「みんなで踊りましょう」
櫻井敦司が観衆をダンスに誘う。
【TOUR ONE LIFE,ONE DEATH】最終日本武道館公演の2回目のアンコールに登場した
「Ash-ra」。
これも「idol」から続くアルバム『COSMOS』からのナンバー。
アルバム『ONE LIFE,ONE DEATH』は、この『COSMOS』との相性もピッタリなアルバムと言える。
外へ向かう強い力。歌メロを強調した楽曲群。
『COSMOS』のライヴツアー【BUCK-TICK TOUR 1996 CHAOS】時は、
あまりにその独自路線のアクの強さが強調され、ファンが「突き放されている」と感じるという一幕もあった。
それは、おそらくメインコンポーザー今井寿の『COSMOS』への評価(原点回帰とされた)の不満が、
彼の反骨精神に火を付けた事にも大きな原因があるだろう。
そして、ツアー半場にして、ヴォーカリスト櫻井敦司の急病入院(S字結腸破裂腹膜炎)もあり、ツアーは中断、
年を明け、延期になっていたツアーは【BUCK-TICK TOUR'97 RED ROOM 2097】とタイトルを改め、
全国4ヵ所、10本のライヴを行なっていた。
このツアーでの見せ場は、エキセントリックな今井寿の被り物と、
勿論、BUCK-TICK史上でも、最もスピーディーなこの「Ash-ra」に他ならない。
そして、レコード会社の移籍すらなければ、恐らくこの「Ash-ra」はシングル・カットされていたに違いない。
鳥肌もののヤガミ“アニイ”トールの16ビートが、跳ねる。
赤いジャケットを脱ぎ棄てた今井寿のブラックのブラウスが艶めかしくセクシーだ。
一気に照明が日本武道館のステージを照らし、その後、フラッシュが目晦ましの如く続く。
櫻井敦司が丁寧に唄い始め、会場全体をダンスに誘う。
観衆も残された時間が少ないのは、承知。
体力の限り踊り狂うしかない。
21世紀はもうすぐそこまで来ている。
間奏はグルーヴィーな樋口“U-TA”豊のベースソロ。
本当に、今回のアルバム『ONE LIFE,ONE DEATH』とこの一連のステージで
彼の役割は大きかった。
全体的に、印象的なフレーズ演奏を骨組を構成している楽曲が多いからだ。
今井寿&星野英彦のコンポーザー・チームと樋口“U-TA”豊の創作感性の激しいぶつかり合いと融合。
彼独自の体内シーケンサーによるリズム・コントロールが楽曲の肝になったの当然だが、
今回のパフォーマンスには、U-TAismとさえ言えるベーシック・メロディが心を揺さぶる。
これなしに『ONE LIFE,ONE DEATH』の深い味わいは完成し得ない。
そしてヤガミ“アニイ”トール。
「idol」に続く、ハードな彼のドラミングが全開にドライヴする。
フィルの入り方には、今回、独自のアイデアが盛り込まれている。
静寂と情熱を表現する間違いなく日本屈指の名ドラマーだ。
彼の存在で、他のメンバーは、どんな冒険にも挑戦できる。
「俺たちの後ろには、“アニイ”がいる!」
そんな安心感が、メンバーをどこまでも自由に羽ばたかせるのだ。
デビュー以来の怒髪天付くヘアースタイルに表された男意気と、
いつでも、安定したパフォーマンスでバンドの土台を守る大人のミュージシャン。
彼さえいれば、BTは何度でもLoopできる。
星野英彦。
言うまでもないマルチプレイヤーだ。
端々で見せる慰撫し銀のパフォーマンスは、いちギタリストの域を超えている。
決して全面には立とうしない“職人気質”と朱玉のメロディー・メイカ―。
今回のツアーでは、コーラス、シンセサイザーと、華麗なるアコースティック・プレイ、
その万能ぶりを如何なく発揮した。
インプロヴィゼーションに揺れる天才・今井寿をコントロールするのは、
彼の空間を埋め尽くすサウンドの質感だ。
しかし、この「Ash-ra」では、一瞬の隙を突き、彼の凶暴なギターサウンドが我々に襲いいかかる。
まさにBUCK-TICKの切れ味鋭い“懐刀”と言った味わいだ。
スぺーシーなギター・サウンドを容赦なく轟かせる今井寿。
WOW WOW限定の『ONE LIFE,ONE DEATH PROTYPE』では、
今回の日本武道館公演についての感想として、
「普通」と答えているが、彼のこの公演のパフォーマンスは神がかりの域に入っている。
いつもライヴ・パフォーマンスの彼の姿を見て、そのカリスマ性には鳥肌が立つ想いだ。
すべて、創造主が、“神”であるとしたら、“神”は彼に特別な何かを与えたに違いない。
神々しいまでのアクションは、この後の展開に大きな期待を持たせるに十分であった。
そして、今井寿は、途方もない領域までカッ飛んで行くのだ。
阿修羅な人生を体現する男、櫻井敦司。
彼の“輪廻”リンカーネーションへの夢は、この「Ash-ra」で増幅される。
「突き上げる爪先に 愛の鼓動 君が揺れる
繰り返し輪廻り逢う フロアの隅で君が揺れる 激しく美しい 」
阿修羅の森で、もがきながらも、あなたの名前を叫ぶ櫻井敦司。
彼のディープな血こそ、BUCK-TICKをBUCK-TICKたらしめるアイデンティティそのものと言える。
唯一無二の存在感…そんな…アイデンティティ。
この5人の“阿修羅”の奏でるビートは、本当に“無敵”だと再確認出来る一曲であった。
もう、何も考えず、
「Ash-ra」になって、
踊り狂おう。
Ash-ra
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
うまくやれる 不安なほど 闇は純粋にも扉を開いてる
それでいいさ 孤独なほど 生きる無意味さも知らず
花をどうぞ 千切れたバラ 見なよ人間達 誰もが憂い顔
あなただけを 愛していた そして憎んでる 深く
繰り返し輪廻り逢う フロアの隅で君が揺れる 激しく美しい
