「俺個人、生かされてるし…」
「毛穴がブワッと開く、そういうのを自分は勿論、他人にも与えることが出来ると…
危ないし…面白い…」
メンバーそれぞれが刺激し合い混ざり合い、そして化学変化を起こしていったSCHWEINの全国ツアー。
そのツアー完了から10日ほど経たある日の夕刻。
櫻井敦司はまどろみの中にいた。
現実となった夢を噛み締めながら、覚醒された意識を言葉に変換してくれた。

―――ツアー終了後のお酒の味はどうでした?
「現実的な話をすると、もうみんな、かなりボロボロで(笑)。リハーサルとかの段階で、すでに自分達のバンドだったらペース的にも読めるんだけども、やっぱり初めての人たちだし、レイモンドがああいう性格だし(笑)。中途半端は許さないタイプなんで」
―――とことんやらないと気が済まない。
「ええ。で、そういうのにこっちも刺激されて。それで息が詰まりそうになれば外に食事に出てみたり。ちょっとワインでも飲んで戻ってきて、また、もう一回、と。とても充実した感じはあったんで、このままツアーに入れればいいかなと思ってたんですけど、ペース配分があまりにもできなく。ナマ身なんでね。でも、“対・お客さん”という場に立つと、予想もしていないような力が出てきて」
―――またもや火事場の馬鹿力、ですね(笑)。
「ええ。もう。やっぱ最初はいろいろ……SCHWEINとして演奏する曲であっても、幾つかはSCHAFTの曲だったり、BUCK-TICKの曲だったりするわけなんで、そういう部分で“どうしょうか!?”というのがありましたけど、あくまで前向きな意味で。集中してガッとやることで、ゆっくりと食事する時間もできるようになったり。言葉はあんまり通じないですけども、まあ今井とか元々、日本人でも通訳が必要な人ですから(苦笑)。」
―――ああ、言っちゃった(笑)。
「でも、やっぱり、そのシチュエーションていうかな。BUCK-TICKとは違うその緊張感。それにデビューといえば、デビューなんですよね。そういうのを楽しんでるな、と思って。だから俺もまたレイモンドと同じように……。誰がリーダーとかじゃなくて、まあ今回サシャは居なかったですけど、3人の対等な関係の中で“お前どう考えてる?”と。彼はいろいろ気を遣ってくれて。とてもスムーズだったりもしましたね」
―――スムーズさに身を任せていると気付かないけど、終わってみるとすごく消耗してるってことありますよね。それこそ彼の猛スピードの会話もそれに似てると思うんですが。
「よくおわかりで(笑)。でも個人的にはやっぱり、すごく似ている部分あるなあと再発見できて。神経質でもあり、そのぶん大胆でもあり。ま、俺にはない部分でいうとインテリジェンスだったりとかもあって……」
―――その状況自体が新鮮だったのでは?着地点が見えている時とは違っていたはず。
「予想が何もできませんからね。具体的な例を出せば、BUCK-TICKの曲をやれば盛り上がるじゃないかな、とか思うわけですけども、そこに何か違う色を出せればな、と。それをやればみんなが満足するっていうのも嫌だな、と思うわけですよ(笑)。」
―――さまざまな思惑が自分の中で喧嘩する。
「だから、これはいつもレイモンドと喋ってたことなんですけど“これはBUCK-TICKでもPIGでもなく、ましてやSCHAFTやKMFDMでもない。これはSCHWEINであり、SCHWEINのショウなんだ”と。そういう意識を共有できたかな。どこまで喋るべきなのかわからないですけど、やっぱり回を重ねていくに連れて個人的に感じたのは、ここまで浮気が本気になることもあるのか、ということで。自分の家がBUCK-TICKだとすれば……」
―――SCHWEINは愛人宅ですか?
「ええ、まあ。で、その浮気が“期間限定であるからこそ盛り上がる”みたいな(笑)」
―――危険だけどわかりやすい例えですね。
「危険だけどやっぱり、倦怠になる前に……。BUCK-TICKにはいい意味でもやっぱり慣れた部分があったりするんで、刺激をいつも作ろうと思ってますけども。だけどその“倦怠”というものが訪れれる前に終わってくれたっていう感じで。このツアーによって」
―――浮気も本気であれば、得るものがあるということなんでしょうか。
「やっぱり……勝手なこと言わせていただくと、かなりのめり込んだという自覚があるんで。レイモンドとはいろいろなセッションをやってきたわけでですけど、自分としては、ゲストみたいなことは何度かあるにしても、BUCK-TICK以外のバンドを本気でやったというのは珍しいことでもあるんで」
―――結婚指輪を隠しながらの冒険(笑)。
「ハハハ。最終日はもう……なんていうんだろうな。これで終わりなんだなっていう、いい意味での達成感もあったし、“これ以上やったら身がもたないな”っていうのもちょっと。実際、身体的にもみんなボロボロになってましたから。横浜ではああいうステージが出来てホントよかったと思うし、だんだんとその、瞬間のアイデアが生まれるようになったというか。余裕が出てくるとまたそれが倦怠に繋がってしまって嫌なんですけども。だから福岡も素晴らしいと思ったし、レイモンドとのカラミとか、アリアンヌとの……」
―――そうだったんですか?
「ええ。なんかすごいロマンテックな……精神的同性愛、みたいな。肉体的じゃないんですけど(笑)。だんだんとレイモンドのほうもエスカレートしてきて。ステージに面白い世界が出来上がってるな、と感じられる時もあって。“Atushi、素晴らしい!”って、あのデカいガタイでギュ―ッと抱きしめられて、ベロベロ舐められたり(笑)」
―――そういう場面を見て喜んじゃうんですよね、ファンは(笑)。
「どうなんでしょうねぇ(苦笑)。レイモンドとしては、やっぱりどこかしらBUCK-TICKのファンというのを意識していただろうし、実際それがかなりの割合を占めていることも理解できたし。だけど“AtsushiはBUCK-TICKのAtsushiではなくなろうしているのが、俺にはすごくよくわかる”って言ってて。とにかく情熱的でした。やっぱりあの80分間っていうのは」
―――誰も冷静ではいられなかった、と?
「ですね。回を重ねるごとに、ライヴ自体を楽しんでいる時間の割合が増していくというか」
―――さて、SCHWEINからどんなお土産を持ち帰ったのか。その正体は今後出てくるBUCK-TICKとしての音源が語ってくれることになるんでしょうが……
「そこが悩みのひとつなんですよ(笑)。あそこまでのめり込んだ後に戻るとなると、やっぱり、“俺達はSCHWEINじゃないんだよ”というのが明確にわかり過ぎるほどで。BUCK-TICKの十何年も勿論ですけど、それだけでなく、浮気も自分にとっては楽しみであって……。苦しみなんていうのは贅沢なもんで、そういうことができるっていうのは、やっぱりヨロコビですよね」
※以上、『UV』誌より引用、抜粋。
これが、櫻井敦司の本気の浮気の実情のようだ。
