「まさか、この曲が今世紀最後になるとは思ってもいませんでした。
 大阪でも名古屋でも評判が良かったので、 今日もやります」
 

「Ash-ra」後の櫻井敦司のMCである。

「PHYSICAL NEUROSE」では、それまでドラマチックなライティング演出で、
独特な世界観を醸し出していた日本武道館の照明が一気に全灯される。
まるで、すべてのプログラムを終了した観客退場時のような表情に変わる。

新アルバム『ONE LIFE,ONE DEATH』は本当に傑作である。
彼らのそれまでキャリアさえ、吹き飛ばすようなインパクトの「Baby,I want you.」
逃げ場のない戦場のような人生に立ち向かう「CHECK UP」での非情なレクチャー。
オリジナルな存在としての彼等のアイデンティティ「細胞具ドリー:ソラミミ:PHANTOM」の痛烈なパンチ。
「カイン」での終わることのない深い嘆き、そこの宿る「Death wish」という現実。
ステージで回を重ねるごとに圧倒的な凄味と壮絶さを増した感動的な「女神」降臨。
幽玄に舞うゴシックの宝石のような「サファイア」の甘い輝き。
一度っきりの人生を前向きな開き直りで賛歌した「RHAPSODY」の感動的なまでのタフネス。
そして、誰の胸にも、鋭く突き刺さる“恋の炎”「FLAME」…。

BUCK-TICKというバンドの現状、存在、心情をリアルに映し出したこのアルバムも、
この一連のツアーで本質をより露わにしていった…。



が、それとは、別のところで彼等の当時の姿勢を最も象徴していたのが、
この20世紀最後のライヴツアー【TOUR ONE LIFE,ONE DEATH】でのアンコール最後に、
明々と照らし出された場内で、演った「PHYSICAL NEUROSE」だった。

櫻井敦司も
「前に演ったのがいつかわからない(笑)」
と言っていたが、これは、1988年に出たセカンド・アルバム『SEVENTH HEAVEN』に収録された
かなり激しいビート感を拗したパンキッシュ・ナンバーで、
今井寿の発案でセット・リストに組み込まれた。

長い間“弾ける”という感覚から遠ざかっていた―――それよりも、
いかにステージ上でアルバムの世界観を実現していくか、という観点にこだわってきた。
そんな、BUCK-TICKの見せた、予想外の展開がコレであった。

何かがブッ壊れようと、今を“楽しみたい、楽しませたい”というリアルな衝動に従いたい。
そのポジティヴな柔軟性が、結局は今回のアルバムが抱えたテーマと共鳴しあい、
突き抜けたパワーを生み出した。

ひとつの殻が破れ、BUCK-TICKというバンドがしなやかに脱皮した瞬間であった。

それは3本のツアーのエンディングであると同時に、彼等が21世紀に向かう扉を蹴破った瞬間でもあった。

まさに“新章”に突入する彼等の姿が“CUT UP”切り取られた瞬間となった。



2000年12月29日、【TOUR ONE LIFE,ONE DEATH】日本武道館セットリスト


  1 GLAMOROUS
  2 唄
  3 CHECK UP
  4 サファイア
  5 DOWN
  6 ASYLUM GARDEN
  7 キラメキの中で.・・・
  8 ミウ
  9 細胞具ドリー:ソラミミ:PHANTOM
  10 Death wish
  11 カイン
  12 女神
  13 FLAME
  14 BRAN-NEW LOVER
  15 Baby,I want you.
  16 RHAPSODY

アンコール-1 
  17 ドレス
  18 idol

アンコール-2 
  19 Ash-ra
  20 PHYSICAL NEUROSE



そして、12月29日、日本武道館は“伝説”となった。




PHYSICAL NEUROSE
 (作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


CATASTROPHEで生まれた天使は OH OH OH VAMPIRE
夢からさめたら グレゴール・ザムザは OH OH OH METAMORPHOSE

AH AH FIXERは HEAD ACHE, HEAD ACHE
AH AH SISTERは HEAD VOICE, HEAD VOICE
IT'S PHYSICAL NEUROSE OH TOO BLUE SKY

SCHIZOPHRENIAは管理されたまま OH OH OH HOW ARE YOU
AIR HEADの THERAPISTも OH OH OH FINE THANK YOU