「21st Cherry Boy」
この激ポップなコーラスが印象的な楽曲で、ロックンロールする姿を過激に演出した後、
2001年12月29日に、その年、唯一の国内スペシャル・ライヴ【THE DAY IN QUESTION】を実施したBUCK-TICKは、
2002年に入り、2月20日に、「21st Cherry Boy」に続く、新アルバムの先行シングルをリリースした。
それが、「極東より愛を込めて」である。
この楽曲は、2002年、日韓合同開催で、アジアに旋風を吹かせた
FIFAワールドカップサッカーのTBS系特集番組のテーマとなった。
恐らくは、この「極東より愛を込めて」が、戦争という人間社会発生時から続く、
因果な行為への警鐘としてアップされた櫻井敦司の歌詞と、
国家間戦争をスポーツという行為に変換して、競技化した、
このFIFAワールドカップの主旨とが合致したした為であろう。
先にリリースされた「21st Cherry Boy」とは対照的に
この「極東より愛を込めて」は、次の新アルバム『極東I LOVE YOU』の為に制作された。
先行シングルとしての意味合いが大きい。
「極東」のタイトルからもわかる通り、新アルバムの世界を象徴するようなマイナーコードの疾走感と
テクノ・ノイズの今井寿センスに満ちた完成度の高いBT流ロック・ナンバーとなっている。
ややキャッチーさという側面では「21st Cherry Boy」にインパクトは譲るが、
ロックという側面からは前作に続き、無駄な音をほとんど削ぎ落としたシンプルな構成で、
BUCK-TICKというロック・バンドの実力を象徴した一曲といえる。
彼等にしてみれば、こういった王道BTサウンドをシングルに持って来た事のほうが異例であったかも知れない。
櫻井敦司による歌詞も、ここまで来ると“伝道師”か、もしくは“神の使者”と言った感じで、
凄味に加えて、神聖な雰囲気さえ漂わせる内容だ。
これは当然、この当時、全世界を震撼させた【アメリカ同時多発テロ事件】がモチーフとなる。
米NYの資本主義経済の象徴、世界貿易センタービル・ツインタワーの北棟は、
2001年9月11日8時46分にアメリカン航空11便の突入を受けて爆発炎上した。
この時点では多くのメディアがテロ行為ではなく単なる航空機事故として報じた。
ジョージ・W・ブッシュ大統領も「第一報を受けた時点では航空事故だと考えた」と発言した。
ここから始まる前代未聞、未曽有のテロ・パニック。
過ぎ去ったかと思われた世紀末の悪夢が、時期を遅らせて舞い降りたかのように…。
全世界を巻き込む戦争が始まってしまったのだ。
その原因は、因果な人間の“怨念”に他ならない。
まさに、櫻井敦司が描いた「楽園」「無知の涙」の世界が繰り広げられる。
この時、ジョージ・W・ブッシュ大統領は声高に叫んでいた「悪の枢軸」と・・・。
この因果は、果たして片方だけが悪いのか。
尊い命が失われ、人々は悲しみにそこにまた、“怨念”を生み出す“Loop”。
そう、このテロ戦争は、哀しみと怨念を繰り返す終わりなき“Loop”。
そして、BUCK-TICKは、遠く「極東の地から」問う。
「汝の敵を愛する事が 君に出来るか?」と。
もう、「楽園」の涙で目を背けることは、不可能だった。
ヴィデオ・クリップの壮絶な炎の前でパフォーマンスを決める彼等にも、
この哀しみが滲みでる。
爆破ごとに水面を蹴り上げる今井寿…
水面に、四つん這いの櫻井敦司に…衝撃を受ける…。
非常にセンセーショナルな今井寿のロック・サウンドに乗って、
櫻井敦司の痛烈な“嘆き”が聴こえる。
間違いない。
傑作だ。
極東より愛を込めて
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
見つめろ 目の前に 顔を背けるな
愛と死 激情が ドロドロに溶け迫り来る
そいつが 俺だろう
俺らはミナシゴ 強さ身に付け
大地に聳え立つ
光り輝くこの身体
そいつが お前だろう
今こそ この世に生きる意味を
愛を込め歌おう アジアの果てで
汝の敵を 愛する事が 君に出来るか
愛を込め歌おう 極東の地にて
悲哀の敵 愛する事が 俺に出来るか
