「不死という罰」
嘆きカインは、弟殺しの罪で主ヤハヴェに、
もはやカインが耕作を行っても作物は収穫出来なくなる罰を与えられている。
また同時に、「人々に殺されることを恐れている」と言ったカインに対し
彼を殺す者には七倍の復讐があることを伝え、カインを殺させないように刻印をしたという。
「不死」の刻印者として、死ぬことが許されないカインは、
永久に、自分の犯してしまった罪を償いつづけるのだ。
この「カインとアベル」の物語をモチーフにした小説には『エデンの東』がある。
親の愛をめぐって生じた兄弟間の心の葛藤等を指すカインコンプレックスは、
この神話から名付けられたものである。
アメリカの作家ジョン・スタインベックが1952年に発表した長編小説で、
後に1955年公開で映画化されている。
監督はエリア・カザン。
原作『エデンの東』をポール・オズボーンが脚色した作品。
映画初主演となったジェームズ・ディーンがスターとしての地位を不動のものとした作品として名高い。
それが映画『エデンの東』であった。
この兄弟間にあった“愛情”の種類は、間違いなく“嫉妬”であった。
この“嫉妬”こそ「愛の起源」である。
ギリシャ神話「アンドロギュノスの背中」に出て来る最初の人間は、
2人の人間が背中あわせに繋がっていてこれがもともとの人間の姿であったが、
この人間たちの神をも恐れない傲慢な振る舞いを怒った最高神ゼウスは、
この人間たちのいる地上に激しいイナヅマを降らせて、すべての人間の体を2つに裂てしまう。
すべての人間たちは、2つに引き裂かれたもう一つの自分を探してさまようようになった。
これが、「愛の起源」という神話である。
元の人間は、自分1人で、陰と陽、正と負、プラスとマイナス、全ての面でパーフェクトであり
他人を求めるという感情は皆無であったが、
この裁きにより、自分の失ったものを求めてさまよい続けるのだ。
それは、自分の持っていない物へ“嫉妬”という形で現れる。
しかし、人間は、すでに同化する術を持っていないから…。
“嫉妬”こそが、“愛情”の破片。
カインは、アベルに“嫉妬”した。
アベルは、自分の失った破片を持っていたから。
そして、罪を犯してしまった・・・。
2000年12月29日、日本武道館。
【TOUR ONE LIFE, ONE DEATH】最終公演。
青と赤のまばゆい光の交わる中、再び黒のロングコートを纏った櫻井敦司。
この“嫉妬”と“悲嘆”の神話を唄う彼は、カインか、はたまたその末裔とされるヴァンパイアか。
今井寿のフライングVが、ゴシックな調べをノイズの中に沈めていく。
暗闇を疾走するヘッドライトが光るかのように、
ヤガミトールと樋口“U-TA”豊が、唸りながら躍動する。
今井寿のギターソロは、フライングVを打楽器のようにタッピングするパフォーマンス。
星野英彦のいつも冷静な、ギターカッティングが空間を埋めている。
そして、BUCK-TICKは光の中へ。
櫻井敦司の腕が、何ものかの囚われてしまったかのように、
背中に貼りつく…。
人間は自分の犯してしまった罪とどう償っていけばいいのか?
カインには「不死」という償いが架せられたのである。
「今夜 十字を背に 死ぬまで走れ 命懸けで
今夜 俺はお前 死ぬまで踊れ 嘆きのカイン」
「死ぬまで」=「永久に」ということだ。
そして、気付くのだ。アベルを愛していたのだ、と。
カインの嘆きは今夜もつづく…。
カイン
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
卑猥なライン 淫らなサイン 漂う 俺も あなたも真夜中へ...
アベル 俺は羊たち数えている うつつの様に 悪夢の様に
千切れたMIND 真っ赤なレイン 漂う 俺も あなたも真夜中
溢れるワイン 嘆きのカイン ただ酔う 俺も あなたも真夜中
今夜 十字を背に 暗闇走れ 命懸けで
今夜 血走る目で 暗闇さ迷う 嘆きのカイン
卑猥なライン 淫らなサイン 漂う 俺も あなたも真夜中
溢れるワイン 嘆きのカイン ただ酔う 俺も あなたも真夜中
今夜 十字を背に 暗闇走れ 命懸けで
今夜 血走る目で 暗闇さ迷う 嘆きのカイン
