「手紙を君に送るよ それは届く事はないけど
もしいいなら僕に返事を それはたぶん 読めないけど」
【WARP DAYS】最終公演、星野英彦の隠れた名曲が続く。
花の香り立つ「薔薇色の日々」が、終了すると、今井寿が、赤マイマイからレスポールに持ち替える。
そこから、琉球民謡をモチーフにしたようなメロディが奏でられ、
観衆も「???」というリアクションであった。
「六月の沖縄」。
これが、この日のアンコール2曲目。
【WARP DAYS】追加公演とされ6月9日の【沖縄ダンスクラブ松下】のアンコールでも演奏されている。
この楽曲は、ダークサイドに本格的に挑戦した『darker than darkness -style93-』の、
先行シングルとして、1993年5月21日リリースされた「ドレス」にカップリングされた。
タイトルとカップリング楽曲ともに星野英彦の作曲楽曲で
またしても、カップリングに“ヒデの名曲あり”ということになる。
暗黒世界を重い歪んだサウンドで充満した空気で満たした
アルバム『darker than darkness -style93-』には、ややそぐわない楽曲であったが、
そのメロディ・センスには、やはり光る物を感じる。
そこで、シングル・カップリングに選曲されたものだろう。
BUCK-TICKとしても、珍しいシャッフル・リズムが、自然と身体を揺らすような楽曲で、
到底、夏のイメージがないこのBUCK-TICKというバンドが、
汗ばむ梅雨時期の沖縄での一夜出来事をノスタルジックに唄う特徴のある作品で、
上條敦士著作のコミック『SEX』の導入場面を思い起こさせる。
漫画家:上條淳士は、1985年から1987年まで『週刊少年サンデー』にて、
インディーズ・バンドのリード・ヴォーカリスト藤井冬威を主人公にした『TO-Y』を執筆、
この作品が高い評価を受け出世作となった。
1988年の『SEX』連載開始以降は画力の上昇に伴い極めて寡作になっていくが、
その作品群にはカリスマ的な魅力があり根強いファンが多い。
この『SEX』は、第1巻が発売されたのが1989年。基本的にモノクロであるが、
ところどころに赤の色がはいってるという造本は、日本の巨匠監督黒沢明の「天国と地獄」を模したとされる。
第2巻が発売されたのが間があいて、連載終了後の1993年となっており、
当時の隔週刊雑誌連載にして、この単行本刊行のサイクルは、
BUCK-TICKの『darker than darkness -style93-』の「die」と「DTD」の間のブランクに類似するとの説もある。
登場人物ユキとナツは、
ロックバンドTHE STREET SLIDERSのハリー(本名:村越弘明)と蘭丸(本名:土屋公平)がモデルとされ、
ロングヘアーの仇役ヒガは、櫻井敦司(93年当時の)そっくりなキャラクターだ。
そこにカホという少女が絡んで、共犯者として疾走するというストーリーなのだが、
彼の出世作『TO-Y』が、先輩格のBOOWYと吉川晃司を訓るストーリーなら、
こちらの『SEX』は、ユキとヒガの関係が、まるで今井と櫻井。
そして、共犯者を含む世界観が、まるでこのBUCK-TICKを訓ぞっているかのように僕には見えた。
大抵、ライヴツアーのファイナル直前で訪れる沖縄での出来事がモチーフであろうが、
櫻井敦司の歌詞も意味深で、一度聴くと忘れられない“隠れた名曲”であるのは間違いない。
この日東京でこのパフォーマンスを目撃したオーディエンスは、誠に幸福と言えるだろう。
星野作品独特の樋口“U-TA”豊のグイグイ引っ張る様なベース・フレーズに乗せて、
櫻井敦司も腰を揺らしながら妖艶に舞う姿は、沖縄に咲くハイビスカスの花を連想させる。
少しレトロな、南国の風に当たりながら、手のひらでキラキラ花を咲かせるように櫻井敦司は唄う。
「君の声 聞かせてよ 六月の雨の様に
僕の声 聞こえるかい? 傷ついてしまうかい?」
一貫してブルーライトの青の世界の中で、パフォーマンスされる「六月の沖縄」。
この日のスペシャル・プレゼントとしての星野英彦からの最高の贈り物と言えるだろう。
「血の管が熱くなる 六月の砂のように
幻覚に愛されて たたきつけられて」
この年の夏ももうすぐそこまで来ていた。
沖縄の【SORA】は、まだ、真っ白だろうか・・・。
“今夜俺 この世界を嘆く様に愛を込めて”
届かない「恋文」を贈ろう。
そういえば、新アルバムにも、琉球の汗ばむようなエッセンスが入っているそうだ・・・。
六月の沖縄
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
酔っている君のまぶたに 唇でトゲを刺して
感じるかい? この終わりを 死ぬまでに夢を見ればいいさ ああ
手紙を君に送るよ それは届く事はないけど
もしいいなら僕に返事を それはたぶん 読めないけど おお
君の声 聞かせてよ 六月の雨の様に
僕の声 聞こえるかい? 傷ついてしまうかい?
深い深い 夜の中で 幸せがつかめそうさ
今宵 街を走り抜けて あの空で愛し合おう
血の管が熱くなる 六月の砂のように
幻覚に愛されて たたきつけられて
深い深い 夜の中で 幸せがつかめそうさ
今宵 街を走り抜けて あの空で愛し合おう
熱い熱い 日差しの下 絶望がつかめそうさ
長い髪を振り乱して あの海で愛し合おう
今夜俺 この世界を嘆く様に愛を込めて
今夜俺 この世界を振り切る様に踊るだけ ああ
