルもそうですけど、そういうものであって欲しいというか。
あとからそれなりにいろいろな意味付けられると思うんですけど。

結局“自分を出してる”だけなんで、それがどう届くかはどうでもいいんですよ。
それぞれ好みとかもあるだろうし」

――どうでもいい、言いつつも仮に今井さんにとって屈辱的な反応があるとすれば、
それはどんなものでしょう?

「カッコ悪いって言われることですね(笑)」


以上、引用抜粋。




確かに、ビーチに寝転がるシド・ヴィシャス?
そんなパンクは、シュール過ぎて、想像出来ない。

でも、ソファに寝っ転がって“ビーチ”の映像を見ながら、
「ふざけんなっ!」って唾を吐くチンピラ兄ちゃん。
それが、パンクスなチンピラであるならば、それこそ、今井寿そのものじゃないか!?

そんなファッキン・クラス・ヒーローの登場に、日比谷野音全体が飛び跳ねる。

そう、これもBUCK-TICKの姿。
いや、むしろ、BUCK-TICKじゃないと描けない世界が此処にある。
そして、これは、ある意味、今井寿の初期衝動そのものだ。

彼が敬愛するザ・スターリンの楽曲「ロマンチスト」の歌詞を引用しており
歌詞カードに作詞者である遠藤ミチロウへの敬意が記載されている。

陽は昇り、また沈むが、BUCK-TICKも、そして、今井寿も変わりはしない。
その神といわれる溢れる“アイディア”が尽きない限り…。
そして、それは、現在も尽きるばかりか、凄味を増して溢れ続けている。



「陽はまた昇って陽はまた沈む Let me go
 Just a Fuckin' class hero ON THE BEACH」





Sid Vicious ON THE BEACH
 (作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)



どこか見かけた 例のあのVenus
転がるように飛んでく天使
愛を振りまくAphrodite
風にそよいでいるアンダーヘアー

CoolなDesignその角度がとても絶妙だ

懲りてない救えない うまくいかないこの星
混乱こそ我が墓標と呟いた

退屈な星が狂々回る merry go round
Just a Fuckin' class hero ON THE BEACH

Fuckin' class hero ON THE BEACH

瞬き光もくずと消えるコバルトブルーだ
吐き気がするほどロマンティックだぜ Wonderful world

笑えないくだらない
Fuck you never come here again
水平線 南風が吹いていた



退屈な陽はまた昇って 陽はまた沈む 繰り返す
Just a Fuckin' class hero ON THE BEACH
陽はまた昇って陽はまた沈む Let me go
Just a Fuckin' class hero ON THE BEACH

Fuckin' class hero ON THE BEACH

【ROMANCE】