BUCK-TICKのひとつの哲学的な考え方に、
【輪廻】“リンカーネーション”“Loop”という考え方がある。
「いつか 綺麗な場所で 逢おう」
という、櫻井敦司の【ことば】で紡ぎ出される「Loop」に、
この哲学の基盤となる考え方が表されているが、
今回は、その“Loop”に“Warp”という概念が追加されることになる。
この“Warp”とは何か?
“Warp”(warp drive) とはSFに登場する超光速航法の一つである。
スペース・ワープ航法と呼ぶこともあり、直訳すれば「宇宙空間歪曲航法」ということになる。
メキシコの物理学者アルクビエレが具体的な論文を発表して以後それを基にたびたび論文が発表され、
物理学界の片隅で今なお議論が行われているテーマである。
直感的に表現すると船の後方で常に小規模なビッグバンを起こしつつ
船の前方で常に小規模なビッグクランチを生じさせ、
光より速く船を押し流すような時空の流れを生み出そうというシンプルかつダイナミックなものであった。
川にボトルシップを浮かべて流していくようなイメージである。
極めて単純に言えば、
宇宙空間内のある点AからBへ移動する際に宇宙の「外」へ飛び出して近道をするのが“Warp”である。
この原理はしばしば、紙自体を折り曲げて紙の上に書かれた2点を近づけるという例えで説明される。
つまり、紙という平面(2次元)での距離は変わらなくても、空間(3次元)内では接近している。
ここで紙(宇宙)から飛び出せばずっと短い距離で到達できるというわけである。
(wikipedia参照)
BUCK-TICKは、この時空を超える“Warp”で、“Loop”を試みたのだ。
なんとも壮大なコンセプトであるが、
アルバム『極東 I LOVE YOU』を象徴する一曲がこの「WARP DAY」だと語る今井寿の発言と、
この、“戦争”というモチーフの決してコメディにはならない『極東 I LOVE YOU』というアルバムに、
今井寿一流のスペイシーなロマンスへと導いているのである。
“Loop”の概念で、我々は“死=die”という終焉の恐怖から逃れられた。
そして、この“Warp”することで
「疾風のブレードランナー」や「21st Cherry Boy」で描かれた【新世界】へ空間移動し
我々は、宇宙を駆け抜けることができるようになるのだ。
この今井寿の広大なコンセプトが、今回のライヴツアーのタイトルにも反映された
ライヴツアー2002【WARP DAYS】は、2002年4月3日の【川口リリアメインホール】をかわきりに、
2002年6月16日の【東京 BAY NK ホール】のこの映像の最終公演までの25公演が実施された。
楽曲「WARP DAY」は、この今井寿の壮大な広がりのあるサウンドとは逆に、
櫻井敦司の歌詞は、逆にミニマムな、個人の胸の中の心の宇宙について唄われている。
この“孤独な扉”の内側に、無限に広がる宇宙=僕の世界が存在する。
その宇宙の中で、またもや、彼独特の血を流し、涙溢れるダンスが繰り広げられてる。
櫻井敦司は、彼の心の中の「密室」のカギを亡くし、
ガラスの扉を壊し、この「密室」に入り込んででいる。
その「密室」にあるガラスのフロアで舞うのだ。
これこそ、アルバム『極東 I LOVE YOU』の悲劇場的世界観の縮図と言えるだろう。
それまでのような、暗闇でのダークでへヴィなダンスではない。
青く煌めく宇宙で、軽やかに、麗しく、そして、哀しい舞であった。
このライヴツアー2002【WARP DAYS】では、ステージ全面にモニター兼お立ち台が設置され、
櫻井敦司は、この上で、この宇宙をひらひらと舞い、
「最後のダンス 踊ろう 踊り疲れて 眠るまで 僕を抱き締め 眠ろう」
そう唄い、マイクを持ったまま後ろ向きになって自分を抱き締めるように櫻井敦司は堕ちて行く…。
なんて、優しいBUCK-TICKの姿が、ここに存在するのであろうか!
これが『極東 I LOVE YOU』ストーリーへ“Warp”する入口であったのだ。
※一説には、この楽曲の歌詞はリストカットの情景の描写を意味する、という説も存在する。

WARP DAY
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
カギを無くした 孤独な扉 この部屋 この宇宙だけが 僕の世界
叩き壊した ガラスの扉 無限に見つめる眼差し 僕を突き刺す
ああ 涙溢れる キラキラ踊る
踊り出すんだ ガラスのフロア 思い切り自由なステップ Dance of Suicide
ああ 赤く流れる ギラギラとただ夢を見るように 堕ちてゆく
僕を抱き締め 踊ろう 耳を切り裂いた 叫び声
最後のダンス 踊ろう 踊り疲れて 眠るまで 僕を抱き締め
ああ 涙溢れる キラキラと踊る
ああ 赤く流れる ギラギラとただ夢を見るように 堕ちてゆく
僕を抱き締め 踊ろう 髪振り乱して 叫び声
最後のダンス 踊ろう 踊り疲れて 眠るまで 僕を抱き締め 眠ろう
