「聞こえる 聞こえるよ ありがとう聞いてくれて」
この楽曲をBUCK-TICKのベスト・ソングにあげる人も多い。
「Long Distance Call」=“遠距離交信”
実に、深い感情の交わりを表す【ことば】だ。
ここで言う【距離】は、決して物理的な【距離】だけを指すものではない。
“心理的【距離】”をも内包するような楽曲に仕上がったと言えるだろう。
BUCK-TICKの、初めてメッセージ性の高い作品と言われる『極東I LOVE YOU』のド真ん中に、
この「Long Distance Call」は位置する。
精神性の高いアルバム『Six/Nine』にすると、裏の代表楽曲と言われる
「相変らずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり」のような絶対的な存在感がある。
ある意味においては、人間の様々な関係、感情を表しうる楽曲とも言える。
恋愛、告白、コミュニケーション、心情、親子関係、別れ、死、・・・そしてメッセージ。
どうしても、伝えるべき事・・・。
だから、恐らく、どんな人にも胸に迫る楽曲になったと言える。
そんな深淵な心理世界をバックボーンに、今井寿の、この切ないメロディは、
アルバム『極東I LOVE YOU』制作の初期に完成していた楽曲であるという。
この「Long Distance Call」から続く先行シングル「極東より愛を込めて」の
壮絶な戦場での葛藤シーンと合わせてこの楽曲を聴き、
つづく「Brilliant」で、リスナーはトドメを刺されてしまう。
櫻井敦司の歌詞は、勿論、このアルバムに合わせて、
NYで同時多発テロから進行したイラク戦争への想いという発信点から、
【戦場】の哀愁というモチーフが表現されているのであるが、
そこに、かなり大きなエッセンスとして、櫻井自身のプライベートな“感情”の起伏が織り込まれ、
この「Long Distance Call」に更なる深みと胸を突くメッセージとなって流れ込み、
我々の心は、文字通り“Call”されてしまう。
かつて、父親を亡くした櫻井家の次男であった櫻井敦司は、
地元群馬で活動していた仲間“非難GOGO”のメンバーが、本格的にプロ志向のバンド活動の為、
東京へ進出するなか、独り地元に残り就職し、想いを深く引きづりながら、酒の溺れる日々を過ごしていたという。
その最愛の息子の姿に、誰よりも心を痛めた女性は、他ならぬ櫻井敦司の母親であった。
健康に優れず、未亡人となった彼女は、その最愛の息子の背中を押す。
それは、果たされる夢かわからない。
しかし、最愛の息子がその可能性を試す事せずに、残りの人生を歩んで行くことに我慢ならなかったのは、
恐らく、彼女自身であったのではないだろうか?
東京というショウビジネスの【戦場】に息子を送り出す母親の姿は、
「Long Distance Call」の“Mama”そのものだ。
そして、その【戦場】で激しい戦闘を闘い抜いた息子は、立派な戦士となり、大きな“勲章”を手にする。
一般世間では、それは【成功】だとか【夢を実現した】とかいう。
その“勲章”は勿論、自分一人の力で得た訳ではない。
彼を、背中で支えてくれたかけがいの無い存在の母。
それを一番分っているのも、戦士となった櫻井自身だったろう。
しかし、彼は“勲章”を得た瞬間に、そのかけがいのない存在を失う。
なんとういう“喪失感”か!
一体、この“勲章”は、誰の為に、与えられたのか!?
いつも、そう。
すべてが、始まると思った、その瞬間…、幸福は、するりとその手から逃げていく…。
BUCK-TICKの覚醒の雄叫び『狂った太陽』以降、
櫻井敦司の書く歌詞には、そういった人生の無常観が常に付き纏う。
いうまでもなく、それは「JUPITER」「さくら」「太陽ニ殺サレタ」などに顕著に表現されるが、
その他の彼の楽曲すべてに、この寂寥感は注ぎ込まれる。
それは嘆きの「ドレス」、生と死「die」、輪廻「Loop」、誕生「鼓動」、生き様「唄」、
心の中「密室」、破壊と創造「idol」そして次へ伝える遺伝子「COSMOS」。
そして精神的に成人に成長した後も、彼のこのもがくような苦悩は続く・・・。
しかし、その表現は、難解に、そして、示唆的に変化していく。
一旦、影を潜めたかに思えた櫻井敦司の心の檻は、
このセンシティヴな『極東I LOVE YOU』で、
そしてこの「Long Distance Call」で、再度、爆発する。
そのメッセージは一つ。
ただ、ただ、「愛してる」
そう、伝えたかった、と。
そして…
それでも戦士である息子は、再び前進する。
「心が壊れてく 誰かを傷つけにいく
止まらない 止まらない 俺はいくよ」
と・・・。
男は、誰もが旅立っていく…。
そして、女は、“母”になる…。
もし、天国という場所があるならば・・・、届いてくれ。
切に、思う。

それまで…、callし続けよう。
Long Distance Call
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
「聞こえる 聞こえるかい もう眠っていたんだね
聞こえる 聞こえるよ ごめんよ起したね
そう 大事な話なんだ 笑い話かも ああ・・・
聞こえる 聞こえるかい もう少しこのままで
聞こえる 聞こえるよ ありがとう聞いてくれて
もう しばらく会えないんだ おやすみ言うよ
この電話 最後に それじゃ・・・
愛しているよMama 他には何も無いさ
愛してる 愛してる 他に何も
愛しているよMama もう上手く話せないよ
愛してる 愛してる 他に何も
もう しばらく会えないんだ おやすみだけを
この電話 最後に じゃあね・・・
愛しているよMama 他には何も無いさ
愛してる 愛してる 他に何も
愛しているよMama もう上手く聞き取れないよ
愛してる 愛してる 他に何も
心が壊れてく 誰かを傷つけにいく
止まらない 止まらない 俺はいくよ
愛しているよMama もう上手く話せないよ
愛してる 愛してる 他に何も・・・」
