アルバム『極東I LOVE YOU』では、幽玄なイメージの楽曲が犇めき合い、
楽曲が、今井作品と星野作品で、一目で分るという境界線が存在しない。
双方が、双方の得意技を駆使しながら独特の世界を創り上げていると言ってもいい。
これも、今井寿によると、楽曲を素材的にアレンジして広がりを見せる、この『極東I LOVE YOU』の特徴だ。
「GHOST」も、そんな楽曲だ。
1981年のJAPANの最終オリジナル・アルバム『錻力の太鼓』(TIN DRUM)からのヒット・シングル
「Ghosts」を思わせる幽玄さがある。
JAPANの、そしてDavid Sylvianという永遠のモラトリアム青年の最高傑作のひとつ。
その幽幻的な曲調といい、時折挟まれるこれまた不気味なギミックといい、
彼の「服を着た憂鬱」たる精神世界を表すに最も適した楽曲。
大部分はリズムなどないに等しいのだが、
それでいてサビ周辺にはしっかりと東洋的な面影が見え隠れする。
そして何より、その歌詞。
David Sylvianが最後にとうとう、自分のすべてを晒し出した歌詞である。
今まで様々な自己演出のための仮面を被らなければ表現活動を営めなかったDavid Sylvianであるが、
ここでとうとう、裸になるった。
そしてこの曲はJAPAN最高位の全英4位をマークすることになる。
そんな趣さえ感じるこの「GHOST」も、櫻井敦司の心の中を表しているのか?
はたまた、心の中に宿る「亡霊」の叫びが聞こえるようだ。
いや、「亡霊」となることで彼は、すべてを曝け出せたのか?
「愛して・・・」
ステージ正面のオブジェに照明が激しく蠢き、まるで生き物のよう。
やがて、ステージは緑の光に包まれていく。
「「愛して…」それが口グセ 「見つめていて…」濡れた瞳で
「愛して…」呪文みたいに 「踊っていて…」夜よこのまま
「愛して…」」
フリンジ付きのフードを被り、まるで僧侶のような櫻井敦司は、
今まで、演ったことの無かった位に、ストレートに求愛している。
彼の心が、悲鳴をあげているかのように。
四つん這いでステージを這いまわり求愛し続ける櫻井敦司。
星野英彦の心を引き裂くような、哀愁のアコースティックがかき鳴らされる。
この哀しさは、涙するタイプのものではない。
どこまでも、冷静に、自分を見つめ直す低温度のロック・スピリッツが、
“悪魔”と変化してしまったBUCK-TICKメンバーを月の光となって照らし出している。
忘却という“無”に陥らないように、呪文のように繰り返す
「愛して…」
さ迷い歩く末に目的地はない。
死神にすら、相手にされない極地で、あなたを求めて彷徨う亡霊。
しかし、いつの日にか、あなたの夢で踊ることを信じて疑いはしない。
亡者の信念は、月夜に舞い続ける。
ここには、カインの末裔“不死者”ヴァンパイアの“愛”のイメージも浮かびあがる。
赤い血が欲しいだけ…と強がって見ても…。
やはり、“愛”が欲しい…。
「私ここに あなたの中 」
この今井寿の「GHOST」は、次の星野英彦の「謝肉祭 -カーニバル-」と表裏一体だ。
そんな二人の愛し方の境界線のない違いを櫻井敦司が極東から唄っているかのようだ。

GHOST
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
月夜の恋は闇に潜む 真昼の空 踊れやしない
赤い血だけが欲しいだけだ 首筋には真っ赤な傷
透明になれる 綺麗な夜 月明かりに さ迷うだけなの
歩き続ける何処へ向かう 死神さえ振り向きゃしない
あなたの夢で 私躍る 悪夢の果てきっと出会う
透明になれる 綺麗な夜 月明かりに さ迷うだけ
「愛して…」それが口グセ 「見つめていて…」濡れた瞳で
「愛して…」呪文みたいに 「踊っていて…」夜よこのまま
「愛して…」
私ここに あなたの中
透明になれる 素敵な夜 月明かりに さ迷うだけ
「愛して…」それが口グセ 「見つめていて…」濡れた瞳で
「愛して…」呪文みたいに 「踊っていて…」夜よこのまま
「愛して…」それが口グセ 「見つめていて…」忘れ去られる
「愛して…」呪文みたいに 「踊っていて…」それが悲しい
「愛して…」それが口グセ 「見つめていて…」
