「Death wish」=「自殺願望」、「死にたい(という気持ち)」

櫻井敦司と星野英彦の掛け合いヴォーカルが巧妙に、
人間の裏と表の心理を唄い分ける。
「細胞具ドリー:ソラミミ:PHANTOM」とこの「Death wish」。
収録されるアルバム『ONE LIFE,ONE DEATH』には間に「カイン」が入る。

やや宗教的な歩み寄りを見せるこのアルバム中盤の濃厚な展開である。
自分は、オリジナルか、サンプルかを問い、そして自分自身という存在を認識出来ない事実を知ってしまう。
そして、嘆きの「カイン」では、もう自分がカインなのか、アベルなのかすら曖昧な感覚になる。
そこで行き着く「Death wish」。

自分を殺してしまうという「殺意」。

BUCK-TICKお得意のアルバム中盤に見られる“堕し”がアルバム全体の展開をドラマチックに演出している。
そして、転機となり降臨する感動的な「女神」。
次の「サファイア」でその死の甘美な魅力に翻弄されつつ、
一度っきりの生命を謳歌するタフな愛のメッセージの「RHAPSODY」。
そして、その中に見つけた“恋の花が燃える炎”「FLAME」。

而してアルバム『ONE LIFE,ONE DEATH』はパーフェクトである。



さて、この日の「Death wish」であるが、
星野英彦のヴォーカル・パートがパンキッシュで、少し今井寿のヴォーカルの影響を感じる。
「ミウ」の流れるようなコーラスとは全く別物だ。
櫻井敦司のメイン・ヴォーカルは、さすがといった感じで、
心裏の闇の部分の歌詞を唄う「女言葉」も型にハマっている。

「あの娘が言う 愛してるわ ⇒いいえほんとわ反吐が出るわ
俺が歌い 君が跳ねる ⇒そうよくいるナルシストね
あの娘が言う 愛してるわ ⇒いいえほんとわ反吐が出るわ
俺は沈み 君が跳ねる ⇒そうよくあるdeath wishね 」

「自殺願望」とは、おそらく、一時、櫻井敦司が心の何処かに隠し持っていた「密室」の一部。
自己嫌悪と、そして、自分の意図は別に、勝手に動き続ける現実の苦悩の闇。
後にアルバム『十三階は月光』に収録される「ALIVE」を聴くまで、僕は彼の心の何処かに、
いつも、この“Death wish”が巣食っているのではないか?と思う節があった。

「ドレス」では、

「風の様に雲の様に あの空へと浮かぶ羽がない なぜ
星の様に月の様に全て包む あの夜へと沈む羽がない ああ」

と嘆いていた彼も、悪夢との契約で、その自らの身を削り、絞り出した血で、
「ドクロマークの翼」を得て、漆黒の闇夜を飛びまわる様が浮かびあがる。



星野作品にしては、ユニークな作風と言える本作には、
やはり、もうひとりのコンポーザー今井寿の影を見る。
ややダークな内容の歌詞に星野のポップ感覚が意外なマッチングを見せている。
これは、影響を与え合う今井寿と星野英彦のコントラストだ。
ひょっとすると彼ら二人こそ「カインとアベル」。
失われた片方の自分を補完する関係なのかも知れない。



この日の日本武道館では、今井寿がまず、サイド・ステージへ駆け寄り、
観衆達をお得意のキック一発で沸かせる。
つづく、星野英彦も、逆のサイド・ステージでファンサービス。

中央のステージでは、櫻井敦司が、ヤガミ&U-TAのスタンドに歩みより四方向に顔を向けてくれる。

「ナイス!マダム!」

その櫻井敦司も楽曲終盤になるサイド・ステージへ駆け付け。
日本武道館の体温は、確実に上昇していくのであった。


「何が欲しい ヤツが欲しい ギリギリ深くお願い kiss me 」

このパフォーマンスで櫻井敦司は一部歌詞を変えて唄う。
彼の言う“ヤツ”とは?


最高にセクシーかつ甘美な殺意である。




Death wish
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)


自意識過剰な男 アスファリトを綱渡り
誰かの唾で 俺のクツ汚れちまう

アア。。。 甘い密の薫り 腐るほど甘い実よ
天使が流す涎 垂れ流せ俺の体に

何が欲しい 何を望む ギリギリ深くお願い touch me

飛んでるんだ キリストに似た男がドクロマークの翼で
目覚めるんだ 君のキスで目覚めるんだピースマークの胸あたり