2002年12月29日、年末のスペシャル日本武道館ライヴ【THE DAY IN QUESTION】を、
例年にも増したサプライズなセット・リストで決行したBUCK-TICKは、
2003年1月8日に、新年早々、次のアルバムの先行シングルとして「残骸」をリリースした。
BMGファンハウスからの第4弾シングルとなった「残骸/GIRL」のシングルは、
オリコン初登場第5位というBUCK-TICKの近年としては、好調なセールスを記録した。
ここまでセールスを伸ばした原因のひとつは、来る1月24日(樋口“U-TA”豊の誕生日)に開催される
シークレット・ライヴが渋谷AXにて開催され、
シングル「残骸」の初回盤を購入すると、その中に、応募アクセスナンバーが封入されていて、
その番号をweb上で申し込みすると、抽選で、チケットの予約番号がもらえるという特典のせいもあるが、
この楽曲の持つストレートなロックンロールは、多くのBTファンにとって新鮮なものであったに違いない。
前アルバムの『極東 I LOVE YOU』でのメロディアスかつシアトリカルな感覚は、
このニュー・シングル「残骸」には皆無で、バンド結成時のような耳につくギターリフが主体で、
楽曲自体を引っ張る“若々しい”スピリッツが漲っていた。
そして、当初2枚組でのリリースが予定されていた『極東 I LOVE YOU』の続編であると、
話題となっていたニュー・アルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』が、
2003年2月13日に遂に、リリースを迎えることになる。
この『Mona Lisa OVERDRIVE』もオリコン初登場第7位というセールスを達成したから、
当時の音楽シーンが、ベテランの部類に入るBUCK-TICKというバンドに対して、
それまでのファンに加えて、多くの新たなるファン、リスナー層に訴えかける要素を、
この“攻撃的”で“自然体”のニュー・アルバムに求めていたといえるだろう。
映像は、スペース・シャワーTV「ULTRA COUNT DOWN」のインタヴューで、
今井寿と櫻井敦司による新アルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』の制作経緯を、
前アルバム『極東 I LOVE YOU』とそのライヴツアー【WARP DAYS】との経緯を
振り返りながら語られる。
やはり、ミディアム調の楽曲を多く含む前アルバム『極東 I LOVE YOU』の反動が、
この“攻撃性”を有する新アルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』制作に
拍車をかけたと櫻井敦司も認めていて、後半のライヴハウスツアー【WARP DAYS -AFTER DARK-】での
パフォーマンスが、このサウンドの変化の直接的な影響を示唆していた。
制作の主導を握るメイン・コンポーザー、今井寿の意向が多いに反映された様子が語られている。
「ツアーやってみて、その後、自分だちでやってみたいことが変化していくというか、
やりたいことが見えてくると思ってたんで。
音的にもってストレートな感触となるんだろうな、っていうくらいで。
今、やってみてその通りになったと思います」
タイトルの『Mona Lisa OVERDRIVE』は、
アメリカのSF作家、ウィリアム・ギブスンの著書に同名の小説が存在するが、
今井寿はこの小説の存在は知らず、
「SAMURAI OVERDRIVE」(パンクバンド)からインスピレーションを受け、思いついたという。
インストを除く11曲中今井寿:作詞曲が5曲と多いことにも触れていて、
「自覚的に、意識的に、攻撃的な印象を与える曲、アルバムにしようかなって
前向きさ、みたいなもの。いいたいこと、書きたいこと、ってその辺だと思うんで。
希望みたいなものだったり、自然には出てきちゃうけど、
それだけだと、イヤだなって、思う部分があるんで…。
うん。歌詞にするときには、そういうことになるかな」
と語る。
櫻井敦司もいい意味で、
「自分で書いたものは変に力入っちゃうんで…、
単純にヴォーカルとして、カッコ良くなればいいなっていう、想い、でやってました」
と語っている。
また、ヴォーカル・パート部分に関しては、
初の全パート、今井寿による「Sid Vicious ON THE BEACH」について触れられていて、
(タイトルにイギリスのパンクバンド・セックス・ピストルズのベーシストである
シド・ヴィシャスの名が用いられてる。
ザ・スターリンの楽曲「ロマンチスト」の歌詞を引用しており、
歌詞カードに作詞者である遠藤ミチロウへの敬意が記載されている )
この楽曲は、櫻井敦司も今井ヴォーカルを推したようで、
「曲調とか、詞とか見て、これはひとつの(今井)ワールドを作ったほうがいいなと思って、
コレ、今井が唄ったほうがいいんじゃないかな、と人づてには言ってたんですけど…。
全体のアルバム通してでも面白いし、今井らしさがフンダンにでればいいな、と思って。
俺は、うしろでコーラスやって盛り立ててますけど…。」
今井自身も
「“重いモノ”は感じましたよ、それなりに。“全部かよ”って」と語り、
その影で櫻井敦司は、
今井ワールド構築に、バックアップして協力する姿。
互いが互いの“武器”を知りつくした上での“攻撃性”。
これが、強力である、のは語るまでもない。
制作過程のその一幕を想像すると、
生涯の相方の特性を客観的によく理解しているなと感心させられる
と供に、微笑ましい姿が浮かび上がってくる。

そして、シングル「残骸」について、今井寿は、
「ロックンロール。
リフで引っ張っていく、一番シンプルな考えで、出来た曲」
と語っていて、それまでの凝りに凝ったギミックや、深淵なコンセプトを一度解除し、
頭で考えるよりも、行動に訴えかけるようなロックンロールの姿を目指したとされる。
歌詞を担当した櫻井敦司も
「夢のない夢。自分も含めて、過ちの繰り返しで、救いのないとこまで、
こう……あきらめてはいるんだけども……、
でも、求めるものが、まだある。
それが、さっき(今井が)言った“希望”だったり、“ぬくもり”だったり、
本当に微かに、こう……あるんであれば、頼む、って感じ」
と語り、相変わらず深く熱いパッションをこの一曲に込めている。
櫻井にとって“残骸”とは?
「夢だったり、希望だったり、自分の大切なものだったり、
かき集めてじゃないけど、そこまで、求める、と」
それでは、BUCK-TICKの使命は?
今井寿に言わせると
「聴いたことのない。どこにもない“音楽”。…は、目指すところでは、ありまけど…」
そして、櫻井敦司は
「こうありたい、と想うのは、“生命力”を感じてもらえること」
と語る。
「戯言はお終いだ」と印象的に唄う先行シングル「残骸」
そして、ニュー・アルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』からは、
そんな“音楽”の“生命力”を感じることが出来る。
そして、思う。
この“生命力”は、BUCK-TICKが、円熟の使いみちを知っているからこそ具体化できたものなのではないか、と。
生きることへの“攻撃性”、それが変換される“音楽”。
そう、なにも丸みを帯びながら枯れていくことだけが円熟ではないはずなのだ。
